SAO〜黒紫の剣舞〜 第二話
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第二話 デスゲーム

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《はじまりの街》の宮殿前に広がる中央広場。そこでは、約一万人のプレイヤーが自分の負の感情を剥き出しにしていた。

 

罵倒。悲鳴。怒号。そして、絶叫。

 

狂ったように笑う者もいれば、逆に一言も発せず虚ろな目で呆然とする者もいる。

 

この場にはもう、数十分前までの《ゲームを楽しむ》という雰囲気は欠片も残っていない。このゲームは、その僅か数十分の間に世界の有り様を変えたのだ。

 

中央広場に転移させられた俺たち一万人のプレイヤーは、そこでSAOの製作者である茅場晶彦を名乗る深紅のローブを着た男に、この世界の真実を伝えられ、ここが現実なのだと認識させられた。

 

伝えられた事実は、ログアウトボタンが存在しないのは《ソードアート・オンライン》本来の仕様であること。

 

ログアウトする方法はこの城の頂を極める、つまり、SAOをクリアする以外に無いこと。

 

そして、もしこの世界でHPが0になった場合、ナーヴギアが現実の脳を破壊するということ。

 

それだけならまだ絵空事だと思えた。

 

しかし、その思いは、茅場晶彦から与えられた現実と全く同じ顔と体格を持つアバターによって、この世界は((仮想|ゲーム))などではなく((現実|リアル))なのだ

と認識させられたのだった。

 

「………」

 

平時と何も変わらない第二層の底を呆然と眺めながら、俺は今は居ないローブ男の言葉を反芻し、少しずつその現実を受け止めていった。

 

そして、どうすれば生き残れるのか、生き残るには何が必要かを考える。

 

生き残る方法は二つ。ここに留まるか、モンスターに殺されないくらい強くなるか。

 

悩む間もなく、俺は後者を選んだ。

 

戦々恐々と怯えながら、誰かがこのゲームをクリアしてくれるのを待つ。そんなもの、生きながら死んでいるようなもの。この世界はゲームではなく現実。ならば、最後の最期まで己を貫いて華々しく散ったほうが遥かにマシだと思ったからだ。

 

それに、これは俺の思い込みかもしれないが、((茅場晶彦|アイツ))は暗にこうも言った。

 

『ここから出たければ、私の創ったゲームを攻略してみろ』

 

こう言われちゃ、意地でも攻略してやりたくなるのがゲーマーというものなのだ。

 

次に、生き残るためには何が必要か、言い換えれば《強くなるため》には何が必要かを考える。

 

それは、自分や装備のレベルを上げるため効率良く経験値や((お金|コル))を稼ぐことだ。

 

VRMMOはリソースの奪い合い。システムから供給される限られた金とアイテムと経験値をより多く獲得したヤツが強くなれるゲーム。そんなことは、このゲームにログインしているほとんどのプレイヤーも重々承知しているだろう。

 

おそらく、この《はじまりの街》周辺のフィールドは、似たようなことを考えるプレイヤーたちによって、たちまちにして狩り尽くされて枯渇はずだ。そうなってしまえば、レベル上げの効率は悪いなんてものじゃなくなる。

 

となると、今のうちに次の村を拠点にしたほうがいいだろう。幸い、俺はベータ版の知識があるからレベル1の今でも安全に辿り着くことは可能だ。

 

そう結論付けた俺は広場の外に足を向けようとして、踏みとどまった。

 

「……クライン、少しいいか?」

 

「っ……。なんだ、キリト……?」

 

隣に立つクラインに声を抑えて話しかける。

 

その声に気付いたクラインは、何かを追い出すように頭を振ると、比較的落ち着いた表情で俺の方を見た。

 

「クライン、俺はこのゲームを攻略する」

 

「なっ!?」

 

ぎょろりと目を見開くクラインに構わず、俺は告げた。

 

「知っての通りVRMMOはリソースの奪い合い、ここら辺のモンスターはあっと言う間に狩り尽くされる。俺は今から次の街に行ってそこを拠点にするつもりだ。……クライン、一緒に来るか?」

 

「……アイツらはどうするんだ」

 

アイツらとは、SAOにログインしているクラインの友人のことだろう。何人いるか分からないが、いくらベータ版の知識があったとしても全員を安全に次の街に移動させることは不可能だろう。それ以前に、今の俺の力じゃクライン一人の安全を完璧に保障出来るかどうかもあやしい。

 

「……ありがてェけど、遠慮しとくわ」

 

俺の言わんとしていることを察したらしいクラインは、頭を振って提案を拒否した。

 

「キリトの気持ちは嬉しいけど、ダチを置いてくわけにはいかねェからよ」

 

「……そうか。分かった」

 

凄いと思った。こんな状況になっても、自分の保身に走らず仲間を気にかけるクラインのことが、純粋に凄いと思った。

 

「今度会ったときは、お前の仲間を一人も欠けずに紹介してくれ。……それまで、絶対に死ぬなよ」

 

最後にそれだけ言って、俺は今度こそ広場の外に向けて走り出した。

 

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恐怖に震えるプレイヤーたちを尻目に、一万人の人垣をすり抜けて中央広場を出る。

 

「……ひっく……えっぐ………」

 

そのとき、どこからかすすり泣く声が聞こえた。

 

声の高さからして女の子。それも、まだまだ幼い印象を受ける泣き声だった。

 

泣き声なんかあちこちから聞こえてくるのに、何故かその声が気になった俺は、フィールドへ一直線に向けるべき足を止めてその声の主を探した。

 

視線を左右に巡らせ、広場を囲む壁の隅のほうで地面に座り込み縮こまる少女の姿を発見する。

 

まるで身を守るかのように膝を抱え込む少女からは、顔を膝に押し付けているためその表情を伺うことはできないが、力無く垂れ下がる濡れたような長い黒髪と、その間から覗く震える色白の肩から悲しみに暮れているのは見て取れた。

 

「………」

 

俺は昔、俺と直葉の仲がまだよかった頃、こんな風に直葉が泣いているのを見たことがあった。あの時はどうしたっけか、などと考えていると、足が勝手に少女の方へ動き、勝手に口が動いていた。

 

「大丈夫か?」

 

少女の前に片膝き、視線の高さを少女に合わせて声をかける。

 

必要以上に自分から他人と接触しようとしなかった俺にとって、これは驚くべきことだった。あるいは、さっきのクラインを見たから影響を受けたのかもしれない。

 

そしてそれ以上に、俺は、何故かこの少女をほっとけなかった。

 

「………っ」

 

声を掛けられた少女は、ビクッと体を硬直させたあと、少しだけ顔を上げて覗き込むに俺を見た。

 

少女の深い黒色の瞳は涙で揺れ、その眼からは止めどなく涙が溢れていた。何度も何度も涙を拭ったようで、目尻が赤くなっている。肌が白いから良くわかった。

 

「大丈夫か……?」

 

もう一度、少女に声をかける。すると、少女は弱々しく頭を縦に振った。俺に心配をかけたくないのだろう。

 

「ここは危ない。早く他の場所に移った方がいい」

 

ここに集まったプレイヤーの怒りの捌け口が、いつ他のプレイヤーに向けられるかわからない。実際、さっき人垣を抜けるとき何人かに殴られそうになった。

 

そんな場所に泣いている女の子を一人にするのは、さすがの俺でも忍びない。

 

「近くの宿屋までなら案内する。そこの方がここよりもずっと安全だ。……立てるか?」

 

自分の心に従い、出来る限り優しい声で語りかけて右手を少女の前に差し出す。

 

少女はその手をじっと見つめて僅かに逡巡したあと、俺の手を取った。

 

腕を引いて少女を起こした俺は、少女に寄り添いながらゆっくりと、しかし、極力早足で一番近くの宿屋を訪ねた。

 

こんな状況になっても「いらっしゃいませ」といつもと全く変わらない調子で話すNPCの声に、何となく安心感を覚えながら、俺の名義で部屋を一つ借りる。そして、まだ自分一人で歩くのは難しそうな少女を部屋に案内し、ベッドに座らせた。これで、俺の役目は終了だ。

 

「今日一日分のコルしか払ってないから、明日もこの部屋に泊まるなら自分で払ってくれ」

 

「………まって……」

 

最後にコルのことを注意して部屋を去ろうとしたとき、ここに来るまで俯いて無言を貫いていた少女の声が耳に届く。振り返ると、俯かせていた顔を上げる少女の姿があった。相変わらず目尻は赤く、瞳は濡れているが、幾分か落ち着いたようで涙は止まっていた。

 

少女の顔をはっきりと見たのはこれが初めてだが、第一に受けた印象は《幼い》だった。見た目から年齢を推測しても、SAOの対象年齢にすら届いていない。

 

顔を上げて真っ直ぐに俺を見る少女は、幼い顔を不安で歪めながら口を開いた。

 

「……これからどうするの……?」

 

「このゲームを攻略する」

 

少女の問いに、俺は即答する。

 

少女は目を見開き、言葉を失った。

 

「じゃあな」

 

少女が次の言葉を口にする前に、俺は部屋を出てドアを閉めた。そのまま宿屋をあとにして、フィールドまで一気に駆け抜ける。今度は、足を止めることはなかった。

 

《はじまりの街》から広大な草原フィールドに出た瞬間、俺は歩調を緩めて全神経を集中させた。

 

ここから先は、システムの保護なんて無い、少しのミスが命に関わる本当のデスゲームだ。やや出遅れたかもしれないが、まだ間に合う。そう言い聞かせて、焦る気持ちを抑え込む。

 

クラインと約束したんだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。

 

そして、あの泣いていた少女の不安を拭い去るためにも、このゲームをクリアしなくてはならない。

 

目の前にポップしたオオカミのようなモンスターに狙いを定めた俺は、そう強く思いながら背中の曲刀を抜刀し、すれ違い様に一閃のもと斬り伏せる。

 

背後で聞こえた爆散する音を捉えた俺は、振り返らずに前に進んだ。

 

今はただ、進むことだけを考えた。

 

説明
今回は短め。コメントお待ちしています。
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コメント
刀のユニークスキルなら北郷刃さんに相談すればいいと思いますよ^^ 刃さんもSAOのオリキャラに刀のユニークスキルを使うキャラがいるのでいいアイディアを出してくれると思います^^(ジン)
ジン 様へ  ありがとうございます。一応、刀のユニークスキルは考えているので楽しみにしていてください。ユイはいろいろとパターンを考えているんですが、どれになるかはまだまだ決められませんね……。(bambamboo)
キリト×ユウキって見たことがないので続きがとても楽しみですね^^ あとは第零話を読んで思ったのはキリトは片手剣じゃなくて刀なんですね? ならキリトには刀のユニークスキルを手に入れてもらいたいですね^^ あと疑問としてユイはどうなるのかが気になりました。 更新これからも頑張ってください。(ジン)
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SAO ソードアート・オンライン オリジナル要素有り 原作改変有り キリト×ユウキ 

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