本編(序章完結・前篇)
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悪魔騎兵伝(仮)

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第四話 嵐の後に告げるもの

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C1 憎悪

C2 英雄

C3 思惑

C4 三国間

C5 来客

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C1 憎悪

 

燃え盛る炎が大破したヴェイ・コマンダー級人型機構と周りの瓦礫を包み込む。アレス王国のロード・ヴェルクーク級人型機構のコックピットのハッチに膝を突き、正面を見つめるファウス。傍らにはヴェイロークとエガロ。

 

ヴェイローク『ファウス様!!』

 

ヴェイロークは顔をしかめると一歩前に出てファウスに平手打ちをする。

 

ヴェイローク『ファウス様!しっかりなさいませ!!』

 

ファウスは頬を抑えてゆっくりと顔を上げヴェイロークの方を見る。ファウスを睨むヴェイローク。

 

ヴェイローク『ファウス様!今回、エガロや私が間にあったからよかったものの、もし、間に合わなければどうなっていたことか!』

 

頷くファウス。

 

ヴェイローク『今後、身勝手な行動はお慎み下さい!あなたの御身はあなた様だけのものではありません!』

 

ヴェイロークはファウスを抱きしめる。

 

ファウス『…ヴェイローク。』

 

ファウスは俯く。

 

ファウス『ごめんなさい。』

 

騒音が鳴り響く。後ろを振り返るエガロとファウス、顔を上げるヴェイローク。ヴェイロークは立ち上がる。ヨネスの乗るシュヴィナ王国のジープを先頭に続くシュヴィナ王国のロード・ヴェルクーク級人型機構とシュヴィナ王国のヴェルクーク級人型機構群及びアレス王国の軍勢。逃げる野次馬達。シュヴィナ王国のジープが止まり、降り立つヨネスとシュヴィナ王国兵士A。

 

ヨネス『何だ・・・もう終わったのか?』

 

シュヴィナ王国のロード・ヴェルクーク級人型機構がファウス機の隣に止まる。ファウスはシュヴィナ王国のロード・ヴェルクーク級人型機構を見上げる。

 

シュヴィナ王国のロード・ヴェルクーク級人型機構のコックピットのハッチが開き、現れる馬に乗ったエグゼナーレ。エグゼナーレの眼には揺れる炎が映っている。エグゼナーレの方を向くファウス。腕を組むエガロと腰に手を当てるヴェイローク。エグゼナーレは手綱を引き、自機のコックピットに入る。

 

ファウス『エグゼナーレ様・・・?』

 

ハッチが閉じないまま動き出すエグゼナーレ機は抜刀し、大破したヴェイ・コマンダー級人型機構を切りつける。

 

エグゼナーレの声『おのれ!帝国軍め!お父様の仇!!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!』

 

エグゼナーレ機は大破したヴェイ・コマンダー級人型機構を切り刻む。

 

エグゼナーレの声『死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ねぇえええええええええええええええええええええ!!』

 

ファウスは眼を見開いて立ち上がり、エグゼナーレ機の方を見つめる。ファウスの方を見るエガロとヴェイローク。ヨネスは自軍の機体の残骸の方へ向かう。

 

ファウス『エグゼナーレ様!エグゼナーレ様!!』

 

大破したヴェイ・コマンダー級人型機構に向けて剣を振り上げるエグゼナーレ機の頭部がファウスの方を向く。

 

エグゼナーレの声『何だ!ファウス王子!!』

ファウス『お止めください!もう勝負は、勝負はついています。もうこれ以上は・・・。』

エグゼナーレの声『五月蝿い!貴様は帝国が憎くないのか!同じ身の上ではないか!!』

ファウス『ですが、こんなことをしても天国のお父様が嘆かれます!』

 

エグゼナーレ機の動きが止まり、騎乗したエグゼナーレがコックピットから出てきてファウスを睨みつける。

 

エグゼナーレの声『ファウス王子!貴様だって亡き父の仇を討つ為に先行した筈!それを!なにを!!!』

 

ファウスは首を左右に振りながら一歩下がる。エグゼナーレ機の頭部が大破したヴェイ・コマンダー級人型機構の方を向く。

 

ファウス『僕は…。』

 

ファウスは胸に手を当て一歩前に出る。エグゼナーレ機の頭部がファウスの方を向く。

 

ファウス『僕は。』

 

ファウスは大破したヴェイ・コマンダー級人型機構の方を向く。

 

ファウス『このパイロットの方が…おそらくお父様を討ち取った方…だと思って…。』

 

ファウスはエグゼナーレ機の方を向く。

 

ファウス『…お父様の最後を知りたかった。聞きたかった。それだけです。だから…死者を、死者をおとしめる様な非道なことはお止めください。』

 

機械音。エグゼナーレ機は大破したヴェイ・コマンダー級人型機構を踏みつけ、更に切り刻む。唖然とするファウスはヨネスの方を向く。自軍の機体の残骸の前に立つヨネス。

 

ファウス『ヨネス王子・・・。』

 

ヨネスは自軍の機体の残骸を蹴り、唾を吐く。

 

ヨネス『けっ、役立たずめが!大枚はたいてこの様か。クズ野朗!』

 

ヨネスは自軍の機体の残骸に何回も蹴りを入れる。ファウスは自機のコックピットのハッチに膝を突き、暫し呆然とした後、頭を抑え蹲る。

 

ファウス『もう止めて!!止めて下さい!!!!こんなこと・・・こんな酷いこと止めて!!止めて下さい!!』

 

鳴り響く斬撃の音。騒音。顔を上げるファウス。砂煙が巻き起こり、ジープに乗ったヴォルフガング・オーイー及び三大臣達が現れる。

 

モーヴェ『エグゼナーレ様!エグゼナーレ様!』

 

大破したヴェイ・コマンダー級人型機構を斬るつけるエグゼナーレ機。ジープが止まる。

 

ヴォルフガング・オーイー『エグゼナーレ様!ヒート王国を始めとする軍勢が来ております!各国の代表者よりこの行為を弁明しろとの通電が!』

 

エグゼナーレ機の頭部がヴォルフガング・オーイーと三大臣の方を見つめる。

 

エグゼナーレ『余は忙しい!後にしろ!!』

 

眉を顰めるヴォルフガング・オーイー。ジェルンがジープを降り、エグゼナーレ機の方へ一歩進む。

 

ジェルン『エグゼナーレ様。しかし、これを蔑ろにすることなんて・・・。』

 

ジェルンの横にエグゼナーレ機の剣が振り下ろされる。音が鳴り響き、ジェルンの横の地面にささるエグゼナーレ機の剣。ジェルンは青ざめてその場に尻餅をつく。

 

ジェルン『ひぃっ!』

 

エグゼナーレはコックピットのハッチから騎乗して現れ、ジェルンを睨みつける。

 

エグゼナーレ『やかましい!今、それどころではない!この状況が分からんのか!!邪魔してみろ、今度は切り捨てる!』』

 

エグゼナーレは再びコックピットの中に入る。動き出すエグゼナーレ機。パンデモが立ち上がり、跳躍してエグゼナーレ機に乗り込む。剣を振り上げるエグゼナーレ機。

 

パンデモ『お止めください!』

エグゼナーレ『ええい!邪魔をするな!』

パンデモ『あなたは王子であってまだ国王ではございません!それに貴族連合の盟主ではないのですよ!亡き父君の意思を継ぎ、国政を担う責務があるでしょう!』

エグゼナーレ『でも、うっ、でも、こうでも・・・こうでもしないと・・・ううっ。』

 

エグゼナーレ機の振り上げられた剣が下ろされる。大破し、鉄屑と化したヴェイ・コマンダー級人型機構を見下ろすエグゼナーレ機。

 

カスト『ファウス様!』

 

駆けてくるデンザイン、カストの方を向くファウス。二人はファウス機の手前まで来て止まる。息を切らすデンザイン。

 

カスト『ファウス様!』

 

カストはファウスに向けて跪く。

 

カスト『よくぞ…ご無事で…ご無事で…。』

 

ゆっくりと顔を下げ、涙を流すカストを見つめるファウス。カストは立ち上がり、涙を拭く。デンザインが一歩前に出て、ヴェイロークとエガロの方を向く。

 

デンザイン『我が王子はロズマール帝国の兵を倒したのか!!?』

 

頷くヴェイロークとエガロ。

 

デンザイン『すばらしい事だ。あのヨネス王国ですら倒せなかったな。』

 

ファウスはデンザインを見つめる。カストは笑顔でファウスの方を向く。

 

カスト『あの憎き帝国兵を倒したんですよ!凄い事ではないですか!』

 

ファウスはカストを見つめる。眼を見開き、口を少し開くカストを眼に映し、2度頷くファウス。

 

カスト『・・・ファウス様??』

 

ヴェイロークが一歩前に出る。

 

ヴェイローク『ファウス様は先ほどの戦闘で疲れている。』

 

ファウスは肩を落とすエグゼナーレと溜息をつくヨネスを見た後、ヴェイロークを見る。

 

ヴェイローク『少しお休みに…。』

 

ファウスは眼を閉じて、頷き、眼を開く。ヴェイロークの腕を掴むファウス。ファウスの方を向くヴェイローク。

 

ファウス『・・・大丈夫。』

ヴェイローク『しかし、ファウス様。』

 

ファウスはヴェイロークを見つめる。

 

ファウス『心配しないで…僕は大丈夫だから。』

 

ファウスはヴェイロークに向けて微笑むと自機へ歩いて行く。

 

ヴェイローク『ファウス様!?』

 

手を伸ばすヴェイローク。ファウスはコックピットに入り込む。舌打ちをしてカストの方を向くヴェイローク。

 

ヴェイローク『カスト!デンザイン卿と共に我が機を頼む!』

カスト『はっ!』

 

頷くカストと自分の人差し指を顔に指すデンザイン。ヴェイロークはエガロと共にファウス機のコックピットの中へ入って行く。ファウス機に駆け寄るモーヴェ。

 

モーヴェ『ファウス王子!ファウス王子!!』

 

コックピットから出てくるファウス。モーヴェはファウスを見上げる。

 

モーヴェ『先程の激闘でお疲れなのは分かりますが。何とぞすぐにトーマ城玉座の間までお越しください!』

 

眉を顰めるヴェイローク。頷くファウス。

 

ファウス『…はい。』

 

ファウスはコックピットの中へ入って行く。

 

C1 憎悪 END

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C2 英雄

 

アレス王国ロード・ヴェルクーク級人型機構のコックピット内部。椅子の肘掛に両手を掛けて俯くファウス。腕組みをするエガロ。後方にはアレス王国の白いロード・ヴェルクーク級人型機構が見える。ファウスの方を見つめるヴェイローク。後ろからはアレス王国パラディン・ヴェルクーク人型機構が続く。家々より現れる群衆達。歓声が巻き起こる。ファウスは瞬きして、周りを見回す。

 

ファウス『これは…。』

 

ヴェイロークがファウスの方を向く。

 

ヴェイローク『民衆がロズマール帝国の兵を破ったファウス様の事を讃えているのです。』

 

ファウスはヴェイロークの方を見る。

 

ファウス『讃えられるなんて、そんな、僕は何もできなかった…。皆に迷惑をかけてばかりで。』

 

ファウスはエガロの方を向く。

 

ファウス『讃えられるのはエガロの方だよ。』

 

エガロが一歩前に出る。

 

エガロ『まあまあ、ファウス様。こう言う時はコックピットから出て聴衆に向かって笑顔で手を振るもんですよ。』

 

ファウスはひじ掛けを握りしめる。

 

ファウス『そんなことできないよ。人が死んでいて!そんな残酷な事!』

 

エガロは腕組みをして横を向き、ファウスを見下ろす。

 

エガロ『じゃあ、なんですかい。実際に奴を殺した俺は残酷な下衆野郎ということですか。』

 

唖然とするファウス。

 

ファウス『そ、そんな…。』

 

ファウスは首を横に振り、エガロの方を向く。

 

ファウス『そんな意味で…。』

 

ヴェイロークが一歩前に出る。

 

ヴェイローク『エガロ!』

 

見つめ合うヴェイロークとエガロ。エガロは頭を掻き、ヴェイロークに一礼する。

 

エガロ『これはこれは失礼いたしました。』

 

ヴェイロークは眉を顰め、溜息をついてファウスを見る。

 

ヴェイローク『ファウス様。』

 

ヴェイロークは周りを見た後、再びファウスを見る。

 

ヴェイローク『歓喜湧き立つ民衆を見てください。反乱、戦争で疲弊した民衆を元気づけ、我がアレス王国軍を鼓舞するのもファウス様のお役目だと思いますが。』

 

ファウスは俯く。

 

ファウス『…それでも、できない。だって、あの人が持つ大切な家族や仲間がいたと思うと…。僕にはできない!そのかけがえのない物を奪っておいて、それでいて笑えるだなんて!こんなのおかしいよ!』

 

眉を顰めるヴェイローク。エガロが一歩前に出る。

 

エガロ『どうもファウス様は人前に出たくはないらしい。それならこいつに手を振らせればいい。』

 

ファウス機が民衆に向かって手を振る。大歓声が起こり、花吹雪が飛ぶ。

 

ヴェイローク『ファウス様。敵の家族や仲間まで思いを馳せることはありません。戦場では彼らは記号なのです。』

ファウス『ヴェイローク!何を言ってるの!!あれは人だよ…。』

 

ヴェイロークがファウスに背を向ける。

 

ヴェイローク『ファウス様。いいですか。あなたのその感傷と哀愁が戦場では自身の命を奪うのです!胸に手を当てて先程の戦闘を思い出してみてください!!』

 

胸に手を当てるファウス。ヴェイロークは溜息をつく。

 

ヴェイローク『もう少ししっかりして頂かないと…。』

 

ヴェイロークの背中を、眼を潤ませながら見つめるファウス。アレス王国機動城塞ヴェルクシュイヴァンが現れる。

 

静寂。

 

ヴェルクシュイヴァンの格納庫のハッチが開かれる。ファウス機と白いロード・ヴェルクーク級人型機構はヴェルクシュイヴァンの格納庫の中へと入って行く。

 

ヴェルクシュイヴァン格納庫に並ぶファウス機と白いロード・ヴェルクーク級人型機構のコックピットのハッチが開き、現れるヴェイローク、エガロ、デンザインにカスト。集うアレス王国兵士達。ファンデラドンが一歩前に出て一礼する。顔を上げ、眉を顰めるファンデラドン。

 

ファンデラドン『…ファウス様は?』

 

ヴェイロークがファウス機のコックピットの方を向く。コックピットの黒い闇の中から照明に次第に照らされて現れるファウス。ファンデラドンが微笑む。

 

ファンデラドン『ファウス様!御帰還!!』

 

拍車喝采。大歓声。

 

カリュフラ『帝国の兵を見事討ち果たした素晴らしい栄誉!』

グークラーク『他国に対しても胸を張れる成果!』

ダンダスダン『我々も王子の部下として鼻高々ですな!』

シャロン『流石、我が国の王子。真の英雄でございます。』

 

ファウスは笑顔のシャロンの方を向いた後、正面を向き、俯く。デンザインはファンデラドンの方を向く。

 

デンザイン『留守中何か変わった動きは?』

ファンデラドン『はっ。グラルタ湾にてシーン皇国、ワンデイ王国、ヂョルガロン王国にエグゼニ連邦が入港…。』

デンザイン『ヂョルガロン!?』

 

ヴェイロークがデンザインの傍らに寄る。

 

ヴェイローク『これは珍しい所が来ましたね。』

デンザイン『モングの総督府を追い払ったとは聞いていたが。他は?』

 

ファンデラドンはデンザインに一礼する。

 

ファンデラドン『はっ。ヒート王国、ガイデン王国にノーダ王国がトーマ城に入城。カン大陸帝国及び千年大陸連邦、フォレスト王国、フッシ王国、ロメンにシェプスト、アヴェロン大陸の騎士達を初めとする軍勢が集結中と。』

 

デンザインは顎に手を当てて2、3回頷く。

 

デンザイン『二つの大国に武闘派国家のフォレストにフッシか。これは心強い。』

 

デンザインは顎に手を当てて人差し指で輪郭をなぞる。ファウスがデンザインを見つめる。

 

ファウス『とにかく、トーマ城に行かないと。』

 

頷く一同。ファウスの傍らに寄るファンデラドン。

 

ファンデラドン『しかし、お休みもなされずにトーマ城へ行くとは…。』

 

ファウスはファンデラドンを見つめる。

 

ファウス『…大丈夫。』

 

ヴェルクシュイヴァンから降り立つファウス、デンザインにヴェイローク。シュヴィナ王国の兵士達が遠巻きにファウスを眺める。

 

シュヴィナ王国兵士A『おい、見ろ。アレス王国の王子だ!』

シュヴィナ王国兵士B『凄えな。貴族連合が敵わなかったロズマールの人型機構を倒すなんて。』

 

ファウスは周りを見回す。ファウス達は城壁に登る。城壁の下に集う群衆達を見下ろすファウス。歓声が鳴り響く。ヴェイロークがファウスの肩に手を当てる。

 

ヴェイローク『ファウス様。ここは民衆に笑顔で手を振るべきです。民衆もそれを望んでおります。』

 

ファウスはヴェイロークの顔を見つめ、眉を顰めた後、民衆達に笑顔を向けて手を振る。大きくなる歓声。城壁から離れ、俯くファウス。

 

ファウス『こんなの間違ってるよ…。』

 

トーマ城玉座の間の門を開ける門衛達。

 

C2 英雄 END

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C3 思惑

 

トーマ城玉座の間の開いた扉から日の光に照らされるファウス達。並ぶヒート王国の王子バッカ・オーダ、ガイデン王国の王子で眼鏡をかけたパリィ・ホッタール、ノーダ王国の王子オクィにヨネス王国のヨナン・ヨネスに及びシーン皇国の海軍中佐クキに隊士隊の副長サゼン、コンドウ、ヒジカタ、ヤマナミ。フィフス・エレメンタスの女外交官ネイロ、ワンデイ王国のキッド・チャンスワカメ、ハイテクノロジーの車椅子に乗ったエグゼニ連邦の九老の一人ゲブセブ、そしてヂョルガロン王国シチミ城城主のツァグトラ。ファウスの方を向く一同。

 

バッカ『噂をしていたらお出ましか。たかだか一機の帝国機を倒したことで英雄気取り。』

 

ヨナンがファウスの傍らに駆け寄る。

 

ヨネス『ファウス王子があれに勝てたのは我々の犠牲のおかげ!』

 

ヨネスはファウスを睨みつける。ファウスは俯く。ヨナンはファウスの肩に手をかける。

 

ヨネス『なぁ、ファウス王子。』

ファウス『はい…。』

 

頷くファウス。バッカ達の方を見つめ、息を荒げるヨナン。眼鏡のブリッジに人差し指を当て、押すパリィ。

 

パリィ『盟主不在なのに周りの状況も確認せずに帝国軍と戦闘行為に及ぶとは真に英雄ですな。』

 

パリィの方を見つめるファウス。ヨナンが一歩前に出る。

 

ヨナン『それはどういう…。』

 

オクィはファウスとヨナンを見た後、正面を向き、眼を閉ざす。

 

オクィ『それはここにいる連中に聞けば分かるだろう。』

 

数歩進むヨナン。

 

ヨナン『オクィ王子、だからそれはどういう…。』

 

眼を開き、ヨナンを眼に写し、鼻で笑うオクィ。ヨナンは眉を顰めて一同の方を向く。

 

ヨナン『いったい何があったというのだ!?』

 

ヨナンから眼をそらすツァグトラ、キッド、ゲブセブ。

 

ヨナン『答えろ!!』

 

パリィが耳に手を当てる。

 

パリィ『あ〜あ〜。五月蝿い五月蝿い。』

 

ヨネスはパリィを睨みつける。パリィは周りを見回す。

 

パリィ『ま、知っていたとしてもここでは言えませぬよな。』

オクィ『言わずともすぐに分かることだ。』

 

バッカは両手を広げる。

 

バッカ『可哀想なおばかちゃん達。』

 

眼を見開くヨナンと首をかしげるファウス。垂れ幕がゆれ、靴音が鳴り響き、現れるエグゼナーレ。後ろには三大臣とヴォルフガング・オーイーが続く。玉座に座り、俯くエグゼナーレ、傍らに移動する三大臣のパンデモ、モーヴェ、ジェルンとヴォルフガング・オーイー。ヴォルフガング・オーイーが一歩前に出る。

 

ヴォルフガング・オーイー『大変お待たせいたしました。各国の派遣軍の方々には我が国に駐屯して頂き、感謝しております。』

 

一礼するアレス王国、ヨネス王国、シーン皇国、フィフス・エレメンタスにワンデイ王国、エグゼニ連邦及びヂョルガロン王国の一同。腕組みするオクィ、眼鏡のブリッジに人差し指を当て、少し上げるパリィ、エグゼナーレを見下すバッカ。

 

ヴォルフガング・オーイーが指を鳴らすと玉座の間の床が光り、各国の代表者が映る画面が現れる。一礼するヴォルフガング・オーイー。玉座の正面に映るオンディシアン法王領の画面に映るアレクサンドルがエグゼナーレを見下ろす。

 

アレクサンドル『エグゼナーレ王子、これはどういうことだ?』

 

エグゼナーレは顔を少し上げる。

 

アレクサンドル『貴族連合はゼウステス99世の仲介の下、ロズマール帝国と講和を結んだ筈だが。』

 

エグゼナーレは立ち上がる。

 

エグゼナーレ『そ、それは・・・そう、て、帝国軍が我々を攻撃したために!先に手を出したのはあいつらの方だ!・・・です!!』

 

アレクサンドルはエグゼナーレを見つめる。

 

アレクサンドル『その言葉に偽りは無いな。』

 

眉を顰めるエグゼナーレの額から一筋の汗が流れる。アレクサンドルは溜息をつき、自身の頭皮を人差し指で2、3回叩いて眉を顰める。

 

アレクサンドル『実はな。』

 

アレクサンドルはロズマリー・ロズマール王国の画面の方を見た後、エグゼナーレを向く。

 

アレクサンドル『ロズマリー・ロズマール王国より連絡があり先に攻撃したのは貴国の方だと。』

 

エグゼナーレは口を開いて一歩後ろに下がり、ロズマリー・ロズマール王国の画面を睨みつける。ざわめきが起こり、各国の画面に映る代表者達が一斉にロズマリー・ロズマール王国の画面の方を向く。腕組みをし、笑みを浮かべるバッカ。

 

ロズマリー・ロズマール王国の画面に映る首を左右にふるロズマリー・ロズマール王国女王ロズマリーとバイオレッタ・アレンビー。バイオレッタ・アレンビーが左右を見回した後、画面に近づく。エグゼナーレの方を見た後、アレクサンドルの映る画面の方を向くバイオレッタ・アレンビー。

 

バイオレッタ・アレンビー『そ、それは何かの間違いでは?わ、私達がそのようなことを…。まったく身に覚えのないことでございまして…。』

ウィンダムの声『ああ、俺だ俺だ。』

 

靴音が鳴り響き、ロズマリー・ロズマール王国の画面の右端から現れるロズマリー・ロズマール王国大将軍で元傭兵隊長であり、世界強武の一人立派な顎鬚を生やしたウィンダム。バイオレッタ・アレンビーの顔が青ざめる。

 

バイオレッタ・アレンビー『ウィ、ウィンダム将軍!』

 

ざわめきが巻き起こる。

 

ゼウステス99世『ウィンダム!』

 

セレノイア王国の画面に映るセレノイア国王で女キノコ人のマシュルマインド。

 

マシュルマインド『間違い無い、あの世界強武のウィンダム。』

 

シェプスト国の画面に映る国家代表で美人のオクレパメラ。

 

オクレパメラ『しかし、あんな男を将軍にするのはどうなのだ?』

 

エグゼニ連邦の画面に映るエグゼニ連邦の女代表で元グラビアアイドルのシンシティアン・ハリス。

 

シンシティアン・ハリス『彼に投資したバベール商事のロフロス会長は身投げしたのに。』

 

千年大陸連邦の画面に映る千年大陸連邦女王で、転生の術により少女の肉体を持つコルヴィデール・サンリバン。

 

コルヴィデール・サンリバン『ロズマール革命では裏切りを繰り返し、アラタナ大陸に渡ったと…。』

 

顔を見合わせ、ロズマリー・ロズマール王国の画面を見つめる一同。バイオレッタ・アレンビーはウィンダムに詰め寄る。

 

バイオレッタ・アレンビー『な、何を勝手な事を!』

 

ウィンダムは首を傾け、眼を細めてバイオレッタ・アレンビーを見つめる。バイオレッタ・アレンビーは身震いし、下を向く。ウィンダムは正面を向き、画面に近づき一礼する。

 

ウィンダム『これは…申し遅れました。私、この度ロズマリー・ロズマール王国の大将軍を務めさせて頂くウィンダムと申します。以後お見知りおきを。』

 

顔を上げるウィンダム。手には録音テープ。

 

シュヴィナ王国兵士Aの声『帝国軍の人型機構です!来ました。』

シュヴィナ王国兵士Bの声『通信です。』

ヴロイヴォローグの音声『こちらロズマール帝国からの使者ヴロイヴォローグ。貴国に…。』

シュヴィナ王国兵士Cの声『撃て!』

シュヴィナ王国兵士Dの声『…よ、よろしいので?』

シュヴィナ王国兵士Cの声『エグゼナーレ様の命だ。帝国兵は殺せと。国王陛下の仇であると!』

シュヴィナ王国兵士Dの声『はっ!』

 

砲撃音。

 

シュヴィナ王国兵士Dの声『だ、駄目です!当たりません!』

シュヴィナ王国兵士Cの声『あのでかい図体をして…連射砲に切り替えろ!』

シュヴィナ王国兵士Dの声『はっ!』

 

砲撃音。連射砲音。

 

シュヴィナ王国兵士Dの声『…き、効いておりません!』

シュヴィナ王国兵士Cの声『ちっ!全員、これよりあの人型機構に向かい突撃する!奴を決して生かして帰すな!』

 

ノイズの音。機械音。

暫く続く剣撃の音と砲撃音。息切れの音。

 

静寂。

 

機械音。

 

録音テープを止めるウィンダム。

 

ウィンダム『私の部下の傭兵団がね。シュヴィナの最寄りに行っておりまして。』

 

口を開閉し、眼を見開くエグゼナーレ。神聖マロン帝国の画面に映る皇帝クトリンキン。

 

クトリンキン『…ロズマール帝国と敵対する国からの情報ではな。』

ゼウステス99世『もはや言い逃れできまい。だいたい帝国が我々と争って何の得があると言うのだ?』

 

エグゼナーレの顔が青ざめる。アンセフィムがエグゼナーレを見、ウィンダムを見つめた後、バイオレッタ・アレンビーを見つめる。

 

アンセフィム『バイオレッタ殿。』

 

バイオレッタ・アレンビーはアンセフィムを睨みつける。

 

バイオレッタ・アレンビー『な、何か?』

アンセフィム『先程、ウィンダム殿を大将軍に抜擢したと。』

バイオレッタ・アレンビー『そ、それが?』

アンセフィム『それはガグンとリシューを差し置いてか。』

 

バイオレッタ・アレンビーは閉口する。アンセフィムはヴォルフガング・オーイーの方を向く。

 

アンセフィム『オーイー殿。貴殿はウィンダムがどの様な位置づけの人間か御存じの筈だが。そう、ロズマールの人間は誰でも知っている。バイオレッタも知らぬとは言わせぬぞ。』

 

そっぽを向くバイオレッタ・アレンビー。ヴォルフガング・オーイーはアンセフィムの方を向いた後、舌打ちしてウィンダムの方を向き、咳払いをする。

 

ヴォルフガング・オーイー『…この男はゼオン・ゼンゼノスの仇敵です。』

 

腕組みをして苦笑いを浮かべるウィンダム。ざわめきが巻き起こり、画面に映る各国代表者達はウィンダムの方を向く。グリーンアイス連邦の画面に映る代表でレッサーパンダ獣人のラス。

 

ラス『何だと!』

 

アレス王国の画面に映るアレス王国女王ヴィクトリア。

 

ヴィクトリア『そんな人間を大将軍にしたら…。』

 

ムノゥ王国の画面に映るムノゥ王国国王ズキ。

 

ズキ『攻められるぞ。大丈夫なのか?』

 

アヴァタール・レジェンタスの画面に映る国家代表で鉄仮面を付けたアドセルム・マッド博士。

 

アドセルム・マッド博士『なるほどな。攻められればゆうに大義名分を得られるという訳だ。後は貴族連合に泣きつけば事はなる。』

 

フォレスト王国の画面に映る腕組みをするフォレスト王国国王グッドウィル。

 

グッドウィル『まったく何と言う事を考えるのだ!』

 

フッシ王国の画面に映るフッシ王国国王フシ。

 

フシ『我々を巻き込もうとはろくでもない。』

 

アンセフィムは青ざめるバイオレッタ・アレンビーを見た後正面を向く。

 

アンセフィム『この様な立場の男が提供する情報など信用が置けませぬが。』

 

ロメン帝国の画面に映るロメン帝国皇帝タルキィサス。

 

タルキィサス『確かに。』

 

カン大陸帝国の画面に映り、寝ているカン大陸帝国美少年皇帝リューゼン。

 

リューゼン『…ラーメン。うまっ…じゅるり。』

 

側近のコウコウがリューゼンの口を手で押さえる。二人の正面に立つ側近のハクヒとヒムキョク。

バッカが一歩前に出る。

 

バッカ『いえいえ、十分に信用できますとも。』

 

画面に映る各国の代表者達がバッカの方を向く。ヴォルフガング・オーイーがバッカを見つめる。

 

ヴォルフガング・オーイー『それはどういう…。』

 

笑いだすバッカ。

 

バッカ『ウィンダム大将軍の録音テープの内容は我々も聞きました。』

 

眼を見開くエグゼナーレ。

 

エグゼナーレ『なぁ。』

 

バッカは周りを見回す。顔を見合わせるシュヴィナ城玉座の間に居る各国の一同。サゼンが一歩前に出る。

 

サゼン『誠に遺憾ながら…先程の録音内容、我々が聞いたものと一緒です。』

 

青ざめ、汗を噴き出すエグゼナーレ。

 

ツァグトラ『残念ながら…我々も会話内容を聞きました。』

ゲブセブ『ただ、真偽が確かめられなかったもので…。』

キッド『わ、我々も!』

 

エグゼナーレはシュヴィナ城玉座の間に居る各国の一同の方を睨みつける。

 

エグゼナーレ『嘘だ嘘だ!出鱈目だ!貴様ら!余に何の恨みがあって!!』

 

鼻で笑うパリィ。

 

パリィ『我が国は音声を残してある。ウィンダム大将軍のテープと検証すれば事実である事が判明する筈。』

 

エグゼナーレは後退りし、膕を座枠に当て、尻もちをついて座る。ざわめきが巻き起こる。俯き、体を震わせるエグゼナーレ。エグゼナーレを見下ろすアレクサンドル。

 

静寂。

 

アレクサンドル『…エグゼナーレ。』

 

ゆっくりと顔を上げるエグゼナーレ。

 

アレクサンドル『真偽を問う。この場で嘘をつけばそれこそ貴国の威信に傷がつく。』

 

喉を鳴らすエグゼナーレ。

 

アレクサンドル『本当の所はどうなのだ?』

 

エグゼナーレは立ち上がり、床に崩れ落ちる。

 

エグゼナーレ『…わ、私の…。』

 

エグゼナーレの床についた両手は震え、涙が赤絨毯に黒い染みを作りだす。

 

エグゼナーレ『私の命です。帝国の使者を襲わせたのは…私の命です!』

 

口に手を当てるジェルン。眼を見開くモーヴェ、パンデモ。眉を顰めるヴォルフガング・オーイー。暗黒大陸連邦の画面に映る暗黒大陸連邦大統領チョッチ・プシュー。

 

チョッチ・プシュー『だいたいロズマール帝国が我々を敵に回してなんもいいことないでしょ。』

 

ヒート王国の画面に映るヒート王国国王タルカ。

 

タルカ『この場にロズマール帝国を呼ばなかった事自体おかしいのだ。』

ゼウステス99世『公事と私事の区別もつかんのか!まるで子供だな!姑息にもロズマール帝国に罪をなすりつけ、その非を叫んで貴族連合の協力を仰ごうとしたか!』

 

オンディシアン教国の画面に映るオンディシアン教国国王クレメンス。

 

クレメンス『これでは一国の国王として先が思いやられるな。』

クトリンキン『まったくだ。我が国は貴国に対する栗の輸出を全面停止する。』

 

ジェルンが一歩前に出る。

 

ジェルン『そんな!』

 

泣き崩れるエグゼナーレ。アレクサンドルが周りを見回した後、エグゼナーレを見つめる。

 

アレクサンドル『…エグゼナーレよ。』

 

溜息をつくアレクサンドル。

 

アレクサンドル『次期盟主に任命する予定になっていたのだが…これではな。』

 

エグゼナーレは顔を上げる。

 

エグゼナーレ『そ、そんな…。』

クトリンキン『不愉快だ!』

ゼウステス99世『ほんとだな。後はアレス、ヨネスとロズマール帝国の今後について考えるんだな。あいにく我々はロズマール帝国とは講和中だ。』

 

青ざめるヴィクトリアとヨネス王国の画面に映る眉を顰めるヨネス王国国王ヨハン。暫し、沈黙。オンディシアン法王領の画面が拡大され、玉座の間の中央に移動する。溜息をつくアレクサンドル。

 

アレクサンドル『私も残念に思う。』

 

消えるアレクサンドルの画面。俯き、号泣するエグゼナーレ。アレクサンドルが周りを見回す。

 

アレクサンドル『今宵はもう遅い。各々方。明日、盟主を決め直すとしよう。』

 

頷く各国の画面に映る代表者達。次々と消えていく各国代表者達の画面。エグゼナーレは手を伸ばす。

 

エグゼナーレ『待って!待って下さい!!』

 

消えるアレクサンドルの画面。俯き、号泣するエグゼナーレ。

 

C3 思惑

-7ページ-

C4 三国間

 

トーマ城玉座の間。扉が閉まり、玉座の前に蹲るエグゼナーレ。その傍らには三大臣とヴォルフガング・オーイー。取り囲むヨナンとアレス王国の一同。アレス王国の画面、ヨネス王国の画面が残る。

 

パリィの声『よもや盟主として既にエグゼナーレが選ばれているとは思わなかったな。』

 

バッカの笑い声。

 

バッカの声『あんな女の腐ったような男に盟主等務まる筈なかろう。あんあん嘆くのが関の山だ!さて、盟主はだれになると思う?』

オクィの声『さあな、だがエグゼナーレの奴は反乱をきちんと収めているぞ。』

バッカの声『何だ?それは我が国に対する冒涜か?我が国では盟主に欠けるとでも?』

オクィの声『冒涜では無い。ただ、まだどう転ぶか分からんということだ。』

バッカの声『ふん、まあ新興の肉屋の国や東の島国。商人風情が運営する国など選ばれもせぬだろう。』

 

バッカの高笑い。靴音が鳴り響き、時と共に消えていく。ヨハンがヴィクトリアの方を向いた後、エグゼナーレの方を向き、口を開く。

 

ヨハン『エグゼナーレ王子、我々は今、とても不愉快だ。』

 

顔を上げるエグゼナーレ。

 

ヨハン『貴国は我々を騙したのだぞ。そして、ロズマール帝国と敵対してしまった。』

 

俯くエグゼナーレ。ヴィクトリアが画面に近づく。

 

ヴィクトリア『そうよ!そ、その通りですわ!我々をロズマール帝国との戦争に巻き込むなんて!酷すぎますわ!!責任をどう取るつもりで!!』

 

顔を下に向ける三大臣とヴォルフガング・オーイー。ヨハンがアレス王国の画面に掌を向ける。口を閉ざし、ヨハンの方を見つめるヴィクトリア。

 

ヨハン『幸い、我が国とアレス王国は帝国から離れている。また他国領を通過しなければ帝国は攻め入る事はできぬ。』

 

頷くヴィクトリアとヨネス。

 

ヨハン『だが、貴国はそうはいかぬ。』

 

拳を震わすエグゼナーレ。

 

ヨハン『シュヴィナ王国にロズマール帝国軍が攻めてきたとしても我々の駐屯軍は助太刀せぬ。貴国だけで対処せよ。』

 

眉を顰めるヴォルフガング・オーイー、顔を見合わせる三大臣達。エグゼナーレは立ち上がる。エグゼナーレを見つめる一同。暫し沈黙。エグゼナーレは俯く。

 

エグゼナーレ『…分かりました。』

 

喉を鳴らすモーヴェ。ヴィクトリアが腕を組む。

 

ヴィクトリア『ほんと迷惑な話ですわ。』

 

ヴィクトリアはファウスの方を見る。

 

ヴィクトリア『ファウス。』

 

ヴィクトリアを見上げるファウス。

 

ファウス『お継母様…。何でしょう?』

ヴィクトリア『今すぐ本国に戻りなさい。』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『えっ?』

 

ヨハンが眉を顰め、眼を細めてヴィクトリアの方を向く。ヴェイロークが一歩前に出る。

 

ヴェイローク『ヴィクトリア様!今宵はもう遅うございます!それに…。』

 

デンザインが一歩前に出る。

 

デンザイン『このままこの地に居ればどんな災いが降りかかるか分かりません。やはり早期撤兵を。』

 

ファウスは周りを見回す。

 

ファウス『で、でも…。』

ヴィクトリア『でももだってもありません。』

 

ファウスはエグゼナーレの方を向いた後、ヴィクトリアの方を向く。

 

ファウス『エグゼナーレ様は僕の為に特別な部屋をあつらえてくださいました。せめて…せめて1日だけ…。』

ヴィクトリア『黙りなさい!とっとと撤兵するの!』

 

眼を細めて顎をさするヨハン。ヨナンが一歩前に出る。

 

ヨネス『撤兵?講和も結んでいないのに、当事者が撤兵するのか?』

 

眼を見開くデンザイン。ヨハンがヨナンを一瞬睨みつける。ヴィクトリアの後ろからバクールドが現れる。

 

バクールド『ロズマール帝国と講和を結ぶまで撤兵はなりません。』

 

バクールドがヴィクトリアに耳打ちする。ヴィクトリアは眼を見開き、眉を顰めてヨハンを見つめた後、元の表情に戻って正面を向く。ヴィクトリアは頭に手を当て歯ぎしりする。

 

ヴィクトリア『ファウス!撤兵は取りやめです。お前はロズマール帝国と講和が結ばれるまでそこにいなさい。』

 

ヴィクトリアを見つめ、首をかしげるファウス。

 

ヴィクトリア『いいからそこに残るのです!』

ファウス『は、はい。』

 

ヴィクトリアは顔を上げ、笑顔でヨハンの方を向く。

 

ヴィクトリア『隣国同士お互い仲良くやって行きましょう。』

 

顎を手でさすり、眼を細めて笑みを浮かべるヨハン。

 

ヨハン『そうですなぁ。』

 

ヨハンがエグゼナーレの方を向く。

 

ヨハン『エグゼナーレ王子はどうする?明日、ロズマール帝国とのテーブルにつくか?それともこの不毛な争いを続けるか?』

 

顔を上げるエグゼナーレを見つめる三大臣とヴォルフガング・オーイー達。エグゼナーレは俯く。

 

エグゼナーレ『…我が国もロズマール帝国とのテーブルにつきます。』

ヨハン『賢明な判断だな。』

 

胸を撫で下ろす三大臣達。

 

ヨハン『それではまとまった所でお開きとしよう。明日、帝国との交渉を始める。』

 

頷く一同。消えるヨネス王国の画面とアレス王国の画面。エグゼナーレはアレス王国とヨネス王国の方を向き、頭を下げる。

 

エグゼナーレ『…すまない。』

 

眉を顰めるヨナン。

 

ヨナン『まったくだ。お前のせいで俺達は…。』

 

ファウスがエグゼナーレの傍らに寄る。ファウスを見つめるエグゼナーレ。

 

ファウス『エグゼナーレ様。仕方の無い事です。だって…大切な人を失くしたから。』

 

ヨネスは口をつぐむ。エグゼナーレの眼に映る、俯いて眼を潤ませるファウス。

 

エグゼナーレ『…ファウス王子。』

 

ファウスを抱きしめるエグゼナーレ。

 

エグゼナーレ『ありがとう…。』

 

エグゼナーレは涙を流す。

 

C4 三国間

-8ページ-

C5 来客

 

トーマ城アレス王国控室。窓枠に切り取られた仄暗い淡い光が室内をおぼろげに照らす。前掛けに包まり寝ているカスト。ベットの上で毛布を抱き、吐息を立てるファウス。窓枠に切り取られた仄暗い光が室内をおぼろげに照らす。シーツの上、乱れたファウスの銀髪が淡い光沢を放つ。ファウスの傍らに座るヴェイロークがファウスの頭を撫でる。

 

窓を叩く音。

 

ヴェイロークは立ち上がり、窓の方を向く。窓の外にはエガロ。ヴェイロークは窓を開ける。ヴェイロークは周りを見回した後、エガロの方を向く。

 

ヴェイローク『…エガロ。何の用だ?まだ、早朝だというのに?』

 

伸びをするカスト。エガロは頭を掻きながらグラルタ湾の方を指さす。

 

エガロ『いや、こんな時間になんとマルケルディア国の潜水艦が来たもんでね。』

 

ヴェイロークは窓から上体を出す。

 

ヴェイローク『確かにあの旗印はマルケルディア都市国家のもの。しかし、だからと言って…。』

 

エガロはヴェイロークの顔を覗き込む。瞼を擦るカスト。

 

エガロ『マルケルディアだけじゃありませんぜ。ユグドラシル大陸のかつての支配者、深淵のクルマビも。』

 

ヴェイロークは元の姿勢に戻り、窓枠に肘をかける。

 

ヴェイローク『ほう。』

エガロ『それにオンディシアン法王直轄15神将…奇跡の癒し手灰色のジャンヌも御入場。』

 

ヴェイロークは眼を見開く。

 

ヴェイローク『何!それは真か!?』

 

眼を開くファウス。頷くエガロ。ヴェイロークは瞳を上に向けた後、再び元に戻し、エガロに背を向け控室の扉へと向かう。ヴェイロークの方を向くカスト。

 

カスト『ヴェイローク様?どちらへ?』

 

ヴェイロークはカストの方を向く。

 

ヴェイローク『所用だ。すぐに戻る。』

 

ヴェイロークは扉を開けて出て行く。欠伸をするカスト。ファウスが上体を起こす。

 

ファウス『…何があったの?』

 

カストがファウスの方を向く。

 

カスト『ファウス様…お目覚めで?』

 

口に手を当て、欠伸をするカスト。

 

カスト『まだ、早ようございますよう。』

 

カストは前掛けをかけてソファに寝転がる。控室に入るエガロ。

 

エガロ『マルケルディアの潜水艦が来たんですよ。』

 

眼を見開き、エガロを見つめるファウス。

 

ファウス『マルケルディア?』

 

頷き、ウィンクするエガロ。

 

エガロ『見に行ってみますか?』

 

ファウスはシーツを掴み、カストの方を向く。エガロがファウスの傍らに寄る。

 

エガロ『ま、無理にとは言いませんがね。』

 

ファウスはエガロの方を向く。

 

ファウス『…僕、見てみたい。』

 

頷くエガロ。ベットから降り、カストの傍らによるファウス。吐息を立てるカスト。

 

ファウス『ちょっとエガロと行ってくるね。カスト。』

 

寝がえりをうつカスト。

 

カスト『は〜い。分かりましたぁ。むにゃむにゃ。』

 

扉から出ていくエガロとファウス。飛び起きるカスト。

 

カスト『えっ!』

 

トーーマ城城壁の手摺に歩いて行くファウスとエガロ。カストが後ろから駆けてくる。

 

カスト『ファウスさま〜!』

 

ファウスとエガロがカストの方を向く。カストはファウスとエガロの前で止まり、両手を膝に置いて息を切らす。カストを見つめるファウス。顔を上げるカスト。

 

カスト『ファウス様。酷いですよ。置いて行くなんて。』

 

苦笑いするファウス。

 

ファウス『ごめん。あんまり気持ちよさそうに寝ていたものだから。』

 

カストは一息つく。

 

カスト『もう、ファウス様。』

 

笑いだし、手摺に向かう一同。一同は手摺からグラルタ湾を覗きこむ。他国の船舶が停泊する中、湾に浮かぶナイトメア帝国とマルケルディアの国旗と弦の折れたハープを旗印とした自由戦士隊の旗がたなびくマルケルディア国のシンジャイアン級巨大潜水艦。

 

ファウス『あれがマルケルディアの…。』

 

ファウスはシンジャイアン級巨大潜水艦の一番上の旗を指さす。

 

ファウス『あの旗がマルケルディアの国旗?』

 

エガロは手摺に腕をかけ、首を横に振る。

 

エガロ『いや、あれはナイトメア帝国の旗、その下がマルケルディアのもんですよ。』

 

ファウスはエガロの方を向いた後、シンジャイアン級巨大潜水艦の方を向く。

 

ファウス『じゃあ、一番下の旗は?楽隊?でも弦の折れたハープなんて…。』

 

エガロは上体を前に出す。エガロの方を見上げるファウスとカスト。

 

エガロ『…いや、あれはマルケルディア国の自由戦士隊の旗印でさあ。自由戦士隊が乗船しているってことですよ。』

ファウス『自由戦士隊?』

エガロ『前進が国家に雇われた傭兵部隊で、その隊出身の吟遊詩人くずれが宰相まで登りつめたって話がありまして。』

 

ファウスはエガロを見上げる。

 

ファウス『だからハープなの。でも、弦が折れているなんて変。』

エガロ『そいつが、ユグドラシルのあのバトゥとの戦いで、勝利の中死んだからだと。』

 

眼を見開くファウス。エガロは背を向け、手摺に背中をもたれさせる。

 

エガロ『それを象徴してあの旗印にしたんだってことですよ。』

 

エガロは両手を広げる。

 

エガロ『ま、俺も詳しくは知りませんがねぇ。』

 

ファウスはシンジャイアン級巨大潜水艦の方を向き、一歩前に出て胸に手を当てる。

 

ファウス『何だか…寂しいね。』

 

下を向くファウス。朝日が、橙色にグラルタ湾を染める。シンジャイアン級巨大潜水艦の旗がたなびく。エガロはファウスの方を見た後、トーマ城の一段上の城壁の方を向く。

 

エガロ『…シーン皇国の奴らが居るな。』

 

振り返るファウスとカスト。トーマ城の一段上の城壁からシンジャイアン級巨大潜水艦を見つめるシーン皇国の一同。

 

シンジャイアン級巨大潜水艦を睨みつけるヒジカタ。サゼンがヒジカタの方を向き、口を動かす。コンドウがヒジカタの肩を叩く。ヒジカタは舌打ちする。去って行くシーン皇国の一同。

 

ファウス達は顔を見合わせた後、グラルタ湾の方を向く。グラルタ湾の港湾部に高級自動車が止まり、降りるマルケルディア国の宰相プトレマイオスとその孫娘プトレリュティス、ナイトメア帝国の夢将でかつてのユグドラシル大陸の支配者で魔王のクルマビ、オンディシアン法王直轄15神将の15神将を務める奇跡の癒し手灰色のジャンヌ。続いて三大臣とヴォルフガング・オーイーが降りる。

 

シンジャイアン級潜水艦に乗り込むプトレマイオス、プトレリュティスにクルマビ。三大臣とヴォルフガング・オーイーはジャンヌに向かい一礼する。ジャンヌも一礼し、シンジャイアン級潜水艦に乗り込む。ハッチが閉まり、潜行していくシンジャイアン級巨大潜水艦。

 

ファウス『行ってしまったね。』

 

頷くエガロ。カストが上体を前に出す。グラルタ湾の水平線上に現れる“超”の巨大文字が書かれた旗がたなびくカン大陸帝国の巨大空母テンエン。

 

カスト『あれは?』

 

巨大空母テンエンの方を指さすカスト。ファウスとエガロはカストの指さす方を見る。

 

ファウス『…あの旗、なんて書いてあるんだろう。漢字ってものかな。』

エガロ『どおれ。』

 

エガロが上体を前に出す。

 

エガロ『…あれはチョウだな。カン大陸帝国であの漢字の超なんていえば…えらい奴が来たぞ。』

 

ファウスとカストはエガロの方を向く。エガロは顎に手を当て巨大空母テンエンを見つめる。エガロは眼を見開いてファウスとカストの方を向く

 

エガロ『あ、ああ。たぶん、カン大陸帝国の常勝将軍チョウカツだろう。』

 

頷くファウスとエガロ。グラルタ湾の海面が黒く染まり、水飛沫と共に現れるアヴァタール・レジェンタスの勇者ロボが現れる。ファウス、エガロ、カストに水飛沫がかかる。

 

ファウス『きゃっ!』

 

カストが身を震わして、水を飛ばす。

 

カスト『こんなところまで。』

 

ファウスに駆け寄るカスト。

 

カスト『ファウス様。大丈夫ですか。』

 

ファウスは頷き、水が滴り落ち、金属光沢が朝日に輝く勇者ロボを見つめる。

 

エガロ『…アヴァタール・レジェンタスの勇者ロボか。なんとまあ、あんな所までこの地に来るとは…。』

 

蹄鉄の音が鳴る。左の方を向くファウス達。城壁を飛び越えてフウヌイムの兄のカズーラ・メンフィス・サルバトレに騎乗して現れる北方九洲国の指導者で馬頭人のバズーラ・メンフィス・サルバトレ。手綱を引くバズーラの方を見つめるファウス達。バズーラはカズーラから降りる。

 

バズーラ『着きましたぞ。兄上。シュヴィナの都、トーマ城です!』

 

眉を顰めるファウス達。カズーラはアレス王国の一同の方を見る。

 

カズーラ『弟よ。やはり…不審者がられているぞ。ちゃんと城門から入らねば不法侵入ではないか?』

 

カズーラは一歩前に出る。

 

カズーラ『アレス王国の方々。申し訳ない。弟がロズマール帝国の人型機構を倒したファウス王子に是非あいさつしたいと。』

 

ファウスはカズーラの方を向く。

 

ファウス『えっ、あっ…はい。』

 

カズーラはバズーラの方を向く。バズーラは頭に生える鬣を撫でながら笑みを浮かべ、目を細めてファウスを見る。

 

カズーラ『後にすればよいものをわざわざ城壁を駆け登る必要もあるまい。』

バズーラ『いや、あなたがアレス王国のファウス王子。…想像していたより美男子ですな。』

 

ファウスは顔を赤らめ、下を向く。

 

バズーラ『城下で噂は聞きましたよ。』

 

腕を組みバズーラを見つめるエガロ。バズーラは鬣を撫でる。

 

バズーラ『おっと、失礼。自己紹介が遅れました。私、北方九洲国の国家代表バズーラ・メンフィス・サルバトレ、こちらは…。』

 

カズーラは一歩前に出る。

 

カズーラ『バズーラの兄のカズーラ・メンフィス・サルバトレであります。』

ファウス『北方九洲…。』

 

バズーラがファウスに手を差し伸べる。

 

バズーラ『今後ともお見知りおきを。』

 

ファウスはバズーラの手を見て、バズーラと握手する。バズーラは一礼して、カズーラの背に飛び乗る。

 

バズーラ『では、また後ほど!』

 

城壁をカズーラに乗って駆けおりていくバズーラ。アレス王国の一同は手摺に近づき、下を見る。城門に駆け寄るカズーラに騎乗するバズーラ。城門が開き、砂煙が巻き起こる。シュヴィナ王国の騎兵達が隊列を作り城下町の方へ駆けていく。立ち止まるバズーラとカズーラ。

 

シュヴィナ王国兵士C『急げ急げ!』

シュヴィナ王国兵士D『ちっ、住民の誘導なんてよ!』

 

シュヴィナ王国の騎兵隊達の方を向くファウス。汽笛が鳴る。グラルタ湾に現れるアクマドを旗艦とするシュヴィナ王国艦隊の方を向くファウス達。

 

ファウス『…いったい、何が?』

 

靴音が鳴り、ヴェイロークが現れる。後ろを振り返るファウス達。

 

ヴェイローク『こんな所におられましたか。』

ファウス『ヴェイローク…。』

 

エガロはヴェイロークに近づく。

 

エガロ『いや、すみません。俺がマルケルディアの潜水艦を見に行こうと誘ったので…。』

 

ヴェイロークは頷く。

 

ヴェイローク『いえ、それは一向に構わないのですが…。』

 

ファウスの前に立つヴェイローク。

 

ヴェイローク『シュヴィナ領海内にロズマール帝国の戦艦が出現したと。至急…玉座の間に集まって欲しいと…。』

バズーラの声『こちら北方九洲のバズーラ・メンフィス・サルバトレ!シュヴィナとの国交を良好にする為、開門を願うーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!』

 

耳を塞ぐファウス達。高級車から降り立つカン大陸帝国の大将軍で白髪に立派な白髭のチョウカツと参謀のニーソウ、アヴァタール・レジェンタスのプリン姫と護衛官で勇者ロボのパイロットのアイ=アザト。

 

チョウカツ『あー、五月蠅くてかなわんわ。心配せずとも開くぞい。』

 

軋む音が鳴り響き、城門が開く。グラルタ湾を去って行くアクマドを旗艦とするシュヴィナ王国艦隊。

 

C5 来客 END

-9ページ-

後編へ続く。

説明
・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
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R-18グロテスク 悪魔騎兵伝(仮) 

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