ゼロの使い魔……にはならなかった2 |
翌日ネギ達が目覚めるとシエスタさんが運んできたいささか豪華すぎるような気がする朝食を食べ、これからのことについての相談会をした。
「それでネギ、これからどうすんのよ。何か帰る方法とかないの?」
「はい、今のところはこれと言って何も……」
「じゃあ、うちらずっとこっちの世界で暮らさんといかんの?」
「……お嬢様」
木乃香の言葉にアスナも刹那も隠そうとはしているものの不安が少なからず顔に現れていた。
「だ、大丈夫ですよ! だって来る事かできたんですからきっと帰る事だってできるはずです!」
「……ネギ君」
ネギの言葉に三人とも少し気が楽になったようだ。
「・・・さて! しばらくここに住むわけですから気分転換のためにも学院内を知るためにも学院内を散歩しませんか?」
「そうね、そうしましょう!」
「うん、うちもそれでええよ」
「はい、そうしましょう」
ネギの提案に三人とも賛成した。
どうやらみんな気分転換をしたいという気持ちは同じだったようだ。外を散歩し始めてしばらくすると広場のような所にでた。そこには何か人だかりができていた。
「何かあったんでしょうか?」
「さぁ、とりあえず行ってみましょ」
「そうですね」
人だかりに近づき中の方が見える位置まで来るとなにやら少年がメイド服を着た少女を叱りつけているところだった。
「すみません! すみません!」
「すみませんですむと思っているのかい? 君がしたことで僕はとんだ辱めを受けたんだよ?」
「すみません! どうかお許しを!」
少年の言葉にメイドは必死に誤り続けるばかりだった。
「ねぇ、ネギ。あのメイドってシエスタじゃない?」
「そのようですね。しかしこれは一体……あの、すみません」
ネギは話を聞こうと近くにいた生徒に声をかけた。
「ん? あぁ、昨日ルイズに召喚された平民か」
「えぇと、すみませんが、これは一体何があったんですか?」
「あぁ、ギーシュが彼女達からもらった手紙を落としたんだか、それをあのメイドが拾ってギーシュに渡したんだよ。ちょうどその彼女の一人と話をしているときに」
「え? ……でもそれって」
「あぁ、まぁ何股もかけていたギーシュの自業自得な訳だけど……あいつ、あれでかなりプライド高いからな」
何股もかけていたそのギーシュという少年がシエスタの持ってきた手紙でそれがバレて振られ、シエスタに逆恨みをしていると言うところだろう。
「ね、ネギ君!」
木乃香の声にネギか二人の方を見るとギーシュが薔薇を手に持ち、シエスタに向けていた。
「平民が貴族に辱めを与えるとはね! それがどういう報いをうけるか体に教え込んであげるよ!」
「お、お許しください!」
ギーシュが薔薇を振り上げ、呪文を唱えそして振り下ろす。すると、風が生まれシエスタに向かって放たれた。
「!!」
『ズドォォォン!』
風がぶつかると土煙が起こりシエスタの姿が見えなくなった。
「あはは! 貴族に無礼を働くとどういう報いを受けるかわかったかい? まぁ、僕は土属性で風属性の魔法は得意じゃないから死んじゃいないだろうけど」
土煙がだんだん薄れていくとそこには……シエスタの姿はなかった。
「な! メイドがいない!?」
驚くのも無理はない。何せギーシュは本当に土属性の魔法以外は得意ではなく先ほどの風の衝撃波も人を弾き飛ばす程度しかでていなかったのだ。
「……女性に暴行を加えるのは同じ男としてだまってられませんね」
すると少し離れたところから声が聞こえた。そこには昨日ルイズに召喚された平民の少年とその少年に抱えられているメイドが立っていた。
「……君、どうやって助けたのかは知らないけどそのメイドを助けるというならたとえ子供といえただじゃすまさないよ?」
「シエスタさんには手出しさせません。事情は聞きましたけど、たたの自業自得の逆恨みじゃないですか」
「そりゃそうだなぁ」
「ギーシュ、子供に注意されるなんてだらしないぞ!」
周りの生徒達がネギの言葉に笑い声をあげギーシュをからかいだした。
「う、うるさいよ! ……君、ここまでしてただですむとは思わないことだね……決闘だ!」
「け、決闘?」
「だ、ダメです! ネギ君、貴族の方と決闘だなんて。殺されちゃいます!」
シエスタが慌てふためいている。よほど魔法を恐れているようだ。
「怖いのかい? なら土下座してさっきのことを謝るんなら許してあげないこともないよ」
「ッ! あんたね、いい加減に……!」
「待ってください!」
そのギーシュの態度によほど腹が立ったのか今まで黙っていたアスナが声を上げるが、それをネギがとめる。
「……わかりました。その決闘、お受けします」
「ネギさん!」
「アスナさん達はシエスタさんをお願いします」
「え? あ、うん」
シエスタをアスナ達に任せるとネギは前に出た。
「謝る気はないんだね?」
「シエスタさんは何も悪くないんです。謝る必要なんてありません。むしろあなたが謝ってください!」
「……いいだろう。たっぷり痛めつけてあげるよ。決闘のルールは相手に負けを認めさせた方の勝ちだよ」
「わかりました」
◆◆◆◆◆
「うぅむ、大変な事になってしまったのぅ」
「よろしいのですか!? 『眠りの鐘』で止めた方が」
ここは学院長室。そこでオスマンとコルベールは水晶玉で広場の様子を伺っていた。
「子供の喧嘩に大切な秘宝を使う必要はないじゃろう」
「あの、ですが……平民がメイジ相手にただでは済みませんよ?」
「……ミスタ・コルベール、君にはあの少年がただの平民に見えるのかね?」
「いえ、それは……」
コルベールはそこで「はい」とは言えなかった。ネギ達が召喚されたあの時ネギが放った怒声の中に含まれた力強い気。近くにいたコルベール自身がそれを味わっているのだ。
「あの少年は大丈夫じゃよ。見守ってあげようじゃないか」
「……はい」
しぶしぶといった様に頷き、コルベールは水晶玉に映る彼らを見つめた。
◆◆◆◆◆
「……お集まりの諸君! これから僕、ギーシュ・ド・グラモンとそこの平民の決闘を始める!」
ギーシュが集まっていた生徒達に高らかに宣言すると周りから『オォォ!』と歓声が上がった。
娯楽といったものが少ない学園においてこれから行われるギーシュとネギの決闘は、彼らにとって恰好の見世物となっている。
「さて、君、どうせだからハンデとして剣でもかしてあげようか? すぐに終わってしまってはつまらないからね」
やはり、ギーシュは自分が勝つことを信じて疑っていないようだ。この決闘も憂さ晴らしのつもりなのだろう。
「いいえ、結構です」
「……あっそ、じゃあ始めるよ!」
ギーシュは先程と同じように薔薇を構えた。
「僕の二つ名は『青銅のギーシュ』」
薔薇を振ると『ヒラリ』と花びら一枚地に落ちる。するとそこからは匠により作り上げられたと思われるほど精巧にできた青銅の彫像が現れた。
「青銅のゴーレム、ワルキューレ!! 君の相手はこのワルキューレだ」
「わぁ! 綺麗なゴーレムだなぁ」
ネギはワルキューレに見とれていた。ネギは教師とはいえまだ十歳ほどでありやはり素直な性格なのだ。
「こら、ネギ! ちゃんとしなさいよ!」
「ネギ君! 見とれてる場合とちゃうで!」
「ネギ先生! 試合に集中してください!」
「あ! そ、そうでした」
三人に注意され正気に戻った。ワルキューレを見てみると(周りから見て)猛スピードでこちらに迫ってきていた。
(あれ? そんなに速くないや)
いつも古菲や刹那、エヴァンジェリンといった速いメンバーと特訓をしていたためか、ワルキューレのスピードをそれほど速いとも感じられなかった。
「八極拳・六大開「頂」 カク打頂肘!」
何の作戦もなく、その拳を振り上げて突っ込んできたワルキューレの一撃を軽く受け流しつつ腕をつかんで引き込み、さらに踏み込んで震脚。そこで生まれた勢いを利用してカウンターで腹部に肘打ちを与えた。
するとワルキューレはその一撃に耐えることができず砕けて、腹部から上下に分かれてしまった。
「な!?」
その光景に周りで見ていた生徒たちは驚きを隠せずにいた。
「そ、そんなバカな……僕のワルキューレが、こんな魔法も使ってないような子供に……く、くそ、くそぉ!!」
ワルキューレを一撃で、しかも素手で倒されたことかよほどショックだったようだ。
先ほどまでの余裕の表情はどこかに消え失せ、焦るように薔薇を『ブンブン』と振り回しワルキューレを多数出してきた。その数、ざっと10体ほど。
「こ、こんなにたくさん!? 大変、今度こそネギさん殺されてしまう!!」
シエスタの顔は血が引いたように真っ青になっていた。そんなシエスタの肩にアスナが手を置く。
「大丈夫よ。ネギはあんなくらいじゃ死んだりしないから」
「で、でも!」
「大丈夫やよ。ネギ君はあれくらいやったら怪我もせんと戻って来るえ」
「はい、その通りです」
三人はシエスタと違い落ち着いた顔をしていた。それはネギが勝つことを信じて疑わない、ネギを信じ切っている顔だった。
「ふん、どうだ? これだけいればさっきのようにはいかないだろう」
「う、うわぁ! たくさんでてきたなぁ」
しかしネギは怯えることなく感嘆の声を漏らしていた。
どちらかというと、短時間でこれほどまでに精巧な彫像を複数作り出したことに、「こっちの魔法のはすごいなぁ」と感心している。
「く、余裕そうにしてるのも今のうちだけだよ! いけ、ワルキューレ達!」
ギーシュの合図にワルキューレは一斉にネギに襲いかかった。
(うぅん、どうしようかな。確かに格闘技だけじゃちょっときついかも。魔力で身体能力水増ししてるからって殴り続けたら僕も痛いし……使うか)
「ラス・テル マ・スキル マギステル」
ネギが発動キーを唱えると指につけている、師であるエヴァンジェリンからもらった指輪が淡く光り出した。
「光の精霊45柱 集い来たりて 敵を射て 魔法の射手 光の45矢!」
光が生まれる。その光からは45本もの光の矢が現れてワルキューレ達に衝突し破壊した。
「な!? ま、魔法だって!?」
ギーシュはワルキューレがすべて破壊されたことにも驚いたが、自分が平民とバカにしていた子供が魔法を使ったこともそれと同じくらい驚いた。
「一体どうして!?」
『ドンッ!』
「!?」
突然の衝撃に驚く暇もなくギーシュは地に倒れた。何が起きたか確認しようと起き上がろうとすると目の前に小さな握りしめられた拳がありこれ以上起きることが出来なかった。
「まだ、やりますか?」
ここまでくるともう確認する必要もなく理解することができた。ネギはさっきシエスタを助けたときと同じように一瞬で移動し、ギーシュを地に倒したのだ。
「……くっ! ……参った」
ギーシュは目の前の少年にまったく勝てる気がしなかった。
拳で青銅でできたワルキューレを倒すわ、マジックアローに似てしかし異なる魔法の矢をあれほどたくさん生み出すわ、極めつけは魔法でも使ったのかよくわからない高速移動術。
これだけでも自分より各上の存在と理解させられているのに、ネギを見るとまだまだ余裕がある様子。
もしかしたら他にも強力な魔法を隠し持っている可能性もある。
そう思うと、自分の中にあるなけなしのプライドも萎んでしまい、これ以上戦おうなどという意思が浮かんでこなかった。
その言葉を聞くと、ネギは拳を降ろし踵を返しアスナ達の所に戻っていった。
「あ、そうだ。ギーシュさん、でしたっけ? 後でちゃんとシエスタさんに謝っておいてくださいね。約束ですよ?」
「え、あ、あぁ」
振り向いたネギの顔は最初会ったときの純粋な少年の顔に戻っていた。
そんなネギに、実力だけではなく人間としても「勝てないなぁ」と思ってしまったのは、自分の心の中にしまっておくことにしようと、ギーシュはひそかに苦笑した。
◆◆◆◆◆
「ね、言ったでしょ? あいつなら大丈夫だって」
アスナはそう言いシエスタを見ると、戻ってくるネギを見ながら固まっていた。
「ん? どうしたの?」
「え!? い、いえ! 何でも……」
アスナの声に歯切れ悪く答えたシエスタはどこかビクビクしているような感じがした。
「ただいま戻りました」
『ビクッ!!』
戻ってきたネギの声を聞きシエスタは見てわかるほど反応した。
「シエスタさん? どうかしたんですか?」
ネギが心配そうにシエスタに近づくと後ずさってしまった。
その様子に、幼くともどこか成熟したネギはシエスタの様子が変わった理由に気づいた。
「……僕が怖いですか?」
「ッ!」
「え? ネギが怖いってどういうこと? こいつこんなガキなのに?」
「そ、それは……」
アスナの純粋な疑問にシエスタは俯いてしまう。何か言おうとしているようだが何も出てこないようだ。
「……アスナさん、多分シエスタさんの反応は当然だと思います。魔法を使えない人が魔法を使える人に恐怖を抱くのは当たり前だと思います。
それに、昨日オスマンさんが言っていました。この世界の魔法を使えない人は、魔法を使える人に理不尽な理由で暴力を与えられることもあるって。だから、魔法を使える人に対して僕たちの世界の人以上に敏感に反応するのかもしれません」
「……」
確かにネギのクラス、3−Aの過半数にはネギが魔法使いということが知られてしまい、それでもみんなネギのことを受け入れた。魔法使いだと知られても相も変わらず笑顔を向けてくれる子たちだ。
しかしそれは日常で魔法使いという存在がなく、恐怖心より興味心の方が強かったからだろう。しかしこの世界では魔法使いとは日常で当たり前のような存在である。しかも魔法を使える人と使えない人(貴族と平民)とでは扱いが違う。今回のギーシュのように魔法で平民を虐げる人さえある。ギーシュのは威力的に重症になるようなものではなくちょっと怪我をする程度のものだったため、言い方は悪いがまだマシといえる。中には体を傷つけてボロボロになるまで痛めつける人もいるとのこと。
その話をオスマンに聞いたとき、ネギは一人のマギステル・マギを目指すものとして当然のように憤慨した。
シエスタが子供でも、魔法を使えるネギに恐怖するのも、この世界の在り方からすれば当然といえるだろう。
もちろん、オスマンのように魔法を使える人でも魔法を使えない人でも分け隔てなく接する人がいることも知っているが、この世界においてはそういう人のほうが少ないのかもしれない。
「……それは違うえ」
みんなが何も言えなくなっている中、木乃香が話してきた。
「確かに魔法いうんは強い力やよ。せやけどそれは力使う人の使い方の問題やないの? ウチらの世界でも悪い魔法使いはおったよ。せやけど良い魔法使いもちゃんといた。ネギ君もそうや。
ネギ君はな、いつもウチらのこと一番に考えてくれるんよ。授業の時も一生懸命になって教えてくれた。ウチが悪い魔法使いに襲われた時も自分の身を顧みずに助けてくれた。
悲しいことあった時は一緒に泣いてくれた、楽しいことあったときは一緒に笑ってくれた」
ネギの事を語っている木乃香は何だか穏やかな顔をしていた。
「ウチはな、こんなにウチらのこと考えてくれるネギ君を怖いなんて思われへん。せやからウチは他の人にもネギ君の事を魔法を使うからって理由だけで怖いなんて思ってほしくないんよ。シエスタはネギ君見てどう思う? 魔法を使えるか使えないかやのうてネギ君自身のことやよ」
シエスタはネギの方を見て考える。
(……ネギ君は私を庇ってくれた。助けてくれた。相手がどれだけ強いのかもわからないのに。周りの人達が何もしようとしなかったのにネギ君は私を平民だからって差別せずに助けてくれた)
考えると簡単に答えは出てきた。
「怖く……ありません。とても優しい人だと思います」
シエスタの答えに満足したのか木乃香は笑顔をみせ、アスナと刹那は安心したような顔をしていた。
「ネギ君、すみませんでした。助けていただいたのに怖がったりして」
「い、いえ、そんな!」
なぜかワタワタとあわてているネギが無性におかしくてクスクスと笑ってしまった。ネギもいきなり笑い出したシエスタにつられて笑い出した。暫くして二人の笑いが収まってきた時、ふとシエスタは先ほどの話の中で気になったことがあったのを思い出し木乃香に聞いてみることにした。
「あの木乃香さん。先ほどの話でネギ君が授業を一生懸命教えてくれたというのは? どう見てもネギ君、木乃香さん達と同級生には見えないのですが」
「ん? 同級生とちゃうよ。ネギ君はな、ウチらの担任の先生なんやえ!」
「……え?」
木乃香の予想外の答えにそれを聞いたシエスタと生徒たちは固まってしまった。
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続けて2話です あと1,2話で終了です。 でもって、残りはまだ書き直していませんので明日以降に投稿します。 |
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まぁ、子供先生なんて異世界でもそうはいませんからねぇwww 自分たちより年下に教えを乞うなんてきっとプライドが高い人たちは嫌がるんじゃないかなぁと思いながら書いていました。(ネメシス) ビックリしすぎての絶句最高♪(アサシン) |
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