Memory Rigrett |
初めてだった。忘れていた記憶を取り戻した。
その時に、ひとつだけ思い出せないでいた人が居た。
それはきっと、私の大切な人だ。
それなのに、私は今でも思い出せないでいる。
そして昨日。
初めて彼の顔を繊細に思いだすことが出来た。
いつも思いだそうとすると、彼の顔は闇で包まれてしまう。
昨日は違ったのだ。
私を優しい声で呼びかけてくれた。
私の名前を何度も呟いてくれた。
だけど私は返事を出来なかった。
答えても彼は微笑むだけ。
「あなたの名前は何?」
何度問うても彼は微笑んだまま。
私は今日、古い友人を訪ねてみることにした。
もしかしたら彼女は知っているかもしれない。
ドアを何度かノックして、彼女の家へと踏み入れた。
彼女は快く出迎えてくれた。
レモンの入った紅茶と小さくて甘すぎないクッキー。
お盆にそれらを載せて彼女は私の居るソファに戻ってきた。
「私に、大切な人はいたのかしら」
私は紅茶の表面に映る自分の惨めな顔を眺めた。
大切な人さえ思い出せない私は、きっと最低な人間だ。
どうして私が事故に合ったんだろう。
私でなくてはいけなかったはずはないではないか。
すると彼女は口を開いた。
とても重そうに、ゆっくりと話し始めた。
「思い出せないのね」
哀しそうに言う彼女は、言った。
砂糖の二つ自分のカップに入れて、彼女は続ける。
「彼はね。あなたの恋人だったのよ」
その言葉に、あまり驚きはしなかった。
でもどうして、私はその恋人を思い出せないのだろうか。
「一年前にあなたを守って亡くなったわ」
躊躇しながら彼女は告げた。
私は何も言えずにいた。
「ありがとう」
私はそう言って家を出た。
一人になりたかった。
だから、私は記憶を思い出せなかったのだろうか。
彼が、亡くなって辛かったから、思い出せないのだろうか。
勝手に、頭がそれを拒んでいるのだろうか。
いつになれば私はその囚から抜け出せるのだろうか。
「さようなら」
丁度、空には星が輝いていた。
流れ星は、待っていても来ない。
自分から、掴みに行かなければ。
早く、早く。
君を探し出さなければ。
説明 | ||
記憶を辿って 紡がれていくお話 少女は笑った 少年は泣いた |
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コメント | ||
彼女にとって彼の存在はとっても大きかったのですね。(華詩) | ||
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