運・恋姫†無双 第十五話
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狼が啼いた。

それが矢だったと気付いた時は、夏侯淵が弓を降ろした時だ。

 

恐怖

 

それに似た感動が身を痺れさせた。

血が、頬から滴り落ちてくる。

熱い、と紗羅は思った。

血が熱い。

そこで、夏侯淵が袋を投げ渡してきた。

受け取ると、思ったより重い。

 

 

「この弓の礼だ」

 

「礼は」

 

「受け取れ、運び屋。信賞必罰。それは国の基だ」

 

 

受け売りだがな、と彼女は笑った。

中身は路銀だった。

かなりの量がある。

しかしそれでも、夏侯淵は足りぬと言った。

金銭では、確かに足りないのかもしれない。

しかし、充分すぎるほど充分である。

 

 

「充分だ、妙才殿。『餓狼爪』良い名を付けた」

 

「そう言ってくれれば」

 

「よい。それではさらばだ、妙才殿。縁があれば、また見えることもあるだろう。孟徳殿にも、そう伝えておいてくれ」

 

 

それで紗羅たちは隊商と共に洛陽を去った。

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「塩を買わないか?」

 

 

とその女性は言った。

全身を包む外套に頭巾を目深に被っているため顔は見えず、

判断材料は浮き出ている身体つきと声しかない。

芯の入った、よく通る声だった。

 

 

「塩か」

 

 

その女性は、一本の槍を持っていた。

趙雲のような業物ではなく、そこらにある簡素な槍だ。

荷物らしい荷物は他に見えない。

商品の塩は、外套の中にでも隠しているのだろう。

 

この国では、鉄と塩は専売制が取られている。

陳宮からそう聞いた。

だから、彼女個人が塩を商って良いはずがないのだ。

顔を隠しているのは、そのためだろう。

つまり彼女は、

 

 

「密売人ですな」

 

「……」

 

 

陳宮が堂々と告げる。

その女性は何も答えなかった。

 

 

「我ら隊商に近づいて来るとは、なかなかの剛毅ですが」

 

 

数日前に紗羅達は洛陽を離れた。そして今、呂伯奢率いる隊商は野営中である。馬車は全て一か所に集められて、その分の護衛の規模も大きい。しかし紗羅達は、散歩してくる、という理由で馬車だけ預け、少しの間皆と離れていた。

 

 

「我ら、か。あの中でお前たちだけは別だろう。馬車が他と違う」

 

 

見ていたのか。彼女はそこを狙ってきたのか、と陳宮は考えを巡らせた。護衛はいない。襲われるのなら彼だけが頼りとなる。彼が持ちこたえている間に、自分が助けを呼びに行くか。陳宮は、疑り深く目を凝らしていたが、不意に頭に手が乗せられた。

 

 

「わっ!?」

 

「よい、公台。襲われると決まった訳ではないだろう」

 

 

紗羅が前へ出た。

不用心だ、と陳宮が声を荒げても、彼は聞きもしない。

 

 

「公台、お前は人に噛みつきすぎだ。それに顔に出やすい」

 

「紗羅殿〜……」

 

 

紗羅と女性が向かい合う。

 

 

「襲うのか?」

 

「そんな事はするものか」

 

 

女性は不機嫌そうにそう言った。

 

 

「なら、よい」

 

 

紗羅はそれだけ言うと躊躇わず塩を買った。

代金を払おうとすると、

 

 

「金は要らん」

 

 

と言った。

その代わりに、と続け、

 

 

「私を馬車に乗せてほしい」

 

 

と言うのだ。

 

 

「馬車に?」

 

「お断りです!」

 

「公台、少し口を塞いでおけ。……俺たちが行くのは豫州の魯と呼ばれる所までだが、構わんか」

 

 

女性は「途中で降ろしてくれれば良い」と言った。

もはや陳宮の諫言は意味を成さない。

 

 

「私の事は、長生と呼んでくれ」

 

「運び屋と。そう呼べ」

 

「よろしく頼む」

 

 

彼女とは道中に通った定陶と呼ばれる場所で別れた。結局、その長生という女性の顔を見ることはなく、名もそれ以外知らないし、知ろうともしない。陳宮は不満げに「なんであのような怪しげな奴を」と愚痴っていたが、紗羅は「よい」としか言わなかった。

 

彼女は別れる時は「世話になった」としか言わず、必要以上に馴れ合う事もない。

口数も少なく、淡々とした付き合いだったが、そんなものだ。

 

しかし、紗羅は満足だった。

 

長生の『気』は目を見張るものがあった。どこかの武人だったのか、一目見た時は、思わず呑まれそうになったほどだった。大陸には、ああいう人物もいる。長生と呼ばれる武将には覚えがないが、自分の知らぬ名将か、それとも名もなき豪傑なのか。

 

曹操のような英雄。

趙雲、夏侯淵の様な英傑。

長生のような知らぬ豪傑。

この世はどのような人物がいるのだろうか。

そのような人物を見るだけで、心が躍る。

 

旅は、楽しい。

目的は出だし好調、食料も路銀も十分。

全てが順風満帆に進んでいる気がして、

 

 

「俺は、運が良いな」

 

 

と呟いた。

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あとがきなるもの

 

ゼリービーンズうめえ。二郎刀です。陳宮は空気。上手く扱えねえ・・・

 

今回は軽めに短い話です。まあ知ってる人はニヤってしてくれたら嬉しい。

 

洛陽出ちゃいました。逸った。早く先へ進みたいのである。

最近脳内先行の速度がヤバい。どうして妄想ってこんなに楽しいのだろうか・・・

こんな展開が面白そう。こんな展開が、こんな展開が(以下ループ

みたいな感じです。

 

とりあえずさっさと進めるために今回はここまでにしておきましょうか。

 

 

では今回の話はどうでしたでしょうか? 少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。

 

説明
今回意外とすんなり出てきた。
更新は遅いけどね!
それが俺クオro(#゜Д゜)_‐=o)`Д゜)・;
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コメント
密売人って、『愛紗』か?(劉邦柾棟)
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