少女を見据えて我らは集う
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…それでもその少女は闘いつづける運命をえらんだ。

 

諦めることを拒否した生き様。その果てに死んだ少女。

傷つき、疲労と絶望、空を割って迫る邪神にたいしてあまりにも少女は無力な存在だった。

膝を掴み、それを支えにして立つことがやっとの力しかない。眼前の敵はあまりにも強大な敵であった。

 

・・・勝てないと闘うまえから頭で理解してしまうほどの強大さ。

吹けば飛ぶような脆弱さ。それが桜庭愛。・・・魔法少女となったマナであった。

だが、それでも、諦めるわけにはいかない。膝が笑っているのはただの武者震いだと微笑み前を見据えかかってこいと吼えた。

 

触手の先端から発光、強烈な大気を焼く熱線を全力で回避。

魔力を練成し、身体能力を爆発的に向上させ、襲い掛かる雨のような群れを切り裂いた。

槍のように大地を縫いとめようとする貫きを身を捻って避け、ポニーテールに結い上げた後ろ髪がゆれる。

 

チューブトップのレオタードの形状。

袖とフリルのついたスカートにこの状況下ですら快活な笑みを浮かべる。

たった一人での奮闘を自ら強いて孤軍を貫いていた。誰かが傷つくのをみるのが嫌だから。

それならば自分が盾となるほうがいい。握り締めた拳に預けているのは信念と矜持、凶悪な猛攻をたった一人で捌いていく。

 

 

魔力を励起させ、身体能力に全てを振り分け回避と攻撃を繰り返す。

貫く一撃を避け死角からの一撃を裏拳で粉砕。蹴り技が魔力の斬力となり斬り散らしてこの数分を全力で生き延びた。

もてる全てを使っているゆえにここまでは予想の範疇であるが・・・魔力消費が激しく、疲労で目がくらむ。

 

この怪異を一般人に見せるわけにもいかず、歯噛みしながら結界の維持に力を注いでいた。

それを知ってか知らずしてか豊満な乳房の膨らみをもつ人を殺す女神は薄く最後の人間のあがきを嘲笑した。

 

だが、神はしらない。

その少女の頑張りがどれだけ多くの人間に勇気を与えたのかを。

たった一人で自分に挑んだ愚か者がどれだけの決意と戦術を持って挑んでいるかを。

 

その戦いに意味があったのだと。

この闘いに意味があったのだと少女は確かに・・・その声で理解した。

 

 

「なんで・・・こんなことをするの?」

悲痛な叫びが胸を締め付ける。しかし、立ち止まるわけにはいかない。

泣きそうな声に心を鬼にして、私は悪意を演じきる。・・・悪魔と罵られてもどんな罵声を浴びせられてもかまわない。

 

アスファルトを砕き、昏倒した騎士を一瞥し陸橋に着地した。

噴射炎をあげて突貫した赤い防護服を破き腹部にめり込むレガースが内臓を食い破ったのを感触で判断する。

苦悶の声をあげた少女は戦鎚を振り上げようとするが、その首を私の回し蹴りが薙ぎ硬い陸橋に撃墜させる。

 

「ヴィータ・・・!」

少女を心配する声が結界内に響き、軽く着地の慣性を殺す。

炎を纏った年上の騎士が睨み、緑の女性は私を見て泣きながら仲間の安否を心配している。

 

「なんで・・・こんな酷いことを?」

白い帽子の子が震えながら私に言葉を投げかけている。

自分たちが置かれている現状を知りたいらしい。ならばと自虐的に微笑む。

・・・これでいい。これでいいのだ。・・・友達を無くすわけにはいかないのだから。

 

「私が強くなるためよ。力を得て、さらなる強さを得るため。そのための踏み台になってよ」

 

その言葉がすべてを激昂させた。

斬りつけられる上段の炎の斬撃をバックステップで回避し白い帽子の子の魔杖から放たれた白い奔流を回避する。

軽いフットワ−クで滑るように飛行し相手を嘲笑し追撃を誘う。ここで八神はやてとヴォルケンリッターには潰れてもらわなくてはいけない。

 

「追ってきなさい♪・・・それども尻尾をまいて逃げるのかな?」

嘲笑の声に反応して八神はやてとシグナムが動く。シャマルさんは昏倒したヴィータの回復。ザフィーラはその警護。

手の内を知っていたからこそ回避も撃墜もできた。知りえた情報というわけではない。実体験に基づいた経験としての知識という意味で、

 

・・・未来を変えるためにここではやてちゃんたちを倒さなくてはいけないのだ。

あの未来を回避するために。あの結末をなかったことにするために。

 

 

・・・自分の鼓動を聞いた。

心臓は動いている。そんな・・・あの時、・・・・・?

 

・・・あの時、なんだっけ?

 

気が付くとどこまでも真っ白な世界に一人立っていた。

何もない。永遠につづく地平線と真っ白な空間のなかに私だけがそこにいる。辺りを見回してもなにもない、ただ自分のみがこの世界の個人であり

体験したことのないような状況に私は唖然として状況を確認するために歩き始めた。

 

(この空間は閉じられている)

歩き出して数分でその考えに至り、不安に駆られるように走り出していた。

 

「……何もいない世界?これじゃ、まるで・・・」

「その感想は概ね正しい」

 

突然の気配に身構え、後ろから声を掛けられて飛び退く私。

油断なく声がした方角を見ると、そこには白いスーツの男性がいた。

銀髪を後ろで撫で付けたオールバックの白人男性。

 

「・・・あなた、誰?」

いぶかしみつつ腰だめに戦闘体勢をとる私の反応をまじまじと見つめつつ、

彼は微笑した。質問に対し、男はニヤニヤと笑って、

 

「神です。あなたがたの理解の範疇で表現すると」

 

「?」

 

・・・神と名乗る男は初めてだが、落ち着き払った雰囲気と威厳に満ちた口調。

何を言っているんだこの男は? …頭おかしいのか? 誇大妄想狂かとも思えたが考えてみればこの世界に自分とは異なる個性は尊重したい

神と名乗る男を信じるといった。別にどうでもいいことだ、自分の目の前にいる存在が何であろうとこの孤独にどうにかなりそうだったから。

 

 

「ほう、信じて戴けるのですね。……流石は、桜庭愛だ。では、あなたが最初に思った違和感の説明しましょう。アナタは先程、死にました」

 

衝撃的な宣告であるにもかかわらずその事実に対しては理解していた。

確かに死んだ実感はあった。自分の全身の骨が砕かれ内蔵がつぶれる音、轢死していく軋みを聞いたからだ。

倒壊する瓦礫に挟まれた親子を助けるために命を賭けて死んだ。意識がなくなってしまったからどう死んだなんて明確ではないが・・・

客観的にみてもあの状況下では生存は絶望的だ。

 

「私はみていました。自分の生命を投げ出し他者を救うアナタを。

私は感動しました。あの絶望的な状況下であってもアナタという人間は他者を励まし、私ですら出来ないことを平気でしようとした」

 

「故に、あなたは別の人生を生きてもらいます。私の変わりに人々を救ってください」

 

・・・申し出を受ける。

もともと人助けは好きなほうだし、ここにいるより私を保ちながら転生できるのは嬉しい。

人助けの能力として「神気」を授かった。これは万能な力で臨んだ力を発揮できるというもの。

・・・憧れの魔法少女にも成れるかもしれない。形状は自身のイメージ。強い自分自身の投影。それが形となっていく。

 

世界がホワイトアウトしていく。

「正義の味方」に憧れて身体を鍛えた日々。拳法を修行し、喧嘩が元で地下プロレスのリングに立ち、強さを目指した。

アマチュアからプロになり、やがて世界を旅するようになった先で・・・ある街に立ち寄ったのがそもそもの間違いだった・・・・・

 

 

 男の姿は輪郭が薄れて視界は強い光に包まれた……。

 

目覚めると警察署にいた。荒廃した署内。所々にバリケードが組まれ、おびただしい血痕が床を彩る。

倒壊した地下鉄から私は助かったようだ。・・・どこをどう辿って此処までたどり着いたかは定かではないものの未だ地獄にいるのは確かだ。

ラグーンシティ。今では死者と生物性器が蠢く街で東邦人の自分はこの街から脱出を図る人間たちと行動を共にした。

 

死者を日本刀一本で切り伏せ、脳髄が肥大化した異形の鬼形『リッパー』と渡り合う身体能力が開花し、

街の地下深くの研究所にたどり着く頃には、「神気」を操れるようになっていた。

 

「・・・ここで別れよう」

レオン巡査の申し出を受け、トロッコに揺られながら山間の鉄道を行く。

眼下に生きている人間のいなくなった町を見つめなら自分はどれだけの人間を助けることができたのだろう。

おびただしい数の人間がゾンビとなった。そのバイオハザードにも耐えるほどの身体能力の変化が私に起きたのは事実であった。

 

あの惨劇はまぎれもない事実であった。

国際空港のロビーに座り。隠蔽された真実に嫌悪しながら絆を結んだ友人たちの安否を気遣う。

過酷な環境で出会ったレオンたちはどうしているだろう。日本大使館から帰国を打診されている。あの都市での一夜は口外していないが・・・

疑惑の目で見られたのは否めない。ビザも切れそうだし、会社にも迷惑をかける手前、帰国の途についた。

 

ソファに腰掛け考える。

あの出来事が本当なら私が求めることが行えるのかも知れない。

 

「すみません、マナ様ですか?」

顔を上げると誰かが話し掛けてきた。青いショートヘアーに黒いスーツを身に着けた同い年程度の少女。

それに返事をして名乗ったかどうかいぶかしむ。女子プロレスラーとしてのファンだろうか。しかし、そのスーツ姿はどこかの公務員風。

 

「どこかでお会いしましたっけ……?」

 

「貴方のサポートの為に派遣されました、シェリスという者でございます」

物腰の優しそうな笑みを浮かべる少女はぺこりとお辞儀する。

・・・警戒は薄れ、信頼できそうだと会話をして思う。・・・今思えば『神』と名乗る男の見せた夢ではないのかとも思われたが、

この力は『神』がいると仮定しなければ説明できないほどの万能、いや、チートスキルだ。

 

「サポートって……一体どんなことしてくれるの?」

雑踏の中で彼女に尋ねた、その質問から『神』の思惑を探らなければ・・・

「はい、マナ様がよりよい転生生活を送れるよう、様々な面でサポートいたします」

 

「ふーん……」

興味がなさそうな返事をして考える。

どうやら制約はないらしい。だが、果たしてそれが許されるのかどうなのかわからない。

・・・悲しみを断ち切るための力。あれが起こり得ないことにすることが出来るということなのだろうか

 

 

彼女は気にも留めず、淡々とメモを取出し質問してきた。

「では参考までに……マナ様はこれから何をするおつもりですか?」

 

その質問に対し、得意げにこれからの予定を話し始めた。

それは歴史改竄に等しい世界を救う為の計画。独善的な正義。

 

「成程……わかりました」

そう言って彼女はメモを取るのをやめ、顔を上げた。、

 

「アウト」と小さく呟き、空間が薙ぎ払われた。

行き交う人々は気にも留めない。無人のソファに置かれた荷物がいつのまに消えていたことなど。

 

時の制止した世界。

モノトーンの境界線。ガラスの向こうに行き交う人々がいるが気にも留めていない。

ソファにはぐったりとした死体。斬り付けた少女は、首を失って死塊となった少女に静かに話し掛けた。

 

「アナタは……この世界が間違いだと言った。

そして滅ぼすべきだと言った。確かにこの世界は間違いだらけなのかもしれない、

でも……この世界にだって幸せに生きている人がいる。その人達の幸せを壊していいはずがない」

 

少女は悲しそうにものいわぬ屍骸に話しかけている。

 

「借り物の力でしか何もできない貴方に……この世界を幸せにすることなんてできない」

 

少女は自分が切り落とした血の一滴も流れていない少女の首を持ち上げ、それに話し掛ける。

「ねえ知っている? 幸せな家族の未来が、どこからともなく現れた借り物の力を振るう自分勝手なバカに滅茶苦茶にされる気持ちを?

 私もね、貴方達に全部奪われたの、父さんも、母さんの笑顔も、私が居た世界の人達の幸せも、全部貴方達に滅茶苦茶にされた ねえ解る? 

・・・普通であることが、・・・平凡であることが、・・・沢山のものに満たされている事が、

 

どれだけ幸せだということを、それを自ら手放すことが、どれだけ罪深い事かという事を」

 

少女は突然、発作的にその首を地面に思いっきり叩きつける。

首はドンっと床を跳ねそのまま光の粒子となって霧散した。あとに残ったのは怒りに身を震わせる少女と、

 

「私も、貴方達が第二の人生を前と同じ平凡であることを望むのなら何もしなかった。

・・・もし貴方達が、欲望の赴くまま私の様な不幸な子を増やそうというのなら……私は全力で抗う、

お前たちを一人残らず刈り取って、生も死も、光も闇も、心も愛も生まれ変わる事も無い場所に叩きこんでやる」

 

・・・ふーん、それがあなたの理由なんだ。

鬼のような形相で歯ぎしりをする少女はビクンを震えた。

そこにポニーテールの殺意をむき出しにした魔法少女が立っていたから。

 

「・・・あなた。・・・どうやって?」

愕然としてよろけるシェリスを愛は一瞥した。

 

「何って・・・・そんな殺気ふりまいてちゃこれから殺しますっていっているようなものだわ」

・・・どうやら神と敵対している組織の構成員のようだ。神が選んだ人間を排除することが任務なのであろう。

本人が語った境遇、自分勝手なバカへの怨恨が動機であることが。・・・ならば、戦う意味もない。最初、アンブレラの人間かと思い嘘をいったのだが。

 

「あんたさ、私を誰だとおもってんの?」

魔力を全身に循環させ神気を練りこむ。相手が襲い掛かってくるようなら黙らせるだけ。

でも、そうじゃないことを私はわかっている。・・・だから、彼女の戦意を挫く心を打つ言葉を放った。

 

「ちょっと・・・言葉が足りなかったわね。」

「この世界は間違っている。誰もがハッピーエンドになれる世界を私はつくるわ。・・・勿論、あなたもその一人♪」

そう笑顔で微笑みかけ、手を差し出した。私の大それた願い。すべてのバッドエンドを覆し、全てを幸福にしてあげると。

 

「・・・あなたの望みなの?」

ええ、そう。すべての悲しみを殴り飛ばし人々を笑顔にすることが。

 

「過去を改竄すれば、その負荷はあなたに返ってくる。」

あら、最高じゃない。私一人の犠牲で誰もが不幸な世界が幸福になるというのならば・・・

 

欲望の赴くままに私のような不幸を覆し幸福にするという。

シェリスは少女を見た。ただのバカを、神に抗うと決めた大馬鹿者を。

 

「・・・ふーん、ここは境界なんだ。なら過去も未来も時間選択肢に通じているんだね?」

マナは微笑んだ。目的が出来たのがとても嬉しい。シェリスにマナは笑顔で告げる。

 

 

・・・ねぇ、ねぇ、あなたの世界に「プロレス」ってないの?

なら、覚えておいて、私はその中で最強のベビーフェイスって呼ばれているんだから。

 

そう微笑み、ポニーテールの魔法少女は国際空港から忽然と消えていた。

境界線上のモノトーンの中を敵を目指して一直線、のちに行方不明と発表されることになる。

 

 

 

そこに生まれた小さな軌跡があった。

シェリスは知ることになる。バカが起こしたその炎から家族を守ぬいた少女を

バカを殴り倒し、世界を救った少女がいたことをモノトーンの世界から職場に戻ったとき思い出した。

 

「・・・ねぇ、プロレスって知ってる?」

映像モニターに流れる闘技場での熱い試合内容が中継されていた。

「・・・知ってるも何も、大人気だぜ。お前の妹だって、『彼女』になりたいって目指しているんだろうが」

シェリスは涙を流しながら映像を見ていた。この悲しい記憶もただの夢にかわってしまった。

 

傷つき汚れながらも立ち上がった名もなき少女。それが誰だったかシェリスは知っている。

交わした約束を果たした少女。ただの『通りすがりの魔法少女』はすべてを改竄し新たな戦場へと駆けていった。

 

・・・牢獄のなか、処刑をまつのみの人生。

男装の少女は微笑んでいた。魔女と罵られたことを涙し死に怯える自分を抱きしめて一緒に寝てくれた日々。

「・・・じゃあ、いくね。ジャンヌ。」

「うん。ありがとう。いつかどこかで・・・会いましょう、マナ」

英国の牢獄の中で出会った少女は生死の別れのなかで最後のキスを交わした。

それは友情であり、愛であった。愛を知らないで焼かれるジャンヌを思い褥をともにした少女の情けでもあった。

涙のままに次にむかう。改竄してはいけない思いもあるのだ。

 

後ろ髪を靡かせて少女は過去と未来を駆けていた。

死すべき定めを覆し、知恵者を助け、自らを盾とし、知己を得て未来を変えていく。

 

・・・また、ひとつの可能性を助けた。

「・・・アリシア」

駆け寄る母親に微笑みかける。

「・・・なんとか間に合いました。・・・感謝の言葉はいりません。ですが、私のお願いを聞いてくださいませんか?」

薄汚れた笑顔でプレシアを見つめるポニーテールの魔法少女。彼女は可能性を摘まない。

「・・・フェイト?」

「はい。運命を切り開く雷の力を持つ女の子です。アリシアの妹として」

魔導炉暴走の中を助けた子を抱く母親にそう願い、消えた。

 

 

銀の翼の魔導書の管制人格にアクセスし、改竄させそうになった闇を消去した。

これは古いベルカのお話。それが及ぼす悲しみに連鎖は泡沫の夢となってやがて人々の記憶から消え去るだろう。

 

 

・・・ここにすべては完了した。

 

悲しみの連鎖を逆流して食い止め打ち倒してきた。そのツケは巡り巡って呪いとなり私を焼くだろう。

倒れている八神はやてとヴォルケンリッターのリンカーコアにアクセスし改竄される前の管制人格を打ち倒した。

システムを一度ダウンさせるための襲撃だったとはいえ、今の私はシェリスの世界を壊した欲望に駆られたバカと変わらないのではないだろうか。

・・・挫けてしまいそうになる。だが、膝を折るわけにはいかなかった。これをした張本人として改竄した歴史の修正を闘わなければならない。

 

 

 

・・・最後の戦いが、間近に迫っている。それをひしひしと感じながら

潮騒の砂浜を踏みしめながら町並みの遠景を見つめる。やってくる悪意は歴史の修正装置。

自身の可能性を使い、書き換えてきた本来の歴史。その元凶を消去するためにここに神が顕現する。

自分の最後はこの場所で、死にたいとおもったのがきっかけだった。・・・これではやはり「馬鹿」と変わらない。

自分は最後までみっともなく足掻いた。・・・その結果はこの胸にある思い。多くの出会いと別れを経験した。

 

美少女レスラー桜庭愛はここからはじまったのだ。

その終わりだってここから終わらなきゃいけないと思うのだ。そう、思いたいのだ。

 

 

控え室で制服を脱ぎ、白いワンピース水着を着用する。

膝パッドにリングシューズを履いて、動きにくくないかチェックする。

ハイレグ気味の水着は身体にフィットしている。

 

「・・・・これなら、大丈夫かな?」

 

愛にとって今日の対戦は望んでいた「美少女」対決だ。

入場曲とともに花道を愛嬌を振りまきつつ歩き観客の歓声に応える。

 

(桐生呉葉ちゃんとははじめての対戦だね)

 

ゴングを迎える。

「さぁ…いよいよ中学の部門、セミファイナル」

 

アナウンスのコール。最初に名前を呼ばれるのは呉葉からだ。

『赤コーナー…・木漏れ日の妖精、桐生呉葉ちゃん』

 

名前を呼ばれ、大きな歓声に無表情に呉葉は手を掲げて応える。

漆黒の黒髪を左にサイドポニーに結い上げ、大き目の黒い瞳が可憐な印象の美少女。

茶色を基調とした蒼いラインのはいったシンプルな水着に身を包んで油断なく、私を見つめている。

 

『青コーナーより、旭姫、桜庭愛ちゃん!』

白スリーブ形の首で支えるタイプのワンピース水着。

そのため、背中は大きく露出している。ポニーテールが揺れる。

高まった歓声に笑顔で応える愛。手を振って愛嬌を振りまいている。

 

可愛い感じの美少女レスラーの対決に会場は大いに沸く。

早くも美少女レスラーの痴態を想像して頬がにやけてしまう観客達も多いようだ。

 

賭けとしては地下プロレス史上、最高を記録。

切迫しているオッズ。実力伯仲のふたりに魅力たっぷりの試合内容を期待する。

 

 

中学部門トップクラスの美少女対決。

実力者で知られる呉葉とデビューから三ヶ月で序列を塗り替えてきた桜庭愛。

 

チャンピオン葉月あざみとの挑戦を掛けた試合ともあって、

雪辱を胸に秘めてトレーニングしてきた呉葉には負けられない一戦。

 

お互いに視線は交錯する。

そして、ゴング!大歓声の中、二人はリング中央で、がっちりと指を交わした。

 

拮抗する力の邂逅。

「うっ・・・くぅぅぅぅ・・・・んっ、うぅ!」

嗚咽の様な吐息。ぎりぎりと筋肉が悲鳴をあげている。

それは愛も同じ、ぶるぶると呉葉の手を握り締める愛の腕も痙攣が続き相手を押し倒そうとする勢いが、拮抗する。

 

はぁー、はぁー、はぁー・・・・。

呼吸すら交錯し、じっとりと汗が額に浮き出てしまう。お互いがお互いを好敵手として認める。

 

ぶつかり合う二人・・・いつしか、相手だけを見つめていた。

「・・・・桜庭さん。・・・・私もパワーに自信があったのですけど・・・」

あざみとは違う真摯な感触。呉葉は愛を認め親しみを覚える。それは愛とておなじ

 

「んはっ・・・くぅ、あっ、んぅぅぅぅぅ・・・・」

力を維持しつつ愛も呉葉を見る。一進一退の拮抗に、はぁはぁ・・・・・と吐息を喘ぎながら拮抗を維持しようとする美少女のいじらしさ。

観客たちは早くもヒートアップ。力を込めようと、お尻に力を入れてしまうため、

呉葉も愛も前のめりに突っ張る。その状態はとても淫靡。流れ出る汗すらそのままにぶつかり合う。

 

中央で組み合う二人の美少女レスラー・・・

ゆっくりと呉葉の方がやや、優勢になってきた。

 

愛が力を維持できなくなり、膝が折れ曲がっていく。

(一気に・・・・えっ?)

押し倒そうとさらなる力を込めた時、逆に呉葉の方が倒されていた。

体勢を入れ替え、呉葉の攻撃のベクトルをそのまま、折った膝に向けさせる。前のめりになった力を抗わずに、流した愛の巴投げ。

 

仰向けに寝そべってしまった呉葉。

「あぅ!・・・うぁっ、つぅぅぅぅぅぅ」

シューズも靴底が呉葉の胸にめり込むドロップキック

強かに背中を打つものの立ち上がろうとした呉葉。後転して呉葉の立ち上がるタイミングを計った愛はシャイニングウィザード!

 

「あぅ・・・・いっ、くぅ・・・」

膝パッド越しとはいえ、右の重厚なストレートをモロに食らって悶絶する。

そのまま愛は倒れた呉葉の足を交差させる。

「ひゃぎぃ!・・・・あっ、はぅ、アッ・・・・あぅ」

呉葉の足を折り曲げ、その隙間に足を通し、足4の字固め、悲鳴と共にのたうつ呉葉。

激痛に喘ぎ、愛の執拗な体位変換。極めた足をきつくする起き上がりに

 

「ひゃぐっ・・・はぅ・・・やっ、やだぁぁ」

痛みに我を忘れてしまう。口の端からは、唾液が悲鳴と共にマットに飛散る。

 

腰を浮かしてきたときには・・・・涙目になってリングに仰向けに悶絶する。

その淫靡な姿を見られているとはっとした呉葉は痛みを堪えようと口を噤む。

暗がりののなか、淫靡に喘ぐ呉葉をギラギラした視線で釘付けになっている視線の集中

 

「あ・・・あぅ、アッ、あっ、あっ、あっ、あぁぁぁぁ・・・」

呆然とにじり寄る呉葉その度にシーソーの様に角度を絞る動き嬌声をあげてのたうつ。

 

ロープに手が届きそうな・・・そんな時だった。

今度は、うつ伏せにさせられ、STFを決められ、呉葉は大きく口を開けた。

 

「いっ・・・・いやぁ、いやぁ・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

涙目になって懇願する呉葉。届きそうなロープの手前で愛は呉葉の頭をヘッドロックして悶絶させる。

 

「ロープブレイク」

しっかりと掴み、技が解かれる。

 

立ち上がろうにも・・・足に力が入らない。しっかりと、両脚を殺された。

そのまま動けない呉葉を何度もストレート気味の掌底が涎を飛沫かせた。

左右に頬を張る音とともに、涎が口元から溢れ出る。

 

「あぐぅ・・・ふ・・・ふぅ・・・んっ、んんんんっ・・・・」

踏鞴を踏んでしまう呉葉。一方的な展開に成りつつある。

 

(・・・ハァ、ハァ・・・なんて、しっかりしたプロレススタイルなの?)

呉葉は驚嘆していた。ランキング2位の碓井由里に似ているが、しっかりしたパワーもあり、関節技も的確に決めてくる。

 

 

「あぅぅ」

呉葉も単発的に技を繰り出す。

ボディスラムで愛をリングに叩き付けるが、大きくマットを打つ音。

(受け身もしっかりしている・・・・?)

素人とは違う。叩き付けられる瞬間、顎を引き、視線は下腹部を見ている。

背中から着地しているように魅せているが、お尻をクッションにして痛みを軽減する。

 

立ち上がり際にラリアートをモロに食らってしまい呉葉は昏倒した。

 

「んぶっ・・・・うぅ」

白いサポーターで肘をガードしている二の腕がくの字に挟み込むように呉葉の喉にぶつかり後にひっぱられるような怖さに身を硬くした呉葉は

そのまま、愛に首を固定されマットにたたきつけられた。

再び、マットに寝転がされてしまう。

 

ラリアートの原型・・・ネックブリーカー?

強かに後頭部をぶつけてしまい、意識が朦朧とする。

何度も首を振って、回復を促すものの靄の掛かったような視界はぼやけている。

 

突然、腰が圧迫された。

反射的に力を込めて腰を落とす。

(ジャーマンスープレックス?・・・・・させないわ)

密着した姿勢のまま腰に力を込めようとした矢先、ガクンと膝が前に砕ける。

 

それは突然の事。自分が倒れる事に先天的な恐怖があった。

(あぅ・・・・うぁぁぁぁ?)

ジャーマンとは明らかに異なる。視線が後方にはなく、立つ動物である人間にとって倒れるというのは恐怖である。

寝るさい、後ろからベッドに身を預けて寝る人間はいない。・・・一度、体勢を低くしてベッドに入るのが普通だ。

 

垂直に倒れる経験なんてない・・・・。

慌てて呉葉は足を開こうとした。尻餅をつくためである。

腰を前のめりに倒す。こうすれば・・・ダメージは少ないそぅ、判断したためだ。

 

愛の手は腰から離れている。

その膝が猛然と呉葉のいやらしく突き出したお尻に叩きつけられた。

 

驚嘆する観客達。

踏ん張った呉葉の膝にジョイントキックを入れて転ばせる。

腰に添えていた腕は離し、愛は腰を据えて・・・落ちてくる自由落下中の呉葉の尻目掛けての膝蹴り。

 

尻餅を付く為、股間を露わにさせていた呉葉の股間に膝が強打される。

その瞬間!かっと、大きく両目を開き、激痛に呉葉が絶叫した。

ビクンと大きくのけぞり、首は衝撃と脊髄から駆け上った痛みで後にガクンと仰け反る。

 

「あひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・・・!」

涎が飛散る。呆然と混濁した瞳から涙が溢れ出していた。

 

ぐったりとマットに倒れこむ呉葉。

ヒクヒクとお尻を押さえながら痙攣する格好はとても淫靡。嗚咽の様な喘ぎ・・・涙を流してもぅ何も考えられなくなっていた。

その身体がゆっくりと持ち上げられる。

 

ガクンと拷問がはじまっていた。

括り付けられるように身体が持ち上がっていく。まるで水車に吊るされたようだ。

ゆっくりと身体が天井を向く。大股は観客に見せ付けるように開かれ、開脚された。観客達が一斉に立ち上がり、スポットライトの私を見つめる。

 

《おおっとぉ!これは…大技、ロメロスペシャルゥゥ!》

吊り天井固めとも呼ばれるメキシコの技だ。

 

「はぁん・・・・はぅ、はぅぅぅぅぅ・・・・・」

嗚咽と共に私は混濁としていた。激痛によってすでに身体は麻痺している。

その状態が十分近く続いた。時々、腕をねじり、逆関節にもっていこうとする愛の手の動きに絶叫をあげる。

それはまさに拷問だ。意識がなくなろうとすれば、強制的に意識を覚醒させられる。その激痛が、精神を苛み、混濁しようとする意識を加速させる。

 

「あぅ・・・あっ、んんっ・・・・くぅ、いやっ・・・いやぁぁぁ・・・・」

拒否する心が強くなって逝く。真剣に勝利を目指す真摯な視線で吊り上げられた呉葉を見つめている愛。

汗が滲み、呉葉の背中に浮き出す。それが雫となってコスチュームを濡らす。

たっぷりと観客の目が呉葉の痴態を堪能した後、疲れから体勢が崩れ、呉葉の身体がマットに2、3度、バウンドした。

 

ポニーテールに張り付いた汗を首を振って飛ばすと呉葉を一瞥した。

リングで悶絶している呉葉を見つめながら疲労感にだるくなった身体を起こす。

呼吸は荒く、肩で息を弾ませながら…全身で肺に空気を送る。

 

よろよろ…っと、立ち上がってくる呉葉。

・・・強い。そう愛は微笑んだ。立ち上がり気味にローキックを繰り出し悶えさせる。

疲労と流した汗、観客達が発する熱気にべとつく。

ヒクヒクと痙攣しながらとろんとした瞳の呉葉。

 

「あぁぁぁ!」

呉葉の口から裂帛の気合とともに繰り出したチョップが私の胸元を強く打つ。。

立ち上がった呉葉は目を爛々と輝かせていた。

 

ランナーズハイ。闘争本能が彼女の疲労を超越して覚醒した状態。

「あぐぅぅぅ・・・・」

痛みに悶える私はキッと呉葉を睨みエルボーのお返し

「きゃぁ!」

鎖骨に叩きつけられ悲鳴をあげてしまう呉葉。

肘と手刀の応酬から、呉葉のフロントスープレックス

レフェリーがカウントを叩く。その体勢を必死にもがく私。絶妙なタイミングでの反り投げに危うくカウント。

「・・・カウント2.9!」

辛うじてフォールを跳ね返した。

そのまま逆エビ固めを極める。私の悲鳴が会場に木霊した。

「あっあっ、アッアッ、あっあっあちぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

高角度から両脚で固定し、腰を浮かしてグイグイ締め上げる。

何度も、

「ああっ・・・!」

何度も、

「ひぃやぁぁぁぁぁぁ!」

何度も、何度も・・・手を持ち替えて角度を絞っていく。

うつ伏せにして反らした身体が悲鳴をあげて・・・呆然としている口元は吐き出した涎でテレテレと汚れ、マットには涎が水溜りになっていた。

呉葉はトドメとばかりに再度、さらに高角度に呉葉の身体を折り曲げた。

 

それに大きく両目を見開き、一際高く喘ぎ声を上げる。

「あぐ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ビクン、ビクンと痙攣する蒼いワンピース水着。

背骨が折れ曲がってしまう。そぅ誰もが思うほど、完璧に決まった逆エビ固め。

 

それでも…私のの心は折れない。

私はロープまで激痛の叫びを上げながらしっかりとロープブレイク。呆然としている呉葉を平手打ちで昏倒させると

彼女を持ち上げパワーボムでマットに叩きつけていた。後頭部かマットにめり込み、

白目を剥いて身体を折り曲げ、大股を私の前で押し開きビクン、ビクンと痙攣している。

 

その様子に恍惚になりながら…私は乱打されるゴングを聞いていた。

ゴングが鳴り響く。勝利を告げる鐘。どっと疲れで足はがくがくに震え立ち上がることもできない。

 

(・・・いい試合だったよ、呉葉ちゃん)

担架で運ばれていく桐生呉葉。それを汗だくで誇らしげに見つめる私。

 

この試合が地下プロレスでの私の名前を知らしめるきっかけになったんだった。

あの後、色々な出来事があった。あざみとの死闘。由里たちとの確執。プロへの勧誘。どれもこれも懐かしい。

もう、あの日々には帰れないけど、呉葉たちは元気だろうか。・・・いつも私のまわりにはみんながいた。大勢の笑顔が私に力をくれた。

 

・・・いまはだれもいない。

あの照りつける太陽のような熱い照明の輝きも、応援する観客の声援も、誰もいない。

モノトーンの結界のなかで、私はひとり、自分の終焉を待ち望んでいる。怖い。震える足。絶対的な死がやってくる。

視界はくらくらして焦点はおぼつかない。それでも、足掻こう。・・・最後までと心に決めて。海上に何か黒い点が現れてきた。

 

 

 

そして・・・。

・・・ああ、運命は私に追いついた。

 

 

 

「・・・今までなんで忘れていたんだろう」

管理局旗艦ヴォルフラムの次元跳躍。座標は・・・海鳴市海上。

そこで行われている少女の救出が最優先任務だった。局員たちは気を引き締め艦長を見る。

 

「うちらが襲われてから・・・12時間が経過。しかし、リンカーコアはさらに輝きをましてる」

それに・・・はやての傍らには銀髪の闇の書の管制融合騎、初代アインスが強い瞳で航行を見つめていた。

 

不意に感じた懐かしい感覚。八神はやては目を覚ます。

泣き震える小さなリインフォースUに幼い頃に別れた涙を流しながら微笑むアインスの姿があった。

呆然とした。そしてアインスから聞かされた真相に立ち上がる。たったひとりですべてを背負った友人の名を思い出したからだ。

 

それは・・・高町なのはとフェイトも同様だった。

彼女の応援に行ったのだ。そして・・・忘れていた。あの怪我をして泣き崩れるヴィータを励まし、治癒を行ってくれた少女のことを。

私が今、教導官として教えられるのも、あの撃墜で知った彼女の勇気のおかげなのだと。

 

「誰も悲しまない世界を作ろう」

そう泣きながら微笑んだ笑顔を今、思い出した。

それはフェイトも同じだった。涙の抱擁を交わし、姉との再会を果たしたフェイト。

アリシアは告げる、死ぬべき私の運命を彼女が助けてくれたのだと。桜庭愛の死が確定した今、彼女が背負った全ての可能性も確定したのだと。

 

「フェイト・・・マナを助けてあげて」

白い戦闘用]フォームに身を包んだ姉にフェイトもなのはも頷く。

それは八神はやても同意見だった。索敵を開始して2時間。海鳴市海上での結界反応の確認。

 

「今度はこちらが助ける番だよ・・・愛ちゃん」

一同に会した艦橋ではやては告げる。

 

「うちらはこれからお節介な親友を助けに行く」

その子は自分の身を犠牲にするのをなんら考えない優しい大馬鹿者や。でも、その子の頑張りでうちはアインスと再会できた。

フェイトちゃんも、なのはちゃんも・・・みんなハッピーエンドになった。でもな、その子が今、バットエンドを迎えてる。うちらの不幸を肩代わりして」

 

なら、うちらもそのお節介にむくいらなアカン。

全力全壊で助ける。それが、うちらのお節介や。

 

 

その思いはすべてのもの達にあった。

そして幾千の軌跡となった少女の歩いた歴史が動き出す。

 

 

 

説明
魔法少女リリカルなのは☆ストラトス。

この物語は絶望と不幸を打破し人々に笑顔を与えた少女の物語。
…通りすがりの魔法少女の、神と拳で闘う少女の軌跡。










魔法少女リリカルなのはの世界を舞台としたオリ主人公もの。
全世界の悲しみを失くすために闘った主人公の物語。どうだ、これが桜庭愛だ。

友のために自らの死すら受け入れたそんな大馬鹿者。
前半はその少女のあるいた道が何を得て、誰のこころに響いたのか。
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