リリカル幽汽 −響き渡りし亡者の汽笛−
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幾多の世界を渡り歩く、亡者の乗る幽霊列車。

 

次の行き先は、如何なる世界なのか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「辺鄙な場所だな」

 

某無人世界。

 

「何も無ぇぞ」

 

「おい、ここがその世界なのか? シアン」

 

「いえ、まだです」

 

辺り一面が荒野となって何も無いこの世界に、幽霊列車は停車した。ゴースト、シャドウ、ファントムの順番に降り立ち、最後に黒装束の青年―――シアンが地面に降り立つ。

 

「この世界はあくまで通過点。ここからもう少し進んだ先に、次の目的地となる世界があります」

 

「じゃあ、何でこんな場所で止まったんだ? こんな何も無い場所に」

 

「寄り道なんかしないで、さっさと次の世界に行こうぜ」

 

シャドウとファントムが愚痴る中、青年は一点の方向を集中して見ていた。

 

「…少し、違和感を感じましてね」

 

「あ?」

 

「感じるんですよ。何と言うべきでしょうか…………生者でも亡者でもない、何者でもない。そんな存在の気配が」

 

「「「!?」」」

 

それを聞いて、ゴースト達も互いに顔を見合わせる。

 

生きてもいなければ、死んでもいない、何者でもない。

 

そんな存在がいるのか?

 

こんな、何でもない世界に?

 

疑問が止まない中、シアンは一人荒野の先を歩いていく。

 

「って、おい!? 置いてくなっての!!」

 

イマイチよく分からないが、考えるのはひとまず後だ。

 

そう考えたゴースト達は置いていかれないよう、大人しくシアンの後をついていく事にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、これがそうですか」

 

荒野を少し進んだ先。

 

そこでシアンは、先程から感じていた違和感の正体の下へ辿り着いた。

 

「お〜い、置いてくなって……何だ?」

 

後から追いついてきたゴースト達も、シアンの前で倒れている存在に気付く。

 

「なぁ、まさかそいつがそうだってのか?」

 

「えぇ、恐らく」

 

シアンは倒れている存在に歩み寄り、ゆっくりと倒れていた“人物”の身体を起こす。ファントムはその人物の顔を覗き込んで首を傾げる。

 

「…女だと?」

 

シアン達が見つけたのは女性だった。

 

銀色に靡く長髪。黒の衣装を身に纏った、10代後半辺りの年齢を思わせるような麗しい容姿。眠っているようにも見えるその女性は、何処からどう見てもかなりの美人だ。だが今の彼等にとって、問題はそこではない。

 

「何だこの女……本当に“人間”か?」

 

それが今、ゴースト達の思い浮かぶ疑問だった。

 

この女性からは生者としての気配は感じられない。かと言って、亡者らしき気配も無い。本当に何者とも感じ取れない存在に、一同はますます疑問が深まっていく。

 

「なぁシアン、お前は何か分かんのかよ?」

 

「あのなぁ、分からねぇからシアンもわざわざここまで来てるんだろうよ」

 

「そうそう。それぐらい理解しろよなお前も」

 

「うぉい、さりげなく人を馬鹿にしてんじゃねぇ!!」

 

「おいおい、俺達は人じゃなくてイマジンだぜ?」

 

「あ〜あ、間違えてやんの」

 

「だぁもう!! あぁ言えばこう言う!!」

 

ゴースト達が勝手に漫才か喧嘩のようなやり取りを始める中、シアンは自身が抱き抱えている女性の前髪を右手で触れる。

 

(魂らしき物も感じ取れない……いや、もしやとは思いますが…)

 

シアンはしばらく思考を張り巡らせ……やがて、一つの結論に至る。

 

「…少し、様子を見ましょうか」

 

「「「!?」」」

 

シアンが女性をお姫様抱っこの要領で運び始めるのを見て、先程から喧嘩していたゴースト達が驚く。

 

「おいおい、何の真似だ?」

 

「彼女を列車まで運びます」

 

「「「はぁっ!?」」」

 

「少し調べたい事もありますのでね。それに…」

 

シアンは幽霊列車の止まっている方向に目を向ける。

 

「この次に、私達が向かう世界……そこへ行けば、何となく分かる気がするんです」

 

そう言って、シアンは女性を列車まで運んで行ってしまった。

 

「…はぁ」

 

残ったイマジン三人は呆然とするが、その内ゴーストが溜め息をついた。

 

「相変わらず、シアンの考えてる事は俺達には分かんねぇ…」

 

「今に始まった事じゃねぇとは思うけどな。過去にも同じような事が何度かあったし」

 

「どの道、シアンが何を考えてようが俺達は従うしか無ぇんだよな。そういうルールなんだから」

 

シアンが何を考えてるかは、自分達には到底理解が出来ない……否、理解する必要も無い。

 

自分達はただ、シアンについていくだけ。

 

それ以外にやる事なんてありはしないのだから。

 

「…まぁ良い。俺達もとっとと行くぞ」

 

「ちょ、おい!?」

 

「待て待て、自分一人先に行くなって!!」

 

ゴーストが最初に動き出し、シャドウとファントムも慌ててそれに続く。

 

 

 

数分後、幽霊列車は動き出し、無人世界から消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(姿は人間でも、その実態は人間に非ず…)

 

列車内部。

 

席に座っても未だ眠っている女性を横目に、シアンも席に座ってから資料らしき本のページをひたすら捲り続ける。

 

「…次の世界に向かえば、分かる事ですか」

 

シアンは本を閉じ、窓の外を見つめる。

 

 

 

「マス、タ…ァ…」

 

 

 

「!」

 

声の聞こえたシアンが、未だ眠る女性の方へと目を向ける。女性はただ小さく呟き、その閉じている目から一筋の涙が流れる。

 

「…目覚めるのは、まだ先ですかね」

 

シアンは草笛を取り出し、口元に当てる。

 

−♪〜〜♪〜♪♪〜…−

 

草笛から、音色が奏でられる。

 

まるで誰かの心を深い眠りにつかせるような、優しい子守唄のように―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暇で仕方ねぇな、全く…」

 

シアンがいる車両とは違う、別の車両にて。

 

聞こえてくる草笛の音色を聞きながら、何もする事の無いイマジン三人は退屈そうに寛いでいた。ゴーストは席に座って頬杖をつき、ファントムはだるそうに席にドカッと座り込み、シャドウに至っては席の上に寝転がっている始末である。

 

「どうせする事なんか何も無ぇし、どうだ? ババ抜きか大富豪でもすっか?」

 

そう言ってシャドウがトランプを取り出す。それを見たゴーストは面倒そうな態度を取る。

 

「ま〜たババ抜きかよ……たまには別の事がしたいくらいだぜ、こっちは」

 

「そう言って、実は負けるのが怖いだけなんじゃねぇのか?」

 

「まぁ、無理も無ぇよな。この前やった大富豪じゃ、何故かお前だけ良い感じにカード出せずに結果がすげぇ悲惨だったよな」

 

「あん時の事をまた掘り返してんじゃねぇよ!! 涙出てくるだろうが!!」

 

「どうする? リベンジなら受けて立つぜ?」

 

「…あぁ良いさ、次こそは勝つ!! 次こそは!!」

 

先程と打って変わり、ゴーストが勝負に出る。それを見たシャドウとファントムはニヤリと笑う。

 

「うし、また一勝負といこうか」

 

「おぅ」

 

そして今日もいつものように、彼等は娯楽に身を投じるのだった。

 

 

 

 

 

「あ、罰ゲームはどうするよ? 最後まで残った奴には“霊界ジュース”でも飲ませるか?」

 

「おいやめろ!! またあん時の惨劇を繰り返す気か!?」

 

「それについては俺も同意だ!! 冗談抜きであれはやめてくれ、本気で死ねる!!」

 

「…チッ、分かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次元世界ミッドチルダ。

 

そしてその世界を拠点に活動している巨大な組織、時空管理局。

 

その時空管理局に所属する魔導師は今日もまた、己の任務に励むのである。

 

しかし彼等は知らなかった。

 

この世界にもまた、亡者の乗る列車が向かって来ている事に―――

 

 

 

 

 

 

「全ては、永遠の輪廻の為に」

 

 

 

 

 

 

物語は、ここから動き出す。

 

 

説明
第1話
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コメント
それはいずれ分かる事ですw(竜神丸)
銀髪・・・人でない・・・まさかリイ・・・・・いやなんでもない(okaka)
ありがとうございます。次回はちょこっとだけ時間が飛びます(竜神丸)
ふむふむ・・・・初っ端から楽しみになってきましたね・・・・・・・・!(Blaz)
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