大嫌いなクリスマス
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   大嫌いなクリスマス   弓野 風待

 

 

 

 

 クリスマスの日、私は一人で歩いていた。

 二人で食べようと、密かに注文しておいたクリスマスケーキを受け取るために。

 キラキラと光る街のイルミネーションが、今の私の心には痛くてたまらなかった。

「予報では降らないって言ってたのに……」

 私は鈍色の空を見上げ、ぽつぽつと降り出した大粒の雪をにらみつけた。

 傘を持っていなかった私は、どんどん雪まみれになっていった。

 街を行く幸せそうなカップルたちが、私を見てクスクスと忍び笑いを漏らした。

 

 何で傘を持って来なかったの?

 何で私は一人なの?

 何で……何で……。

 

 溢れてくる涙を振り払うように歩き続けた私は、やがて横断歩道にさしかかった。

 赤信号で立ち止まって、ぐじぐじとコートの袖で涙と鼻水を拭い、顔を上げた。

 

 最悪だった。

 

 向こう側に元彼が、見知らぬ女と二人で立っていた。

 美葉……と、彼の口が動いた気がした。

 やっと押さえ込んだ涙が、再び流れ出す。

 

 信号が変わったことすらわからなかった私は、一歩も動くことができなかった。

 周りの人はきっと不思議そうな顔で、私の脇を通り過ぎていったのだろう。

 向こう側から渡って来た人たちも、私を避けるように歩いていった。

 

 そして横断歩道には、私だけが残された。

 青信号が点滅し、やがて赤に変わる。

 

 雪はさらに勢いを増し、私に降り積もる。

「クリスマスなんて……大っ嫌い」

 奥歯を噛みしめ、地面にたたきつけるようにして、私は言い放った。

 その時、降っていた雪が、不意に途切れた。

 

「あの……風邪、ひきますよ」

 見上げると傘が差し掛けられていて、無精ひげの男の人がぬうっと顔を出してきた。

「あのう。ケーキお好きですか?」

 彼は恥ずかしそうに、頬を掻きながら言う。

「実は、彼女と別れちゃいまして。でも、クリスマスケーキの予約があるわけでして」

「はぁ」

「それで……貰って頂けると嬉しいのですが」

 同じ状況の彼の告白に、心がすこし暖かくなった気がして、私も告白した。

「実はこっちにも、ひとりぼっちのクリスマスケーキがあるんですよ」

それが彼、佐々井信弘との出会いだった。

説明
1000文字以下で書いたショートストーリーです。
読んでくださると嬉しいです。
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コメント
この二人が紡ぐお話をもっと読んでみたいです。(華詩)
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オリジナル 男女 失恋 恋愛 女性視点 女性主人公 クリスマス  ケーキ 

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