購買戦隊カウンジャー
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 郊外の古いビルの一角に、その組織のアジトはあった。部屋の中には黒ずくめ、目だけを出した覆面姿の怪しげな者たちが円卓を囲んでいる。どうやら、何かしらの活動の報告や作戦会議を行っているといった風である。

 

「では、団員No.052より活動報告を」

 

 名指しされたやや小柄な団員が立ち上がる。

 

「先月からの継続ですが、夜のうちに煮出しで麦茶を作っておき、朝水筒に入れて仕事に出ています」

 

「ふむ、ペットボトルのお茶などを買わずに済むわけだな」

 

「地味ながら確実に成果を上げているようですね。ご苦労様です」

 

 小さな拍手を受け、一礼して彼は座席に座る。

 書記役の団員が報告書作成のためにメモをとっている。当然そのメモ用紙も裏紙を裁断して綴じたものである。

 続けて、背の高い男がややインテリ風の口調で作戦計画を説明する。

 

「次の作戦案件ですが、幼稚園の通園バスをジャックし、園児たちに『せつやく教室』を実施しようと考えます。いかがでしょうか」

 

「おお、素晴らしい!若いうちからの教育ほど効果があるからな!」

 

 彼の案は実施の方向で話が進み、具体的な作戦が立てられていく。

 

 

「さて、皆さん」

 

 部屋の最奥の席に座っている男―彼の覆面だけ、やや豪華である―が発声した瞬間、その場の全員が畏まって彼に注目する。

 

「節約を旨とする我らが『清貧団』も、徐々に団員を増やし、その活動も世間に認められつつあります」

 

 どうやら彼がこの集団のボスのようである。彼の周辺にいるのは初期の頃から彼を支えてきた幹部クラスなのであろうか。その言葉に感慨深げに頷く様子がみられる。

 

「この使い捨て、消費社会に警鐘を鳴らし、営利一辺倒の企業体制を打ち砕くその日まで!」

 

 立ち上がり、拳を固めるボス。団員達にもその熱意は確かに伝わっている。

 

「我々はこれからも戦い続ける!」

 

「オーーーッ!!」

 

 その部屋が歓声と拍手に包まれた、その時。扉が勢いよく開かれた。

 

「な、何奴ッ!?」

 

 扉の向こうは何故かスモークが焚かれたように白煙に包まれ、5人のシルエットが現れる。

 

「思い立ったが買い時!衝動買いのカウレッド!」

 

「実物みずに即クリック!通販大好きカウブルー!」

 

「レアが欲しけりゃ箱ごと!大人買いのカウグリーン!」

 

「カレー大好き!カウイエロー!」

 

「セレブな暮らしやめられない!ゴージャス生活カウピンク!」

 

 白煙が薄まり姿を現したそれぞれの色のスーツ(というか全身タイツ)を身にまとった5人は、最後にビシッと全員でポーズを決めながら口上を述べる。

 

「不景気なんて吹っ飛ばせ!買って買って買いまくる!」

 

「購買戦隊カウンジャー、参上!」

 

 お約束的にその登場シーンを攻撃もせずに傍観していた清貧団のメンバー。幹部クラスと思われる覆面の男がハッとしたように叫ぶ。

 

「おのれ!現れおったなカウンジャー!我々の本拠地に踏み込むとは大した度胸だ!」

 

「者ども、かかれッ」

 

 団員達が彼らに押し寄せ、次々に節約の大切さを真剣な口調で訴える。

 

「ねえ、独身のうちは確かに自由になるお金もあるけど、いつまでもそういうわけにはいかないでしょ?」

 

「知ってますか?我慢してエアコンの温度をちょっと調整するだけで月々こんなに……」

 

「割り箸は地球資源をすり減らすんですよ。だからマイ箸ですよこれからは」

 

「ぐぐっ、手ごわい!」

 

 多勢に無勢、自分たちの浪費に対する罪悪感を薄々ながらも自覚しているだけに反撃のきっかけを掴めずにいる5人。しかし、ここでリーダー、カウレッドの大技が炸裂した。

 

「必殺!限定版DVD-BOX衝動買い!」

 

 どこからか取り出したのか人気ドラマのDVD-BOX(全12巻+特典映像)を掲げるレッド。それを見て周囲の団員達が吹き飛ばされたように後ずさる。どうやらそのドラマのファンが相当数いるようだ。

 

「どうだ!放送中では語られなかった真の後日談、さらにNG集もついてるんだぞ!」

 

 どよめく団員達。慌てた幹部が彼らに叱責する。

 

「うろたえるなッ!奴らの言葉に惑わされるんじゃないッ!」

 

 しかしそれに怯むことなく、レッドは熱く語り始める。

 

「みんな、欲しいものあるだろう?それを買うお金を稼ぐために仕事を頑張る、それのどこがいけないのさ!」

 

 団員達の中から、思わず頷いてしまうものが出始めた。

 

「メーカーや流通に携わる人たちにも生活があるんだ!オレ達が消費することで経済はまわっているんだッ!」

 

 そりゃそうだ。

 

「人という字は支えあって……」もはやわけがわからない。

 

 やがて、清貧団のボスがポツリと呟いた。

 

「スマン、実は俺、昨日新しいパソコン買っちゃった」

 

 愕然とする団員、幹部たちの前で、ボスは続ける。

 

「だってさ、新型のCPUとか積んでてめちゃ速いって雑誌に書いてあったし……」

 

 

 彼らの戦いは意外な形で幕を下ろし、清貧団は後味の悪さを残して解散した。袋叩きされボロボロになったボスを残して。

 

 

 夕陽の中、5人の戦士たちが歩いている。その背中からは、勝利の喜びは感じられない。

 

 

「今晩の飯、どうしよう……」

 

 レッドの財布事情は慢性的に赤字である。

 

 

説明
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コメント
コメントありがとうございます!こういうのも書いちゃうんです。(masaboku)
プッて吹いちゃいました。面白かったです。(華詩)
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戦隊 コメディ ヒーロー 

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