真・恋姫無双 刀蜀・三国統一伝 第八節:暗躍する影、怒りと混乱と悲しみと・・・
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まえがき コメントありがとうございます。梅雨時期なのに何故か雨が降らずに少し喜びを感じているsyukaです。さて、鈴が覚醒しました。・・・元の姿に戻っただけですが。一刀が復活したら怒りを抑えるのでしょうが、とりあえずは魏軍大ピンチです。華琳がどのような行動に出るか・・・わくわく。それではごゆっくりしていってください。

 

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 水蓮が魏兵を前線へ引きずっているとき、弓を持っていた魏兵のいた場所に一人の男が立っていた。

 

「呉王は仕留められませんでしたが、北郷一刀を仕留めることができましたか。まぁ、良しとしましょう。とりあえずは左慈に報告ですね。さて、どんな反応をするか・・・。」

 

 そう呟くと、その男の姿は空気中へと四散した。まるで、元からそこには誰もいなかったかのように・・・。

 

・・・

 

 場所は変わり、現代・・・東京、北郷宅。菊璃は影刀の出勤を見送り、朝食で使った食器を洗っている。

 

「ふんふ〜ん、ふふんふ〜ん♪さってと、片付けましょうかね。」

 

 洗い終わり手を拭き、食器を定位置へと片付けていく。

 

「あ、あら・・・?」

 

 一刀のお茶碗にヒビが・・・どういうことかしら?一刀が寮住まいになってからは、帰ってくるとき以外触っていないのだけれど・・・。私は悪い予感に駆られ、気が付けば電話を手に取っていた。

 

「・・・、・・・、・・・、は〜い♪菊璃さん、お久しぶりね。」

「お義母さま、お久し振りです。」

「どうしたのかしら?世間話のお誘いなら大歓迎よ♪」

「それも魅力的なお話ですが、今回は別の件なのです。」

「と、言うと?」

 

 私は一呼吸置いて、話しだした。

 

「一刀のことなのですが。」

「一刀?元気にしていたわよ?」

「はい。それはお伺いました。ですが、触っていないはずの一刀の茶碗にヒビが入っていたのです。それから、私の中で悪い予感しかしなくて・・・あくまで勘なので確証はありませんが。」

「そうね〜・・・勘と聞くだけなら流せるのだけど、菊璃さんの勘は当たるのよね・・・。とりあえず、向こうにいる管轤に聞いてみるわ。」

「お願いします。」

「任せなさい。本当に緊急事態なら私が直々に出向いてみるわ。」

 

 そう言うとお義母さまは電話を切った。これは・・・久しぶりに全員招集しなければならないかしら?

 

・・・

 

再び場所は変わり、外史。

 

「ふぅ、やはりと言いますか・・・手応えがありませんね。」

 

 兵の練度は確かに高いのですが、将クラスでないと・・・面白味がないです。・・・?携帯が鳴ってますね。美桜様でしょうか?あちらの緊急事態かもしれません。私はあたりの魏兵を蹴散らし、戦線と拠点の間まで下がって電話に出た。

 

「はい、管轤です。」

「いきなりごめんなさい。今大丈夫かしら?」

「戦場ですが、問題ありません。」

「そう。では単刀直入に聞くわ。一刀に何か異変は起きてない?」

「一刀様ですか?先ほど呉の方々と同盟を組んだ際は特にありませんでした。」

「なら良いの。菊璃さんから電話があって、一刀に何か起きてないか。嫌な予感がするからと聞いてきたのよ。だから、あなたなら何か知ってるかもってね。」

「そうですか。」

 

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 菊璃様が・・・ただ一刀様のことが心配で美桜様に相談されたのなら私も頷けるのですが、悪い予感と言うのが引っ掛かりますね。菊璃様の勘は当たりますから。良くも悪くも。

 

「一刀様に何かありましたら、こちらから折り返し連絡を・・・いえ、少々お待ちください。」

 

 呉王のお二人がこちらに歩いてきています。・・・?何か引っ張っているように見えますが・・・。

 

「どうされました?」

「あなた、確か一刀のところの・・・。」

「管轤です。そちらは?」

 

 気絶させられたと思われる兵が襟首を掴まれている。

 

「魏の兵だ。愚かにも拠点にいる私を背後から奇襲してな・・・それを一刀が庇ったのだ。」

「一刀様は鈴の恩恵を受けているので、問題はないのでは?」

「弓が一刀の左目に刺さって倒れたのだ。今、華佗が診療し劉備が側にいる。」

 

 ・・・っ!

 

「あっ・・・行ってしまった。」

「良いでしょ。今は私と母様はこいつを曹操の前につき出すことが先だわ。」

「そうだな。・・・空も暗くなってきた。黄竜の逆鱗に触れたのが曹操の運の尽きだ。」

「ふふっ、身の毛がよだつような殺気がビンビン伝わってくるわ。」

 

 絶対に触れてはいけない存在、竜。逆鱗に触れれば身を滅ぼすことなど目に見えている。そう思うとそれを使役する一刀も相当な存在なのね。

 

・・・

 

 私は無我夢中で拠点への道のりを駆け出していた。一刀様、ご無事でいてください!

 

「美桜様、申し訳ありません!一刀様をお守り出来ませんでした・・・。一刀様は呉王を庇い、左目に矢をくらい負傷した模様です・・・。弓を放った者は拠点裏に隠れ王の命を狙っていた不届きものです。」

「あなたのせいではないわ。けど・・・魏軍を滅しなさい。」

「御意。」

 

 電話を切ると一刀様の眠る天幕へと駆け込んだ。天幕の中には泣き崩れる桃香様と針から気を送り込んでいる華佗がいた。外には北郷隊の子たちが心配そうに待機している。隊に指示を出す軍師たちもこれからどう動くか作戦を練っている。それぞれの顔色は主の負傷が原因のせいか優れないでいた。

 

「華佗、一刀様の容態は・・・」

「未だに意識を失っている。左目を摘出せずに済んだが、視力が残っているかは分からない。」

 

 一刀様の両目は閉じられたまま。その隣には矢尻が血塗られた矢が置いてある。これを放ったのが呉王の引っ張っていた者なのね。私が動かずとも黄竜の裁きにより殲滅させられるだろうが、それでは私の気が済まないわ。

 

「まぁ、一刀に毒の耐性が付いていたのが不幸中の幸いだな。矢尻に大量に塗られていた猛毒を一刀以外の者が食らっていたら既に死んでいた。」

「ご主人様は・・・また笑ってくれるよね?」

「あぁ。だから今は一刀の手でも握ってやってくれ。」

「うん。(私も強くならないと・・・)」

 

 桃香様が一刀様の手を握る姿を見て、私は天幕を後にした。

 

「管輅さん、ご主人様の容態は・・・。」

 

 明里ちゃんがしずしずと近寄ってきた。彼女だけでなく、他の軍師や北郷隊の子たちもこちらを伺っている。

 

「まだ意識は戻っていません。ですが、私の見る限り命に別状はないでしょう。それともう一つ、矢が刺さった左目は視力が戻るか分からないとのことです。」

「・・・っ!?」

 

 これは衝撃も大きいはずだ。私も小さからず動揺したから。

 

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「今から私は魏軍を滅してきます。あなたたちは拠点に留まり、一刀様が起きてこられるまで休んでいなさい。」

「それなら私たちも共に・・・」

 

 一歩踏み出してくる皆を私は片手をかざし制する。

 

「鈴が竜へと姿を変えました。おそらく戦場は今まで以上に荒れます。そんな中、あなたたちは自分の身を守ることは出来ますか?一騎当千の私たちでさえ、未知数の鈴の力に巻き込まれないか分かりません。一刀様が起きた時にあなた方の誰かが傷ついていたらあの方はどう思うか分かりますよね?」

「・・・。」

「あなた方は拠点に残り、先程のような弓兵・・・魏兵がいないか注意していてください。私は行きます。」

 

 私は踵を返し拠点を後にした。

 

・・・

 

 一刀が弓を目に・・・出来るものなら私が直々に潰しに行くのだけど・・・いえ、とりあえずは菊璃さんに報告が先ね。

 

「・・・、・・・、・・・、はい。」

「もしもし、菊璃です。」

「管轤から報告をもらったわ。・・・運の悪いことに菊璃さんの予想が当たったわ。」

「・・・っ!それで、一刀は!?」

「他国の王を庇い・・・目に弓が刺さり倒れたらしいわ。王の命を裏から狙った不届きものの犯行だそうよ。」

「・・・っ!?」

 

 電話越しに息を飲んだ声が聞こえてくる。

 

「・・・お義母さま、管轤さんをこちらに呼び戻すことは出来ますか?」

「今は戦場にいるそうだから難しいわね。一段落したら可能でしょうけど。」

「管轤さんがこちらに戻れる際は私に連絡をください。一刀のことが心配です。一度あちらに赴き、一刀の様子を見たいので。」

「分かったわ。必ず連絡する。」

「よろしくお願いします。」

 

 私は通話を切ると、電話をテーブルの上に置いた。・・・あんなに余裕のない菊璃さんは久しぶりね。残念だけど、今回は私の出番ではなさそうだわ。それと、この事は鞘香には伝えないほうがいいわね。

 

・・・

 

 私はお義母さまとの通話を切ると、すぐさまとある人物へと電話を掛けた。

 

「・・・、・・・、・・・、もしもし。」

「いきなりごめんなさいね。今大丈夫?」

「えぇ。どうされましたか?」

「私たちの仲間を動けるだけでいいわ。私の家に来るように言ってくれないかしら?」

「もしや・・・」

「ケ禹、あなたに命じます。雲台二十八将、可能な限り招集を掛けてなさい。」

「・・・御意。・・・まったく、余裕がないのが声だけで分かりますよ。とりあえず、私が今からそちらに向かいますので、それまでにリラックスして情報を整理しておいてください。」

「迷惑をかけるわね。」

「いえいえ。それでは30分もしたらそちらに到着しますので。」

「お願いね。」

 

 霧刀さんには今のうちに伝えたほうがいいわね。

 

・・・

 

「華琳様!敵将が我門旗と白旗を携え、こちらにゆっくりと向かってきます!」

「旗標は!」

「孫が二つ!」

「・・・交渉かしら?」

 

 あの二人が交渉など考えにくいものだけど・・・降参などありえないわ。

 

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「通しなさい。」

「御意。」

 

 あちらが交渉を求めるのであれば話を聞こう。降参させれば我が覇道への王手となる。

 

「おや、怖い顔して。」

「曹操、お前があのような卑劣な行為をするとはな。見損なったぞ。」

「覇王を志す私がそのような事をするはずがないでしょう?でまかせもいい加減にしなさい。」

「それは侮辱と捉えられてもおかしくない発言よ!」

「黙れ!!」

「・・・っ!!?」

 

 どういう事?そのような命令をした覚えは当然のことながらないわ。

 

「私の仲間がお前のとこの兵に奇襲を掛けられ負傷した!私を庇い、左目に弓が刺さり倒れた!」

「!?」

「魏兵の鎧を着た者が弓を引くのを見ていたわよ。はい、これが証拠。」

 

 孫策から何かを投げつけられる。それは見覚えのあるうちの兵だった。確かひと月ほど前に消息を絶ったはず・・・。

 

「・・・ぅ、・・・こ、ここは・・・。」

「ようやくお目覚めか。」

「そ、曹操様・・・私は一体。確か白装束を纏った者に連れ去られて・・・。」

「お前は私の覇道を汚したわ。お前にその気はなかったとしても、私はお前のことを許してはいけない。」

 

 私は絶を構え・・・その者の首を跳ね飛ばした。

 

「これで済んだとは思わないことね。私たち、呉の将も相当頭にきてるけど・・・触れてはいけないものに触れてしまったからわ。あなたの覇道もここが終着点ね。ほら、近づいてきたわ。」

 

 ・・・暗雲がこちらに近づいて来ている。これは雨雲ではないの?

 

・・・

 

 はぁ・・・一刀のことが心配だ。あいつが矢の一本で死ぬことはないだろうが・・・。さっさと魏軍を殲滅して拠点に戻ろうか。

 

「か、華琳様!!空からりゅ、竜が!!」

「なっ・・・」

 

 孫策たちは愚か者を魏王に差し出したようだな。あの者の首が転がっている。私が八つ裂きにしてやっても良かったが・・・まぁいい。さて、殺戮の時間だ。

 

「この咆哮、良いわぁ。この威圧感、殺気、どれも人間ではありえないものだわ♪」

「うむ、味方としてはこれほど力強い者はいないわね。」

「全軍退避!後ろを振り向くな!脇目を振らずに撤退しろ!」

 

 後軍、中軍は撤退して行くが、前軍が戻ってこない!?

 

「華琳様!現在、先鋒に出た春蘭が苦戦しています!」

「早くあの馬鹿を引き戻すように伝えなさい!」

「はっ!!」

 

・・・

 

「くっ!撤退命令が出ているのだ!早く退かせろ!!」

「ご主人様を負傷させられたのだ!絶対に・・・私の魂魄を賭けてでも退かせるわけにはない!!」

 

 先ほど管轤に聞かされたときは耳を疑った。正直、真実であってほしくなかった。ご主人様が前に気の制御を誤り暴走されたとき、あのお姿を見ただけでも目を背けたくなるほどの光景だったのに・・・目に矢が刺さった?視力が戻るか分からない?

ご主人様が戦場に出られる以上、自分なりに覚悟はしていたつもりだ。しかし、実際にそうなると覚悟していた自分が嘘のように脆く崩れ落ちていく。

 

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「お前たちは覇道を目指しているのではないのか!?背後から奇襲など、覇道に背くことではないのか!?」

「我が主はそのようなことはしない!絶対にだ!」

 

 そう、私自身も曹操と出会ったことがあるから分かる。このような事をするような人間ではないのだ。何か裏から私たちを陥れようとしている者がいる気がする・・・。だが、今はそのようなことを考えている時ではない。まずはこの戦で魏兵の数を減らすこと・・・それがご主人様の望みだから。私はそれを果たすのみ。

 

・・・

 

「華雄、そこをどかんかい!今のうちは頭にきとるんや!どかんっちゅうならお前でもただじゃ済まんで!!」

「我が主である曹操様はそのような卑劣な真似はしない。私が断言しよう。」

「なら一刀の負傷はどこのどいつのせいや!?魏兵の鎧を着とったそうやないか!それでも己やないと言い切れるんか!?」

「あぁ。断言出来る。」

「・・・これ以上の話し合いは無駄やな。お前がどかんちゅうなら・・・うちはお前を殺してでも曹操の首を取りに行くで。」

「私も北郷のことは身を案じているが・・・今は主の命を遂行することが先決だ。霞、お前をここから先へ行かせるわけにはいかない。」

 

 あかん、頭に血が上り過ぎとる。このままやったら・・・ほんまに殺してしまうかもしれん。せやけど・・・それ以上に曹操の首を絶たんとうちの腹の虫が収まらん!!!

 

「後悔しても知らんで!!華雄!!!今のうちはどないなやつだって怖ない!」

「ならば私がお前の壁として立ちはだかろう。来い。」

 

・・・

 

 鈴が戦場を蹂躙することにより敵兵は大混乱に陥っている。自軍の兵たちは先に拠点に戻した。私はと言うと鈴の取りこぼしの駆除。命乞いをされても絶対に許さない。

 

「あなたの猛攻、この王平子均が食い止めます。」

「あなたが何者なのか、私には関係ありません。私の刀で切り捨てます。」

「王平様だけではない!」

「うちらもおるで!!」

「私もいるの!!」

 

 どこにこんなに将がいたのでしょうね・・・。

 

「何人いても結果は変わらないというのが何故分からないのですか?一刀様を傷つけた者の仲間・・・殺されても恨まないで下さいね。」

「な、なんちゅう殺気や・・・。」

「おしっこちびりそうなの〜・・・。」

「三人とも、気を引き締めなさい。油断したら一瞬で首と胴体がお別れするわよ?」

「それは分かっています。」

 

 下手にやる気があるだけ厄介だわ。

 

「私は早くあなたたちを殲滅して一刀様のお側に戻らなければなりません!全力で行かせてもらいます!」

 

・・・

 

 夏侯惇と十数合切り結んでいるが、埒があかない。しかし・・・私は退けない!

 

「ぐっ!!そろそろ諦めろ!!」

「まだだ!私の中に諦めるという文字は存在しない!!」

「頭の固いやつだな!」

「どうとでも言え!」

 

 魏の大剣と言うだけあって流石にしぶとい・・・。もう一合切り結ぼうとした瞬間、後方から弓の嵐が飛んできた。私は思わず身を後方に退いた。

 

「姉者、無事か?」

「秋蘭か。助かった。」

「華琳様からの撤退命令は届いているな?」

「勿論だ。関羽、この決着は今度の機会まで預けておく。」

「待て!・・っ!?」

 

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「これ以上近づくと、弓の餌食になるぞ。姉者と切り結んでいたお前に、私の弓を捌けるだけの体力が残っているのなら追いかけてくるがいい。」

「くっ・・・。」

 

 逃してしまった・・・。私がいた前線は鈴が蹂躙した傷跡が残っている。

 

「関羽、無事?」

「孫策か・・・一応無事だ。」

「魏軍の中軍、後軍は取り逃がしてしまったが、三分の一程度は減らせただろう。」

 

 ご主人様の言われたことは一応達成出来たということか。

 

「とりあえずは急いで拠点に戻るぞ。こっちに戻る途中で負傷した張遼を発見して、近くにいた管轤に介抱してもらいながら拠点に戻っていたな。」

「そうか。霞が負傷したか・・・。」

 

 霞を打ち負かすほどの英傑か・・・。

 

「分かった。私たちも戻ろう。」

 

 私たちは駆け足で拠点へと戻った。戻る際には鈴の引き起こした暗雲は姿を消していた。

 

・・・

 

 拠点に戻った私たちは一目散にご主人様の眠る天幕へと駆け込んだ。

 

「ご主人様!」

「一刀!」

 

 横たわるご主人様へと視線を送るが・・・未だに意識は戻っていない。

 

「もう少し静かにしてくれ。さっき少しだけ意識を取り戻したが、弓が目に刺さったのが相当体力を奪われたらしくてな・・・また眠りに着いたところだ。」

「そうか・・・。」

「一刀が未だ目を覚まさないのは不安だが、私たちは次の戦に向け準備をせねばならん。」

「じゃあ私はこの事を命琳に伝えてくるわ。ついでに蜀の軍師たちと次の戦について話し合ってくる。」

 

 孫策は踵を返し、天幕を後にした。

 

「・・・孫堅さん、管轤ちゃん、一つ聞いてもいい?」

「どうした?藪から棒に。」

「良いですよ。」

「強くなるには、どうすれば良いかな?」

 

 ・・・。予想外な質問に思わず孫堅と顔を見合わせてしまう。

 

「一刀様が負傷したことは自分が助けられなかったから、力不足。そう思っているのですか?」

「・・・。」

 

 沈黙・・・図星のようですね。

 

「今回の一刀の負傷はお前のせいではない。弓兵の采配に気付かなかった私の落ち度だ。」

「ですが・・・気付いてしまったんです。ご主人様が倒れている今、太守である私がしっかりしないといけません。それで改めて考えてみると、ご主人様みたいに皆を支えられるのかなって。」

 

 話が進むにつれて桃香様の表情に影が差してくる。

 

「私、皆に甘えていたんです。見守ってくれているだけでいい。帰りを待ってくれているだけでいい。そんな言葉に・・・。それで、これが私の役目なんだって考えるようにしました。けど、ご主人様が元気になるか分からない今、帰りを待つだけじゃ駄目なんです。戦場に出てもじっとしていて、他の人に守ってもらうだけじゃ駄目なんです。ご主人様のように、王である私がしっかりしないと・・・。」

 

 良くない傾向ですね。相当追い込まれているのでしょう。このままでは無理をして体を制してしまいます。思案顔を続けていた孫堅がそっと一歩前に出た。

 

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「今の話を聞いた上で劉備、お前に一つ問おう。お前が強くなり、力を付けた後は将として戦に出る。そう考えていいのか?」

「はい。」

「では、人を殺す覚悟が出来ていると考えていいんだな?」

「・・・っ!?」

 

 桃香様が息を飲むのが聞こえた気がした。

 

「これはあくまで私の憶測の範疇だが、お前は人を殺したことがない。そんな者が将となり、戦場で兵を率いることが出来ると思うか?」

「・・・。(ご主人様が人を斬った時も暴走してた・・・。私は・・・っ!)」

「戦狂の私が言うのもなんだが、出来るものなら将になどならぬ方が良い。特にお前のような人の良い者はな。お前はお前のままでいた方が良い。・・・ふっ、お前が将として戦場に出ると知れれば一刀が卒倒するぞ?」

「けど・・・。」

「まぁ、最終的に決めるのはあくまで劉備、お前だ。それに、お前にはたくさんの仲間がいるしまだ若い。よく相談して悩め。私から言えるのはこれまでだ。では私は雪蓮たちと後の戦について話し合ってくる。」

 

 孫堅様も天幕を後にした。残ったのは私と俯いている桃香様、一刀の様子を診ている華佗と未だ眠りについている一刀様。

 

「桃香、そこまで思い詰めなくても良いんじゃないか?今回の件は桃香のせいではない。勿論、一刀のせいでも呉王のせいでもない。」

「私、どうすればいいんだろう?ねぇ、ご主人様・・・。分かんないよ・・・。」

 

 桃香様の瞳から一筋の涙が流れ落ちる。・・・もう見てられない。

 

「・・・少し外の風に当たってきますね。」

 

 私は天幕を出て、懐に入れていた携帯を手に取った。

 

「・・・、・・・、・・・はい。」

「菊璃様、お久し振りです。」

「久しぶりね。ちょうど良かったわ、そろそろこっちから連絡を入れようと思っていたの。それで、一刀の容態は?」

「先ほど意識を取り戻したとの報告を受けました。今はまた眠りについています。」

「そう・・・少し安心したわ。」

「それともう一つ、これは私個人の頼みなのですが、一度こちらの外史に来ていただけませんか?」

「私としても外史に赴く件であなたに連絡しようと思っていたの。私は一刀が心配でそっちに向かいたいのだけれど・・・他にも何かあるようね。」

「はい。」

 

 桃香様に起こっていることをありのまま菊璃様に伝えた。

 

「何だか昔の私と似たような状況になっているわけね。」

「はい。一刀様が不安定な状態な今、家臣である私たちで対処出来れば良いのですが・・・桃香様の決心もまた不安定な状態で、迂闊なことを言えば余計にお心を惑わせそうなのです。」

「分かったわ。劉備・・・劉姓なのも何か縁と思うし、そっちは私に任せて。」

「すみませんが、よろしくお願いします。」

「えぇ。あっ、影刀さんと私の家臣の何人かもそっちに行くから。6、7人くらいだけど、問題ないかしら?」

「えぇ。私たちが成都に戻り次第お迎えに上がります。」

「お願いね。」

 

 そう言うと通話を切った。・・・ふぅ、問題は戦だけでは済まないのが世の常なのでしょうね。

 

「誰と話していたのだ?」

「鈴さん、お疲れ様です。」

「完全に駆逐してやろうと思っていたのだが、途中から何やら怪しい視線を感じてな。今までその気配を追っていたとこだ。」

「怪しい視線・・・ですか。」

「近くまで追いついたのだがな、逃げられてしまった。白い装束を纏った者を見たのは分かった。」

「白い装束・・・なるほど。今回の件の黒幕がはっきりしました。」

「そうか。私は一刀の様子を見に行く。」

「えぇ。今は眠っていらっしゃるので驚かさないように気をつけてくださいね。」

「承知した。」

 

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 またあの男ですか・・・やはり前の外史で殺しておくべきでした。これは祝融たちに伝えなければなりませんね。

 

・・・

 

その頃、東京の北郷宅では緊急事態により会社から帰宅した霧刀、自宅にいた菊璃、それに加えてケ禹を筆頭とする菊璃の家臣が数名がリビングに集まり会議が執り行われていた。

 

「一刀が良からぬ輩に・・・ねぇ。管轤さんたちが向こうにいるのだから私たちまで動く必要はあるのか?」

「馬武、あなたには劉秀様の想いが分からないのですか!?一刀様を信頼する親の愛です!」

「何か懐かしいな。岑彭が愛について説き伏せているこの光景。」

「霧刀様、傍観に徹しておらず岑彭を止めてください。あれは語りだしたら止まらないのは分かられているでしょう?」

「ごめんごめん。」

 

 会議が始まっても懐かしい面々が集まると何故か緊張感がなくなり、話がすぐに脱線する菊璃と霧刀の家臣たち。霧刀がどうにか岑彭を止め、話をもとに戻す。

 

「本当は一刀を傷つけた者を私たちで殺しに行ってやろうと思ったのだけど・・・ケ禹に止められたわ。」

「俺が会社から帰ってくる前にそんなことが・・・ケ禹、迷惑をかけたね。」

「いえ、主の暴走を止めるのも家臣の務めですから。」

「なんだ、言ってくれればオレが皆殺しに行ってやったのによ〜。」

「そう言うと思ったから呉漢には言わなかったのです。はぁ、その性格と口調さえなければ女として魅力的なのですが・・・残念です。」

「ほら、また脱線しているわよ。とりあえず、簡潔に話すと・・・一刀と一緒に太守をしている子がどうも厄介な悩みを抱え込んじゃっているのよ。一刀に怪我をさせたのは自分の力不足なんじゃないか。ってね。」

 

 その言葉に菊璃以外の面々の視線が全て菊璃に向けられる。若干の笑み、又はにやけ顔を浮かべながら。

 

「どこかで聞き覚えのあるような話ですね〜。ねっ、劉植。」

「わ、私に振るんですか〜!?え、えっと〜・・・。」

「お前が考え事をするときに視線が泳ぐ癖、まだ治ってないんだな。」

「私は別に考え事など・・・話をどう逸らそうかなど考えていませんよ!」

「だからそう言うのがバレバレだって何で気付かないのかしら・・・。まぁいいわ。今回はその子・・・劉備って子の相談役として私が管轤に呼ばれたわけ。ついでに、左慈が動いている可能性が浮上してきたからそれの対処としてあなたたちを集めたの。分かった?」

「把握しました。」

「ぼちぼち。」

「大体は。」

「多分。」

「わ、分かりました!」

「俺も大丈夫。一刀の見舞いもしたいしな。」

「よし、決まり。じゃあ管轤がこっちに到着するまでうちに泊まっていきなさいな。」

「よっしゃ!飲み会だ!」

「あなた、少しは緊張感をですね・・・。」

 

 そんなこんなで菊璃たちの外史行きが決定したそうな。

 未だに一刀は目を覚まさぬまま夢の海を彷徨っていた。

 

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あとがき 読んでいただきありがとうございます。暗躍する影、怒りと混乱と悲しみと・・・ いかがでしたか?今回は主に管轤さんに頑張っていただきました。桃香は葛藤を抱えたままですね。さて、次回は一刀くんの母様たちが動きます。母様の正体については・・・気付く方には一発でバレたでしょうが、一応内緒♪ということにしておきます。それでは次回 第八節:ご主人様のお母様・・・私の覚悟 でお会いしましょう。

 

説明
何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。
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コメント
なんかもう、天下三分は無理な気がする・・・・・・(アルヤ)
祖父母とその仲間達もとんでもない面々でしたけど…両親とその仲間達もこれまたとんでもない面々で。この人達が一同に集結したらもはや何処に敵がいるのかという感じですね。(mokiti1976-2010)
あれ〜;;;な、なんか一刀の両親の会話がものすごいことに・・・もしこれで一刀が隻眼になったらさらに惨劇がおきそうな気が・・・(前原 悠)
名臣名将が揃い踏みでしたね〜、みんなが知ったらどんな反応を示すのやら(苦笑)(本郷 刃)
華琳がこの事実を知ったら、今度こそ卒倒するんじゃないでしょうか?漢の名臣の末裔がよりにもよって、ですから。それに中国史上最高と名高い一刀の母親はある意味で祖母以上のチートですので、目標としていそうな桃香がこれで大きく化けそうですね……(h995)
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