真・恋姫†無双〜家族のために〜#21黄巾と黒夜叉
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 孫堅−−蓮根と別れた次の日、深と影華は洛陽に仕官した。

 深はその知識を生かし、洛陽の警備体制を変えるべく動いた。

 最初は聞き届けてもらえなかったが、幾たびにもよる説得、重要性及びそれに伴われる益について、それらを何度も何度も言い続けた。それに引かれたのか、物は試しということで、警備全般を任された。

 

 街には兵の詰め所が点々と置いてあったが、それよりも簡易的な詰め所を二十丈毎に設置した。

 そこには常に兵士が三人ほど配置され、これにより犯罪件数は激減、有事の際に兵士が駆けつける速度が格段に上昇した。これに伴い洛陽は「警備体制が万全で、安心して商売が出来る」と商人の中で噂が広がり、物の流通も以前とは比べ物にならないほど発展した。

 帝はこの功績を称え、深−−黒繞を洛陽県長に任命し、また洛陽県尉も兼任させた。同時に、影華−−黒纏はその補佐である県丞に任命。

 就任後、私兵を持つことを許されたが、数はせいぜい二百程度であった。深はその全てを警備兵として配置し、時に自ら警邏を行うことで、兵士及び街の住人から信を得ることとなる。

 

 そうしていくうちに八年もの月日が経過し、同時に世の腐敗もすでに修復不可能なところまできていた。その矢先に起きた、世を揺るがす不可避の動乱は、漢の失墜をさらに決定付けるものとなる。

 

 

 『蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし』

 

 

 黄巾党の台頭である。

 彼らはどこからともなく現れ、邑を襲い、食料や金銭を奪っては焼き払うという、暴虐の限りを繰り返していた。

 漢王朝はそれを止めるべく、各地の有力諸侯に対し、黄巾党討伐の命令を下す。

 その命令もまた、漢王朝の力が衰えているということを如実に表していた……。

 

 

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 ここ数日は賊討伐、戦果報告のまとめの繰り返しだった。

 今日は珍しく書簡を片付けるだけになっているのだが、如何せん量が多い。

 

 「ん〜、そろそろ休憩するか」

 

 「そうですね。そうしましょうか」

 

 深は机の上に置いてある竹簡を片付け、そこへ影華がお茶を置く。その動きは全く無駄がなく、彼らが長年共に過ごしてきたことが伺える。

 

 「……ふぅ」

 

 漸く書類仕事から解放されるか……そう思ったのも束の間、誰かがここに走ってくる足音が聞こえた。

 

 「失礼します!」

 

 「どうした」

 

 「はっ。門前にて黒繞様に会わせろという人物が来ているのですが……」

 

 「俺に? どんな人?」

 

 「司馬徽の使いだという女だそうです」

 

 「それって……」

 

 ふと、影華の方を振り向く。

 

 「茜……ですね」

 

 「だよなぁ」

 

 深は一度苦笑し、報告してきた兵士に向き直る。

 

 「いいよ、ここまで連れて来て」

 

 「はっ」

 

 兵士は来た時と同様に駆け足で去っていく。

 

 「薄々いつかは来ると思ってたけど……」

 

 「まさか、こんな時期に来るとは思いませんでしたね」

 

 「ほんと、よく諳が許したよな」

 

 かつて家族だった虎が助けた少女。二人は最後の会ったときのことを思い出しながら待っていた。

 

 

 「徐元直、命を助けて戴いた大恩に報いるため、馳せ参じました!」

 

 そこには、碧の髪をした溌溂な少女が立っていた。

 

 「相変わらず元気だな、茜」

 

 「お久しぶりです」

 

 「深様、影華様、お久しぶりです〜!」

 

 そして勢いよく深に飛び込んだ。

 

 「ぐっ……なかなか良い……頭突きじゃないか……」

 

 「深!? 大丈夫ですか? 茜! 勢いというものを考えなさい!」

 

 「はっ! ……申し訳ありません。久しぶりに会えたのでつい……」

 

 「いやいや、俺なら大丈夫だよ茜。影華も久しぶりなんだから怒らないでやれよ」

 

 うん、結構痛かった。でも男なら耐えてこそ……だよな?

 

 「ごめんなさい」

 

 「深がそう言うのでしたら」

 

 深は少し気落ちしている茜の頭を撫でながら、影華に視線を向ける。

 それだけで影華は何かを察し、その準備をするべく少し離れる。

 

 

 「さて、茜。君がここに来たということは、仕官しにきた……そう捉えても構わないんだね?」

 

 「はい! 深様のお役に立てるなら!」

 

 その瞳は昔と変わらず真っ直ぐを見つめており、相応の覚悟が見られた。

 

 「……なら、俺達は歓迎するよ」

 

 「っ! ありがとうございます!」

 

 そしてまた突っ込んだ。

 

 「ぐふっ……だから……頭突きは……やめようか……」

 

 「あ! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 

 こうして徐庶−−茜は深の陣営へと加わることとなる。

 深は茜を警備隊隊長へ任命し、兵の動かし方、命令系統などを細かく教えていく。

 いつ戦闘が起きても問題ないよう、出来るだけ万全を期していた……。

 

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 徐庶が仕官してから十日ほど経った日、その知らせは届いた。

 

 

 『曹操、張角を討つ』

 

 

 これにより、黄巾党は霧散し残党を残すのみとなった。

 そして今、その残党が洛陽に迫りつつある。

 黄巾残党の総兵数はざっと見て一万ほど。残党を集めながら進軍しているようで、その数は日に日に増している。

 対する洛陽の総兵数はせいぜい二千、無理をすれば四千に届くか……というところだった。

 

 

 「さて、すでに分かっていると思うが、黄巾党の残党がここ洛陽に迫っている。こちらの総兵数は二千。敵の総兵数は五倍はいるものと思え」

 

 その兵力差を聞き、三人の間にわずかな緊張が走る。

 

 「しかし、六日凌げば黄巾党を倒した報奨を受け取るため、周辺諸侯が凱旋するはずだ。そうすれば残党を挟み撃ちに持ち込むことが出来る」

 

 「六日……ですか」

 

 五倍の兵力差を六日も凌げるのか……その策は……。深と影華はすでに防衛することを考え始めていた時、

 

 「……に……ない」

 

 微かに茜の声が聞こえた。

 

 「茜? どうした?」

 

 「そんなにいらない」

 

 「どういうことだ?」

 

 「私に策があります。一日で残党を滅ぼしてみせます」

 

 「!! それは二千の兵でも可能なのですか?」

 

 「はい。全て私の言う通りに動かしてもらえるのならば……」

 

 それは自らの策に絶対の自信を持った、揺るがない瞳。深と影華はそれに賭けてみることにした。

 

 「……よし。それならば次の戦、軍の全権を徐庶に任せる。我らはその命を忠実に遂行する兵士となろう」

 

 「……(コク)」

 

 「はっ。必ずや勝利をもたらします」

 

 

 

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 二日後、そこには山となった黄巾の残党とその傍に立ち尽くす一人の青年、周囲で勝ち鬨を上げる兵士達の姿があった。

 

 

 

 

 茜の策はこういうものだった。

 まず、先陣を切ってくる敵兵にありったけの矢を掃射。動きが鈍っている間に用意していた丸太を敵に転がす。歩兵隊は丸太の後ろを追随し、丸太の速度が緩んだら左右に鋒矢の陣を展開。その勢いで左右を食い破る。

 混乱に陥った本隊へ向け、深を一人で吶喊させる。

 大将が一人で敵陣の真っ只中で戦うのだ。当然敵は中央に集中する。それを鋒矢の陣により突き抜けていた左翼・右翼を包囲するように展開させ、あっという間に二千の兵数で一万の敵を包囲した。

 包囲が狭まれるにつれ、敵は思うように武器を振り回せなくなり、降伏勧告をすると半数以上が降伏した。その間も深は一人で戦っていたが、敵に怪我を負わせることに集中。その目論見は成功し、深の周りには怪我で動けなくなった者達で溢れ、それがまた敵に恐怖を植え付けた。あいつが来るまでは……。

 

 

 「俺様は程遠志だ! お前がここの大将か?」

 

 「貴様……程遠志と言ったか」

 

 

 こいつが……母さんを殺した。

 

 

 「程遠志様だ! 様が抜けておるわ!」

 

 「……」

 

 

 コイツガ……母さんヲコロシタ。

 

 

 「まぁ大将だろうがそうじゃなかろうがどうでもいい。お前は俺に殺されるんだからな!」

 

 

 

 「オマエガ……カアサンヲコロシタ!!」

 

 

 

 「っ!…………」

 

 刹那だった。深の眼が真っ赤に染まった瞬間、程遠志の首は飛んでいた。

 そこからは殺戮としか表現できないものであった。

 

 深が槍を振るうと、その間合いにいる全ての敵兵が吹き飛んだ。

 

 深が剣を振るうと、間合いに飛び込まれた敵兵の首が飛んだ。

 

 それまで負傷させることを狙っていた深の斬撃は、命を刈り取るものへと変貌していた。

 それは地に横たわるものも例外ではない。

 深は自身の周囲を、悉く血で染めていた……。

 

 

 気が付けば戦は終わり、兵達は皆勝ち鬨を上げていた。

 深はただ、それを眺めていることしか出来なかった。

 

 

 

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 夜になり、洛陽では宴が開かれていた。

 主催は茜。まだ入ったばっかだというのに、もう結果を残している。

 これにより、まだ半信半疑だった兵達も彼女の実力を認めるだろう。

 

 俺は宴に対し多少の居心地悪さを感じ、早々に抜け出した。

 

 

 ふらふらと歩いていたら城壁の上にまで来てしまったようだ。

 まぁいいか。少し龍笛を吹こう……。

 

 漂う微かな風を肌に感じながら、無心に吹き続ける。

 

 

 「ここにいたのですね」

 

 影華はそう言うと、隣に腰を落とした。

 しばらく穏やかな時が流れる。

 

 「諳が言っていたことはこれだったんだな……」

 

 「黒夜叉ですか?」

 

 「ああ」

 

 以前、黒い夜叉が見えたと言われたことがあった。

 千寿も何か知っているみたいだったけど、硬く口を閉ざしていて詳細は分からなかった。

 

 「以前……前にも今日のような深を見たことがあります……」

 

 「それは……空の時か?」

 

 「……はい」

 

 「そうか」

 

 

 再度訪れる沈黙……。それを打ち破ったのは深だった。

 

 

 「なぁ影華」

 

 「……なんですか?」

 

 「……少し、弱気なことを言っても良いか?」

 

 「もちろん、いつでも言って構いませんよ、深」

 

 そう言い、影華は正面から深を抱きしめた。

 その胸の中で深は「ありがとう」と呟くと、初めて自身の心の内を吐露した。

 

 

 『怖い』

 

 

 「いつまた、今日のような状態になるか分からない……。もしかしたその時に見境なく味方を襲ってしまうかもしれない……。それが……途轍もなく怖い……」

 

 深は静かに泣いた。

 感情の赴くまま、影華に縋りつきながら……。

 

 そんな深を、影華は子をあやす母のように抱きしめ続けていた。

 

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 どれぐらい経っただろうか。そろそろ宴も終わった頃だろうか……。

 深はすでに泣き止んでおり、再び向き合うような体勢に戻っていた。

 

 

 「……ありがとう、影華」

 

 「いえ……。私はあなたと共に在るのです。決してあなたを一人にさせません。だから……私にだけでも、弱いところを見せても構わないのですよ」

 

 本当に感謝してもしきれないな……。

 俺は心の中でもう一度ありがとうと呟いた。

 

 

 「なぁ……」

 

 「……はい」

 

 「俺さ……ああならないように、強くなるよ」

 

 「……はい」

 

 「力だけじゃなく、心も。二度と自分を失わないように……」

 

 「私も……共に強くなります……。もしもまた、あなたが己を見失ったとき、必ず私が止められるように……」

 

 「ああ……共に強くなろう……」

 

 

 

 『誰よりも強く』

 

 

 

 

 

 影華は一人城壁を降りていった。

 階段を降りきるとそこにいたのは茜。

 

 「影華様」

 

 「茜……」

 

 「私も……強くなります!」

 

 「……」

 

 「どれだけお二人の役に立てるか分かりませんが……」

 

 「茜……私達は家族よ。それを胆に銘じておきなさい」

 

 「あ……はい!」

 

 

 茜もまた誓う。命の恩人に……家族と言ってくれた人に。共に未来を歩くために……。

 

 

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【あとがき】

 

九条です。

遅くなりました! 申し訳ない。

 

今回は難産でした……。

いやー、続きが思いつかない思いつかない。ほんと焦りました。

 

いくつかの伏線は、これで回収できたかなと。

徐々にタイトルに沿って進められてきた感じですかね〜。

 

 

会話の時に、心象を書く回数を減らしてみました。

けど……あんまり変わった様に見えないorz

今後も試行錯誤しながらやってまいります。

 

 

明日は今まで出したオリキャラの復習(?)に当てたいと思います。

作者が忘れないようにする為と、ちょっとした裏話も書く予定。

いつもよりネタ多めかも?

 

 

 

▼重要なご報告▼

 

明日以降、真恋姫をプレイし直しながら書いていきますので、執筆する時間がちょっと減ると予測されます。

その為、毎日更新が出来なくなる可能性がありますので、予めご理解の程をお願い致します。

 

 

 

 

そんなこんなで次回もお楽しみに〜

説明
遅くなりましたが、ご覧下さい。
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コメント
>観珪様 実は襄陽のときすでに家族入りされてました……描写はしてませんけどね。 彼がどんな道を進むのか、乞うご期待!(九条)
>げんぶ様 初コメありがとうございます。  やはり人によって口調が違うので、書いているとあれ? と思うところが多々ありますが、がんばっていきます。 アドバイスできるほど私も小説を嗜んでいるわけではありませんが、時間が空いたときにでも読ませて頂きますね。(九条)
茜ちゃんが家族に加わり、夜叉に呑まれはしたものの復讐も討ち果たしましたね。 乱世は始まりますが、これからは何かを壊すのではなく創る時代ですよ、深くん! (神余 雛)
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