ウォーシップガンナー2 鋼鉄の咆哮 〜海原往く大鷲の航跡〜 第一話:運命の暗車は回る |
ウォーシップガンナー2 鋼鉄の咆哮 〜海原往く大鷲の航跡〜 第一話 運命の暗車は回る
「状況は?」
悪者特有の低い声で唸るように尋ねた男。
「はっ、大演習中の近衛艦隊への国防海軍による攻撃及び殲滅の手筈、全て整いました。また、閣下指揮下のシェルドハーフェン方面の近衛艦隊迎撃準備も、先ほど・・・。」
不思議な事に、秘書も兼ねて彼の耳や口として下に働きかけるのは、この国でも有数の艦隊指揮官であるノイド中将。
たいてい、こういう類の男達が居る場所というのは薄暗く暗躍に適したスペースであるが、机でほくそ笑む彼は違った。
壁には大理石の石柱が白く輝き、頭上には幻想的な光を放つシャンデリアまである。
それは、もう隠す必要が無いという男の何物にも侵し難い絶対的な自信を象徴していた。
そして最も水面下で暗躍する者らしくなかったのは、彼の軍服を覆い尽くさんとばかりに張り付く勲章や階級章の数々。
既にこの条件に当てはまる者は、ウィルキア王国の中では一人しか該当しなかった。
「結構だ。 時代遅れの政策を進める王やその派閥は、最早古き時代の遺物。 この際、海の藻屑と化してもらわねば。 では、諸君らの働きに期待する。」
いや、既に彼の頭の地図にはウィルキア王国という名前はどこにも存在しないのだろう。
「はっ、全力を尽くします。 ヴァイセンベルガー大将閣下!」
ビシッと敬礼をキメると、ノイドは足早にヴァイセンベルガーの執務室を去っていった。
いよいよ明日は脱け殻のこの国が、そしてやがては全世界へと広がる革命の始まりの日だ。
そして、世界はこれまで歴史上の英雄や名君も成しえなかった究極の形へと進化する。
同時に、それこそが混沌と怨嗟や欲望に埋もれる世界を救済する唯一の方法なのだと。
その中で、自分は人類初の真の統率者となる。
描かれるべき世界の像が実像となるのを、彼は哄笑を上げながら信じて止まなかった。
カモメの鳴く声と汽笛が、自分を誘うように朝霧の中の波止場から聞こえてくる。
中世時代の由緒ある街並みを残しながらも、時代の流れに合わせて良い所はそのままに徐々に近代化して行く港町。
それが、ウィルキア王国首都のシュヴァンブルグ。
港の方からは行き交う漁船や商船の合間を縫って、国防海軍の軍港からボイラーの黒煙を吐きながら大小様々な艦艇が次々と出向していく。
本日3月25日は数年に一度の頻度で行われる、国防海軍および近衛海軍合同の大演習がシュヴァンブルグの沖合とシェルドハーフェンの沿岸で行われる事になっている。
それらの艦艇を遠目に見送りながら彼女は波止場の一角に腰を下ろし、画用紙に鉛筆のみで見事な風景画を描いていた。
「ほう・・・これはまた見事な絵だ。 それなら、絵描きとしてもやっていけるんじゃないか、スワロー大尉?」
その声がするまで全く背後に気付かなかったリナは、慌てて振り返りすぐさま敬礼をする。
「すみませんでした、トライトン艦長。」
「ははは、しかし意外だなぁ。 大尉に、絵画の心得があったとは・・・。」
「それ、どういう意味ですか? あ、それよりもう出航準備の時間ですか?」
「ん? ああ、厳密にはまだ20分くらいは余裕はあるだろうが・・・大尉の姿が艦橋に無かったから、通信長に尋ねたらここ辺りじゃないかと言ってたからな。」
「それで、ここまで来たわけですか・・・。」
「ああ、何分・・・暇だったものでね。」
「そうですか・・・。」
ちょっぴりガッカリした気持ちを、苦笑いで隠すリナ。
「まあいい、その絵を描き終わってからでいい。 どうせ、近衛海軍の後発艦隊に続く形で本艦も出航するんだ、時間はたっぷりある。」
そう言い残すように飄々としつつどこか掴みづらい艦長は、ドックの方に踵を返すように自分の針路を変える。
「あ、待って下さい。 私ももう向かいますよ。 もう、景色は見慣れているし殆ど覚えているので・・・あとは、後ほど艦内の部屋で描きますから。」
そう言うとリナが画用紙とかの画材道具をバッグにしまう。
それを不思議そうに見つめるカイト。
しばらくして二人は前後に並ぶように、正式就航を待つのみの艦へと歩き出した。
カイトとリナの二人が艦橋に到着し、午後の出航に備えて全クルーが作業をしていた時だった。
突如、CICの内部が騒がしくなったのが艦橋後方に開かれた防水扉から聞こえてきた。
「CIC、艦橋。 通信長どうしたんだ、やけに騒がしいが?」
カイトが真っ先に尋ねたのは、実弟であり部下でもあるバン通信長。
「あっ、にい・・・いえ、トライトン艦長! たった今、シェルドハーフェンの近衛艦隊司令部から緊急事態を示す暗号を傍受しました!」
「何? いや・・・それは、大演習の一環として発せられたものでは無いのか?」
「いえ、暗号の末尾に、“実際”と打電してあります! また、傍受した近衛海軍艦艇宛に無差別に応答を求めています。」
「むう・・・近衛海軍艦艇限定ではあるが、無差別に応答を求めるとは常時では有り得ないことだ。 良いだろう、この艦も近衛海軍の艦艇同然だ・・・シェルドハーフェン司令部に向け応答せよ。」
了解しましたと答えるより早く、バンはシェルドハーフェン司令部に向けて返信を送り始める。
「どういう、事でしょうか?」
「さあな、今の状況では何も分からん。 しかし、シェルドハーフェンの沿岸部でも国防海軍と近衛海軍の合同大演習が行われている。 破壊工作を行う工作船が、軍港内に入り込む事や、ましてや大艦隊が侵入することなど不可能に近いと思うが・・・。」
カイトが推察した内容を述べるが、彼自身も何が起こっているのか皆目見当もつかない。
「・・・艦長、シェルドハーフェン司令部より入電! 本日1000時頃、国防海軍第3艦隊所属のフレースベルグ級ミサイル巡洋戦艦“ニーズヘッグ”が、何者かによって強奪された模様!」
「・・・ごっ、強奪!? 通信長、それは一体誰が!?」
リナが声を荒げるのと同時に、艦橋に上がっていたクルーに緊迫した空気が漂う。
「わ、分かりません。 ですが、受信した内容には確かに・・・ん? これは・・・」
「強奪にしては、綺麗すぎる・・・。」
カイトが呟きにしてはやや大きい声量で言った次の瞬間、CICがまたも喧噪に包まれる。
「方位050、本艦との距離約20kmの海上に所属不明艦隊出現! 島陰に隠れて、レーダー探知が出来なかった模様。」
CICのバンの視線の先にはモニターに映し出されたレーダースクリーン、その中に光点がいくつも出現していた。
「速度約20ノット、反応の大きさから駆逐艦4隻、戦艦1隻の模様。」
「所属と艦種の解析を急げ。」
「了解・・・え? 所属不明艦艇より小型目標分離、山なりに飛翔して来る・・・これは!! 艦橋、CIC!! 所属不明艦が砲弾を発砲した模様!!」
「なんだと!!」
これには、流石のカイトも驚かざるを得なかった。
「至近弾、着弾まであと5秒!」
バンの引きつった声が聞こえるのと、カイトが全艦放送に繋いだマイクに手を伸ばすのはほぼ同時だった。
「総員、衝撃に備え!!」
次の瞬間、雷が近くで炸裂したような物凄い轟音と地響きが、外から隔たれた艦橋をも襲い、ドックの屋根や壁を泥壁のように削り取った。
しかし、支柱は無事であったため建物自体は辛うじて倒壊はしなかった。
「くっ・・・CIC、艦橋! 被害を報せ!」
カイトの送話にやや遅れて、CICのバンから応答があった。
「艦橋、CIC。 各区怪我人は居ない模様。 また、落ちてきた鉄骨により、通信設備の一部に故障が発生! しかし、目下航行および戦闘に支障なし!」
ひとまずそれは良かったと安堵するカイト、だがまだ不安要素が消えたわけでは無い。
「艦長! 不明艦より通信! 発信源は、国防海軍艦艇戦艦シュヴァンブルグです!」
「味方のはずの国防海軍がなぜ!? いや、そもそもなぜシュヴァンブルグ港に・・・。 まあいい、全艦放送に繋いでくれ。」
ブツッと言う音が一瞬、スピーカーから聞こえた。
それこそ、通信が繋がったいわば合図のような物だった。
艦内に緊張が走る・・・。
もちろん誤射の可能性もあるが、それは本当に微々たる可能性だった。
だが、出来ればそうであって欲しい、そう思いながらカイトはマイクを握った。
『こちら国防海軍戦艦シュヴァンブルグ艦長、旗艦への出航中止命令が出ている。』
相手の顔がなんとなく想像出来るような野太い声が聞こえる。
おそらく、その表情も野兎を追い詰めて銃口を向ける狩人のように不敵な笑みを浮かべているに違いない。
「こちら近衛海軍巡洋戦艦フレースベルグ艦長、我々は近衛海軍司令部の命令を受けて動いている。 貴官の出航中止命令を受諾する前に、近衛海軍司令部との連絡を要求する。」
カイトは比較的落ち着いて応答した。
それもそのはず、これくらいで慌てふためくような軍人なら軍艦の全乗組員の命を預かる艦長にはなれまい・・・。
『残念だが、その近衛海軍は反乱を起こし逃亡した。 貴艦も例外でなく、反乱の疑いがかかっている。』
「何!? 近衛海軍が反乱だと?」
『そうだ、本日1000時、合同大演習に乗じて、近衛海軍が国防海軍の艦艇に攻撃を仕掛けた。 そしてそのまま、艦隊は南下。 シェルドハーフェン方面で演習に当たっていた艦艇も同様に反乱を起こし、そして逃亡した。』
「近衛海軍が・・・嘘でしょう!」
マイクの先の相手に聞こえるようにか、リナが大声で叫ぶ。
『だれかは知らんが、これは虚報ではない。 我々は、諸君らの無実を信じたい。 そのために、艦から下船せよ。』
「・・・分かった。 少し待って頂きたい、5分ほど時間が欲しい。」
通信を終えマイクを元の場所に戻すと、いつの間にか乱れていた帽子をかぶり直す。
「艦長・・・私は信じられません! 近衛海軍が反乱など・・・ですが、艦長は信じるのですか? あの近衛海軍が、叛旗を翻すなどと言う事が、有り得ると言うのですか!?」
先程の「わかった」を承諾の返事ととったリナがカイトに迫る。
そんな彼女や不安がるクルー達に向けて、カイトは何かを見抜いたという表情、薄い笑みを浮かべた。
「安心しろ。 裏切ったのは、近衛海軍じゃない・・・国防海軍だ。 さて、まずは降りかかる火の粉を払わねばならんな。」
そう言って、通信は切れているが全艦放送に繋いだままのマイクを再び握る。
「諸君、今の信じがたい通信を聞いただろうが、安心して欲しい。 私が思うに、反乱を起こしたのは国防海軍の方だ、そしてもちろん確証はある。 もし諸君が近衛海軍と、そして私を信じるならば、どうか落ち着いてほしい。 だが、もし不信を抱く者がいるならば止めはしない・・・1分待つ、今すぐこの艦を下船することを勧める。」
マイクを置いて、艦橋から外の様子を眺めるカイト。
15秒経過、未だに甲板に一人も現れない。
30秒経過、最後尾に下船希望者が居ればそろそろ・・・と思っていた時だった。
五人ほどのクルーが、甲板の上をかけ足で船首の方に向かっていく。
しかも彼らはCICの射撃管制などに携わる、いわば攻撃のスペシャリスト。
貴重な人材に不信を抱かれたか、とカイトが悔いかけたその時・・・彼らは予想外の行動に出た。
なんと、接岸しているドックと艦を繋ぐタラップを取り外し始めたのだ。
その時、CICから通信が入る。
「安心して下さい艦長、全区逃亡者は居ませんよ。 先程、CICの何名かをタラップを外しに向かわせました。 これで、離岸作業は完了しました。」
「了解した。 諸君の賢明な判断に、感謝する。」
マイクを片手にひとまず安心といった表情のカイト。
「副長。」
「はっ。」
「CICの方へ向かってくれ。 この艦は、敵艦との交戦に入る。」
「了解しました!」
敬礼を送ると、すぐさま閉まりかかった防水扉をスルリと軽い身のこなしで潜り抜け、リナはCICへと急いだ。
「これが、本艦の最初の戦闘だ。 諸君の働きに期待する、対水上戦闘用意!」
「対水上戦闘よーい! これは演習では無い! 繰り返す、これは演習では無い!」
CICのバンの復唱の後に、全艦にサイレンが鳴り響く。
全クルーに、先ほどとは違った緊張が走る。
その時、無線が再び敵艦と繋がる。
『こちらシュヴァンブルグ艦長、下船の状況を報告せよ。』
「フレースベルグ艦長、残念ながら貴官の命令は受け入れられない。」
『なんだと?』
「状況から察するに、反乱を起こしたのは近衛海軍じゃない。 国防海軍の方だ!」
『何を訳の分からんことを、命令に従わなければやむを得ず貴艦を撃沈する! 撤回するなら今のうちだ。』
「確証ならある。 貴官等が、反乱を起こした忘恩の輩だと言う確証がな。」
『くっ、言わせておけば勝手なことを・・・仕方あるまい、それまでして死に急ぐなら望みを叶えてやらんでもない。だが忘れるな、貴艦はドックを出なければこちらに砲塔を向ける事はかなわんだろうが、こちらの砲塔の照準はすでに貴艦が入渠しているドックの入り口に合わせてある。』
「艦橋、CIC! 小型艦4隻がさらに前進、本艦との距離を急速に縮めます!」
無線が途絶するのと同時に、敵艦隊前方に待機していた駆逐艦四隻が前方に進撃を始めた。
砲撃では精密に目標に当たらない事実を踏まえ、魚雷攻撃により確実に仕留める事を目論んだのだろう。
それにしても、砲塔がどこを向いているだのそう言う事を教えてくれるとは、よほど自信過剰な艦長だとカイトは思いながら艦長席に座る。
「・・・前甲板VLS、突出している駆逐艦に向け対艦ミサイルによる攻撃を行う。」
『待って下さい、ミサイルの発射方向にはドックの天井がありますよ!』
「副長、それは大丈夫だ。 あの屋根は、トタンで出来ている。 軍艦の装甲を貫通出来る性能の弾頭装甲が、突き破れぬ筈があるまい。」
『了解しました。 前甲板、VLS121番から124番を開放!』
その復唱の後、前甲板に埋め込まれた四角いVLS発射機構の無数の蓋のうち、四つがカパッと上を向くように開く。
『目標レーダーロック完了。対艦ミサイル攻撃準備よし! 艦長・・・』
通信機の向こうのリナが少し心配そうに発射の合図を彼に求めた。
この合図をすれば、敵艦と見なした艦艇は間違いなく沈むだろう。
そして、死傷者も当然ながら出ることだろう。
だが・・・今の自分にとっては、自分に命を預けた仲間達の方がはるかに大事だ!
そう言い聞かせて、彼はマイクの送話のスイッチを入れた。
「一番から四番発射用意・・・撃てー!」
その合図を受けて、射手が押したボタンから電流が配線を伝って流れる
そして電流は、前方の甲板内で息を潜めるミサイルの点火プラグへとついに到達した。
その瞬間・・・
グワアッと艦の前方のVLS排煙噴出口から炎が噴き上がり、発射機構内部のロックと重力の束縛から放たれた合計4発のミサイルが瞬く間に空に舞い上がった。
「ぜ、前方ミサイル接近! 迎撃急げ!」
「駄目です! 間に合いません!」
駆逐艦の乗組員の眼前には、白い排煙とロケット炎を噴き出しながら迫りくるミサイルが映る。
そして・・・
「ミサイル命中! ターゲットキル、繰り返すターゲットキル!」
「よし、機関全速! 一刻も早くシュヴァンブルグ港を脱出する!」
カイトが艦長席から告げた時を同じくして、遅れて聞こえた爆音。
だが、感傷に浸っている場合では無い。
「全速前進!」
航海士がレバーを操作し推進軸が駆動・・・艦内に出航を待ち望んでいたとばかりにフレースベルグの唸りが響く。
暗車を全速で回転させ、内部の水流を攪拌させながらドックの壊れかけた開口部から姿を現したフレースベルグ。
フレースベルグの艦橋からは、炎上し傾きつつある駆逐艦から海面に飛び込む乗員たちの姿がはっきりと分かる。
それは、当然ながら彼にとっては不意打ちを受けての屈辱以外の何物でもなかった。
『おのれ・・・小癪な真似を! 第一第二砲塔、攻撃はじめ!』
その時、既にフレースベルグをその照準に捉えていたシュヴァンブルグの主砲が、怒り心頭の艦長の爆発の代わりに一斉に火を噴いた。
「戦艦シュヴァンブルグ、発砲! その数、6!」
それは、すぐさまCICのレーダーを見張るリナの目にとまった。
「大丈夫だ、この艦の加速力なら交わせる筈だ! このまま直進しろ!」
カイトが艦橋から水平線の向こうの方に居座る戦艦シュヴァンブルグの姿を確認した。
すると、その上空に一瞬キラリと光るものが見えた。
「主砲の砲弾だ! CIC、着弾まであとどれくらいだ?」
「着弾まで、あと5秒!」
「総員、至近弾の衝撃に備えよ!」
「あと3秒・・・2秒・・・」
(大丈夫、この艦は・・・私たちの意志は絶対に沈まない!)
正確にカウントダウンをしながら、リナも座っていたコンソールに覆いかぶさるように対ショック姿勢を取る。
次の瞬間、艦を揺さぶる衝撃が彼女たちを襲う。
「くっ!!」
(艦は・・・!? ダメージは?)
揺れがある程度収まり、急ぎダメージコントロールのモニターに視線を移すが、全ての兵装や船体各部の表示が全て緑で表示されている。
ということは・・・
「艦橋、CIC。 敵艦の主砲弾、全弾回避成功!」
それを聞いて艦内のクルー達は、喜悦の表情や言葉を口にしていた。
そして対する戦艦シュヴァンブルグの船員には、常軌を逸脱したものを見つめていると言った表情が浮かんでいた。
「あの距離で全弾回避するなんて・・・なんて加速力だ!」
戦艦シュヴァンブルグのクルーが双眼鏡をのぞきながら、フレースベルグの加速力に目を見開く。
「ぬうぅ・・・こうなったら、先を見越した偏差射撃で仕留めろ! 全弾を放っても、あの艦を沈めろ!」
激昂しながら命令を飛ばす艦長、ついでに唾も飛んでいる。
まだ諦めるには早すぎるのは確かだが、間違ってもらっては困る。
最初に攻撃を受けた以上、こちらも当然ながら攻撃する権利を持っている。
「戦艦シュヴァンブルグ、主砲の砲身仰角を下にさげます!」
高倍率望遠鏡を覗いていたクルーが、状況をカイトに伝える。
同時に、マストに取り付けてあるカメラがその様子を捉えており、艦橋のモニターに映し出される。
「諦めたわけでは無さそうだ、おそらく再装填しているのだろう・・・。」
戦艦の砲塔は、約3度まで角度を下げなければ再装填は出来ない。
先程の砲撃で上を向いていた砲口が、今ではほぼ水平方向を向いている。
これは何より、まだ相手が攻撃する意思があると言う証拠だった。
「CIC、艦橋。 戦艦シュヴァンブルグの攻撃手段を奪いたいが、何か方法は無いか?」
「こちらCIC・・・三基の主砲に対艦ミサイルを鉛直に近い角度でヒットさせてみたらどうでしょうか?」
「いや、そしたら内部の弾薬庫までを破壊して、最悪の場合あの戦艦は大爆発を起こして轟沈しかねん。 すでに駆逐艦を四隻も沈めておきながらこういう事を言うのはどうかとも思うが、やはり犠牲は少ないに越したことは無い。」
「そうですね・・・あの艦は射撃の大半を目測に頼るので・・・目測? そうだ!」
何かに閃いたようにリナが叫ぶと、マストのカメラを遠隔操作する。
「艦長、戦艦シュヴァンブルグの主砲は、艦橋上部の目測を射撃方位盤によって行う事で射撃の大まかな方角や角度を決定します。 それさえ破壊できれば、もう主砲の狙いは定まらないも同然です!」
「よし分かった。 だが、ミサイルでは威力が強すぎる・・・よし、AGSの精密射撃で攻撃する!」
前甲板で固定されていたAGS砲塔が、戦艦の巨砲と比べ物にならないくらいの身軽そうな動きでクルリと旋回し、その砲口に戦艦シュヴァンブルグを捉える。
タンッとこれもまた巨砲と比較して軽い破裂音と共に、今度はフレースベルグから砲弾が打ち出される。
「測距急げ!」
「目標方位343、距離・・・」
言いかけた瞬間、測距手が覗く測距器に一瞬赤熱した物体が映り・・・
スガアッ!!
戦艦を艦橋上部から激しい揺れが襲う。
「ど、どうした!?」
「艦長! 主砲測距器が攻撃を受け損壊、主砲発射不能!」
「死者は居ませんが、艦橋上部の照準室に軽傷者がいる模様!」
「くっ・・・うぅぅ、おのれぇ・・・!」
怒りに身を震えさせながら、目測での適当な射撃を命じようとも思ったが、彼は一度深呼吸をして自分を落ち着かせた。
「・・・国防海軍本部に連絡しろ、本艦は敵艦より照準装置に攻撃を受け戦闘続行は不可能。 これより、漂流する本艦隊の船員を救助を開始する、と。」
戦艦シュヴァンブルグが沈黙し、動き出す気配もないことから、フレースベルグ艦内では戦闘終了並びに武装納めの命令がカイトの口より告げられた。
「とにかく、本艦隊との合流地点に急ぐぞ。 針路変更100、速度そのまま。」
そうはきはきと告げるカイトの脳裏にも、今回の戦闘を招いた原因としていくつものシナリオが浮かぶ。
一体何が起こっているのか、それはこの艦の中の誰一人として正確な答えを出す事は出来ないだろう。
その答えを探す・・・。
最初の行き先をそれに定め、フレースベルグは大海原にその航跡を描き始めた。
続く
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いろいろとグダグダになってしまったような気がする今回・・・
と言うか、グダグダっぽく見えるのはテンポが遅すぎたからか・・・
何度読み返しても八流ノベルらしく反省点が多い今回ですが、如何でしたでしょうか?
次回は、仲間と合流を果たして安堵も束の間、カイト達に近衛海軍司令部からある命令が下ります・・・。 その命令とは・・・
《ちょこっと解説》
ところで、今回の内容でちょこっと解説を入れると・・・
VLSとはなんぞや?
VLSは、(Vertical Launching System:垂直発射装置)と言う意味で、ミサイル等を垂直に打ち出し、その後ミサイルが目標の方向に軌道を変えて飛んで行きます。
利点としては、いちいち発射機を目標の方向に向けなくて良い事や、自動装填装置と組み合わせてあるので次弾装填がとても素早い。
どれくらい早いかと言うと、それまでが4秒かかっていた物がわずか1秒程度に短縮されました。
それくらい・・・と思う人も居るかも知れませんが、戦場に一秒の遅れは命取りだったりするかもしれません。
《なんで断定しないかと言うと、自分も戦場に行ったこと無いので(ry》
CICとかって?
今回の中にもあった「艦橋、CIC。」や「CIC、艦橋。」とかいったセリフ。
これは、単語としてもいささか不明瞭な点が多いですが、何よりこのセリフを謎と思った方も多いんでは無いでしょうか?
まず、CICですがこれは(Combat Information Center:戦闘情報中枢)の事で、二次大戦後の現代の艦船には無くてはならない部署です。
名前見たまんまの通り、艦のレーダーやソナーなどから得られる情報のほとんどがここに集められ、それぞれのクルーに最適な指示を送ります。
二次大戦時は、艦長などが艦橋から攻撃目標を指示したりしていました。
(映画“男たちの大和”を見られた方はなんとなくわかると思いますが・・・。)
それは肉眼で目標が見えるからで、現代のように音速を超える戦闘機や隠密性に長けた原子力潜水艦など、視認不能な脅威の情報を収集し処理する必要性が出てきたので、コンピューターやいろいろな電子機器がそろったCICが必要とされたわけです。
おかげで、CICは現代艦船の戦闘の要となっており、例え艦橋が大破しても頑強な造りのCICが健在であれば、戦闘は続行できるわけです。
〜やっぱり便利なWikipediaより一部引用(笑)〜
次に、「艦橋、CIC。」とかの意味ですが・・・
これを簡単に訳すと、こうなります↓↓
「艦橋応答願います、こちらCIC。」
つまり、この場合艦橋からCICに呼びかけてんのかな?と思われた方も多いのではないでしょうか? 実際は、CICから艦橋に呼びかけています。
逆の場合は、もちろん逆になりますよ(ナンノコッチャ
あ、分かり辛かったのは書き方や文才の問題?・・・それは失礼(自爆)
説明 | ||
主人公たちの初の戦闘。 でもなんかgdgdになったような・・・。 出航までが、結構キツかったり。 今のところ、オリキャラばっかしの作品ですが・・・よかったらどうぞ。 |
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風景描写と戦闘描写がそれぞれ違った書き方で引き込まれます。今後も期待して待っています(タタリ大佐) | ||
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