青空緑地 |
天気は、まばゆいぐらいの快晴。気分も良くなりそうなぐらいの夏の日差しを、僕は存分に受けていた。周りに広がる緑の稲達も、元気そうに風に煽られてユラユラとしていた。
――あ。
思わず声に出したくなるのを僕はぐっと押さえ込んだ。
いつもこの時間に彼女を見かける。今年の夏になってからのことだ。長い髪をたなびかせて、背筋をピンとして歩いているのが優雅だった。彼女はよく白いワンピースを着て、大きめの麦わら帽子を被っていた。スケッチブックが入ったトートバックも持ちあるいているから、どこかで絵を描いているのだろう。この先には山があるから、きっとそこの上からこの村を描いているのだと思う。そんな姿を想像するだけで、僕はとても幸せな気持ちになれた。
どうしようもなく、彼女の姿は美しく、僕の思いを告げたかった。周りに広がる水田の中、白い姿の彼女は際立っている。
「今日も頑張ってるね」
彼女にそう声を掛けられても、僕はなんて答えたらいいのか分からずに、答えられなかった。迷っている間に、彼女は「またね」と言って、どこかに行ってしまう。その後の僕は彼女の後ろ姿をただ眺めているだけだった。
いつか、彼女に僕の思いを伝えることは出来るだろうか。
***
「こんなものかな」
トートバックにスケッチブック等を積める。実家に帰ってきてから、特にすることもなかったので、毎日絵を描いているのだ。「いってきます」と玄関から家に向かって声を出すと、「いってらっしゃい」と返ってくるのが懐かしい。
都会の喧騒から隔離された故郷は、たまに来るとすごい癒されて、私はこの村が好きなんだなあって実感させてくれる。
今日は随分と良い天気だった。雲ひとつもなく、空の果てから果てまでが全部青。空の色も、都会よりもこっちのほうが綺麗だと思う。どこか澄み切っていて濁りがない。この色をそのまま画用紙に移したいぐらいだ。
上に向けた目線を下に下げれば、キラキラと光っていそうなほどの稲の群れ。一面が翠緑色にしか見えないほど、生い茂っていた。
「あ」
それは間違いだった。一面そればかりではなく、ちょっと違った景色もここにはある。
「今日も頑張ってるね」
私はそうやって声を掛けた。いつもここにいる彼が、なんだか面白くて、ついつい声を掛けてしまうのだ。「またね」と最後に行って、山のあるほうに向かっていく。今日はこの水田の様子を描くつもりだ。もちろん、彼も忘れずに描く。
彼を描くポイントがとても重要だと思うから、楽しみだ。田んぼを守ってくれてるただ一人の孤高の存在をどう際だたせるか、山に登っている間は退屈しなさそうだった。
説明 | ||
広がるのは青い空、緑の大地。 | ||
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短編 SS 青空 緑地 大地 | ||
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