STAYHEROES! 第十一話
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春。桜の花びらが綻び始めるいい季節なのに、

僕らは『予備戦闘体勢を取れ』との教官命令のおかげで、入学式に機装で臨む羽目になってしまった。

嫌でも目立つ僕らは、式終了後に握手を求めるヤジ馬に囲まれ、櫛江さんと由常とはぐれてしまう。

静まった頃、僕のとなりでややくたびれた鳴浜が言う。

 

 

「やっと入学した気分になったぜ」

 

 

二人に無線応答を飛ばしつつ僕は返事をした。

 

 

「今までは違ったのか?」

 

「ずっと学校に通いづめだったからなー」

 

「ま、それは僕も一緒だな」

 

「ガタユキはおっさんだから季節の感覚が麻痺してんだろ」

 

「……おー? えらそげなこと言うやないか」

 

 

睨むと、鳴浜は手のひらを合わせて困った顔で僕を見上げてきた。

 

 

「わわ! 怒っちゃった? ごめんねっ、お兄ちゃん」

 

 

残念ながらそのような媚びは僕に通用しない。

 

 

「ぎょーさん妹おるから、兄ちゃんよばわりされても嬉しくないが」

 

「うわっウザっ」

 

 

鳴浜が芝居を捨てて毒を吐いた時、櫛江さんと由常を校舎の玄関前で見つけた。

二人は木造校舎の前で多くの人ごみに囲まれて動けないでいた。

 

 

「大佐の娘さんだって? 今年の機装隊はマトモそうでよかった」

 

「あの、その期待に添えるよう頑張ります」

 

「母さんが櫛江さんちの忍者ちゃんにお世話になってるよ!」

 

「ええと、その、スカウトたちに伝えておきますね」

 

 

ミラケーティを着装した櫛江さんは、まごつきながらも生徒たちの声をさばいている。

ミラの装甲システムはまだ万全ではないが、どうしてもエレクトラは恥ずかしくて嫌だそうで。

で、由常はというと。

 

 

「ちっせーな」

 

「これでホントに戦えんの?」

 

 

健気に櫛江さんを群衆から庇いながらも、チビ扱いされ憤懣やるかたないまま震えていた。

僕は鳴浜にぼやく。

 

 

「櫛江さんはわかる。でもなんで吉岡が人気なんじゃ」

 

「二人ともちっこいからな。まー、ガタユキはモテるのあきらめな。あたしがいるじゃないか」

 

「……ああ、うん」

 

「本気にすんな。それになんだその微妙な反応は」

 

 

鳴浜から理不尽な肩パンを喰らう。

脱力していると、イヅラホシのセンサーが木造校舎からの異常な視線を感知し一瞬慌てる。

心配したサイボットの類ではなかった。

校舎の窓に振り向くとそこにいたのは、教育隊員とも一般学生とも違う制服を着た長い黒髪の女の子。

あの子はよく、僕らの訓練を真剣に眺めている子だ。

声を掛けようとすると、その女の子は猫のように引っ込んでしまった。

鳴浜が意地悪な声で聞いてくる。

 

「どうした。またハイテンションな女のお友達を見つけたのかよ」

 

「お前が言うか? それ」

 

 

 

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三章 デッドマン ブレイクス 

 

 

 

 

正直、町谷副官の誘いに乗る気は『まだ』なかった。

僕には、プラネットスターズの整備員兼パイロットという役目があり、

まだこの土地で学びたいこともたくさんある。

だが、もし、試合に負けてお役目御免となってしまえば。戦死してしまえば。

生来のヒーローならば悩む必要もなく強敵を倒し、他者を救うのだろう。

だが、僕はヒーローとして困難と戦う理由が欲しかった。

それでも、役職と功利を天秤にかけている自分を内心バカらしく思えた。

 

 

初めて迎えた休日、ガルダの試験飛行を遠州市郊外の空軍予備滑走路で行うことにした。

普段使われていないここには航空機も管制塔も無いので、

通信は教官から借りたジープに積んである電信機が頼みの綱だ。

そのジープには、小銃を抱いて爆睡する由常もあるがコレはどうでもいい。

滑走路の周囲の草原ではオキナグサに菖蒲、シロツメクサ、スイバの葉が遠州灘の運ぶ潮風で揺れる。

遠くには地雷原と化した廃墟と山々、後ろには星型稜堡要塞に守られた遠州市があり、スカイレースではこの遠州市上空を空中パイロンに沿って、ラリー形式で周回する。

遠くを観察していると、ガルダの回線が割り込んできた。準備が済んだらしい。

 

 

「最終点検、オールグリーンだ。go ahead?」

 

 

滑走路に立っているガルダは、ふだんと趣を異にしている。

ふくらはぎ裏と尾部の三つのランディングギアと、背中の主翼と尾翼が大きく展開し、飛行ブロックの見た目は何倍も大きくなっている。

無理がある仕組みだが、音速飛行に必要な電子機器は高高度の核パルスに耐えきれない。

そのため電子機器の代わりにパイロットの大脳機能と機装の疑似神経回路を代用するしか、音速を超える方法はなかった。

電信機で空軍基地とやり取りしていた櫛江さんが顔をあげた。

 

 

「風向、風速、計画航路に問題無し。今、この空は鳴浜さんのものです」

 

「いーねーさっちゃん、それ最高」

 

 

ガルダは返事をするように片翼をばたつかせてから櫛江さんに聞いた。

 

 

「エンジン始動許可ねがいまーす」

 

「こちらPS85、始動を許可」

 

「Roger!」

 

 

パルスジェットエンジンが唸り声を響かせ始め、可変ノズルは推力を背面平行方向へと振りむける。

最後にガルダが幾らか真剣な声で問うた。

 

 

「ガルダ11PS、離陸許可願います。隊長」

 

「こちらPS85、離陸を許可します。もし異常があったなら機装をパージしてパラシュートで脱出してください。どうか気をつけて」

 

 

「Wilco! Attack LOVE HEART!!!」

 

 

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ガルダが僕らへ敬礼を返して間もなく、スロットルを全開にしたエンジンが爆音を響かせる。

排気で草原の若芽が大きく波打ち、辺りに砂埃が舞うと転輪が回り始めた。

機体が加速する。

幅9メートルに渡る赤い翼が、エンジンの推力と引き替えに揚力を抱く。

尾翼の転輪が離陸するとガルダは極端な前かがみになり、地面すれすれを滑走してゆく。

そして、翼が空を仰ぐと、ガルダの身体がふわりと浮いた。

鋭い疾風を巻き上げながら、そのまま重力に打ち克った深紅の翼は青空を駆けあがってゆく。

……素晴らしい!

有翼機兵の離陸に見蕩れていると、櫛江さんが消え入りそうな声で聞いてきた。

 

 

「……見ました?」

 

 

僕は所見を答えた。

 

 

「ああ、しかと見届けた。ガルダの機動性と離発着性能は折り紙つきだ。有翼機兵の設計思想は興味深、ってあ痛痛痛なにすんねん!」

 

「紛らわしいこと言わないでっ!」

 

 

なぜか顔を赤くした櫛江さんが、僕に無口なタンクポッドを投げつけてきた。

 

 

 

空中のガルダは青空に、曲芸飛行で飛行機雲を描き始める。

宙返りに、急降下、背面飛び。

それほど速くはないようだが、機動性はかなりのものだ。

櫛江さんがヘッドセットでガルダに聞く。

 

 

「異常はないようですね」

 

『バッチリだ。ひさしぶりの空はやっぱいいな』

 

 

無線から上機嫌なパイロットの声が聞こえる。

大空を一人占めにできる贅沢。

どんな気分なのだろう。

大空のガルダが高高度飛行に挑むと、無線の接続が悪くなりはじめた。

 

 

『高度5000到達、ここからは核パルスの影響で……モールス通信以外は……ダウンさせ……』

 

「今日の空の機嫌は悪いようだな」

 

と、僕がいうと櫛江さんは笑いながら返す。

 

「見かけは笑顔なんですけどね」

 

 

空の星のように小さなガルダが、ナイフエッジと言う機動で頭上を飛び越えていったころ。

櫛江さんが僕を見上げて言った。

 

 

「この前の助言、ありがとうございました」

 

丁寧に頭を下げられまごついた。

 

「僕がそんな大層なこといったっけ?」

 

「いえ、そんなことないですよ。『人生の先任をたまには頼ってくれよ』って……とても嬉しかったです。今まであまりそう言ってもらったことないですから」

 

「えっと、そうかな。役に立ててうれしいというかなんというか」

 

 

そのまま、次の言葉が思い浮かばずお互い黙りあうと、寝ているはずの由常がわざとらしく咳をした。しばくぞお前。

話題を探るべく、僕は聞きそびれていたある質問を櫛江さんに振ってみた。

 

 

「櫛江さんはプラネットスターズの名前の由来について何か知ってるかい?」

 

 

すると、櫛江さんはいたずらっぽく笑いだした。

 

 

「鳴浜さんから言われたんでしょ」

 

「え、知ってるの?」

 

「だって私は鳴浜さんの同居人ですよ?」

 

「あー、それもそうだ」

 

 

僕の事も話題にしとんだろか。

ふむ。そういえば由常と僕はさほど会話を交わしてない……

 

 

「あの、すこし長くなりますが……いいですか?」

 

 

と、櫛江さんは聞いてきた。僕は頷く。

 

 

「昔、遠州市がまだ別の名前を持っていた頃のお話です。かつてこの地には宇宙飛行士の訓練校がありました」

 

櫛江さんは大空を見上げながら続ける。

 

 

「学校で青春時代を過ごした彼らは、太平洋に浮かぶ軌道エレベータから、隣人が待つ宇宙へと旅立ってゆくはずでした。『戦争』が起こるまでは」

 

 

戦争。

 

 

「戦争の話はよく聞かされた。僕の親父は戦争末期の潜水機兵だったから」

 

 

櫛江さんは小さく頷いた。

戦争とだけ呼ばれるそれは、これまでのちっぽけな争いとは比べ物にならないほどの人命を喰らった。

 

 

「あの『戦争』が撒き散らした災厄は、宇宙飛行士たちから故郷、夢、友人や家族、ありとあらゆるものを奪い去ってしまった。それでも彼らは、宇宙開発用の機装を戦場に持ち込み、最期に残された思い出の地を守るべく命を散らしていったのです」

 

「その宇宙飛行士たちが僕らの先輩だったのかい」

 

「ええ。彼らは叶えられなかった宇宙への夢を部隊名に残しました。それがプラネットスターズの由来です。彼らの平和と未来への思いを、私は無駄にしたくないのです」

 

 

櫛江さんは、制服の左腕の隊長腕章を抱きしめるようにおさえる。

そこに刻まれた異国語はプラネットスターズのキーワードだった。

意味はこうだ。

 

 

 

『ad astra per aspera ――困難を超えて、星の世界へ』

 

 

 

夜空に瞬く星へ恋い焦がれながら、不条理の暴君に殺されていった若人の運命を思うと胸が軋んだ。

 

 

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赤い翼を見つめながら思いふけっていると、ひとつ気付いた。

すると鳴浜も星の世界へ……

 

 

「宇宙か」

 

 

僕の独り言じみた言葉の後、櫛江さんが謎かけのような言葉を小さく呟いた。

 

 

「人間は運命から逃れられないのでしょうか。アキレウスやイカロスのように」

 

 

櫛江さんは、運命の啓示の通りに破滅した古代の英雄の名を口にした。

彼女は地球を破壊しつくした人類を、彼らと重ねて見ているのだろうか。

よく考えてから、僕は口を開いた。

 

 

「答えは分からないけれど、悪く考えすぎな気がするよ」

 

「考えすぎ、ですか?」

 

「もちろん考えることも必要さ。でももうひとつ言ったでしょ、気を楽にしようってね」

 

「それは……そうかもしれません」

 

「そうさ。櫛江さんより年上な僕の妹たちなんて、未だに僕の狩ってきた猪肉の取り分で喧嘩するんだから」

 

「……え、猪狩り出来るんですか安形さん」

 

「田舎じゃ普通だよ。パワードスーツで殴りあってなあ。牙捕まえたらこっちのもんやが。んで仕止めたコレのアレをこの山刀でナニしてな」

 

「普通なわきゃねーだろ原人め」

 

 

後ずさる櫛江さんの後ろから、起きあがった由常が僕に文句をつけてきた。

説明
久方ぶりの投稿となりましたSFライトノベル第十一話です。
どうもです
よく考えてみるとSTAYHEROES載せ始めてもうすぐ一年ですか…早すぎるよ

一話→http://www.tinami.com/view/441158

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