本【BL/進撃/ライベル】 |
ベルトルトはよく本を読む。
大体が大学の図書館で借りてくる本で、ジャンルも様々だ。
話題になっているファンタジー小説を読んでいたかと思うと、次の日には天文学の本、また次の日にはミステリー小説。
ああ、絵本なんて日もあったな。
本当に雑食だ。
文学専攻でもないのによくもまあこれだけ活字漬けでいられるものだ、と思う。
本人曰く、「アルミンほどじゃない」そうだが‥活字というものがどうも苦手な俺からしたら、飽きもせず黙々とページを捲っていく姿には一種の異様さすら感じられる。
『活字中毒』とはよく言ったものだ。
ベルトルトにとって、活字はなくてはならないもの‥まさに麻薬だ。
だが、そんなベルトルトが唯一手に取らないジャンルがある。
いわゆる『恋愛小説』というやつだ。
「好きだとか愛してるとか騒いで、裏切ったりくっついたり‥忙しいね」
一昨日、巷では大ヒットだった恋愛映画のテレビ放送を二人で見ていたときのことだった。
溜息混じりに呟いた言葉。
「僕なら、ただ黙ってついていく」
ベルトルトらしいと思った。
恋愛小説を好んで読まない理由もおそらくその、溜息の中にあるのだろう。
だから今日、ベッドサイドに置かれた本を見て驚いた。
古ぼけた装丁の厚い表紙に、細い金色で箔押しされた題名は、俺でも知っている有名なもので。
「確かこれ‥ごてごての恋愛小説、だよな…」
「ああ、それね。後輩が研究室に置いてっちゃったんだ。届けてあげようと思ったんだけど‥行き違いになって」
大勢の人が借りて読んだであろう綺麗とは言い難い本を眺めていると、風呂からあがったベルトルトが寝室に戻ってくる。
「で、面白かったのか」
「ライナー、この話の結末、知らないの?」
有名な本とはいえ、読んだことがあるわけではない。
素直に頷く。
俺に背を向けてベッドへと腰を下ろしたベルトルトの表情は見えない。
よく育った体は俺より大きいというのに、その背中はいつも頼りなさを醸し出す。
「死んじゃうんだ。ふたりとも」
いつもと変わらぬ低く穏やかな声にハッとする。
無意識のうちにベルトルトの肩へと伸ばしていた手を、ごまかすように腕組みをしてみせた。
もちろん、ベルトルトには見えていないのだが。
「‥悲恋ものなのか。戦争の話だろ?」
「うん。一緒に国の為に戦ってたんだ。けど、戦況が悪化して女の人が捕虜になるかもしれなくて」
話しながらベッドに潜り込む長身を追って、自分もベッドに入る。
大柄な男二人では狭いベッドだが、まだ夜は薄らと冷えるからいいだろう。
いつものように向かい合わせで、しかしくっつくわけでもなく、話は続く。
「ただ二人でいることすら許されないのなら、って最後はふたりで特攻してく」
「そりゃあ‥心中みたいなもんか」
「‥だね」
沈黙。
微かに眉を下げて悲しげな笑みを見せたベルトルトは、何か言葉を探しているようだった。
狡いとわかっていながら、俺は待つ。
「ライナー、僕は黙ってついていくけど…心中はしないよ」
「なんだ。いきなり」
「だって‥」
何を言い出すのかと思えば。
恋愛映画に毒づいていたのと同一人物とは思えない。
これじゃまるで小説に酔って‥ああ、酔うから嫌うのか。
「大体、俺とお前とが心中する理由がないだろ。こうして二人で過ごせてるのに」
「そう、だね」
またも曖昧な笑みを向けられて、どうしたものかと息を吐き出す。
俺には何がベルトルトを不安にさせるのか、わからない。
「ライナー」
「なんだ」
「心中すると、天国で会えないんだって」
「そうか」
「生まれ変わって一緒になることも、できないんだって」
「心中はしない。だからもう寝ろ」
まだ完全に水分の抜けきっていないベルトルトの髪を撫でる。
ベッドに入れば目線の高さは同じだ。
「‥うん」
小さく頷いて珍しく身を寄せてきたベルトルトの背を、一定のリズムで弱く叩いてやれば、
程なくして聞こえてくる静かな寝息。
起こさぬようにベルトルト越しにサイドテーブルに手を伸ばし、小さな灯りを消す。
「お前は俺と‥心中するつもりだったのか?」
暗闇に短く響いた自分の声に違和感を覚えながら、目を閉じた。
説明 | ||
舞台は現代。ライナーはベルトルトを見て思う。こいつは活字中毒者だと。 ベルトルト視点『夢』(http://www.tinami.com/view/594886) |
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