百合☆くる1 ヘレ×メリ |
戦いの日々から日常へ戻ってからしばらく何事もなく仕事をしていたのだけど。
時間が経過すると共にやたら視線を感じるようになった。
自意識過剰?
いや、違う。確かに感じるし、気づかれないように様子を見ているとチラチラ
こちらの方に向けてくるのを確認した。
「ちゃんと勉強してなさい」
リ・クリエの事態が悪化する前のように厳しく生徒に言って聞かせる。
その時、反応は別段変わった様子は見受けられなかったけれど、
それでも視線を向ける数は男女共に減るどころか徐々に増えていくことに
別の意味で気にかかった。怖いというほどではないけれど。
図書館を閉める時間になり、生徒達を追い出して誰もいないことを確認すると。
私はホッと胸を撫で下ろして自分の分の紅茶を注いで、椅子に座り肩を鳴らしていた。
「一体何なんでしょうかね、あれは・・・」
特に誰に言うほどのことではなく自問自答のつもりで呟いたのが漏れたのか。
「それはメリロットが魅力的になったからよ」
「!?」
いきなり背後から抱きつかれるようにしてくっつかれる。肩越しに柔らかい
感触と距離の近さから馴染み深い匂いがした。
「ヘレナ!?」
振り返るとそこには愛しい人の姿があった。
鍵を閉めたはずなのにどこから忍び込んできたのだろう。
そんなことを考えてるうちに私の紅茶を飲まれてしまった。
「んー、良い香り」
飲まれてしまったことよりも、その前に言われた言葉の方が気になって
立ち上がり、ヘレナに向かって私は質問をした。
「どういう意味です?」
「うん?」
「魅力的ってところですよ」
私はごく自然に昔のような生活に戻ったはず。
少なくとも私自身はそうとしか考えられなかった。
だけど、ヘレナから見ると私の様子は一見して違っているように聞こえる。
それはどういうことなのだ。
「あの子たちと触れ合ってからメリロットは可愛くなったってこと」
「え・・・」
あの子たちとは、言わずとも知れたリ・クリエと共闘をした生徒たちのことを
指していた。
しかし言われても私の中では実感を得られることはなかった。
「たとえそうだとしても、私に視線が集まる理由になるんですか?」
「んふふ、メリロットはにぶちんね」
チュッ
少し強めの声でヘレナに問うと微笑を浮かべながらヘレナはゆっくり距離を
縮めてきて私の唇に唇を重ねてきた。
「あの件以降、メリロットの生徒を見る目が優しくなってることに気づいてない」
「そ、そんなこと…」
「今まで怖かった先生がいきなり優しさを見せる。特に男子はそういう
ギャップに弱いでしょうね」
「じゃあ、どうすれば…。いつものようにしていたつもりなのに他にやり方が…」
私は明らかに困惑の表情を浮かべていると、さっきまで浮かれていた緩い顔をした
ヘレナは少し目を細めて声のトーンを落とした。
「これからメリロットは告白をされるかもしれないけれど、受けないでよ」
「ヘレナ…」
「メリロットは私のなんだからね」
一瞬、誰に向けられたかわからない冷たい視線を覗かせた後。
何事もなかったかのように笑顔に戻るヘレナ。
普段は人とのふれあいを望んでるけれど、私が離れるかもしれないという
危惧からそういう感情が出たのだろうか。
勝手だけど、そういう攻めの気持ちが私にはちょうどいい。
ずっと表に出ずにいた私は得意な部分以外には極端に消極的だから
いつも私の手を引いてくれるヘレナに私は好きだった。
だから、貴女から離れることなんてありえないのに。
勝手に予想して嫉妬をする。そんな彼女が可愛く見えるのだった。
ガラガラ
「ヘレナ、いますか?」
「おやメリロット。何か報告でも?」
理事長室に書類などをまとめたものを持ってきた私はヘレナの目の前に
大量の書類を置き。
「受理をお願いします」
「ふむ、色々あるねえ」
学園の情報の大多数を私たちが管理してるから多いのは当たり前で、それを
決定する理事長の仕事が一番多いのも当然だ。
しかし言わないとやってられないこともあるだろう。
私は息抜きと称して勝手にヘレナが抜け出さないように、見張るようにして
彼女の傍で立って様子を見ている。
「学内の空気がちょっと変わったわよね」
「そうですか?」
「何かあったでしょ」
本当にヘレナの直感は恐ろしく鋭くて、何でも筒抜けかと思ってしまうほど。
しかし今回に関しては中身まではわかっていない模様だ。
私は眠気覚ましに濃いブラックコーヒーを淹れてヘレナの前に置くと
彼女はそれを嬉しそうに啜りながら、強い苦味を感じて喜んでいる。
「ヘレナの言う通り、告白されましたよ」
男女共に1人ずつ。
そこは言わずに黙っていると、ピクッという動きをしてから石のように固まる
ヘレナ。
その反応が可愛かったけれど、しばらくすると疲れてるのに何か申し訳ない
気持ちになってしまい、さっさと結末を話した。
「特に慣れ親しんでもいないし、何より生徒相手ですから本気で向き合うわけ
ないでしょう。ヘレナ、心配しました?」
「いやわかってたけど。メリロットそういうことに消極的だし」
私は書類で顔を隠した彼女の顔を見るために横に移動をしてこちらに振り向かせた。
少し安堵したような、焦ってるような。複雑に感情が入り混じった顔が私の視界に入る。
「何でも自信を持って動いてるヘレナが、珍しいですよね」
「そりゃあ、メリロットが取られたら嫌だからね」
「ほんと、ヘレナって素直ですよね」
「まあね」
「でもわかってないこともあるものね。私がヘレナから離れられるわけがないのに」
「うん…」
本当はヘレナもわかっている。それだけ私たちの繋がりは強いものだ。
だけど人はちょっとした不安が少しずつ膨れ上がることもあるのだ。
そこから嫉妬が生まれる。
「私は小さな時からヘレナが好きだった。あの握った力強さ、温もり私は忘れない」
ニベ一族から抜け出したあの日から、私は無意識の中でヘレナのことが好きだった。
当時は純粋な意味で「好き」だったのに。いつの間にか別の意味も含まれるようになった。
「私はずっと、ヘレナのことが好きよ」
ちゅっ
軽く触れ合う甘いキス。気持ちを伝えるだけのそのキスは思いのほか強烈で
脳が痺れてしまいそうで、何だかこそばゆい。
「ふふっ、なんだかくすぐったいわね」
いつも余裕を持って大人をしているヘレナが昔のように少女のように微笑むのを
見て私は幸せで。そんな空気を理事長室で暫く味わってから私は仕事に戻ることにした。
その途中で気持ちの良い風が流れて平和である実感が湧く。
最初はヘレナと一緒にいる世界を守るためだったけど、他にも理由は重なってきて
今では学園や町内にも特別な想いがあった。
ヘレナだけではない。生徒会やその周りに関わる人にも影響を受けたようだ。
そこで知らないうちに私は良い方へと変われたに違いない。
吸い込む空気が軽く感じる。さわやかな日差しを浴びてから、私は再び図書館へと
戻る。知識を求めてくる生徒達のために…。
お終い
説明 | ||
時々書きたくなる先生組の百合。大人ならではの甘い恋愛も良いものです。それが書けてるかどうかは別物ですけどね!_:(´?`」 ∠):_ | ||
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