BRF プロトタイプ 序章 【習作】
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 我が国日本には「決闘罪ニ関スル件」と呼ばれる、明治時代から定められた法律が21世紀でも残っており、年に二桁ほどであるが立件の難しい傷害事件で適用された件もある。

 

 内容は“巌流島の決闘”に代表されるような、個人の誇りなどを守る為に行われる“決闘”を、治安維持を目的として法律で禁止し、それを破った者達は罰金や懲役刑を下すというものである。

 

 しかしそのような現状が、ここ数年で少し変化が見られる様になっていた。年々国内で多発する凶悪犯罪、それを未然に防ぐ手段を模索していたとある政治家が、アメリカのとある都市がストリートファイトを町興しの一環として容認し、結果として犯罪率の低下はもちろんのこと、観戦目的として集まる国内外の観光客や食品関係やスポーツ用品などのチェーン店がもたらす利益によって大きな発展を知り、わが国でもやってみないかと国会に提案したのだ。

 無論、反対意見も多かったのだが、国会にはかつて国民的人気を誇るプロレスラーや格闘家が議員として参加していた過去があり、彼等と親交があった議員達の賛成意見も根強く、結果として“試験的に期限付きで決闘を認める都市を一つ選び、しばらく様子を見る”という互いに譲歩した結論に達した。

 

 そしてその試験都市として選ばれたのは、北海道の道東にある都市“霧雨市”。ここはかつて炭鉱で取れる石炭と海で取れる水産物が街の発展を支えていた。しかしここ数十年でエネルギー資源が変化し炭鉱が次々と閉鎖したこと、そして数年前に東北で起こった原発事故の風評被害で水産物が海外に全く売れなくなった事で、霧雨市は年々人口が減り赤字を積み重ね、都市として崖っぷちに立たされていた。

 そんな霧雨市に政府は“新決闘法の試験的導入”という白羽の矢を立てる。新決闘法の主な内容は

 

 

1、 決闘を望む者はまず相手に果たし状を送り、相手が受諾したら役所に決闘の申請を送る。そして役所が指定した日時、場所、立会人、医療班の元で決闘を行う事。

 

2、 決闘では目潰し、金的、鈍器、刃物、銃器の使用は禁止である。が、場合によっては特例が用いられることがある。違反者は罰金、懲役刑が課せられる。

 

3、 決闘で相手に怪我等を追わせても基本罪には問われないが、相手を死に至らしめた場合、故意であると判断された場合のみ殺人罪が適用される。

 

 

 というものであった。

 

 新決闘法の適用から10数年、新決闘法は結果的に成功した部類に入っていた。

 市、ひいては国公認で街中で行われる決闘。インターネットが発展した昨今では決闘が行われる場所や日時、決闘を行う者達のプロフィールといった情報が簡単に集められ、さらにはプロレスや総合格闘技のプロ団体、柔道や空手道場が宣伝の為に積極的に決闘を行う事もあり、霧雨市は観戦目的で訪れる観光客がもたらす利益により、新決闘法適用前より発展することに成功していた。

 

 しかし当初の目的であった犯罪率の低下は、違う意味で達せられずにあった。確かに傷害や殺人などの犯罪は減少したが、代わり暴力団関係者が行う賭博目的の決闘、決闘に影響された小中高の学生によるいじめやそれを原因とした不登校率、自殺率の上昇、決闘による死傷者の増加、決闘を合法的に行う為に帰化した外国人の難民化など、霧雨市が経済の発展を得た代償としてはあまりにも大きかった。

 

 それ故、現在では他の都市では新決闘法の適用に強く反対意見を示す者が増え、霧雨市でも廃止するようにと、いじめ被害にあった生徒の家族や決闘で命を落とした者達の遺族、さらにはそれに便乗して人気を得ようとする政治家や人権団体等による反対運動が日に日に激化している。

 

 

 

 今の霧雨市は、格闘技を愛する者達には楽園、牙を持たない者達には地獄という二つの顔を持っていた……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 とある日の夕方、霧雨市駅前広場……この日もまた、決闘による路上の試合が行われ、その情報をネットなどで聞きつけたギャラリーが集まっていた。

 

 そして駅前広場にある芝生の上……そこでは今、二人の人物が戦っていた。

 一人は白い空手着の中に黒いTシャツを着こんだ、頭を金髪に染めている男、軽く汗を流しているが、オープンフィンガーグローブを嵌めた拳をブンブン振り回しながらヘラヘラと余裕の笑みを浮かべている。

 もう一人は両手にオープンフィンガーグローブを嵌めた、白いTシャツにジーパン、坊主頭の筋肉質の男が、顔面を赤く腫らしながら息を切らしている。衣服で隠れていて見えないが体中に打撲の跡がある。

 

「おらおらどうしたプロレスラー? もうちょっと粘れよ」

「く、くそ!」

 

 坊主頭の男は決死の覚悟で金髪の男に突進して行く。対して金髪の男は体をぐるりと回転させ、その勢いで突進してきた男の顔面に右の裏拳を叩きこんだ。

 

「ぐえ!」

 

 クリーンヒットした裏拳は坊主頭の男の脳を揺らし、意識をそのまま上の空へと吹き飛ばした。

 すると立会人である白いワイシャツに紺のネクタイを巻いた七三分けの男が、手を金髪の男の方に向けて試合終了を宣告する。

 

「勝者! 十弦流空手、小林出!!」

 

 ギャラリーから上がる歓声、それに笑顔で応える小林と言う空手家、一方彼に打ちのめされた坊主頭の男は、練習生らしき年若い青年に半身を起こされ介抱されていた。

 

「先輩! 大丈夫ですか!?」

「うぐぐぐ……」

 

 するとそれを見ていた小林が、ヘラヘラと笑いながら話し掛けてきた。

 

「はん! 八百長野郎はリングの上でダンスでもしてろよ! これに懲りたら俺らの流派に逆らうんじゃねえぞ!」

「くっ……!」

 

 歯をギュッと食いしばり悔しがる坊主頭の男と若者、そんな彼等に向けて小林は唾を吐きながら、歓声を上げるギャラリーに再び手を振って応えた。

 

「ちょっと待ったー!!!」

 

 その時、突然民衆の歓声を引き裂くように、白い胴着に青い袴に身を包んだ、無精髭にぼさぼさの寝癖だらけの髪を生やし眠そうな目をした男が、常人ではありえないような跳躍力でギャラリーの頭上を飛び越え、小林の前に降り立った。

 とんでもない登場をした男に唖然とするギャラリーや坊主頭の男達、しかし小林はその様子を見ておらず、怪訝な顔をしてその袴の男の方に顔を向けた。

 

「ああん? なんだお前?」

「兄ちゃん……その手の中の物を見せな」

 

 袴の男がそう言った途端、小林の顔色が変わる。一方ギャラリー達は袴の男が何を言っているのか解らず何人か首を傾げていた。

 

「その手の中の……石ころを見せろって言ってんだよ」

「な、何言ってんだよ、この手には何も入ってねえよ!」

 

 頑として掌を開こうとしない小林を見て、ギャラリーはようやく彼が手の中に何か仕込んでいる事に気が付く。

 一方袴の男は往生際の悪い小林を見てはぁっと溜息をつく。

 

「ったくしょーもない男だ、おい立会人」

「え!? あ、はい!」

 

 いきなり自分が呼ばれ驚く七三分けの男。袴の男はさらに話を続ける。

 

「これから俺、こいつと決闘すっから、受領よろしく」

「えええ!? いやそういうのは一度役所の許可を得ませんと!」

「んなもん後からでいいんだよ! 得意だろそういうの!!」

 

 そして袴の男は両掌を開きながら前に突き出し、爪先を開いて両足で地面をしっかり捕え、右半身で構えながら小林を見据える。合気道の基本中の基本の構えだ。

 それを見た小林はぷっと吹き出した。

 

「ぷはははは!! 何だよお前! 馴れ合い合気道かよ! 俺を謎パワーで吹き飛ばすってか!?」

 

 合気道……柔道や空手といった格闘技と違い、 “勝敗の無い格闘技”と呼ばれ、合気道の演武を見て“相手とのなれ合いでやっている”などと揶揄する者もいる。

 が、袴の男はそんな小林の侮辱を受け流し、不敵な笑みを浮かべて挑発する。

 

「馴れ合いかどうかは自分の体で試してみたらどうだ? テメエのような卑怯者の雑魚は5秒もかからずに地面に叩き伏せてやんよ」

「……!」

 

 その言葉にカチンと来たのか、小林は目に殺気を漲らせながら構える。

 それを見た袴の男はにやりと笑い、七三分けの男に大声で話し掛ける。

 

「立会人!! 死合開始だ!」

「え……あ、はい!」

 

 その瞬間、思いもよらないスペシャルマッチに観客は湧きあがり、七三分けの男は否応なく試合開始を告げる。

 

「は、始め!」

 

 次の瞬間、小林は一気に駆け出し拳が届く距離まで詰め寄り、右腕を大きく振りかぶる。

 

「死ねえええええ!!」

「―――!」

 

 一方袴の男は、素早く左足を右斜め前に踏み出し、突き出した左の掌を小林の顎に当てる。そのまま重心を置いたまま左腕をグンと伸ばした。

 

「うお!?」

 

小林は拳を当てる前に地面にひっくり返るように倒れる。そして彼の視界に、袴の男が履いていた黒のサンダルの裏が映り込んだ。

 

「せい!!」

「がぷ!!!?」

 

 袴の男は小林を転ばせるとすぐに小さく飛び上がり、彼の顔面を右足で思い切り踏みつけたのだ。

 全体重を乗せた攻撃を受けて、小林は小石を握っていた右手をぱかっと開けてぴくぴく痙攣していた。戦闘不能なのは誰が見ても明らかだった。

 それを確認したゆっくりと小林の顔面から足を退けた。

 

「三秒も掛からなかったな」

 

 余りにも短い時間での決着、その戦いを見ていた人間達は状況を把握できていなかった。

 

「しょ、勝者! えっと……」

 

 そして七三分けの男が勝者である袴の男の名前を言おうとするが、名前を知らなかったので言いよどんでしまう。

 すると袴の男はそのままきちっとした姿勢で正座し、頭をぺこりと下げた。

 

「葵流合気道、葵 道信だ……リベンジならいつでも受けてやる。まあそんな根性じゃあ千回やっても勝てないだろうがな」

 

 そして袴の男……道信はパッと立ち上がり、待機していた仲間達や医療班に介抱される小林に背を向け、呆然としているプロレスラーと練習生に歩み寄った。

 

「悪いな、アンタの仕合に水を差しちまって、でもあの男の武道を侮辱する行為がムカついたから勝手に叩きのめさせてもらったぜ」

「あ、ああ……」

「にしてもよー」

 

 道信はボコボコになったプロレスラーをまじまじと見つめ、そのままふうっと溜息をついた。

 

「アンタさ、あの男が手になんか仕込んでいたの知ってたんだろ? なんで立会人に言わなかった?」

「見ていたのか……」

 

 道信に指摘され、プロレスラーは黙り込んでしまう。そして意を決して顔を上げた。

 

「俺の尊敬する先輩が言っていたんだ。“プロレスラーは凶器攻撃だろうが反則技だろうがすべて受け切ってこそ最強のプロレスラー”だってな、あの男の反則にペースを奪われた俺が未熟だったんだ」

「そ、そりゃまあ何とも……無茶苦茶言う先輩だな」

 

 驚愕する道信を見て、練習生に肩を借りて立ち上がりながらふっと笑うプロレスラー。

 

「本当にな、でも先輩は……五十嵐さんはそれを実践して、本当に最強になっちまった。多分アンタより強いぜ」

「ほう? そりゃあ興味深い。今度手合せ願いたいねえ」

「残念ながらあの人はもう引退している。娘さんがプロレスラー目指しているみたいだが……」

 

 するとそこに、救急隊員の格好をした医療班がプロレスラーに話し掛けてきた。

 

「すみません、貴方も病院へ……一応検査を受けて貰いますんで」

「わかりました」

「んじゃ、俺は行くわ」

 

 道信はそのままプロレスラーに背を向けて歩き去って行った。

 

「今度アンタともやってみたいわ、だからさっさと怪我治せよ」

「ああ、わかった」

 

 そして道信は称賛の声を送るギャラリーをかき分けてその場から去って行った。

 そんな彼の後姿を見て、プロレスラーに肩を貸す練習生が感嘆の声を上げる。

 

「合気道って……本当は強いんですね」

「だな、実戦で目の当たりにして思い知ったよ、俺達もまだまだ頑張らないとな」

 

 そう言ってプロレスラーは練習生と共に救急車に乗り込み、その場から去って行った……。

 

 

 

 勝敗の無い武術である合気道、が……勝ち負けを競わず、常に自分と向き合う、心身の成長が技に現れる武術でもある。武道全般に詳しい者達の中には、“合気道は中国拳法と並び、すべての格闘技の中でトップクラスの強さを誇る”と言う者もいる。

 

 はたしてその者の言葉は真実なのか、確かめる術は限られている……。

 

 

                               続く

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 ☆おまえにも あとがきが あるだろう……☆

 

 てなわけで一発目は合気道の入門の本を買ったので折角だし……という訳でこんな感じになりました。習作なんでクオリティ低いですね……。

 作中、道信が使っていた返し技は実際に護身術として使われている技なので、皆さんも誰かに殴り掛かられた時は使ってみてはどうでしょう? タイミングはシビアらしいですが。

 

 次回はもっとにゃんにゃんエロい感じで行こうと思ってます。

 

説明
※この作品は某小説大賞に投稿しようと思っている各ゲー風ラノベ作品の設定のプロトタイプを、短編として試験的に書いた作品となっております。

※気弾とかバンバン出ます。ストリートファイターとかKOFみたいな世界観だと思ってくれればOKです。

※掲載は不定期です。今回みたいに男くさいものもあれば、キャットファイトやミックスファイト的な作品も思い付けば入れていくつもりです。
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コメント
合気道を馬鹿にする空手家がいたら本当に蛮勇ですけどねー。合気道が一番怖いってわかってますもん。(まな)
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習作 格闘 短編 

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