真恋姫†夢想 弓史に一生 第八章 第三話 |
〜聖side〜
賊が襲ってくる日の朝。
俺は自分達が守ることになっている西門、南門以外の残りの二つの門の状況を確認に来ていた。
「おっ、李典。おはよう。」
東門の傍では、門の補修・補強工事の指揮を李典がとっていた。
「おっ、徳種はん。おはよう。」
「朝から精が出るな。」
「そりゃあ、完成させなウチ等が危ないからな〜。」
「そりゃそうだ。 ……他の二人は?」
「あぁ、凪も沙和も今は休憩中や。さっきまでここの指揮をしとったからな。」
「そうか……。実は君に頼みがあってきたんだが、時間はあるか?」
「まぁ〜無いことはないけど……。とりあえず用件だけでも聞いとこか。」
「助かるよ…。……君のその武器。」
そう言って、李典の持つドリル様の武器を指差した。
正直、昨日見た時は、「どんだけオーバーテクノロジーかましてんだよ!!」と思ったが、今となってはこの作戦に必要なものだ…。
「ん?? この螺旋槍がどうかしたん??」
「それがあれば、穴を掘るのに時間がかからないんじゃないかと思うんだが…。」
「せやな〜…。穴掘るんやったら大分早いで。」
「なら………………は出来るだろうか??」
「ふふふっ。ウチをなめて貰ったら困るで…。そんなの朝飯前や!!」
李典は口を三日月形にして笑うと、その大きな胸を任せろと言わんばかりに張った。
「そうか、じゃあお願いするよ。お代は……これで足りるか?」
そう言って俺は李典に銀貨一枚を渡す。
「ええぇ!! ちょっ……渡す額おかしない!?」
「それは成功報酬を含めた額だからよろしく頼むよ。」
そう告げて、西門へと帰る。
後に残された李典は、
「はぁ〜…太っ腹な兄さんやな〜……。」
と感心していたそうな…。
「ほぉ〜こうやって見ると壮観だな…。」
目の前には俺の兵が二千人、隊列を乱さずこちらを向いている。
太陽は既に昇りきり、黄巾賊の到着は刻一刻と迫っている。
そろそろ隊を二つに分けて準備しなければならないので、最後に全員に声をかけておくことにした。
兵の皆から見えるように、少しだけ高い場所に行き、口を開く。
「皆、聞いてくれ…。」
兵達の顔に緊張感の色が浮かぶ。
「愈々、黄巾賊と接敵するわけだが………お前らに問いたい…。 お前らは何だ?」
「「「「徳種軍の兵士、新撰組の隊員です!!!!」」」」
「その通りだ…。 新撰組の心得は??」
「「「「壬生狼の魂を持ち、『悪・即・斬』精神のもと正義を貫くことです!!」」」」
「そうだ、その心を忘れるな!! 良いか!? 今からこちらに向かってくる黄巾賊は、愚かにもその身、その心を獣へと落とした者たちだ!! やつらは数多くの人を蹂躙し、攫い、あまつさえ殺した。その罪、万死に値する!! 我等新撰組は、『悪・即・斬』の精神の基、奴らを捌く義務がある!!」
「「「「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」
「敵は数だけは我等よりも多い!! しかし、陣形も戦略もあったものではない!! 猪突猛進もいいところ!!奴らは獣とは言え猪と同じなのだ!! そんな猪に対して、数が多いからと言って怯える狼がどこに居ようか!? 一対一で敵に当たろうという考えは棄てろ!! 狼は集団で狩をする!! 一人に対し複数人で当たれば負けることなどないのだ!! 雄たけびを上げろ!! 血湧き、肉踊らせ、その勢いを持って奴らを丸呑みにしてしまえ!!」
「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」」」」
「何も案ずるな!! お前達には、天の御使いであるこの俺が付いている!! 己が力を存分に発揮し、俺に見せつけてみろ!!!!」
磁刀を抜き、高々と掲げた瞬間、一陣の風が吹き、赤と白で模様付けされ、金で縁取られた白い十字架とその上に同色で重なる『誠』の字、新撰組の旗に十字架を加えた俺の御旗が棚引く。
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」」」」
その瞬間、地鳴りのような雄たけびが上がり、二千人しかいない兵が数万人の軍のように感じられた。
その声に高揚感を感じ、脳からはアドレナリンが湧き出てくる。
「さぁ野郎共!!!! 配置について敵を迎えてやれ!!!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」」」」
再び大きな雄たけびを上げた後、各部隊は決められた作戦通り、配置に付いた。
今回の配置は、西門防御の部隊に俺と麗紗。
西門付近での偽装兵部隊に橙里と奏。
南門防御部隊に一刀と蛍。
南門付近の伏兵二部隊にそれぞれ音流と勇が居る。
兵は、西門防御に500人、偽装に100人、南門防御に600人、伏兵がそれぞれ400ずつとなっている。
賊との兵数差は明らかだろうが、奇襲と包囲殲滅、それに各々の力の差を考えれば大きな成果をあげることが出来るだろう。
さて、やってやりますか…。
この戦、後の世に語り継がれるような伝説の戦になることを、まだ誰も知るよしは無い…。
あれから数刻後。
辺りには戦前の特有な緊張感が漂っていた。
隣にいる麗紗の表情を見れば、普段の柔和な表情とは違い、緊張が顔に出て強張っている。
「麗紗。」
「は…はい…。」
「リラックス、リラックス。」
「……りらっくす??」
「肩の力を抜いて、楽にするって言う意味の言葉だよ。麗紗は今力が入りすぎてる。そんなんだと、咄嗟の判断が利かなくなるから、もっと楽に、力を抜いておかなきゃ…。」
「そうは……言われましても……。」
戦場に出ると緊張してしまうんです、と言う言葉をぼかして、麗紗は視線を伏せて答える。
「じゃあしょうがない…。そういう時は実力行使だ!!」
そう言って後ろから麗紗の肩に手をかける。
その瞬間、麗紗は体をビクつかせて飛び上がる。
「ひゃん!! えっ……ちょっ……。」
「はいはい。力抜いて〜、マッサージしてあげるから。」
「ぁ……ん……ま…まっさあじ…とは……。」
「こうやってコリを解すんだよ。」
そう言って、一際強張った僧帽筋を解しにかかる。
「ぁ……んぁ……ふっ……ぁふ…。」
「中々硬いな…。痛くないか?」
「はぁ〜〜…はぁ〜〜……ふぁい〜……。」
だんだん目がトロンとしてくる麗紗だったが、後ろに居る聖からはそれが見えていない。
肩を解し終わり、次に首筋を解し始める。
「ひゃぁ!! あぁ……はぅ……んん〜〜〜……。」
どんどん声に艶が出てくる麗紗。
俺は、麗紗はマッサージで気持ちよくなっているんだなと思い、張り切る…。
そのまま首筋を解しながら、麗紗の耳に顔を近づけて呟く。
「どうだ、気持ち良いか?」
吐息が耳に当たるほど近くで囁く。
「ひゃ……ひゃぃ……気持ち……良いです…。(ぞくぞく)」
その吐息を受け、背筋をブルッと震わす麗紗。……既にその瞳は何処を見ているか分からない…。
普段から引っ込み思案の麗紗は、体を丸めるようにして生活している。そのことを知っている俺は、序にという事で背筋を伸ばそうと、広背筋から脊柱起立筋にかけて指を滑らせていく。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!」
声にならない悲鳴を上げて俯く麗紗。
それまで何とか保っていた理性が吹き飛び、麗紗にスイッチが入る。
「??」
麗紗が俯いたことに疑問を感じて、顔を覗き込む。
すると、俺の首に腕を回す麗紗。
「あの……麗紗……??」
麗紗の瞳は蕩けきり、浅く速い呼吸を繰り返している。
麗紗の様子がおかしい事になっているのに今頃気付いた俺は、麗紗に声をかけようとして、
「麗紗、一体どうs……んっ!!!」
その口を塞がれる。
開いた口の隙間からは麗紗の舌が入り込み、俺の口内を蹂躙していく。
一瞬何が起きたのか理解できずに呆気に取られたが、次の瞬間には状況を把握し、麗紗をゆっくりと引き剥がす。
まだ満足できていない様子の麗紗は、上目遣いのままもう一度キスしようと顔を近づけてくるが、俺はそれを制止させる。
「麗紗……その……接吻してくれるのは勿論俺も嬉しいんだけど……。」
「???」
麗紗は浅い呼吸を繰り返しながら俺の目を儚げに見つめる。正直、理性が飛びそうになったが、何とか踏ん張り、言葉を紡ぐ。
「その……ここさ……陣中のど真ん中だし……兵も皆見てるわけで……。」
「はっ!?」
俺の一言で、飛んでいた意識が覚醒する麗紗。
辺りを見回すと、不自然に座り込む男兵と顔を真っ赤にさせて視線をそらす女兵の姿が見て取れた。
麗紗は今の状況をだんだんと飲み込み……それに連れてどんどんと顔が真っ赤になっていき、最後は火でも出るんじゃないかというくらいになっていた。
そして、俺の方を見てわなわなし始め、
「あうぁぅ………。 お…お兄ちゃんの馬鹿馬鹿馬鹿〜〜〜!!!!!!!!!!」
と言って俺の胸辺りをポカポカ殴り始めた。
「ごめんって……麗紗、痛いって…。」
「馬鹿馬鹿馬鹿〜〜!!!!!! 何で兵の皆が見てる前であんなことするんですか〜!!!!」
「いやいや…。俺はマッサージしていただけで、接吻は麗紗が……。」
「〜〜〜〜っ!!!!! お兄ちゃんの変態!!! もうお兄ちゃんなんて知りません!!!」
「だからごめんって……許してよ、ね? 麗紗。」
「ふん!!!!」
麗紗の機嫌は悪かったが、
「この続きは今夜天幕で……な?」
と囁くと、顔を赤くしながらも一言「はい……。」と呟いて嬉しそうに笑った。
そんな戦場に似つかわしくない、桃色の雰囲気を醸し出している所に、
「伝令!!!! 敵が五里先に現れました!!!! 数は五千!!!!」
と、伝令役の男の声が木霊し、麗紗やその場に居た兵の顔が引き締まる。
「その報告は……間違いありませんか!?」
「はっ!!! 間違いありません!!!」
「……五千か…。予想より多いな。」
「そう……ですね…。でも…問題は無いかと…。」
「そうだな。 よしっ!! 全軍、敵に備えて迎撃準備!!! 手筈どおりやって、さっさとこの戦終わらせるぞ!!」
「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」」」」
兵達の声は陣中に響き渡っていくのだった。
〜黄巾賊side〜
「街が見えて来やしたぜ!!」
五千の兵を引き連れるその隊長格な男は、髭を擦りながら遥か先に見える街を見つめて、にやりと笑う。
「へへっ。次の獲物までもうすぐだ。良いか野郎共!! 金品、食料、女、奪えるものは全て奪い、殺せるものは全て殺し、自らの私腹を肥やせ!! 蒼天既死 黄天當立 歳在甲子 天下大吉!!!!!」
「「「「蒼天既死 黄天當立 歳在甲子 天下大吉!!!!!」」」」
男達は声高らかに叫びながら街の西門へと近づいていく。
すると、賊の中の一人が門に立つ旗に気付く。
「兄貴!! 門のとこに旗が立ってる!!」
「何〜?? どんな旗だ?」
「え〜っと……赤と白の旗に、白く十字と『誠』が描かれてる!!」
「ん〜?? そんな旗聞いたことねぇな…。どうせ、そこらの義勇軍が立ち上がっただけだろ? かまわねぇ、全力で潰すぞ!!!!」
「「「「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」」」」
男達はそのスピードを落とす事無く、門へと近付いていく。
距離にして残り二里を切ったとき、空気を劈くような音と共に何かが賊軍に飛来し、三人の男が吹き飛ぶ。
その瞬間、男達は呆然と立ち尽くす。
果たして……一体何が起こったのか……と。
思考の海に潜っている間に、再びの金きり音。
屈強な男三人がまたもや吹き飛び、辺りに混乱と動揺が走る。
何かが飛んできた方角を見ると、門の上には人影が見えた。
そしてようやくにして、賊たちも何が起こったのか理解できた。
二里の距離を以って、矢で狙撃されたのだと……。
〜聖side〜
「敵が進軍を止めました!!」
物見の兵から報告があがってくる。
俺はそれを片手間に聞きながら、新たに三本の矢を番え、引き絞る。
狙いは賊の中程。
手から放れた矢は、轟音を鳴らしながら飛んで行き、進軍を停止した賊の数人を吹き飛ばしていく。
さて……そのまま止まって被害を大きくするか……? それとも、地獄の門を叩きに来るか……?
どちらにせよ、お前らの未来に待つのは絶望だけどな…。
〜黄巾賊side〜
飛来する矢は確実に味方の数を減らし、人々の心に恐怖という単純で……一番効率的な被害を与えていく。
「怯むな!!足を止めてたら狙い打たれるぞ!! 全軍、進め!!!!」
隊長格の男がそう叫ぶと、停止していた頭を無理やり動かし、全軍は再び進軍を開始する。
「数の差を活かして一気に打ち破るぞ!!」
「「「「おおおおおおぉぉ!!!!!!!」」」」
大群は大地を埋め、その数をまじまじと見せ付けながら門へと迫る。
門まで後一里程に接近すると、敵の弓部隊から矢が射掛けられるが、それを無視しながら突き進む。
門まで後半里……。
敵の矢が大群の右陣に向けて一斉に放たれる。
「ちっ!! 全体的に左に寄り、門左側へ詰め寄せろ!!」
矢を避けるように指示が飛び、大群はなだれ込むように門の左側へと寄せた……しかし次の瞬間
ふっ………。
一瞬にして最前線の二割の姿が消えた。
「な……何が起こった!!?」
「穴!! 落とし穴です!! かなりの大きさの落とし穴が門前に!!」
人ごみを掻き分け、視界が開けた先には……直径一里程あろうかという大きな穴が口をあけていて、その底には姿の消えた二割の兵が積み重なって身動きが出来なくなっていた。
「銅鑼を鳴らせ!!!!」
城壁上に居た男は声高らかにそう叫ぶと、門の中から銅鑼の音が響き、それに呼応するように背後の森からも銅鑼の音と大量の物音が聞こえ始める。
……一体……なんだってんだよ…。
弓史に一生 第八章 第三話 壬生狼 END
後書きです。
第八章第三話の投稿が終わりました。皆さんいかがだったでしょうか…。
作者も眠い目をこすりながらどうにかあげれたことに満足しています。
それにしても………聖さんは一体何してるんだろうか………。
そして、スイッチ入っちゃう麗紗さんも麗紗さんですが……。
くそっ!!リア充どもめ!!!
お前らの行動で何人の男子が悶々としたと思ってる!!!!
お前らの所為で何人の女子がはわわとなったと思ってる!!!!
今後は独り身を公開処刑するような行動は控えるように、聖さんにしっかりと言っておきます!!!!
次回も日曜日に……。それでは〜!!!!!
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです!! ……フェスって疲れるんですね……。 すでに体がボロボロです…。 明日はゆっくり休もう……。 しかし、皆さんとの約束を破るわけにもいかず……どうにか今日の内にあげとこうと………眠気をこらえて頑張ってますww それでは第三話お楽しみに!! |
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