恋姫†無双・萌将伝〜妄想外史シリーズ〜 合わせて幸せ
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ここは許昌。曹魏の中心にして曹操様のお膝元。

その大通り、さらに今がお昼時ともなれば、もちろん人通りも多く、街は喧騒に包まれている。

馬車の音、鍋とお玉のぶつかる音、客引きの声に時には罵声…

その中でも警邏隊の出す音は、一際耳に入る。

楽進の号令は迅速に。

李典の号令は的確に。

于禁の号令は苛烈に。

そしてそれを束ねる少年の号令は穏和に。

都の平穏を守るため、必死に働く三人を、ひとりの少年がまとめている。

姓を北郷、名を一刀。

彼らの周りでは、絶えずいろいろな音がするのだ。

爆発音、武器の撃ちあう音、殴られるような鈍い音…

一見不吉な音ばかりが鳴り止まぬ彼の周囲は、しかし、絶えず笑い声に包まれている。

町の人は言う。うちの警邏隊を探すなら、町で一番賑やかなところにいけばいい、と。

笑い声が聞こえるところにいる、と。

あの人の周りは、いつだってうるさすぎるほどなんだ、と。

あの隊長には困ったものだと口では言うが、しかしみんな笑顔なのだ。

騒ぎの中心は大体彼らが絡んでいると、そうまで言う人もいるくらいだ。

そして、今日もその中心に彼らはいる。

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乾いた音が街に響く。

昼飯時も終わり、街が静かになり始めていたため、それは彼女の耳にもしっかり聞こえていた。

 

「ほんとにおめでとう!それじゃ、おつかれさま!」

 

仕事を昼にあがる兵士とそれを見送る自分の上司を、彼女は心なしかうらやましげに見つめていた。

 

「あの…いまのは?」

 

握りしめていた自分の手を開きながら、彼女は自然に疑問を口に出していた。

 

「あぁ、いまの奴な、いつも食べる定食屋の娘さんと付き合うことになったんだって。前から相談受けててさー。」

「いえ…そちらではなくて…」

 

私が聞きたかったのはそちらではなく…

開いた手をもう一度握りながら、彼女が彼に問いかけようとした。

だが、それは叶わない。

北郷隊お騒がせの一号と二号の合流によって、結局彼女はそれを口にできなかった。

 

「な〜んや、二人してこんなところでサボっとったんか?」

「も〜、凪ちゃんが怒るからちゃんと仕事してたのに二人でサボってたなんてひどいのー!」

「毎回毎回失礼だよなお前ら…いままで昼で休憩もいま終わったところだっての。」

 

困ったように笑いながら彼は答える。

しかし、水を得た魚のように、もしくは肴を得た酒飲みのように、二人の勢いは止まらなかった。

 

「またまた〜。ふたりとも沙和達がいないことをいいことにサボってたに決まってるの!」

「せやせや、隠しててもわかんねんで?うちらがおらんことをええことによろしくやってたんやろ?」

「きっとそうなの!ほら、凪ちゃんだって顔赤くなってるし〜…隊長ってば凪ちゃんばっかりかわいがっててずるいのー!」

「あら、ほんまや。なんや隊長ま〜たいやらしいことしてたんか…これはちょっと署に来てもらわんといけないんちゃう?」

「そーなのー!隊長には黙秘権と弁護士を呼ぶ権利が…えー…なんだったっけ?」

「あーもうそんなんどっちでもええやん!はよ詰所戻って話聞かな!」

「それもそうなの!被疑者確保ー!このままブタ箱までちょっこーなの!」

 

おまえら、一体どこでそんな言葉覚えたんだと、すこし困ったように笑いながら、彼は連れていかれてしまった。

残された彼女は、ひとり、握りこんだ拳を開いた。

暴風のような二人を前に、圧倒されてしまった。

さっきのあれは、一体なんだったのだろう。

羨ましがるのは浅ましいのだろうか。

だけどすこしだけ、ほんの少しだけ羨ましかった。

開いた手を見つめて、物思いにふける。

それも一瞬のこと。頭を切り替えて三人を追う。

騒がしいことは我が隊の良さであり、隊長の良さでもあるが、こうもうるさいと困ったものだと独りごち、彼が心配だと急いで後を追う。

彼女の手は、また握り締められていた。

 

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その騒動をきっかけに、彼の動きを注視していた彼女はあることに気がついた。

部隊員はもちろん、酒場の店員や定食屋の店長、迷子だった子供とも彼は仲が良い。

そして、大抵の場合は彼も、相手も笑顔で、それを行っていた。

そのことに気がついた頭によぎる。

自分はしてもらえないのだろうかという疑問。

いやしかし自分は普段もっとたくさんの物を貰っている…

いまさらもっと欲しがるのも図々しいことだ。

それにそんなつまらないことを気にして隊員たちに嫉妬するなんて…

しっかりしろ。

隊長の期待に応えられればきっといつかは…

気持ちを新たに仕事に臨もう。

小さな欲を気合で振り払い、彼女は仕事に向かうのだった。

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「え?凪の様子がおかしい?」

 

曹魏の種馬の名を縦にする彼だが、その実、女性の心の機微には極めて鈍感だった。

部下の二人は矢継ぎ早に彼を責める。

 

「せや!あの顔は隊長がなんかしたに決まっとる!」

「なにもしてないって。最近は真面目に仕事もしてるし…」

「そういうこといってるんじゃないの!凪ちゃん最近溜息ばっかりなの!」

「おかしいな…この前の昼番はそんなでもなかったのに。」

「それ隊長に気を使っとるだけやろ…はぁ…ほんま隊長は…」

「女心ってものが全然わかってないの!」

「隊長に気ぃ使っとるだけやん!ほんまダッメダメやな…」

「惚れたこっちが悲しくなってくるってもんなの…隊長の甲斐性なし!鈍感!種馬!」

 

そこまで言われて黙っているのは男としてどうなのかというところではあるが、彼は言い返せない。

首を捻り、唸っている彼に発破をかける。

 

「いつまで唸っとんねん!はよ行きって!」

「これ以上凪ちゃん悲しませたら承知しないの!隊長がいって凪ちゃん元気づけてくるの!」

 

部下に詰所からたたき出された彼には、苦笑いしかできなかった。

彼が言い返せなかった理由は、実は二つある。

ひとつは、彼女が変だということに薄々気がついていたから。

仕事に対してもその他のことに対しても、彼女は実直そのものだ。

そんな彼女が時折ぼんやりと右手を見つめて溜息をつく姿を彼は見ていた。

彼は彼女の様子がおかしいことを知っていた。

そしてもう一つはそんな彼女を元気づけることができなかったのは本当のことだったから。

様子が変だと思っていたとして、それを解決しなければ意味が無い。

甲斐性なしと言われても仕方ない。

事実なのだから。

だけど、あの二人にあそこまで言われて下がるのも男としていかがなものか。

原因が分からないにせよ何かしらの事はできるかもしれない。

彼はそういう思い切りはいい。

そうと決まればまず凪を探さなければ。

決心するかしないかのうちに、彼はもう駆け出していた。

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程なくして彼女は見つかった。

いつもと変わらない警邏のルート上に彼女はいた。

生真面目な彼女らしいと彼は思う。

誠実というよりは実直といったほうがいいのかもしれないな。

そんなふうに考えると自然と笑みがこぼれていた。

しかしなんと声をかけていいのやら…

幸い彼女はいま昼からの引継ぎの途中だ。まだ彼に気がついていない。

めんどくさい作業の途中だから邪魔するのも悪い。

俺にやましいことはない。ないはず。きっとない。ないんじゃないかな…自信がないな…

ただ彼女の性格上、もしも彼に問題があるのであれば、正面きって言うはずだ。

そうなると原因はわからないな。

どうせ原因はわからないならば、聞いてしまえばいいじゃない。

その軽さが彼の欠点であり、また良いところでもあるのだろう。

彼女に向かって手を振り、声をかける。

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小さな、乾いた音が街に響く。

それは彼女の手に確かな感触を残した。

 

「隊長、お疲れ様です。わざわざ迎えに来てくれたのですか?」

 

ただただ自然に昼のあいさつをすます彼女の顔は、心なしか満足気に見えた。

 

「あれ…凪、今のって…?」

 

予想外の衝撃に開いた手を握りながら、彼は彼女に問う

 

「えぇ、引継ぎも終わりましたし、いまから休憩です。」

「いや、そうじゃなくて…」

 

俺が聞きたかったのはそっちじゃなくて…

だが、彼は思い当たる。

彼女は手を見ながらぼーっとしてた。

そうか。そういうことだったか。

手を繋ぎ、唇を重ね、夜を共にしているのに思えば一度もやったことなかったのかな。

 

「え…?あ。もももも、申し訳ありませんでした!」

 

彼女は、自分のしたことに今気がついたのだろう。

自分の心に正直で、真っ直ぐなところが彼女のいいところだ。

あの二人が心配になるくらいだったのだから、相当な思いがそこにあったのだろう。

心よりも先に、体が動く。よくあることじゃないか。

しかし…そうか。悪いことをしたな。

彼は思う。

普通はこういうふれあいから始まるんだろうなと。

彼の置かれた立場は少々特殊であるがゆえに、順番がだいぶ前後してしまった。

これは二人に怒られても仕方ない。

彼女にこんなに恥ずかしい思いをさせてしまったなんて。

確かに俺は甲斐性なしだ。

顔を赤くし、頭を下げる。

彼女を元気づけなければ。

 

彼は、彼女に声をかける。

握った手を大きく開き、彼女に言う。

 

「ほら凪!手ぇだせ!」

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もう一度。

柏手の音が響いた。

町の人達は振り返るくらい、大きな音が鳴り響く。

 

「お疲れさん!休憩なら飯食にいこうぜ。いい店みつけたんだ!」

 

彼女にさせたであろう寂しい想いと、彼の感じた嬉しさと気恥ずかしさから、彼は彼女と肩を組む。

 

「ごめんな凪。寂しい思いをさせちゃったね。」

「…いえ、ありがとうございます。とても…嬉しいです。」

 

そしてもう一度、大きく響く柏手の音。

そこにはいつもの彼と彼女がいる。

笑い声の中心にいる、いつもの彼らの姿だった。

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ここは許昌。曹魏の中心にして曹操様のお膝元。

その大通り、さらに今がお昼時ともなれば、もちろん人通りも多く、街は喧騒に包まれている。

馬車の音、鍋とお玉のぶつかる音、客引きの声に時には罵声…

その中でも警邏隊の出す音は、一際耳に入る。

時に激を飛ばし、時に笑いあい、時に激しくぶつかり合う。

それでも彼らは笑っている。

互いの良い仕事を称え、疲れを分かち合い、高らかに響く柏手の音。

賑やかさを纏いながら、彼らは歩く。

街は華やかに歌いながら。

彼らは楽しげに奏でながら。

彼らは今日もその中心にいる。

説明
外史供養です。
真くらいの拠点のイメージでした。
これも某所で投下させてもらったものです。
よろしければぜひお楽しみください。

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コメント
>きまおさん コメントありがとうございます。凪ちゃん可愛いですよね!拠点シーンの妄想でも凪ちゃんの登場回数は結構多かったりします。あとたしかに「金!」は早いですよね!いのししもそれは考えましたがそう唱えた場合どのように願いが叶うのかってちょっと気になりますよね。(たくましいいのしし)
凪ワンコは真では一番のお気入りだったのでほっこりした話が読めて嬉しかったです。あとうp主の過去作品読んで思ったのですが、「星に願い」。「金!金!金!」なら一瞬でも言えるかも!(マテコラ(きまお)
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