ガールズ&パンツァー ガール・ミーツ・パンツァー 後編 |
私の名前は武部沙織。
大洗女史学園戦車道、あんこうチームの通信手だよっ!
ちなみに彼氏も募集中! 私、結構尽くすタイプなんだから!
…といっても、今の私は三途の川の前で臨死体験してるらしいけど。美人薄命って本当みたい。
そんな私の前に川原の石を蹴散らして現れた見知ったフォルム。それは私達が乗るW号戦車に間違いないと思う。
「おや、これは可愛らしいお嬢さん(フロイライン)だね。こんな所でどうしたんだい?」
だけど、キューポラから顔を出したのはみぽりんじゃなくて白髪のかかった初老のお爺さん。しかも着てるのは野戦服、だよね。ゆかりんに見せてもらった事があるよ。
それにしてもおかしいな、確かに私達の乗ってる戦車だと思ったのに。私が砲塔の横に回って確かめてみると。
「あー! やっぱり私達のW号!」
そこには私達が使ってるあんこうチームのマークがしっかり残ってたんだから、間違いないよね!
「ふむ、私の相棒を知ってるのかい? それは是非お話を聞きたいね。どうだろう、少しの間相乗りしてもらえないかい?」
「い、いいですけど。これ、私達の物ですからね!」
「ああ、君のようなお嬢さんの持ち物だというのは嬉しい事だ」
うーん、このお爺さんの言ってるのってどういう意味なんだろ。
ちょっと不気味だけどここに居ても仕方ないし、私達のW号がどうしてこんな所にあるのか確かめないとね。
「うわ、お爺さん一人で動かしてたんですか?」
乗り込んでみると中にはお爺さん一人しかいないよ。この人、操縦手だったんだ。
「いやいや、私は車長だったよ。今は相棒が動いてくれてるだけさ」
「ええー…?」
そう言ってる間にW号が勝手に走り出しちゃった。もうなんでもありなんだね、ここ。
「それよりも聞かせてくれるかい? 君達とこの戦車の事を」
どうしてこのお爺さんが私達の事を知りたいか気になるけど、まずはこっちから自己紹介した方がいいかな。
「私は武部沙織っていいます。大洗女史学園の2年生で…」
私の話を嬉しそうに聞くお爺さんを乗せて、W号は川原をごががっと走り続けていったよ。
「それで、私達は大洗で優勝パレードしたの! 町の皆も迎えてくれて大賑わいだったんだから!」
「それは最高の気分だっただろうね。ところで、お嬢さんの言う素敵な彼氏は見つかったかい?」
「うっ。それは…」
出迎えてくれた人は大勢いたけど、私に手を振ってくれたのはちょうど目の前のお爺さんみたいな年配の人ばかりだったの。いや、お祝いしてくれるのは素直に嬉しいしんだけど。もうちょっとこう、頑張ったご褒美的な出会いはなかったんだろーか、ホントにもー。
「きっとまだその時ではないのだろうね。大丈夫、お嬢さんみたいな素敵な子ならきっといい人が見つかるさ」
「あ、ありがとうございます」
お爺さんのフォローに苦笑いするしかない私。
確かに一理あると思うんだけど、待ちの姿勢は私らしくないと思うんだよね。
と、そこで急にW号の振動が止まったよ。どうしたんだろ?
「おや、もう着いてしまったか。楽しい時間とは早く過ぎるものだけど、ここでも同じなんだね」
「どこに着いたんですか? 本当に帰れるんですか?」
ひょいっと軽い足取りでW号から降りたお爺さんを追って私も降りるよ。
外に出て思い出したけど、ここって三途の川。つまり今の私は臨死体験中ってわけで。今さらだけど家に帰れるか不安になってきちゃう。
「帰れるさ。もっとも、私はここでお別れだけどね」
「…あ」
そこにあるのはさっきよりも広くて大きい川と、黒いフードを被った人を乗せた舟。
なんとなく、あの人のお迎えなんだって分かった。
「お嬢さん、結果的に見送ってもらう形になったけどありがとう。君は相棒と帰るといい」
「で、でも…」
私はお爺さんが舟に静かに腰を下ろすのを見てるだけしかできなくて。
「君はまだ若い。家族や友人との時間がまだまだ残っているはずだ。それを忘れちゃいけない」
お爺さんは私とW号に笑いかけた。それはとっても嬉しそうで。
「私の相棒は戦争が生み出した悲しい物だと思っていたけど。君達みたいな子の役に立てたのなら、それは本当に嬉しい事なんだよ。相棒もきっとそう思っているはずさ」
フードの人が静かに舟をこぎ始める。私達はお爺さんと少しづつ離れていく。
「お別れだ相棒。お嬢さん、いや武部さんと仲良くな」
お爺さんを乗せた舟が見えなくなったころ、W号のライトがちかちかと光った。まるで乗ってくれと言ってるみたいに。
「…これで、よかったのかな」
私の言葉に頷くように、W号は一度だけエンジンの音を響かせた。
その後、私はW号に乗って霧の中を走った。
そのうち眠くなっちゃって、気がついたら病院のベッドの上だった。
戦車道の練習中に転落。
頭を打って救急車で搬送。
駆けつけるお父さんとお母さん、妹。
丸一日の意識不明。
泣きつく麻子。
後で聞いたのはこれくらい。結局、あの場所であった事は私にも良く分からないままになった。
と、思ってたんだけど。
「そりゃきっとハインツさんだね。ちょうどアンタが担ぎ込まれた日に往生したのさ」
「ハインツさん?」
ちょうど検査入院に来た麻子のお婆ちゃんに聞いてみると、思いもしない答えが返ってきたよ。
ちなみに私も検査入院という事で暇を持て余していた。だからこそ話したんだけど。
「昔、終戦後にドイツから戦車道の教導のために渡航した人さ。アタシもお世話になったから葬儀に顔を出したしね」
そっか。だから私達のW号の事を知ってたんだ。
今じゃ男の人が戦車道を教えるっのて珍しいけど、昔はそうでもなかったのかな。
「…あれ? じゃあお婆ちゃんも?」
「昔はV突でブイブイいわせたもんさ。あの子には内緒だよ?」
うわー。麻子の操縦センスって遺伝だったんだ。
意外な、というか納得の事実だね。
「それにしても本当に嬉しい事、か。あの人らしい言葉さね。本物を知るからこそ言える言葉さ」
本物。
あのお爺さん、ハインツさんは本当の戦争を知ってるから。
その辛さや悲しさを知ってるから、戦車道をしてる私達を知って喜んでくれたのかな。
最初は誰かを傷つけるだけだった相棒が、誰かを助ける事ができたから、嬉しかったのかな。
「別に気を張る必要はないよ。アンタ達は自分らしく楽しめばいい。それがあの人への供養になるってもんさ」
「…そう、ですね」
麻子のお婆ちゃんはそう言うけど、やっぱり少し気合入っちゃうな。
退院したらハインツさんのお墓に挨拶に行こう。そして、皆と精一杯戦車道を楽しもう。
もちろん恋も忘れずに、ね。家族や友人の他に未来の彼氏を加えてもいいよね?
「それよりアンタは自分の事を心配するべきだよ」
「え? 別に精密検査ってだけですよ?」
「頭の精密検査をするんだから…髪の毛は邪魔だよねぇ?」
「………え゛」
まさかそれって、丸坊主っ!?
「いやぁー! 髪は女の命なんだよっ!」
「本当の命よりは大事だと思わないかい?」
うぐっ! 今の話を聞いた後だと反論しづらい! さおりん大ピンチ!
その後。
担当のお医者さんに頼み込んで最小限の被害で済ませた私ってば凄いと思う。
その最小限の被害でもしばらく帽子を手放せなかったけど。
説明 | ||
近いうちにと言いながら大分遅れてしまって申し訳ありません。 前編と変わって少しシリアスチックに。 |
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