落日を討て――最後の外史―― 真・恋姫†無双二次創作 幕間3
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【幕間 3】

 外史の間の不思議な店にて。

 

「参ったわねん」

 バーカウンターに座る貂蝉はため息交じりにいうと、密色の酒の満ちたグラスを勢いよくあおった。

「マスターちゃん、お代わりがほしいわ」

 カウンターの奥に立つマスターは視線で応じるとボトルを貂蝉のグラスへと傾けた。

「お疲れのようですね」

「どうにかしなくちゃって、気持ちは逸るのに、私にできることはもう何もないんだもの」

「では、やはり――」

 マスターの言葉に貂蝉がうなづく。

 

「他の外史から記憶が流入しているわ」

 

「では、一刀さんは」

「ご主人様が記憶を取り戻すことはないと思うわん。外史を渡れば記憶の制限を受ける。ご主人様は何度も重ねてその制限を受けているんだものねん。ただ、ご主人様の周りの子たちは別。外史の融合に伴って記憶の流入がおこっているようねん。個人差はあるみたいだけれど。賢い子はもう自分の記憶が一体何なのか、気づいているみたいねん。例えば、諸葛亮ちゃんとか。ご主人様、って呼びかけてたもの。決定的ねん。董卓ちゃんも怪しいわん」

 それから、とつなげて、貂蝉は酒を嘗める。

 

「ご主人様が外史を回ったのは三度だけじゃないわ」

「一度目の孫家、二度目の劉備、三度目は外史の調整作業――これ以外にも?」

「ええ。一番目。最初の外史の経験。孫呉、蜀漢のまだその以前」

 

「曹操ちゃんと生きた外史」

 

「そもそもおかしなことなのよねん。二度も三度もご主人様が外史に呼び込まれるなんて。でも、初めに曹操ちゃんと生きた外史があったのなら納得が出来る。ああ、どうして――」

 

「今になって思い出したのかしら」

 

 貂蝉のセリフに、マスターが難しい顔をする。

 

「この私が、記憶の制限を受けていたなんてねん」

 

「――どういうことです」

「ご主人様と回った外史の調整作業、あの時の副作用でしょうねん。ご主人様の記憶制限に引っ張られたみたい。――ご主人様は『一番初めに外史に呼ばれた時』、曹操ちゃんと共にいたの。そして、曹操ちゃんはその時の記憶を取り戻しかけている」

 

 ――消えてはだめよ、一刀。

 

「病気にうなされながらのたわごとだけれど、軽視できないわねん」

「記憶を完全に取り戻してしまっては」

「とてもとても、つらいことになるわ。もっともこれは曹操ちゃんに限ったことじゃない。――記憶には重さがあるわん。そして現在の記憶と併存が許される他の外史の記憶はその中で最も重いもの。つまり、ご主人様がその子にとって最も近しい関係にあった時の記憶」

「つまり孫家の人間は一刀さんが孫家にいた時の、劉備陣営の人間は一刀さんが劉備陣営にいた時の、そして――」

「曹魏の面々は、ご主人様が魏の国にいた時の、記憶を思い出すでしょうねん。例えば、ご主人さまを落とし穴にはめようとした荀ケちゃん、ご主人様と一緒に街中を逃げ回った程cちゃん、そして、ご主人様が外史から消えるその瞬間を味わった曹操ちゃん。でも雁字搦めの制約を受けたご主人様の記憶は戻らないわん。何より、ご主人様はもうあの時のご主人さまじゃない。傷ついて、逃げて、喘いで、堕ちた――魔人、悪鬼。少なくとも、そういう道にもう足を踏み入れてしまった、そんな人。それでも彼は曹操ちゃんのために、風ちゃんのために、もちえる力のすべてを傾けるでしょうねん。つまり、曹魏による大陸統一へ向けて」

「歯がゆいものですね」

「そうねん。外史のなかで、ご主人様が、ご主人様を取り巻く子たちが、どんなに悶え苦しんでも、私にできることはもう何もない。ただこうしてお酒に逃げているばかりで」

 貂蝉はそう言って、再びグラスを干す。

「ご主人様が何度も何度も外史に呼ばれているのは、たぶん一番初めの曹魏の外史が原因。断ち切れないままの縁に引きずられていたのね。たぶん、曹操ちゃんと風ちゃんが原因じゃないかしらん。ジェラシーの深さでいえば曹魏で一、二を争うものねん」

「では――」

「ええ。まあ、ふたりとも無自覚でしょうけど。ご主人様を失くしたのがよっぽど堪えたのでしょうね。ご主人様を『外史』というものに繋ぎ止めた。『外史』という概念総体に、とでも言えばいいかしらねん。そして彼女たちの思いが晴れるまでは何度も何度もご主人様は外史を回るはめになった」

「一刀さんが曹魏へ戻るまで、ですか」

 貂蝉は神妙にうなづく。

「そうねん。つまり、ご主人様が幾度も外史へ呼ばれるのは、二人の乙女の独占欲のなした業ともいえるわん。――いいえ、それ以上に。……これは仮説だけれど、今回の外史の統一現象ももしかしたら――」

「曹操と程cの独占欲がもたらしたものだと?」

「それだけじゃないわん」

 貂蝉は苦々しい顔で言う。

「ご主人様の外史旅行の発端はおそらく曹操ちゃんと程cちゃん。最もその影響力は高いと言っていいわん。でも、考えてもごらんなさい。ご主人様は次の孫呉で――」

「孫権との間に子供を」

「孫権ちゃんだけじゃすまないけれどねん。ご主人様に対する独占欲の強さは、まあ立場も関係してか、孫権ちゃんが最大よ。そしておつぎは――」

「蜀漢――桃園の誓い、ですか」

「そうよん。嫉妬深い乙女の『数』で勝負すれば、劉備ちゃんのところが一番かもしれないわねん」

「では、つまり」

「そう。自分たちのところへご主人様を取り戻そうという曹操ちゃんと程cちゃんの思いに始まったご主人様の外史旅行。でもご主人様は曹魏へ戻るまでに孫呉、蜀漢を経由した。その時も、その陣営で深い絆を育んできたわん。だから――」

 

「今回の外史統一現象はご主人様が育んできた絆が引き起こしたものなのん」

 

「――」

 マスターは言葉を失う。

「今考えてみれば、ご主人様を外史の狭間のこの店に連れてきた時、『抵抗』や『摩擦』が少なすぎると思ったわん。当然よねん。ご主人はいずれまた外史という概念総体と繋がっているのだもの。もしかしたら、この貂蝉ちゃんですらも、運命という名の因果の流れに呑まれ始めているのかも」

「一刀さんを誘うべくして、ここへ誘ったということですか?」

「それは分からないわ。自分ではすべて思い出したと思っていても、まだ私が記憶制限から抜けきっていない可能性がないわけではないしねん。でも――向こうへ旅立つ前に、ご主人様の磨いた技を呼び覚ます機会が得られたのは本当に僥倖だったわ」

 マスタがー小さく眉根を寄せた。

「ひとつ、気になるのですが」

「何かしらん」

「一刀さんが初めに出会った曹操と、いま使えている曹操は別人なのでしょう。それでも、その、絆の影響力はそれほど強く働くものなのでしょうか」

「まるきり別人というわけではないわん。もしそうであったなら、記憶は流入しない。受け入れる器として『別人』は機能しないもの。ただ、まったく同一の存在でもない。別人以上本人未満の関係。けれども一度去った外史には戻れない。独占する方法は一つだけなの。『北郷一刀』が『曹魏』へ、『曹操』や『程c』のもとに帰ってくることなのよ。それが彼女たちにとっての独占。激烈で壮絶な、乙女の執念なのよ」

「……」

 さて、と貂蝉は席を立つ。

「もう行かれてしまうのですか?」

「だって――」

 

「このお店も、もう消えてしまうでしょう」

 

 儚げに貂蝉はほほ笑んだ。

「ここは外史の狭間のお店、外史統一現象が進めばこの店を成り立たせていた基礎が失われるわん。親ガメこければ子ガメもこけるってねん」

「――そうですね」

「いつになりそうかしらん」

「もう。そう長くはないでしょう。私も去る支度をしなくては」

「そう。マスターちゃんにはお世話になったわねん」

「いえ、私の方こそ。長らくのご愛顧、ありがとうございました。卑弥呼さんにもよろしくお伝えください」

「そうねん。言っておくわん」

 貂蝉はマスターに背を向ける。

「これから、どちらに?」

「見届けるわ。外史たちがどう統一されるのか。統一された外史はどんな姿になるのか。そこにはどんな人々が生きていて、どんなふうに笑っていて、泣いているのか。目をそらさずに見届ける、それがこの貂蝉ちゃんの務めねん」

「外史の記憶が戻らなければ、一刀さんはこれまで愛した相手に対しても、冷酷無比に戦いを挑むことになるのでしょう」

「一切の迷いなく、微塵の躊躇なく、やってのけるでしょうねん」

「つらい、お勤めになりますね」

「本当につらいのは、外史を、未来をしにものグルで作る人たち、実際に生きている人たち。私の苦労なんて、おならのようなものよん」

 最後におどけたように言うと、貂蝉はそのたくましい指先で、中空に印を切った。

「それじゃあ。さようならん、マスターちゃん」

 次の瞬間には、貂蝉の姿はその店から消え失せていた。

「いってらっしゃいませ」

 マスターはそういうと、カウンターに残った貂蝉のグラスを手に取り、片づけを始めた。

 

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現状の確認

 

朝廷内

霊帝崩御、劉弁即位、何進の宦官圧迫・幕僚への号令

董卓の劉弁保護、十常侍の暗躍

 

曹操

何進からの号令が到達、軍師虚の喪失、徐州から妹の曹徳を呼ぶ手筈を整える

 

袁紹

何進からの号令到達、宦官の一掃を目論む、董卓の無力に苛立つ、顔良・文醜による袁術への牽制

 

袁術

何進からの号令到達、宦官の一掃を目論む、董卓への嫌がらせを孫家に銘じる、孫家の姫を徐州へ幽閉

 

孫堅

袁術に人質を取られいいなり。尚、孫家の将は集結しており、決起の時を狙っている

 

劉備

徐州は陶謙のもとに身を寄せる、公孫讃と連絡を取る

 

陶謙

朝廷の段桂と密通の気配あり、劉備を迎え入れもてなす

 

公孫?

趙雲を迎え入れつつ幽州の統治、同門の劉備と連絡

 

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ありむらです。

 

いつもおせわになっています。

 

皆様のご愛顧のお蔭で、久々にHOT欄に落日が乗りまして、嬉しい気持ちでいっぱいです。

 

更新が長らく途絶えておりまして、もう読者の皆様に愛想をつかされてしまったかなあと思ってお下りました。

 

けれどもふたを開けて見れば、まだまだたくさん応援して下さる皆様がいて下さって、とてもありがたく思っています。

 

これからも更新を続けて行きたいと思っていますので、応援よろしくお願い致します。

 

ありむら

 

説明
独自解釈独自設定ありの真・恋姫†無双二次創作です。魏国の流れを基本に、天下三分ではなく統一を目指すお話にしたいと思います。文章を書くことに全くと云っていいほど慣れていない、ずぶの素人ですが、読んで下さった方に楽しんで行けるように頑張ります。
魏国でお話は進めていきますけれど、原作から離れることが多くなるやもしれません。すでにそうなりつつあるのですが。その辺りはご了承ください。
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コメント
いままでに回った外史の記憶も流入、どれほどの影響が出てくるのか気になります・・・(本郷 刃)
……外史の管理者が関わっている以上、貂蝉が思い出せないだけで更にその前もありそうな気がするんですが。全ての始まりである「あの」外史で深い関係にあった朱里が、早期に記憶を取り戻したのを考えると。(h995)
「本当につらいのは、外史を、未来をしにものグルで作る人たち」→死に物狂い?(牛乳魔人)
遅ればせながら…待ってましたよ、ありむら様! そして、物語の背景がだんだんと明るみに…! 次の更新、楽しみにしてます!(孔明)
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