英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 575 |
〜ウルスラ病院・研究棟〜
「―――失礼します。」
研究棟の4階にある目的の医師の部屋を見つけたロイドはノックをした後、椅子に座って休憩している眼鏡の医師―――ヨアヒムに近づいた。
「やあ、ロイド君。それにティオ君だったかな。記念祭中はどうも。おかげで中々楽しかったよ。」
「………先生も相変わらずですね。」
「その、すみません。アポイント無しに押しかけてしまって………」
「いやいや、ちょうど仕事が一区切り付いた所だったからね。それで、記憶喪失の子を預かったそうだけど………その子が?」
ロイドに謝られたヨアヒムは苦笑した後、真剣な表情でキーアを見つめて尋ねた。
「はい………キーアといいます。」
「ねえねえ、ロイド。このメガネのおじさんがキオクを戻してくれるのー?」
「オ、オジサン!?……はは、これでも若作りなつもりだったが………やっぱりオジサンだよなぁ。」
キーアの言葉を聞いたヨアヒムはショックを受けた後溜息を吐いた。
「い、いや、先生はお若いですよ。」
(キーア………こういう時はお世辞でもお兄さんと呼んだ方がいいです。)
(そうなのー?)
そしてヨアヒムの様子を見たロイドはフォローし、ティオはキーアに小声でささやき
「いや、そういうフォローは余計に切なくなるんだけど………まあいい、とりあえず、こちらの方に座ってくれたまえ。詳しい事情と経緯を聞かせてもらおうじゃないか。」
ティオの言葉が聞こえたヨアヒムは溜息を吐いた後、気を取り直して近くにある椅子に座るように促した。その後ロイド達はヨアヒムに事情を説明した。
「………なるほど。大体の状況は理解したよ。ふむ、七耀教会の法術でも取り戻せない記憶か………となると、そのシスターの指摘通り神経系の問題である可能性は高いな。」
「………そうですか。何とか回復する手段はあるものなんでしょうか?」
「正直、脳神経や脳細胞の研究はまだまだ始まったばかりでね。記憶喪失になる原因はそれこそ無数にあり得るから対処療法が存在しないんだよ。ただまあ………」
ロイドに説明したヨアヒムは医療用ルーペを取り出した。
「―――キーア君。僕の目を見てくれるかい?」
「いいよー………じー………」
そしてヨアヒムは医療用ルーペをキーアの目に向けてじっと見つめた。
「ふむ………瞳孔に異常ナシ。ここ数日、頭痛がしたり、吐き気がしたりしたことは?」
「ズツウ?ハキケ?」
「頭が痛かったり、気持ち悪かったりってことさ。」
ヨアヒムの質問に首を傾げているキーアにロイドは説明した。
「ううん、キーアは元気だよ?」
「ふむ………脳にダメージがあるような感じでもなさそうだ。となると……………」
キーアの診断を止めたヨアヒムは頷いた後、目を閉じて考え込んだ。
「………何か見当でも?」
そしてヨアヒムの様子を見たティオは尋ねた。
「………これは僕のカンなんだが。何らかの薬物が影響している可能性は高いかもしれない。」
「薬物………!?」
「薬で記憶喪失が起きる可能性が………!?」
「ああ、そういう症例も数少ないが過去に存在する。薬の成分が、神経系の伝達を副次的に阻害してしまうんだが………ただ多くの場合、心理喪失を伴うことが殆んどみたいでねぇ。キーア君にはそのまま当てにはまらないかもしれない。」
「確かに………心理喪失には程遠いですね。」
「………はい……………」
「んー?」
ヨアヒムの話を聞いて考え込んでいるロイドとティオを見たキーアは首を傾げていた。
「ただまあ、薬学の分野もまだまだ発展途中と言える。未知の効果を及ぼす薬物が開発された可能性は否定できない。その意味では、神経系の異常と薬物の副作用の両方の可能性から探ってみるべきかもしれないね。」
「なるほど………あの、こちらで検査を依頼することは可能ですか?」
「ああ、もちろん可能だよ?ただし、時間がかかる上に記憶が取り戻せる保証もない。それで良ければになるけどね。」
「そ、そうですか………」
「………検査をするとなると具体的にはどの程度の期間が?」
ヨアヒムの説明を聞いたロイドは溜息を吐き、ティオは尋ねた。
「―――最低でも3日間。できれば1週間ほどは検査入院して欲しい所だね。」
「最低でも3日ですか………」
「薬物に関する検査はそれなりに時間がかかるんだ。体内から排出された成分を化学的方法で調べたりするからね。入院と検査費用に関しては………珍しい症例みたいだからある程度お安くはしておこう。………どうする?」
「………なあ、キーア。3日くらいの間………この病院に泊まらないか?」
ヨアヒムの説明を聞いたロイドは考え込んだ後、キーアを見つめて尋ねた。
「ん〜?べつにいいけどー。」
「ほっ………」
「……一安心ですね。」
そしてキーアの答えを聞いたロイドとティオは安堵の溜息を吐いたが
「ふむ、それなら早速、検査入院の手続きをしようか。着替えや私物などがあるなら改めて持ってきてもらった方がいいかもしれないね。」
「ええ、それは後ほど改めて用意して持ってきます。」
「ねえねえ、ロイド。ここに泊まるのはいいけど、またいっしょに寝てもいい?」
「えっと………それは……」
キーアに尋ねられ、答えにくそうな表情をした。
「んー、ダメだったらガマンするけどー…………」
「い、いや………そうじゃないんだ。この病院に泊まるのはキーアだけなんだよ。」
「そーなの?それじゃあロイドたちはどこに泊まるのー?」
「俺達はいつも通り、支援課のオンボロビルだよ。でも、毎日ちゃんとキーアの顔は見に来るから―――」
キーアの質問に答えた後、説明を補足しようとしたが
「ヤダ。」
「………え。」
キーアは説明の途中で否定して説明を中断させ、そして椅子から立ち上がった。
「………ロイドたち、キーアのことをヨソのコにしちゃうつもりなんだ。キーア、いらないコなんだ!」
「そ、そんな訳ないだろ!?」
「少しの間だけここで泊まるだけです。その後は、今まで通りみんなで一緒に暮らせます。」
自分達を睨むキーアにロイドは真剣な表情で答え、ティオは説明したが
「そんなの知らないモン!ぎるども、びょーいんもキーア泊まりたくないモン!」
キーアはロイド達を睨んで言った後、走ってロイド達から離れ
「キ、キーア?」
「ロイドのばか!!」
自分の行動に戸惑っているロイドを睨んで大声で叫んだ後、走って部屋を出て行った。
「ちょっ、キーア!?」
「はぁ………怒らせてしまいました。」
「ああもう………すみません先生。せっかくの話でしたけど………」
キーアが部屋を出て行った後ティオは溜息を吐き、ロイドはヨアヒムに謝罪した。
「ハハ、あの調子だと無理強いはかえって逆効果だね。まあ、結果が出るかどうかもわからない検査入院だ。キーア君が落ち着いてから改めて検討してみたらどうだい?」
「はい………」
ヨアヒムに尋ねられたロイドは頷いた。
(!?何者だ、あの男………!あのアーネストという人間と同じ………いや、それ以上の”魔”を感じる上………あのキーアという少女を見ている間、とてつもない邪悪な気配を感じたぞ………)
(………………そういえば、錯乱したアーネストの精神を落ち着かせるために七耀教会かウルスラ病院を頼るという話が警察に出ていたわね…………………まさか、アーネストとも関わりがあるのかしら………?)
一方ロイド達の会話を見守っていたラグタスは目を見開いた後、ヨアヒムを睨み、ルファディエルは目を細めてヨハヒムを睨み続け、考え込んでいた。
「まあ、記憶が戻るのを気長に待つのもいいだろう。何かあったら相談に乗るからいつでも連絡してくれたまえ。こちらも記憶障害について幾つか症例を調べておくよ。」
「………ありがとうございます。」
「………その時はよろしくお願いします。」
「………後はそうだな………難しいかもしれないがアーライナ教会の最高指導者―――”闇の聖女”様に頼るのも手かもしれないな。」
「え………」
「ペテレーネさんにですか?」
ヨアヒムの提案を聞いたロイドは呆け、ティオは意外そうな表情で尋ねた。
「ああ。何でも話によればアーライナ教会はさまざまな薬品を扱っているという話でね。もしかしたらキーア君の記憶喪失に関わる薬物に関して、何か知っているかもしれないよ?”闇の聖女”様なら普通の信徒では扱えないような薬品も扱っていてもおかしくないだろうし。」
「そうですか……………ただ、知り合いでもない俺達が宗教の最高指導者であり、皇族でもある彼女にアポイントを取れるかどうかもわからないし………第一会いに行く為にはまず、リベールに行かないとな………ティオ。”闇の聖女”と連絡を取る事は可能か?ティオは”闇の聖女”―――ペテレーネさんと知り合いなんだろう?」
ヨハヒムの説明を聞いたロイドは頷いた後考え込み、ティオに視線を向けて尋ね
「………私は直接的な方法でペテレーネさんと連絡をした事はないのですが、ペテレーネさんと頻繁に会える知り合いの方を知っていますから、その方に事情を話して、アポイントを取ってもらう事は可能かもしれませんが………あんまり期待はしないで下さいね?ペテレーネさんはお忙しい方ですから。」
尋ねられたティオは考え込んだ後答えた。
「それでも何もしないよりはマシさ。時間がある時でいいから頼むよ。」
「わかりました。」
その後研究棟を出たロイド達はキーアを捜し始めた……………
説明 | ||
第575話 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
829 | 777 | 2 |
コメント | ||
感想ありがとうございます。 本郷 刃様&THIS様 まあ、”そういう気配”に関しては敏感なルファ姉達の目は誤魔化せません♪(sorano) アーネストと同じく気付いてしまいましたか。ヨアヒムこの時点では全然分からなかったのに・・・すごいです。(THIS) ルファ姉とラグタスはヨアヒムに気付きましたね・・・ここも展開が変化しそうな気がしますが、果たしてどうなるか?(本郷 刃) |
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