真恋姫無双幻夢伝 第??話『彼の使命』
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   真恋姫無双 幻夢伝 第??話 『彼の使命』

 

 

「俺が…生き残ったタマシイ…」

 

 ポカンとした表情で左慈の言葉をアキラは受け止めた。

 

「詳しく説明しましょう」

 

 于吉はその表情を見てさっさと説明した方が早いと思ったらしい。星々がわざとらしくきらめく空間の中で、彼は十年前のことを思い出す。

 

「十年前、あれは三回目の実験でした。一人目の被験者は無残にも殺され、二人目も失敗することが火を見るより明らかになった頃でした。私たちのチームはショックを感じつつも、新しい実験の準備を始めました」

「新しい被験者の名前はハーマン・ディック。当時28歳。一端の冒険家だったが、雪山を登山中に雪崩に巻き込まれ瀕死の状態だった。アキラ。これがお前の“一つ目の前世”だ」

 

 ハーマン・ディック。左慈にそう告げられても、アキラは首を振るだけしか出来ない。彼らの記憶消去術は完璧なものらしい。

 

「我々は彼を、いや、あなたを回収し、新たな実験を開始しました」

「面白かったぜ!お前は、以前の二人とは比べ物にならないほどに大活躍した!その時、お前のアドバイザーとして付き添った俺達は正直ビビったぜ。痺れるほどの大軍略と感嘆するほどの判断力。あっという間に大勢力を築いたお前は、もう少しでゲームクリアってとこだった」

「…何があった?」

「残念なことに、あなたは気付いてしまったのですよ。その世界の秘密に。前世の記憶を消去したはずなのに、我々の会話からそのずば抜けた洞察力を用いてね」

「そしてその世界の恋人にこう漏らしたんだ。『この世界はおかしい』ってな」

 

 アキラはその後、自分がどうなったか自ずと分かってしまった。重大な秘密ほど知ってはいけないのだ。

 知恵の実を食べたアダムとイブが、神の怒りに触れて、エデンを追放されたように。

 

「俺は、殺されたのか」

「……その予定だった。でもクリアの寸前だったんだ。まだ良心ってやつを持っていたボスもさすがに惜しいと思ったのだろうな。殺す代わりに記憶だけ消去して、現実の世界に戻した。ちょうど近くの病院に植物状態になった日本人の子供がいたからな。その空っぽの体にお前の魂を移した」

「そんなことも出来るのか!?」

「勿論です。そして残った人工魂も“浄化”して新しい世界を作りました」

「浄化、か。俺の恋人ってやつもか」

「……すまん」

 

 以前まで生きていた世界で不思議なことはいくつもあった。2歳の頃から鮮明に記憶があるなど、他の誰よりも成長が早かったこと。初めてネイティブ英語を聞いた時、懐かしさを感じたこと。そして時折、幻影のように現れる女の姿。捕まえたくとも捕まえられなかった表情豊かな女性だった。

自分が喉から手が出るほど欲しかった宝箱を開けた時、人はどう感じるのだろうか。彼が感じたのは、気を張っていないと倒れてしまうほどの脱力感と、涙が零れそうなほどの喪失感だった。

 

「……なあ」

「うん?」

「その浄化された魂にはあっちの世界に行けば会えるのか?たとえ記憶が残っていなかったとしても、その魂はどこかにいるのか?」

「いるはずですよ、どこかに。人工魂は増やすことはあっても、減らすことはしてませんから」

 

 アキラは小さく頷くと、しっかりとした目つきで二人を見た。

 

「行こう、あの世界へ」

「アキラ、行ってくれるか」

「ああ」

 

 左慈と于吉は互いを見て頷く。そして左慈はポケットから重そうなボタンを取り出す。

 

「じゃあ、お別れだ」

「世界を救ってください。お願いします」

「分かっている」

 

 アキラはゆっくりと目を閉じた。周りのバーチャルの星々が煌めく中、左慈はボタンを押す指に力を入れながら、ふと思い出したように最後に伝えた。

 

「そういえば、お前は豪族の息子って設定だから。赤ん坊からスタートってことでよろしく」

「ああ、言ってなかったですね」

「えっ、ちょ!!」

 

 アキラが驚いて目を見開いた頃にはもう遅く、悪戯好きの子供のような笑みを浮かべた二人の姿は暗転して消えてゆく。新しい世界に飛ばされる彼は「くそやろ〜〜!」と最後の断末魔を残しながら、意識が遠のいていくのだった。

 

 

 

 

 

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「……っ……おい、おい!!」

 

 アキラは体が揺さぶられる衝撃によって、夢から急に引き戻された。顔を上げて周りを見ると、そこは埃っぽい店の中だった。そして目の前を見ると、少し苛立った様子の華雄がそこにいた。

 麻のマントを羽織った彼はグッと背伸びをした。その頭をパコンと小気味よく華雄が弾く。

 

「イテッ!」

「ほら、さっさと支度をしろ。今日中に隣の町まで行かないといけないのだろ?」

 

 彼女は彼の顔に荷袋を投げた。アキラは寝起きというのに、難なく顔の目の前でそれを受け止めて肩に担ぐ。そしてお茶代を机に置くと、中天に日が差しかかった外に出た。風が舞い、砂埃に目がくらむ。

 

「華雄、懐かしい夢を見た」

「まだ寝ぼけているのか?思い出にふけるのは老後に取って置け。行くぞ」

「やれやれ、厳しいねぇ」

 

 苦笑いを浮かべて頭を掻くアキラ。華雄はそんな様子に気にすることなく、彼に疑問を投げかける。

 

「もうそろそろいいだろう。目的地を教えてくれないか」

「…やっぱ気づいていた?」

 

 当然と言うように、彼女は鼻を鳴らす。

 

「あれほどの殺気、気付かない方がおかしい。それが急に消えたこともな」

「十常侍の元手下さ。昔、世話になったもんだから、きっちり“恩返し”しておいた」

「…やはり恐ろしいやつだ」

 

 眉をひそめる華雄にアキラは軽く笑う。こんな奴に付いて行く方もおかしいというものだ。

 再び砂塵が舞う。そんな中でアキラはスッと指で方向を示す。

 

「東だ。東に行くんだ」

「東…」

「ああ」

 

 アキラは指をおろし、初めて出来た仲間を見つめた。

 

「帰るんだ、汝南に」

 

説明
謎の話ラスト。次から新章に入ります
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幻夢伝 オリ主 恋姫無双 

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