綾枷
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プロローグ*『月がアカイ』

 

 聞いてて楽しいことじゃないかもしれないがしばし聞いていて欲しい。とある諍いに関する御伽噺を……

 

 それはたった40年前に起こった名も無き災厄。誰も知らない陰の戦争。アカとシロの拮抗であった。

 未だ日は昇らずに暗闇が辺りを照らすころ。誰もいない荒野に立つのはそれぞれ5人と1人すつ。今にも均衡が崩れそうな状態で両者は対峙していた。

「あらあらお姉さま、因子を持つものしか呼べなかったなんて、なんて哀れなのでしょう。」

 真紅に染まった振袖の美女はその裾を口元に当ててくすくすと笑う。

その目に愉快さなど微塵も感じさせずに、ただ事実だけを述べ、ただ目の前の女性に軽蔑のまなざしだけ残して。

「お前ごときに使う『雫』は持ち合わせていない。これだけで十分だ。」

 淡々と必要なことだけ述べるは、純白のドレスに身を包む見目麗しき女人。

感情など切り捨てるもの。そう示すように、ただ冷徹に言葉を発している。

「あらあら、わたし『ごとき』とは言ってくださるわね。わたし以上のものなどこの運命軸上には存在しなくてよ?」

両側の先頭に立つ二人の女。

 1人は真紅の和服に艶やかな伸ばした黒髪を身にまとう若干15に満たない少女。方やもう一方には華麗な純白のドレスを着込んだ二十歳前後の若き女性。そのウェーブのかかった髪はドレスに勝る白色で、まさに妖精を想像させるような美しさと妖艶さを放っていた。

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 しかし、そのあまりにも場違いな美女二人からは溢れんばかりの殺気が立ちこめている。

聖女を思わせる純白の妖精と背後の5人からは張り詰めた緊迫感のある厳粛な殺気。さながら研ぎ澄まされた真剣の刃のそれである。

一方、真紅に染まった魔性の6人から放たれる殺気はまさしく爆裂弾。一人一人の持つ潜在的な力が収まりきらずに溢れ出た状態。それは隠しきれない圧倒的な『力』である。

どんな大きな力が襲おうとも正面から打ち潰し、どんなに切れ味の鋭い刃物で来ようが傷ひとつつけずに刃をへし折る。小細工など通用しない、まさに災害とも言うべき極めたもの力の渦であった。

 両者の力の均衡は端から見えていた。対峙する前より既に勝敗など決まっていた。いや、もとよりたたかうということ自体がそもそも誤っていた。

災害の前には生物など無力なのと同じように、目の前の真紅と漆黒に世界を歪める6人の前には、彼女らの力など塵芥にすぎなかった。しかし……

「私以外は全て『ごとき』だ。」

「おうおう、言ってくれるねぇ、うちのご主人様は。」

「それもまた彼女らしさと言うものです。」

「まぁ、あっちが反乱したんだからあながち間違いでもないわね。」

「ふふ、そうですね。彼女のツンデレはその存在と同じくより高貴なのですから。」

「つんでれって何?想幻お前ちょっと時代勘違いし過ぎだぞ……」

 後ろでそれぞれ軽口が飛び交う。しかし、彼女の言葉がおかしかったから反応したわけではもちろんない。それは、最後の時だという知らせであるが故の最後の会話であった。

「五月蝿いぞ下僕ども。」

それでも彼女らは揺るがなかった。故に最後までなんてことのない会話で終わらせた。それは勝つためでもなく、相手を打ち滅ぼすためでもなく、ただ生きて朝日を見るために……

 

「あらあら、言ってくださるわねお姉さま。」

口元を微かにつりあげるも、その目は以前凍ったままで……

「それではこのあたりでお姉さま。」

だが確かに二つの力は飽和を突破し……

「……ふん。」

 

 

次の瞬間……

 

 

「ごめん、あそばせ?」

 

 

 二つの力が弾け……

 

 

 

 

 

 

 

 

      世界が鳴動した。      

 

説明
簡潔に、悪意に染まったトップクラスの英雄とそれに対抗する英雄の因子を持つものの対決。のプロローグです。
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綾枷 バトル 英雄 因子 伝奇 

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