英雄挽歌 |
荒野に突き刺さった丸太。そこに括り付けられている女性――サツキさん。彼女を守護するかのように、斧を持った怪物が立ちはだかる。
「おのれ怪人ピクルスめ! サツキさんを人質にするとは卑怯だぞ!」
「きゃーたすけてー」
「待っていてくれサツキさん! 君は必ず僕が助け出してみせる!」
瞳に炎を宿らせて、暁太一は叫んだ。その右腕を天高く掲げる。
「人間に正体を知られたら俺はカタツムリにされてしまうが、しょうがない。サツキさんを助けるためならば俺は喜んでカタツムリになり、マイマイカブリに食われよう! いくぞッ! 変身ッ!」
掲げた右腕のブレスレットがまるで太陽のように輝き、光が太一の姿を隠した。それは一秒にも満たない時間だっただろう。光が掻き消え、勇者が現れる。
「天が振るえ、地が割れる! 暗黒勇者! サンッダァァァァッゼェェエエエエッットッ!! 只今ッ! 見ッ参ッ!!」
説明しよう! 暁太一は亜空間ファイバーエネルギーを右腕のブレスレットから得ることにより暗黒勇者★サンダーZへと変身するのだ!!
3メートルはあろうかという紫のマフラーが風になびく。真っ赤な全身タイツに黄色のフルフェイス。鎧なのだろうか、防弾チョッキのような金色のベスト。そこには、異形の戦士・サンダーZが立っていた。
「か弱き乙女を盾にするなど、神が許しても私が許さん!! 怪人ピクルスめ! 塵に変えてくれるわ!!」
「そ、そんな……太一さんが暗黒勇者サンダーZだったなんて……ッ!」
戦くサツキさん。暗黒勇者サンダーZの正体が恋人の暁太一だったのだ。当然の反応だろう。確かに俺は君をだましていたかもしれない。だが、俺は決して君を裏切ったりはしない!
安心してくれ、サツキさん。もう大丈夫だ。サンダーZが現れたからにはもうなにも恐ろしいことなどない。そう。俺こそが。暁太一こそが。
君のヒーローだ!!
「現れたな暁太一! いや、サンダーZッ!! 積年の恨み、ここで晴らしてくれるわ!!」
巨大なアリの姿をした怪人、ピクルスはその手に持った斧をサンダーZめがけて投げ捨てた。造作もなく、片手で受け止めるサンダーZ。が。
斧はサンダーZが受け止めた瞬間に爆発した。まるで原爆写真のようなキノコ雲が上がる。
「ぶわははは! バカめ、それは斧に見せかけた強力な斧型爆弾だッ!」
「た……太一さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
泣かないでくれサツキさん。俺は君を悲しませたりはしない。なぜなら俺は、暗黒勇者サンダーZだからだ!
爆風から躍り出る影、いや、サンダーZ。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁあああああああああッ!!」
振りかぶる。これはただの拳ではない。暁太一の貧弱な拳ではない。岩を粉砕し、鉄を粉と砕く鋼の拳。サンダーZの拳だ!
「ば、ばかな! あれだけの爆発を受けて無傷だとッ!?」
驚愕する怪人ピクルス。その一瞬が、怪人の命運をわけた。一切の防御が間に合わず、戦慄の表情を浮かべる顔面に、鉄拳が容赦なく突き刺さる。大切な何かが、壊れる音がした。
「げギョうウウぅぅゲエエエェェェェェェ」
奇声とともに、怪人ピクルスは絶命した。怪人の名に相応しい、壮絶な最後であった。
夕日を背景に、抱き合う影。暁太一とサツキである。
「太一さん……たとえあなたがサンダーZだとしても、私の気持ちは揺るぐことはないわ」
「サツキさん……」
「たとえあなたがカタツムリになったとしても……私はあなたを愛し続けるわ……永遠に!」
初めてのキスは少ししょっぱかった。
最後のキスは涙の味がした。
俺は幸せ者だ。こんなにも美しい人に愛されたのだから。
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説明しよう! 暁太一は亜空間ファイバーエネルギーを右腕のブレスレットから得ることにより暗黒勇者★サンダーZへと変身するのだ!! | ||
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