XrossBlood -EDGE of CRIMSON- (クロスブラッド-エッジオブクリムゾン-) 第一話[1]
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   0/廃屋

 

 ――燃えさかる炎の中で何かが消えた。

 街の中心からは西北西に位置する場所。

 道は他の場所同様、きちんと整備されている。だが家屋は何かしらの事情により人々が立ち退いた空っぽの世界。今となっては建物がかろうじて形を成して残っている。

 普段ならば朝には陽の光が建物を照らし、夜には静寂の闇に包まれる、それだけの世界。

 だが、この日の夜は、違っていた。

 闇が支配するはずの街並みは、黒ではなく赤に染められている。

 無人街の一角に建つ廃屋。

 そこでは黒の世界を破ろうとそそり立つ一本の火柱が存在していた。

「……今宵は、赤が映える、いい夜だ」

 火柱の前に佇む人影があった。

 黒いローブを羽織った人物は燃えゆく建物を見上げていたが、しばらくするとそのローブを脱ぎ捨て炎の中に投げ入れた。

「お前たちも、よくやってくれた」

「キィィィィィ」

 男の周囲には無数の火の玉が漂っていた。

 それらは不規則な動きをしながら何か音――声のようなものを発している。

「そうだな、そろそろ行くか」

 廃屋が崩れ、火の勢いが弱まりだしたと同時に遠くの方でサイレンの音が響き始めた。

 男は漂う火の玉を消した後、その場を去ろうと、廃屋の門をくぐり道路へと出る。

 その時、微かな機械音が男の耳に入った。

「ん?」

 辺りを見回すと、街灯の上に防犯カメラがまるで獲物を見つけたかのようにこちらを凝視している。

「まいったな、見つかっていたか」

 呟いた言葉ほど困惑した表情も見せることなく男は近くに小さな火の玉を発現させ、命令を出した。

「行け!」

「キィィ!」

 火の玉は真っ直ぐにカメラに向かっていき爆発した。

「……しかし、この俺が気付かなかったとは」

 あまりにも初歩的なミスに対して疑問を投げ掛けたが答えが出ない。

 だが、ここで男はある重要なことに気付いた。

 それは、気付かなかった、というより……。

「どういうことだ……ここに来るまでの記憶が……浮かばない!?」

 男は抜け落ちた記憶の欠片を探ろうと、こめかみの辺りに指を当て、考え込もうとした。

 その直後。

「ぐっ、うわあああああああ」

 頭の中で何かが焼ききれるような感覚に襲われ、男は顔に手を当てうずくまる。

(俺はナゼ、燃やシテいるのダ。わかラない。ワかラナい)

「何……だと?」

 男には自分が発している言葉すらよく理解出来ていなかった。

 だが唯一理解できたものがある。

 それは、自分の首にある十字の痣からの出血だった。

「なんなンダ、これは……まさカこれが」

(キィィィィ、キィィィィ、キィィィィ)

「……!!」

 実体化させていないはずの赤い妖精達の声が聞こえた気がした。

 そして、

「がっ、がああああああああああ」

 男から、獣の様な叫びと、赤い霧のようなものが立ち込めた。

「これが……呪われた……本能、というやつか」

(キィィィィ、キィィィィ、キィィィィ)

 姿無き妖精が声を頭の中に響かせる。

(キィィ、キィ、キィ。ワタシハオマエト、ヒトツニ、ナル)

「……人の、言葉を、話すのだな」

(ワタシハ、モトモト、オマエノ、“チ”ノイチブダ)

「……そうだったな。……俺の時間は、もう終わりか」

 男は無意識に、そして冷静に呟いていた。これから起こることが分かっているかのように。

「ソノカラダハ、ワレラガ、キョウユウ、スル。オマエ、ヒトリノ、モノデハナイ」

 男の周りには、いつの間にか、大小様々な火の玉が漂っていた。

「ならば、入ってこい。いや、……戻ってこい」

「アア、ソノツモリダ」

 火の玉達は円の中心――男に向かって一斉に飛び掛った。

 

 一刻ほどの時が流れて。

 廃屋よりも高くそびえたった火柱の根元に、男が立っていた。

「は、はは、はーっはっハッはっハッはっハッ!!」

 一つの固体から、複数の笑い声が聞こえる。

 高笑いを残し、男は佇んでいた

 ――燃えさかる炎の中で何かが消えた。

 

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