それは誰を黙らせる。【進撃/BL/ライベルライ】 |
「なあ、聞きてぇんだけど」
訓練漬けの一日を終え、漸く横になれるというときに叩かれた肩。
振り返れば、どこかソワソワした様子のジャンが、ベッドに上がり込んできた。
先に横になっていたベルトルトも、まだ眠りには落ちていなかったらしく、「何の話?」と体を起こす。
「コニーとサシャって、デキてんのか?」
「は?」
口元を片手で隠して、内緒話の定番ポーズをとるジャン。
この手の話題になるとすぐ首を突っ込みたがるのは、コイツの悪い癖だ。
「なんだお前、ミカサからサシャに乗り換えるのか」
「っ!違う!俺はミカサ一筋‥っ、て!俺のことはどうでもいいんだよ!」
だったらサシャが誰と付き合おうがいいじゃないか、と呆れるものの、日頃ワルぶっている男が真っ赤になって狼狽する様は面白い。
「確かに‥あの二人は仲がいいよね」
こめかみを人差し指で掻きながら会話に加わるベルトルトは、やはり眠いのだろう、二重の幅がいつも以上に広がっていた。
「だろ?こないだなんか、二人して食料庫にコソコソと‥」
「‥それは…単に盗みに入ってただけなんじゃないかな」
「いやまず止めろよ。バレたらエライ事になるぞ」
頭の回る奴らならともかく、あの二人ではバレるのも時間の問題だろうと、色恋沙汰より気にかかる話だ。
「それだけじゃねぇんだ。今日は痴話喧嘩ってやつをしてた。どっちのパンが大きいとか、スープを一口とったとか。アイツら付き合ってなかったら詐欺だろ!」
そんなのいつものことだし、色気のカケラもない野生動物の餌のとりあいじゃないか。
声にしかけた言葉を飲み込んで、隣にいるベルトルトを横目で見る。
眠気に耐え切れなくなったらしい長身の男は、その体躯に似合わぬ小さな欠伸をして、手の甲で目をこすっていた。
「なあ、ベルトルトもそう思うだろ?」
「う‥ん、と。僕は…」
「おい」
こんな話に付き合っていたら、まともに眠れないうちに朝になりそうだ。
詰め寄るジャンを片手で制し、ベルトルトの肩を抱き寄せる。
そして身をひねり覗き込むようにして…
反応されるより早く、一瞬のキス。
「んっ…!え、あの‥‥え?」
声を発したのはベルトルトだけで、ジャンはといえば、顎が外れんばかりに口をあんぐりと開けて固まっていた。
「これで俺たちも、“付き合ってなかったら詐欺”か?」
「い、いや‥」
恐ろしいものを見た、という顔で座ったままジリジリ後退るジャン。
暫しキョトンとしていたものの、照れる様子もなく、ベルトルトが口を開く。
「ごめん、少し眠くて…で、何だっけ、コニーとサシャ‥」
「あっ!いいんだ!もう、うん!明日も早いし寝ないとな!!」
その何事もなかったかのような態度に、一層恐怖を覚えたらしいジャンが、顔の前で激しく両手を振って話を切り上げた。
そそくさと自分の寝床に戻っていく姿を見送った後、ベルトルトと顔を見合わせて笑う。
「ひどいな、不意打ちは卑怯だろ」
「悪い、でも見たか?あのジャンの顔」
「ああ、鳩が豆鉄砲‥ていうやつだね」
すっかり目が覚めてしまったのか、ベルトルトの二重はいつも通りだ。
様子のおかしいジャンに気づいたマルコが、ジャンに話しかけるのが聞こえる。
呆れた顔で振り向いたマルコと、青白い顔のままでこちらを指差すジャン。
「僕はもう寝るよ」
「ん。俺も寝る」
「おやすみ、ライナー」
チラリとマルコたちに視線を送ったベルトルトが、言葉とともに詰めてくる距離。
「‥‥ああ、おやすみ、ベルトルト」
今度はこちらが不意打ちを食らって、まいったな、と頭を掻く。
こんな締りのない顔で、マルコやジャンの方を向くわけにもいかず、俺はさっさとベッドに潜り込むのだった。
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これは戯れだ、たぶん、きっと。いや、本当は。 | ||
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