はじめてのこんびに |
はじめてのこんびに 弓野 風待
夜。
人気のないコンビニエンスストアの駐車場に、黒塗りの高級車が入ってきた。
助手席のドアが開き、男が降りてきた。
男は、辺りを用心深く見回した。
安全を確かめてから、後部座席のドアを開けた。
「咲様、お待たせいたしました。どうぞ」
「伊藤、ご苦労様。ここなのね」
咲と呼ばれた少女は、優雅に降り立った。
「はい。ここがコンビニという場所です」
「夏休みは嬉しいけれど、宿題は面倒だわ」
「は。残すは自由研究だけでございます。
「そうね。でも実行してまとめるだけだわ。初めてのコンビニで、現金でのお買い物。
初めての体験を発表するの」
「すばらしいお考えです」
「でしょう」
咲は目を細め、アゴをそらせた。
「お財布はお持ちですね? 店員に勧められても買いすぎませんように。
それと、雑誌コーナーは立ち寄ってはなりません」
「ええ。わかってるわ」
「では、行ってらっしゃいませ」
頷くと咲は伊藤を残し、中へ入った。
「いらっしゃいませ。こんばんは」
「ごきげんよう」
「聞いたか、ごきげんようだってよ、今時」
咲は次々とカゴに商品を入れていった。
一通り回り終わり、レジの前で一つ深呼吸をして、カゴを差し出した。
「お、お願いいたしますわ」
緊張している咲を見て、店員は笑うのを必死に抑え、顔の筋肉をヒクつかせながら
商品をスキャンしていった。
「あ、あとヘブンイレブンを一つ」
「えと、ヘブンイレブンポテトですか? この店買うのかと思っちゃったよ。あはははは」
咲は恥ずかしさと悔しさを、うつむいて下唇を強く噛むことで押さえ込んだ。
「お嬢ちゃん、お店買うのってね、すっごくお金がかかるんだよ」
店員は大げさに抑揚をつけて言うと、袋に入れた商品を差し出した。
咲は会計を済ませて無言のまま商品を受け取り店を出た。
伊藤は黙って後部座席のドアを開けた。
車は走り出し、駐車場を出た。
咲は携帯電話を取り出した。
「あ、お父様。お願いがありますの」
翌朝、コンビニは生まれ変わっていた。
咲の家、鳳財閥の力によって、一夜にして咲のものになっていたのだ。
説明 | ||
1000文字以下で書いたショートストーリーです。 お嬢様な女の子が、自由研究で選んだ課題とは? |
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コメント | ||
最後のお嬢様らしいと言えばそうですけど。なんか可愛いな。(華詩) | ||
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オリジナル 1000文字 お嬢様 コンビニ 始めて 初体験 夏休み 自由研究 | ||
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