ウォーシップガンナー2 鋼鉄の咆哮 〜海原往く大鷲の航跡〜 第3話 漂流者たち
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 第11艦隊の泊地から単独で出航し、丸二日が過ぎた。

現在、艦はアラスカ半島とその先にあるウラニク島の狭い海峡を通過しようとしていた。

北国らしい相変わらずの寒空だが、特に陸地に積もった大量の降雪がそれを物語っている。

『艦橋、CIC、定時連絡。現在のところ、対空、対水上、対潜目標無し。』

「CIC、艦橋。 了解した。 半舷交代まであと30分だ、最後まで気を抜くな。」

艦長席の横にあるインターフォンを置くと、カイトはおもむろに立ち上がる。

「艦長、どこに行かれるのですか?」

「ああ、外の哨戒係を早めに交代させてやろうと思ってね。 この天気じゃ、特にな・・・。 副長、悪いがしばらく操艦は任せる。」

「はっ、頂きました。」

カイトは艦長席に無造作にかけていたコートを手に取ると、それに袖を通しながら艦橋後部へと向かった。

 

後部甲板に続く防水扉を開けはなった時、そこから冷気がヒュウウゥゥと吹き込んだ。

案の定、その寒風に吹かれていた哨戒係は

固定式の双眼鏡にしがみつく様に寒さに震えていた。

「・・・少し早いが、交代しても良いぞ。」

「はっ、ではよろしくお願いします!」

余程寒さに耐えかねていたのだろう・・・。

「いえ、時間までやらせていただきます。」とは言わないのだなとカイトは思いながら苦笑した。

念のためというか馬鹿の一つ覚えのようだが、とりあえずグルリと

双眼鏡を覗きながら360度回転させる。

特に不審な物は見られない。

この望遠鏡を用いての哨戒、カイトは意味があるのかどうかすら疑わしく思っている。

艦全体を上から見下ろすような場所から、双眼鏡を使って接近する敵の詳細を目視で確認し、それを艦橋に告げる。

だが、その役割はほとんどがCICが担っている。

それどころか、新深度に潜航した潜水艦や近頃列強が開発中のジェット戦闘機は、接近まで視認が困難になるだろう。

だが、それをもこの艦のレーダーやソーナーは探知してしまう。

そんな新時代の戦闘が主体とするこの艦に、この双眼鏡は必要なのだろうか・・・?

「必要だと、思いますよ・・・。」

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その時艦橋付近左甲板、ちょうどカイトの真下から彼女の声が聞こえた。

無邪気にこちらに手を振る彼女こそ、この艦の魂である“フレースベルグ”。

「君は・・・どうしてそんな所に?」

「どうしてそんな所にって、私は艦のどこにでも行けますから。」

まあ、行き来というか艦そのものならクルーたちが彼女の上や中を移動しているような感じなのだろうか。

「そうか・・・それより、さっき何かが必要だと言わなかったかい?」

「その双眼鏡の事ですよ。」

迷いもせずに彼女が言い放ったその言葉に、カイトは驚くのだが表情にはほとんど出ない。

「なぜ、それを? 人の心でも読めるのかい?」

「いえ、でも艦長さんが双眼鏡をつまらないものみたいな感じで見ていたので、多分そうじゃないかなぁと思いましたから。」

そんな顔で見てたのかと無意識の自分の行動に驚くとともに、彼女の洞察力のすごさに感心する。

「そうかもしれないな・・・わかった、ならば初心に戻って職務を全うさせてもらうとしよう。」

カイトが再び双眼鏡を覗く。

やっぱり、何も不審な物は見えない。

「・・・ところで、そんな恰好で寒くないのか?」

「はい。 私に寒さなんてありませんから。」

先日の襲撃時、赤い血を流した“シェルドハーフェン”を思い出して、もしやとも思ったがどうやら違ったらしい。

しかしあの後、艦内の医務室にこぼれた筈の彼女の赤い血を拭こうとして人を向かわせたが、その床には血のシミすら無かったらしい。

まだまだ、不思議な事だらけだ。

現実的にも、オカルト的にも・・・

「・・・ん?」

その時、カイトが双眼鏡の先に何かを発見した。

白銀の光が水面から、曇天の空めがけて飛びだしたように見えたのだ。

双眼鏡を再びその方向に双眼鏡を戻す。

「なんだ?」

しかし、その方角に戻してもやはり何も見えない。

「気のせい・・・あっ!?」

気のせいでは無かったらしい。

再び同じ場所から白銀の光が花火のように打ち上げられる。

「あれは、救難信号・・・まさか。」

さらに高倍率に変えて、その方角を見つめると・・・居た。

五隻程の小さなボートに満載の人々が、必死にこちらに向けて手を振るなり何か叫んでいる。

曇天に僅かだが霧が出ている、危うく見落とすところだった。

(しかし、なぜCICから連絡が無いんだ?)

すぐさま、近くにあったインターフォンをひったくるように掴むと全艦放送に繋ぐ。

「こちら艦橋後部観測台、艦長よりCICへ。9時方向の高い崖付近に数隻のボートを発見! 救難信号を発している模様! 探知は出来なかったのか!」

『こちらCIC、反応が内火艇にしては微弱で静止していたので、てっきり鉱物を含んだ岩の反応だと・・・』

それを聞いた途端にとてつもなく腹立たしくなった、それは探知が出来なかった彼らに・・・?

疑問が浮かんでいたが、とりあえず彼らにも非はあることは確かだ。

「馬鹿者!! 言い訳をするな! お前たちの訓練不足だ!」

『す、すみません。 以後、気をつけます!」

「機関停止! すぐさま内火艇を降ろし、救助に向かわせろ!」

インターフォンを装置の中にしまい込み、自分は艦橋の方に向かう。

「見つけられてよかった。 それでは、頑張ってきてくださいね。」

“フレースベルグ”がにっこりとほほ笑んだ様子で彼に語りかけた時、カイトは思い出した。

自分が本当に怒るべき対象。

それは最先端技術を過信して、本来の無ければいけない筈の設備を不要とさえ思っていた自分以外の何物でもなかった。

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「慎重に降ろせ! 素早く、だが確実にな!」

カイトよりも年上の伍長が、若手が数人がかりで降ろしている内火艇を見ながら声を張り上げる。

「お、艦長・・・その格好は?」

そこにカイトが現われ、伍長が彼の格好を見て眉をひそめる。

彼は内火艇で救助に向かおうとしていた乗組員と同じく、グレーのヘルメットにライフジャケットを着込んでいた。

ただ一つ違ったのは、ライフジャケットの後ろに[艦長]と書いてあったことだけだ。

「私も、救助に向かおう。 艦橋は副長に任せてきたから大丈夫だ。」

「しかし・・・相手が武装した海賊でないとも限りませんが・・・。」

そう言われたものの、カイトは艦橋後部の高台から両目を覗かせる双眼鏡の方を見る。

「安心してくれ、確認済みだ。」

 

寒流の真っただ中を漂って、もう4日になろうか・・・

あの艦の沈没の中、助かったのは半分以下の40名程度。

いや、その40名も助かるのかは分からない。

漂流開始から先程まで、これまで見えた僅な明かり全てに気付いてもらえるように多数の信号弾を発射したが、もう全弾尽きていた。

視界の悪い向こうからは、未だに音沙汰なし。

これであの光が船では無かったならば、おそらくもう・・・

彼の脳裏に浮かんではいけない絶望が浮かびかかった時だった。

ブイイイィィィンン!

何かが聞こえてきた、そしてその音はこちらに向かって来るようでどんどん大きくなってくる。

「お、おい! 何か来たぞ!」

薄霧の中から、何かが高速で近づいてくる。

音に気付き始めた他の漂流者達も、その方向に目を向ける。

水面を切り裂きながら接近して来たのは、紛れもなく2隻の大型内火艇と人の形をした影がそれぞれの上に3つほど。

「良かった・・・助かったぞ!」

「大丈夫ですか? 今行きます。」

その内火艇2隻が彼らの前方すぐそこで停止すると、その片方に乗っていた男が立ち上がってこちらに敬礼をした。

「私は、ウィルキア近衛海軍、カイト・トライトン中佐、ならびにミサイル巡洋戦艦フレースベルグの艦長です。」

若い艦長の言を受けて、彼も立ち上がろうとしたのだがこちらは立ちあがるには安定感が悪すぎる。

仕方なく、座ったままではあるが彼に敬礼を送る。

「座ったままで申し訳ないが、安定感が悪いため許していただきたい。 私はアメリカ海軍、マーク・バリストン中佐。 ならびに、巡洋艦テキサスの副長だった。」

「だった・・・と申されますと、やはり・・・。」

「ああ、アラスカの軍港から出航したんだが、艦はここから10マイル以上南の沖合で沈没しちまった。 よく分からん攻撃でな・・・。 それより、あんた方ウィルキア海軍の方々がどうしてアメリカ領海内に?」

「それについては、任務につき詳細はお答えできませんが・・・我々は、アメリカ合衆国より通航権を得、現在アラスカを通過してカリフォルニアへと向かっています。」

「そうか・・・ちょっと怪しいがな・・・。」

バリストン中佐は、ふんと静かに笑うとそう呟いた。

それは無理もない、特殊な場合を除いて他国の軍艦が自国の領内にいたならば驚くだろう。

ましてや、任務中につき詳細は答えられないと言ったのであれば信用されないのも無理はない。

ならば、どっちかはっきりするように殺し文句を言ってやろう・・・くれぐれも失礼のない範囲で。

カイトがおもむろに口を開いた。

「どうしますか? 我々が、アメリカ海軍にあなた方の救助を要請するという事も出来ますが?」

「決まってる・・・是非とも、貴艦のお世話にならせてもらうよ。 これ以上、自分もだが部下たちを寒風に当たらせるのは心が痛むからな。」

「分かりました。 では国際条約にのっとり、あなた方を保護します。」

そのやり取りの後、数往復して漂流者達全員を救助した。

中には、沈没時に怪我を負っていた者も居たようで、彼らは皆医務室で近衛海軍が誇る衛生兵の治療を受けている。

だが、皆若干の衰弱が見受けられるが比較的健康体だと衛生兵からの報告を聞いて、とりあえずカイト達は安心した。

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「艦長、彼らが乗艦していた巡洋艦テキサスを撃沈したのは・・・やはり・・・。」

「詳細は彼らの容体が落ち着いて、衛生兵から許可が出てからだが・・・副長、その可能性は私も高いと思っている。」

リナの問いかけに、カイトが頷いて返答した。

「一瞬の出来事だったと聞いている・・・おそらく、彼らを攻撃し沈めたのはニーズヘッグに違いないだろう。」

その言葉に、艦橋クルー達にも緊張が走る。

ニーズヘッグの目的は不明だが、遭遇した艦をすぐさまアウトレンジから撃沈する辺りから考えて、事態は一刻の猶予も無いだろう。

その時、後部の防水扉から微妙に濡れたライフジャケットの姿のあの伍長が現れた。

「艦長、内火艇全て格納完了しました。」

「了解、御苦労だった。 機関再始動、両舷第二船速、ようそろーっ!」

再び艦尾から水流と気泡を放出しながら、フレースベルグは動き出した。

最初の決戦の地、アメリカ合衆国西海岸へと・・・

 

 

     続く

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 Good morning,Good afternoon,Good evening.

前回に比べてとてつもなく短い感じがしますが、区切りが良かったので。

(本当は前回を二分割しようと思ったのですが・・・)

今回はとりあえず舞台がアメリカになったので英語で挨拶したJINですwww

どんどん登場人物が増えていきますが、気にしたら負(ry

今回は、ややハーレム属性を垣間見せた通信長兼砲雷長の出番は無かったですが、彼はとりあえずまだ療養中と言う事で。

人口密度が高くなった医務室で、米兵の方々と雑談でも楽しんでる的なイメージでお願いします。

「馬鹿者! お前たちの訓練不足だ!」は、某海自アニメを見た人にはわかるネタです。

もちろん、言った内容や状況は違いますけどね。

余談ですが、これを書いている時に作業用BGMとして♪みらい「戦闘」♪を聞いていました。

その影響もあるのでしょうか??

次回は、カリフォルニアを目指すイージス巡洋艦フレースベルグに空の殺し屋達が襲いかかります・・・あれ?? これってどこかで・・・

 

 

4/24

 

えーと、実は作品掲載の本拠地を移しました。

おそらく、ここでの掲載はもうないと思うので、続きを見たいと言う方はこちらまで。

 

http://ncode.syosetu.com/n2293g/

タイトルも、「海原の大鷲」と変わっています。

説明
第三話です。
かなり意外だったのが、更新速度。
でも、内容は前回よりはるかに短めです。
相変わらず、オリキャラばっかしです。
それでも良い方には、楽しんで頂ければ幸いです。
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タグ
ウォーシップガンナー2 鋼鉄の咆哮 海戦 戦艦 イージス艦 ミリタリー 軍事 

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