無表情と無邪気と無我夢中 4-1
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【無表情と無邪気と無我夢中 4-1】

 

 

 

―――『お見舞いとお帰りなさい』―――

 

 

 

 

 

おうかです。

 

緑色の青年剣士が回転斬りでピンク色の丸っこい勇者に斬りかかり、その下で鎧に身を包んだ女戦士と土管工事のおじさんが一進一退の攻防を繰り広げてます。

 

色んな技を繰り出しているのに紙一重紙一重で躱されて合間合間で軽いジャブを受けまくってる状態。

 

攻撃がっ、なかなかっ、当たりませ―――あっ!?

 

 

「あらし、タイムタイムです!」

 

「今更遅い!」

 

 

一瞬の隙を突かれピンクボールに吸い込まれてすぐに吐き出され仰け反る私の剣士。

 

そこを組み付かれて、ああ〜やめてぇ!

 

 

「あ、ああ〜っ、ああぁあああッーーーー!!」

 

「おうかちゃん、うるさ―――ああッ!?」

 

 

抵抗する隙もなく私の剣士がピンクボールの美しきバックドロップを喰らい場外へと吹き飛ば

されてしまいます。

 

と、同時に余所見をしたなのはの女戦士も赤いおじさんに吹き飛ばされていました。

 

 

「これで、今日10連敗目……」

 

 

このゲーム機専用の独特な形をしたコントローラーを静かに置き、項垂れながらクッションに顔をうずめる私。

 

高町姉妹VS八神姉妹による某ゲーム会社の総キャラクタースマッシュバトルゲーム対決は、八神姉妹チームの無敗記録を伸ばす形となりました。

 

何故……何故勝てないのでしょう。

 

 

「いや〜おうかちゃん助かったわ。なのはちゃんの気ぃ逸らしてくれて」

 

「むぅ〜、あと一歩だったのに〜……」

 

 

クッションをずらして片目だけ出すと、恨めしげになのはが私を見てきます。

 

そ、そんな目で見ないで下さい。

 

 

 

あのなのは行方不明から一ヶ月が経ちました。

 

幼稚園や保育園に通っていない二組の姉妹はすぐに仲良くなり、こうしてお互いの家にお邪魔したり迎え入れたりして遊んでいます。

 

今日は八神姉妹の家でTVゲーム三昧。

 

この家、格闘ゲームやレーシングゲーム、バラエティーゲームと種類が豊富なのです。

 

私が見た感じこの4人の中で手練れは、はやてであると確信しています。

 

なのはがあと一歩と言っていたので互角と思われがちですが、あれは手加減してギリギリの勝利を楽しんでいる指裁き。

 

侮れません。

 

たまにズレたメガネを直す仕草にちょこっとイヤミを含んでいるのがこちらの悔しさを倍増させます。

 

 

「うぅ〜……久遠ん〜〜」

 

「くぅ?」

 

 

ソファーの上で丸まっている子狐―――久遠に癒やしを求めます。

 

この子狐。

 

八神姉妹が飼っているわけではなく、ほら、例の神社にいた子狐です。

 

初めて会ってから、なんだか日中はこの家に入り浸っているようですが。

 

四面楚歌になりかけて味方を求めた私は久遠目掛けてソファーにダイブ!

 

 

「くぅん」

 

 

ですが上手くそれをかわした久遠はなのはの下へ。

 

 

「アンタ完全に四面楚歌ね」

 

「何故、何故何故〜」

 

 

何故私は久遠に避けられてしまうのでしょう。

 

なのはを始めはやてとあらしにはもう懐いたというのに。

 

持ちっぱなしだったクッションをポフポフ叩いて悔しがる自分の姿が滑稽です。

 

 

「アレや。おうかちゃんの肌から滲み出る泥っぽい何かを動物的本能で感じ取ってるんちゃう?」

 

 

はやてがズレてもいないメガネをクイクイ直しながら言います。

 

癪に、癪に障りますよその動き。

 

クセですか、もうクセレベルなのですか!

 

 

「泥っぽい……ぷっ」

 

「わ〜ら〜う〜な〜」

 

 

ゲームでは全く勝てず、はやてにはからかわれ、あらしには笑われ、久遠には避けられる。

 

私が何をしたというのですか!?

 

 

「にゃはは!よしよしおうかちゃん」

 

 

なのはには撫でられ―――これはこれでいいですね。

 

 

その時、ピンポーンとチャイムが鳴り響きます。

 

誰か来ましたけど、誰なのでしょう?

 

 

「はやてちゃん、誰か来たみたいなの」

 

「…………あっ!?」

 

 

何ですか?!

 

何に驚いたのですか。

 

 

「あ……普通に忘れてた」

 

 

あらしは私達に何も説明しないままそそくさとリビングから出ていってしまいます。

 

 

「……一体何ですか?」

 

 

残ったはやてに私が聞くとはやては両手をパンッと合わせてごめんのポーズをしました。

 

 

「二人共ゴメン!今日これから私病院行かないけなかったのスッカリ忘れてたんや」

 

 

病院……診察ということですね。

 

はやての足が動かないのは原因不明の病だということは知ってましたが、そうですよね。

 

通院じゃ仕方ありませんよね。

 

 

「わかりました。私達もこれでおいとましましょう」

 

「はやてちゃん。病院って何処の?」

 

「海鳴大学病院やよ」

 

 

海鳴大学病院。

 

行ったことはありませんが名前はよく知っています。

 

だってそこには私達の大切な人が今も眠っているのですから。

 

 

「ねぇ、おうかちゃん……」

 

 

言わなくてもわかります。

 

私だって同じ想いなのです。

 

あの時ああいう約束をしましたけど、本当は目を覚ましたらお母さんと一緒に行こうと思ってました。

 

 

「はやて。私達も一緒に行っていいですか?」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

八神姉妹がいつも利用しているタクシーに便乗して私達高町姉妹も海鳴大学病院にやってきました。

 

ちなみに久遠も連れてきています。

 

病院に入ることは出来ませんがあのまま家に残しておくことも出来ませんので。

 

 

「アタシは久遠と一緒に外で待ってるから行っといで」

 

「くぅ」

 

 

久遠を頭に乗せてそう言うあらしに甘えて私となのはとはやては病院へ入ります。

 

受付にてはやてと別れ、私達はお父さんのいる病棟へ向かいます。

 

 

 

ナースセンターでお父さんの病室がどこかを聞き、そのまま病室へ。

 

ナースの人達が私達を見て話してましたが、おおかた娘がいたとかお母さん似だとかそういうことでしょう。

 

お母さんは結構頻繁に来ているのでもう顔見知りでしょうしね。

 

 

コンコンコンと一応ノックをし、スライド式のドアを開けてなのはと中へ。

 

まず目に入ったのは風でなびく白いカーテン。

 

夏ですから窓が開けられていますね。

 

一歩一歩、足を進めます。

 

個室であるが故に緊張します。そして白いベッドとシーツが見えました。

 

 

 

お父さん、お父さん、お父さん。

 

 

私はお父さんが大好きです。

 

 

家族の中で一番、一緒にいると落ち着くのです。

 

 

早く、早く会いたいお父さん。

 

 

 

ですが、久々に見たお父さんの寝顔に私は愕然となりました。

 

あのたくましくて強さに満ちていて、それでいて優しくて温もりのある笑顔はそこになく。

 

あ、また泣いてしまいそうです。

 

ですがそれを感じたなのはがギュッと手を握ってくれたのでなんとかこらえることが出来ました。

 

 

「お父さん……」

 

「……大丈夫だよおうかちゃん」

 

 

お父さんから目を逸らせないまま私達は置いてあったイスに座ります。

 

 

私は何も言えなくなりました。

 

 

 

 

 

 

……何分経ったでしょうか。

 

 

私はずっとお父さんの寝顔を見つめてます。

 

 

もう今すぐにでも目を覚まして私を見てほしい。

 

 

あの声で私の名前を呼んでほしい。

 

 

そしてそして、大きな手で撫でてほしい。

 

 

そんな奇跡を望んでいました。

 

 

 

「お父さん。私達、元気だよ」

 

 

 

なのはが話し掛けます。

 

何も返事してくれないとわかっていながらも続けます。

 

 

 

「友達、出来たんだよ。もう毎日楽しく遊んでるよ」

 

 

 

先月私と神社に行ったこと。

 

 

子狐・久遠と出会ったこと。

 

 

自身が勝手に外に出てみんなに迷惑かけたこと。

 

 

その時私を泣かしたこと。

 

 

八神姉妹と出会ったこと。

 

 

私とあらしが張り合っていて自分とはやてが笑いあっていること。

 

 

私が極端にゲームに弱いこと。

 

 

今日もボコボコにされたこと。

 

 

ずっとずっと語り続けますが、話すことがなくなったためか静かになりました。

 

 

 

「お父さん……お父さんは今、どんな夢を見てますか?」

 

 

 

ずっとなのはの語りを聞いていて閉じたままだった口を開き、私は語りかけます。

 

 

 

「夢の中でいいので聞いてください」

 

 

 

なのはが私を見つめます。

 

 

 

「私、お父さんに抱っこしてもらいたいです」

 

 

 

私はお父さんの顔を見つめます。

 

 

 

「約束、してくれますか?」

 

 

 

いつ果たされるかわからない約束。

 

 

わがままかもしれない、自分勝手かもしれない。

 

 

それでも私が一番お父さんにしてもらいたいことを打ち明けます。

 

 

 

「目が覚めたら……怪我が治ったら……退院したら、してほしいです」

 

 

 

だから、だから、だから。

 

 

 

「行きましょう、なのは」

 

「おうかちゃん……」

 

 

私は立ち上がり、ドアへ向かいます。

 

なのはも私を追い掛けて傍に寄ります。

 

 

「言いたいことは言いました。あとは祈るだけです」

 

「……私も祈るよ。お父さんに戻ってきてほしいもん」

 

 

私達は手を繋いで病室を後にしました。

 

時間にして30分ぐらいだったようです。

 

外に出てあらしに「そんなに目真っ赤にしてどうしたの?」と突っ込まれましたが、一応ごまかしました。

 

まあ、察してくれたみたいですけど。

 

 

はやての診察が終わり、私達はタクシーで家まで送っていってもらいました。

 

それからずっと、お姉ちゃんが帰ってくるまで私は縁側でボーッとしていました。

 

あ、お兄ちゃんとお姉ちゃんはあのなのはが行方不明事件があってからお店のお手伝いを交互にやることになったみたいです。

 

だから今日はお店にはお兄ちゃんが行き、家にはお姉ちゃんが来ます。

 

お姉ちゃんが帰ってきたことに気付いたのは、不意に後ろから抱き締められた時でした。

 

 

「おうかは、お父さんが好きだもんね。昔からそう」

 

 

お姉ちゃんは色々なことを話してくれました。

 

お父さんにあやしてもらわないと泣き止まないし寝つきもしないくらい。

 

初めてハイハイやあんよが出来たら真っ先にお父さんの所へ向かったこと。

 

お父さんがボディーガードの仕事に行くのを見送る時にはなかなか抱きついたまま離れないこと。

 

あの日もそうでした。

 

お土産を買ってくると言って出発し、それどころではない状態で帰ってきて。

 

 

「よしよし……」

 

 

何時の間にか泣いていたようです。

 

涙だけがポロポロ流れて。

 

私は、お姉ちゃんのまだまだ成長中である胸に顔を埋めそっと目を閉じました。

 

 

 

説明
気付いたら前回の投稿からほぼ一年が経過してましたw
書き溜めているやつをひとまず完結させようと思っていたら投稿し忘れるとか・・・・・・
でもこれからその完結させたやつを常時upしていきますので、よろしくお願いします。

前回が4つに分けていたのがちょっと多いかなと思い、一話一話を基本全編後編と2つに分ける形で投稿していきたいと思います。
改めてよろしくお願いします。
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