偽りの世界に何を願う 1章 学園祭の罠 |
──3日後
殉朔「……はぁ」
俺は、壁に貼ってある行事予定表をみてため息をついた。そして何度も、2週間先の予定に目をやる。
そこには──『学園祭』としっかり書かれていた。
誰もが楽しみにする学園祭だが、俺は違う。理由は知っているだろうが、俺はクラスから浮いているからである。
去年の学園祭なんて、担当なんてなかったからな。まあ、学園祭はサボったんだけど。
しかし、今年は違っていた。
殉朔「あいつが、あんなことを言うから」
それは、昨日のこと。
週に1回だけ1時間クラスの話し合いなどをするための時間が設けられている。
もちろん、この時期になれば学園祭のことが議題になる。
俺には関係のないことだと思い聞き流していた。
クラスメイトA「では、今回はアクションを取り入れた劇ということでいいですね?」
クラスメイトB「なら、早速台本とか色々必要だから集めたりしないと」
クラスメイトC「あ、あと配役とかも」
と意見が飛び交う。書記係も急いでメモを取る姿が見える。
クラスメイトA「主役は、どうする? やりたい人はいる?」
しかし、手をあげる者は皆無だった。それはそうだろう。自ら主役なんてやるのは目立ちたがり屋ぐらいだし、ましてや劇がアクションが入るわけで……。
秋村「はい、推薦したい人がいます」
と、秋村が手を挙げる。推薦したい人か……、秋村が推薦するぐらいだからすごい奴なんだろうな。
クラスメイトA「どうぞ」
秋村「坂城がいいと思います」
…………。
クラスに一瞬の静寂がはしる。そして。
殉朔「お、お、俺〜!?」
俺は、大きな声で驚いてしまった。いや、考えてみれば、秋村が推薦している時点で気がつけたのかもしれない。
しかし、何故俺?
秋村「お前、確か結構動けていたよな? だったらこれにぴったりじゃないか」
確かに、俺はあいつの前で宙返りとかやったことはあるけどさ。でも、演技の方はまったく駄目なんだけど……。
クラスメイトB「いいんじゃないんですか? 誰もやりたい人はいないんだし」
みんな投げやりな感じで答えていく。もう、どうでもいいような感じになっていた。
結局誰も反対しなかったので、主役は俺と決まってしまった。
いや、俺には無理だって……しかし、そんな俺の嘆きは誰にも聞こえなかった。
…………
……
殉朔「はぁ〜、本当に嫌だな……」
しかし、そんなことで学校をサボるわけにはいかない。逃げてしまえば、より一層立場が悪くなるだけだ。
演劇か……、でもアクションが入るわけだしセリフは少ないかな。
そんな安直な考えが、俺を苦しめるとは思いもしなかった。
クラスメイトA「これ台本ね」
と渡されたのは、劇の台本。ぺらぺらとめくると……。
殉朔「セリフめちゃくちゃ多いじゃん……」
てか、アクションが多すぎないか?
アクションがある所には、詳細が書かれていた。
殉朔「ここで、複数人と闘う……、ここで、武器所持者相手に、素手で闘う……」
どんなけだよ……先が思いやられるな。
はぁ〜、やっぱり拒否するべきだったな。
殉朔「さて、セリフを覚えないと……、ブツブツ、ブツブツ」
自慢じゃないが覚えることは得意だったりする。と言っても、この手の奴は初めてなんだが……。
しかし、人間やれば出来る。諦めたらそこで終わり。そんなことを先輩……もちろん組織のだが、いつも聞かされてきた。
でも、セリフを覚えた所で、感情を込めたりするのは苦手である。どうしても、棒読みになったりする。
秋村「おうおう、頑張ってるじゃない」
殉朔「煩いのが来たな」
秋村「煩いとはなんだ? せっかくクラスと交流が出来るチャンスを……」
殉朔「余計なお世話だな! たく、お前のせいで……ブツブツ」
秋村「そうかい。あ、そういえば、俺の話を聞いてくれるか?」
俺に主役を任命した奴が、その為にセリフを覚えている俺に話を聞けと?
しかし、殴りたい気持ちを抑える。
殉朔「はい、100円」
秋村「お、くれるのか。ありがとよ」
殉朔「いや、払えよ」
秋村「なんでだ? 理由を述べてもらおうか」
殉朔「今の時代もだが、話を聞いてもらうだけで金を払うんだぞ? 町の弁護士とか探偵とかにでも聞いてみろ」
秋村「それは、仕事だからだ!」
殉朔「似たようなものじゃないか?」
もちろん、冗談だし遊びだ。秋村もノリがいいのでこの辺はいいところだと思う。
秋村「さて、冗談はさておき、俺の話は……」
俺は、秋村の話を聞くフリをしながらセリフを覚えていくのであった。
やがて放課後。
俺は、いつも早く帰るのだが、今日は残って練習をしている。
もちろん、教室にはだれもいない。
アクションの部分を練習してみたが、意外といける感じだった。
これなら、セリフさえ出来ればなんとかなる。
殉朔「なんてな。さすがに、まだキレは少ない方だし……もっとやらないと」
ともう一度やろうとした刹那、教室の扉が開いた。
…「……あっ!」
殉朔「……えっ?」
俺がちょうどバク転をした瞬間だった。
気がその人物に逸れてしまい。そして──目の前には床があった。
…………
……
顔がひんやりした気持ちいのがあるのに気付き目が覚めた。
どのぐらい気絶していたのだろうか…・・・。その前に、組織の一員のこの俺があんなミスをしたなんて・・・・・・恥ずかしいぜ。
辺りを見渡すと、そこはさっきいた教室だった。
殉朔「いてて」
と起き上がると、そこにはあの時にいた人がいた。
・・・「大丈夫ですか? 私のせいで・・・・・・」
少し悲しい感じを込め、謝っていた。謝れたのはいつ以来だろうか・・・・・・。
殉朔「いえ、別に全然平気ですよ」
・・・「でも、坂城君長い間気絶してたんですよ?」
殉朔「さ、坂城君? 何故、俺の名前を・・・・・・あ、クラスメイトの」
それ以前に俺は有名な人だったな。愚問だったぜ。しかし、この顔は見たことがある。
クラスの女子で明るい性格だったかな。
晴菜「はい、浅井 晴菜(あざい はるな)です」
殉朔「えっと、今の時間は・・・・・・」
ふと時計に目をやると既に、6時を回っていた。つまり、2時間位気絶してたわけで・・・・・・。
殉朔「あの、浅井さんは2時間の間ずっとここにいたんですか?」
晴菜「は、はい。坂城君に悪いと思って・・・・・・」
いい人だ。こんな俺に優しくしてくれる・・・・・・でも保健室に連れて行ってくれた方が有難いんだが・・・・・・。
晴菜「あの、保健室は開いてなくて・・・・・・それで、私がここで目を覚ますのを待っていたんです」
殉朔「そうだったんですか・・・・・・」
なるほど。つまり、保健室が使えない。でも、クラスメイトを放置できない。だから、見ていた。
やっぱり、いい人だ。
しかし、いい人には裏があるから気をつけろ、そんなことを過去に先輩から教わったことがある。
晴菜「で、では私はこれで」
と言い残し去って行った。
気まずかったんだろう、そんな風に見えた。
殉朔「さて、俺も帰るかな」
俺は、帰り支度を済ませ、家に帰るのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・「はい、今のところ奴に動きは見られません」
・・・「そうか、引き続き任務に当たれ」
・・・「はい!」
・・・「お前の働きで、この日本。いや、世界が変わるんだ。それを忘れるな」
・・・「はい!」
・・・「あいつも、お前が偽物の教師だとは分からないようだな」
・・・「ええ」
・・・「よし。以上、通信を終わる」
──ピッ
その人物は通信機をポケットにしまい、ため息をついた。
夜の暗闇でその姿ははっきりと見えなかった。
しかし、先ほどの会話の声では男だと思われる。
・・・「坂城・・・・・・殉朔。どれほどの人間か、お手並み拝見だな」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
次の日の朝。
俺は、起きると直ぐに学校の準備をし学校に向かった。
いつも寄るコンビニを無視し早めに向かった。
と言うのも、昨夜のこと。
メールで秋村から、『劇について話し合いがあるそうだ、朝の7時半には集まって欲しい』と連絡が来た。
だから、遅刻しないようにこうやって急いでいる。
朝のコンビニは混んでいるため、下手をすると間に合わなくなる可能性があるからだ。
それに、朝は比較的弱かったりする方なので、早く起きれないのである。
教室に着くと、何人かは集まっていた。その中には、もちろん秋村がいた。
秋村「やあ、ちゃんと来たようだね」
殉朔「俺は、主役をお前に任命されたんだぞ?」
秋村「自覚はあるんだな。お前が来ないと、この話合いは無意味だ。ところで、練習はしてるのか?」
殉朔「ああ、ちゃんと練習はしている」
秋村「そうでなければ、恥を掻いてしまうからな」
殉朔「俺のセリフだぞ? それは」
司会「えっ〜、では人数も集まったことですし、この劇の話合いと動きの練習を始めたいと思います」
話合いでは、俺の立ち位置や行動など。この劇でメインとなりえる部分を重点的に話し合った。
驚いたことに、ヒロインは昨日会った、浅井晴菜だった。
晴菜「えっと、坂城君よろしくね」
殉朔「はい、よろしくお願いします」
緊張してしまったせいか、組織関係の仕事の挨拶のクセが出てしまい、お辞儀をしてしまった。
晴菜「坂城君って、面白い人ね」
と笑われてしまった。
殉朔「ハハハ・・・・・・」
乾いた笑いしか俺は出なかった。
晴菜「では、ここの場所からやってみましょう」
殉朔「はい」
浅井が指名した場所は、この劇のメインとなる主人公が悪党に囲まれているヒロインを助ける所だった。
つまり、俺にとっての一番きついところでもある。アクションがきつい上にセリフなんてものもあるからだ。
司会「では、10−Cのシーン。アクション!」
緊張が教室にはしる。時間的にこのシーンしか出来ないだろう。
悪党A「ぐへへ、嬢ちゃんよ。もう、逃げれないぜ」
悪党B「さあ、おとなしくすべてを脱ぎな!」
晴菜「いや・・・・・・」
悪党C「そうか。ならば、力づくでぐふぁっ・・・・・・」
悪党Cが倒れ込んだ。誰かに殴られたらしい。
悪党A・B「誰だ?」
その2人組みの前に1人の男が降り立った。
殉朔「弱い者をいたぶって、楽しいか?」
悪党A「貴様〜、おい、お前らやりな!」
そう指示すると、どこに隠れていたのか多くの敵が現れた。
そして、一斉に俺に襲いかかる。
殉朔「ふん、ゴミが・・・・・・」
手下A「死ね!」
と殴りかかるが、あっさりと避けられ、さらに、その手下を使い突っ込んでくる集団にぶつけた。
手下たち「ぐはっ」
殉朔「ふ〜、大分減ったな」
俺は、頭の方を睨みつける。
悪党B「こ、小癪な!」
と、悪党Bは鉄パイプを取り出す。
それを、ぶんぶんと振り回す。
しかし、動きに切れがない。
相手は素人だから仕方ないが、これでは本気にはなれない。
だが、その油断こそがいけない。
殉朔「ふん、そんなの」
俺は、同じく鉄パイプでその攻撃を弾く。
悪党B「なっ!」
と同時に、俺は素早く相手の腹に俺の拳を喰らわせる。
悪党B「ぐふぁ・・・・・・」
悪党Bが倒れ込むと同時に、俺は悪党Aに向かう。
悪党A「く、来るな!」
だが、ここまで来れば、後は勢いで打ち負かせるのみ。
悪党Bと同様に、腹に喰らわせる。
悪党A「うふぁ・・・・・・」
悪党Aはその場に倒れ込んだ。
殉朔「この位か・・・・・・暇つぶしにもならん」
俺が、その場を去ろうとした時、腕を掴まれた。
晴菜「あ、あの・・・・・・ありがとうございました」
殉朔「・・・・・・」
俺は、無言でその手を振り払い、その場を後にした。
司会「カット!」
ふっ〜、疲れたな。
でも、意外に動けるものだな。
秋村「うん、良かったじゃないか」
殉朔「そうか?」
しかし、褒められるのは悪いものではない。
秋村「ああ、これなら大丈夫だと思うぞ」
殉朔「ありがと」
ふと、時計を見ると既にホームルーム開始30分前だった。
意外に時間が過ぎるのは早かった。
晴菜「坂城君って、すごいね。私まだ、全然出来てないのに・・・・・・」
殉朔「いや、あそこはたまたま・・・・・・」
晴菜「たまたま?」
クラスメイトA「浅井さん、ちょっといい?」
晴菜「あっ、はい。じゃあ、この話は、また後で」
と浅井はクラスメイトのもとへ向かっていった。
殉朔「また、後で・・・・・・だと?」
秋村「ふふふ」
殉朔「何がおかしい?」
秋村「いや、お前が俺以外のクラスの人と話してるのが、珍しいからな」
確かにそうだ。
今まで、クラスメイトとあそこまで会話をしたことなんてなかったからな。
殉朔「・・・・・・」
秋村「進歩した、そんな所だろ。お前に対してどうこれが影響するか・・・・・・」
殉朔「・・・・・・」
俺はしばらく無言だった。
何故、浅井晴菜は俺に対して話をかけてくるのか・・・・・・。
発端は、やはりあれか?
あの事件以来──変わった。
しかし、変わったのは浅井だけでない。
俺もだ。いつもなら、邪魔などの感情が湧くのだが、今回はまったくない。
・・・・・・、いやいやこんなことで悩んでいる暇なんてないんだ。
今は、そんなことで悩んでいてはいけないんだ。
殉朔「よし、今日も一日がんばるよ〜」
と俺は小さく言うのであった。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
杉山「で、ここを因数定理で・・・・・・」
俺は悩んでいた。
悩まないで行こう、そんな気持ちだったのにどうしても悩んでしまう。
今まで俺は、組織にいたときは訓練に励んでいたし、それ以外の時間は勉強などに当ててきた。
こんなことは今までなかったのだ。悩んだことはあっても、胸にくるこの悩みだけは別だった。
殉朔「はぁ〜・・・・・・」
これで何度目だろうか。ため息をするな、そんなことを昔先輩から言われた。
それは、幸せが逃げるとかなんとか言っていたような気がした。
しかし、どうしてもため息が出てしまう。
秋村「悩んでいるのか?」
殉朔「ああ、って今は授業中じゃ?」
秋村「何を言っている? 周りを良く見ろ」
秋村に言われて周りを見てみる。
いつの間にか授業が終わっていたみたいだ。
秋村「授業に集中出来ないほど悩んでいたのか・・・・・・」
と飽きられてしまった。
殉朔「・・・・・・」
そういえば今まで俺は授業は真面目に参加している方だったから、こんなことは珍しかった。
秋村「とりあえず、一緒に飯を食べよう。その悩み聞いてあげようではないか」
殉朔「いや、いい」
俺は何処かに逃げるべく、席を立った。
秋村「あまり無理をするなよ」
俺はうなずき、教室を後にした。
殉朔「はぁ・・・・・・、と言ってもこの時間だと屋上しかないんだよね」
まだ9月と言っても、まだ暑い。それに屋上はベンチすらないためほとんどの人がいないのだ。
でも、屋上からの眺めは格別である。
見えるのは、町しかないがそれでも素晴らしいと思う。
殉朔「さて、昼休みにここにいつも来てるが・・・・・・一番上には行ったことがないな」
いつもは、扉近くの階段で座って食べているから探索はしたことはない。
しかし、今日は弁当を忘れた(劇の為だが)ため、探索する時間に充てられるわけだ。
殉朔「さて、行ってみるか」
俺は、梯子をのぼった。
殉朔「おお、さらに眺めが良くなったぞ」
俺は、ぐるぐると自分の町を眺めていた。
・・・「すぅ〜〜、くか〜〜」
殉朔「ん?」
俺は、どこからか寝息が聞こえてくるのを耳にした。
殉朔「どこだ?」
俺は、任務の時のように、慎重にその音がする場所へ向かった。
・・・「くか〜〜」
殉朔「へぁ?」
俺は、変な声をだして驚いた。
そこにいたのは、浅井だった。
しかし、驚いたのはそれだけではない。
何故?
スカートがはだけて、丸見えだからさ。
これこそ。
殉朔「世界まる見え!(パンツ丸見え)」
っと、叫んでしまったではないか。
浅井「ん〜〜」
俺の声のせいか、浅井は起きてしまった。
浅井「ふみゅ?」
殉朔「や、やぁ・・・・・・」
浅井「ああ、坂城君。おはよう」
殉朔「お、おはよう」
浅井「ねむいな〜」
浅井は、寝むそうに目をこすり起き上がった。
と、同時にスカートはもとに戻った。
一安心だな。
殉朔「えっと、いつもここで寝てるの?」
浅井「はい、そうですよ」
気付かなかったさ。何で気付かなかったんだ。
こんなおいしい状況が毎に・・・・・・って、ちゃうやろ!
浅井「どうしたんですか?」
殉朔「えっ? いやなんでもないです」
たぶん自分が自分にツッコミをしていた事を不思議に思ったんだな。
浅井「あの、坂城君もここに来ていたんですか?」
殉朔「ああ、うん。ほとんどここに来てるね」
浅井「そうだったんですか、気付きませんでした」
だろうな。あんな状況になるぐらい寝ているんだから。
浅井「屋上へ何をしにきてるんですか」
殉朔「弁当を食べに来てるんだけど、今日は弁当を忘れて・・・・・・食堂は面倒だからいつもの通りにここに」
浅井「弁当を忘れて・・・・・・」
笑え、笑いたいなら笑え!
浅井「なら、私のおにぎり食べます? お腹いっぱいで、もったいないのであげますよ」
殉朔「へぁ?」
本日二度目の変な声。
どうしてこんな声が出るのか不思議だな。
浅井「はい、これです。私の手作りおにぎりです」
殉朔「手作り?」
俺は、浅井からおにぎりを受け取る。
見た目からして、手作りなのは間違いない。
本来なら、俺は食べないだろう。
しかし、腹が減っている今は別である。
殉朔「い、いただきます」
俺は、そのおにぎりをほうばる。
浅井「どうですか?」
俺は思考が停止してしまった。
おいしい、まずいの問題ではない。
俺は梅干しが嫌いなんだ。
そしてこのおにぎりには、その梅干しが入っている。
しかし、俺は男だ。それに、これくらいで食べるのを諦めたら、浅井に迷惑をかける。
俺は、梅干しを飲み込み、おにぎりを食べ終えた。
殉朔「うん、おいしい」
浅井「良かった。あ、さっきの話の続きでも」
殉朔「続き?」
そういえば・・・・・・。
──回想
晴菜「坂城君って、すごいね。私まだ、全然出来てないのに・・・・・・」
殉朔「いや、あそこはたまたま・・・・・・」
晴菜「たまたま?」
クラスメイトA「浅井さん、ちょっといい?」
晴菜「あっ、はい。じゃあ、この話は、また後で」
と浅井はクラスメイトのもとへ向かっていった。
殉朔「また、後で・・・・・・だと?」
終わり
そんなことがあったような。
浅井「なんで、あんなに動けるのかなって」
殉朔「ああ、えっと・・・・・・。実は」
浅井と会話をしているせいか、若干注意力が散漫している俺たちに銃口が向けられていた。
・・・「ふう、狙いはばっちりだな。あいつ、あの女といると緊張している様にみえるな」
そして、その男はもう一度狙いをつける。
・・・「残念だな。お前がこれほどの人間だとは」
浅井「へぇ〜。いろんなことを習っていたんですか」
殉朔「ええ、まあ・・・・・・えっ? うわ、何に躓いた」
俺は、とっさに風に飛ばされてきた殺気を感じ取り、躓くふりをし浅井とともに押し倒した。
浅井「ふにゃ?」
──チュン
殉朔「(撃ってきた? バカな。いったい何のために)」
浅井「いてて、どうしたの急に」
俺は、先ほど弾が飛んできたと思われる方へ、視線を向ける。
しかし、あまり見えない。もう少し、体を・・・・・・。
──ぷにゅ
殉朔「へぇ?」
浅井「あ・・・・・・、い、いゃあ〜〜」
殉朔「うわわわわ!」
俺は、素早くそこから飛んだ。
殉朔「ご、ごめんなさい〜」
俺は、犯人を捜すのに夢中で浅井の胸を掴んでしまったのだ。
浅井「あ、いや。でも、大丈夫ですか、怪我は。何かに躓いて・・・・・・、あ、これですか」
浅井が指したのは、さっきの銃痕だった。
殉朔「ええ。そうです」
違う、本当は違う。俺は、ただ胸を揉みたく・・・・・・って、ちゃうわい。
あれは、俺を狙っていたのか?
しかし、これは先輩に相談するべきだな。
浅井「では、私はこれで・・・・・・」
顔を真っ赤にした浅井は、その場を後にした。
・・・「ちっ、さすがだな。まあ、あれぐらい避けてもらわないとな」
その男は、殻の薬莢を片づけてその場を後にした。
殉朔「・・・・・・。さて、これは」
俺は、銃痕を調べ、弾を堀りあてる。
殉朔「あ、あった。これは・・・・・・5.56mm弾か!」
これは、一般的に狙撃銃に使われるもの。つまり、それなりに離れた位置でも致命傷は当てれば負わせることができる。
しかし、この周りだと狙撃出来るポイントは、銃痕の跡からして、高めになる。
それが、出来る場所と言えば・・・・・・。
殉朔「あそこかな」
俺は、学校でも一番高い時計台を見る。
あそこなら、可能である。それに、学校は防犯システムなんてないしから侵入なんて簡単にできる。
しかし、時計台といえど鍵がかかっているはず。
見に行ってみるか。幸いまだ、昼休みはあるようだしな。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
私は、今トイレにいる。
恥ずかしくて、教室には行けないから。
あの時、坂城君に胸を触られてからずっとこうだ。
でも、相談する相手がいない。
それに、私のイメージは明るいイメージだから、悩みなんてあまりないと思われている。
浅井「どうしよう・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
俺は、時計台前に来ていた。
さて、鍵がかかっていたと思うんだけど・・・・・・。
殉朔「ああ!」
見てみると鍵が壊されていた。
つまり、狙撃した犯人がこれを壊し、中に入ったわけか・・・・・・。
しかし、今登れば怪しまれるし、それに証拠なんてないだろう。
殉朔「ふ〜、今日はここまでかな。しかし、俺を狙ってくるとは・・・・・・俺の正体を知っているとしか思えないな」
さて、先輩に連絡してみるか。
俺は、組織で使う通信機を手に取り連絡してみる。
御堂『どうした、殉朔』
殉朔「はい、連絡したいことが・・・・・・」
御堂『そうか、狙撃されたか』
殉朔「やはり、これは俺を狙ったんでしょうか?」
御堂『・・・・・・、ああ。それしかないな』
殉朔「えっ? どういうことです?」
御堂『前に、紹介した開発者を知っているな?』
殉朔「はい」
御堂『あれは、実はあの開発をよく思わない人がいてな、ほとんどは納得させたようだが、まだ納得してない所もあるみたいなんだ』
殉朔「えっ、つまりそれは」
御堂『ああ、その反対している人、いや組織が俺たちが関わっていることを知り、警告でもしたんだろう』
殉朔「この開発をやめないと、死者がでるぞ、ということですか?」
御堂『そうだ。しかし、俺たちも必死にそれを捜しているが、なかなか掴めない状況だ』
殉朔「・・・・・・」
御堂『そういうことだ。気をつけろよ、殉朔』
殉朔「はい」
俺は、通信機を切り、教室へ戻った。
教室に戻ると、早速秋村が俺に声をかけてきた。
秋村「どうした、そんな深刻な顔をして」
殉朔「ああ、ちょっとな」
秋村「相談なら・・・・・・」
殉朔「いや、いい!」
イラついていたのか、いつもより強く言ってしまった。
殉朔「あ、すまん」
秋村「いや、いいさ。しかし、無理をしないことだな。お前は、主役なんだ。そんなことでは、しっ・・・・・・」
殉朔「そうか、劇だ!」
劇で俺は舞台に出る。
その時にまた俺に警告として、狙ってくるはずだ。
秋村「劇だって、お前・・・・・・」
殉朔「ありがとう、秋村。お前のおかげで解決できそうだ!」
秋村「ああ、この俺様に解決出来ないことなどないからな。褒め称えろ・・・・・・って無視?」
早速、このことをメールで知らせるぞ。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・「はい、外しました」
・・・「そうか、これで奴らも何かを感じて動くことだろう」
・・・「・・・・・・」
・・・「次は、学園祭を狙え」
・・・「分かりました」
──ピッ
・・・「さて、今度は仕留めるぞ、坂城」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
殉朔「ふう、メールも送ったし、これでいいかな。でも、奴らは狙ってくるのだろうか・・・・・・。しかし、学園祭には数多くの人が来る以上は・・・・・・」
──ブルブルブルブル
殉朔「早いな、さて見てみるか」
御堂『メールを読ませてもらった。確かに、それはあり得なくもないな。しかし、こちらからは増援は呼べないことを頭に入れておいてくれ』
殉朔「なっ! そんな。ん、続きが」
御堂『これは仕方ないことだ。奴らは、俺らが増援に来たと知れれば、何をするか分からない。下手をすれば、その場で多くの人の命を落としかねない。犯人を刺激させてはいけないんだ』
殉朔「そうか、なるほど」
しかし、そうなると俺1人でなんとかしないといけないのか?
そして、メールの続きを読む。
御堂『しかし、それでは大変だろう。物資だけはそっちに送る。本番はそれを持っていればいいだろう』
物資か。防弾チョッキなどかな。
殉朔「メールはこれで終わりか・・・・・・」
学園祭、本当に修羅場になりそうだな。
そして、他の人を巻き込まないようにしないと。
それから、俺は劇の練習と万が一の為の戦闘術を繰り返し練習した。
毎朝早く起きるのが辛かったけど、慣れてくると楽になるし、朝の方が練習がしやすい。
──そして、本番当日
殉朔「ついに来たか・・・・・・」
秋村「頑張れよ、俺は準備だけだがな」
殉朔「くっ、いいよな(指名されなければ、こんな羽目にならなかったんだがな)」
俺は、出演する人たちと打ち合わせをするため教室に向かった。
既に、他のクラスの人たちも出店やら休憩所なら色々準備をしていた。
殉朔「早く行かないと」
急ぎ足で教室に向かう、教室につくと既にほとんどの人が集まっていた。
もちろん、今回のヒロインの浅井さんもいた。
俺と目線を合わせると、気まずそうに目をそらした。
それは、そうだろうな。あんなことがあったんだから。
しかし、劇となればそれは別。たぶん、浅井さんも気持ちを切り替えて望むだろう。
司会「では、最終打ち合わせとなります。今までの成果を見ると、みなさんはとてもいいと私はいいと思います。しかし、本番はもっと声をはっきり・・・・・・」
軽く、セリフ合わせを他の人たちと行う。
しかし、浅井さんとはしなかった。いや、出来なかった。
避けられているのだ。
殉朔「はあ。本当にこれは色々と大変だな・・・・・・」
スタッフ「本番まであと、15分です。そろそろお願いします」
──ドックン
ついに来た。俺の初めての主役の演劇。
ミスだけは避けたい。
殉朔「よし、防弾チョッキは着てる。そして、念の為の・・・・・・ナイフ」
狙撃者相手だが、一応持っておくべきだ。
もしかしたら、接近戦もあり得るかもしれない。
どんな状況をも想定し、望まないといけない。
スタッフ「では、開幕です」
垂れ幕が上がり、客席から大きな歓声が沸く。
しかし、俺の出番はまだだ。
時間の都合上、メインとなる場所しか出来なくなったためである。
浅井「はぁはぁ、どこまで追ってくるのかし、ら。もう、息がっ」
と足を躓き転んでしまった。
悪党A「ぐへへ、嬢ちゃんよ。もう、逃げれないぜ」
ようやく、俺の出番が近付いてきた。
まだ、奴らは狙ってはいないようだ。
もし、狙ってくるなら俺の注意力が散漫した時を狙うだろろ。
悪党B「さあ、おとなしくすべてを脱ぎな!」
晴菜「いや・・・・・・」
悪党C「そうか。ならば、力づくでぐふぁっ・・・・・・」
俺は、素早く悪党Cの頭を殴り飛ばす。
悪党A・B「誰だ?」
その2人組みの前に俺は、降り立つ。
殉朔「弱い者をいたぶって、楽しいか?」
悪党A「貴様〜、おい、お前らやりな!」
そう指示すると、どこに隠れていたのか多くの敵が現れた。
そして、一斉に俺に襲いかかる。
しかし、この間も神経をとがらせ、会場内を捜す。
殉朔「ふん、ゴミが・・・・・・」
手下A「死ね!」
と殴りかかるが、あっさりと避けられ、さらに、その手下を使い突っ込んでくる集団にぶつけた。
手下たち「ぐはっ」
殉朔「ふ〜、大分減ったな」
俺は、頭の方を睨みつける。
しかし、未だに奴らの動きは見られない。
悪党B「こ、小癪な!」
と、悪党Bは鉄パイプを取り出す。
それを、ぶんぶんと振り回す。
しかし、動きに切れがない。
相手は素人だから仕方ないが、これでは本気にはなれない。
だが、その油断こそがいけない。
殉朔「ふん、そんなの」
俺は、同じく鉄パイプでその攻撃を弾く。
悪党B「なっ!」
と同時に、俺は素早く相手の腹に俺の拳を喰らわせる。
悪党B「ぐふぁ・・・・・・」
悪党Bが倒れ込むと同時に、俺は悪党Aに向かう。
悪党A「く、来るな!」
だが、ここまで来れば、後は勢いで打ち負かせるのみ。
悪党Bと同様に、腹に喰らわせる。
悪党A「うふぁ・・・・・・」
悪党Aはその場に倒れ込んだ。
殉朔「この位か・・・・・・暇つぶしにもならん」
俺が、その場を去ろうとした時、腕を掴まれた。
そしてこの時、空気が変わった。いや、何かが違う。
そう、あの時と同じ。あの屋上の時と。
晴菜「あ、あの・・・・・・(ああ、どうしよう。あの時のあれが頭にちらついて・・・・・・)」
殉朔「・・・・・・(どうしたんだ?)」
注意力が散漫している俺でなく、浅井さんに照準が向けられていた。
・・・「(・・・・・・・・・・・・ふっ。動くことが出来ない今がチャンスだな。何故急に、もう1人の女を狙えと言ったのか分からないが・・・・・・仕事は仕事だ)」
晴菜「ありが・・・・・・」
ちっ、今気付いたぜ、俺でなく狙いは浅井さん。いや、これは俺をはめる罠か。
しかし、これではまた浅井さんを動かす羽目になるのかよ。
あいつのせいだ。秋村め、覚えてろよ。
殉朔「危ない、まだ敵がいる!」
俺は、アドリブをかまし、浅井さんに飛びついた。
──シュン
殉朔「うっ(くっ、やはり撃ってきたか)」
腕を掠めたが、命には関わらないのでいいとする。
だが、俺はかろうじて狙撃した奴を見た。
・・・「(まずい、見られた!)」
殉朔「(なっ、あれは。男? それにあれは・・・・・・)」
俺の見た姿は、知っている奴だった。いや、しかし、本当にあの人なのだろか。
晴菜「いてて、どうしたんですか?(また、あの時と・・・・・・)」
殉朔「て、敵がまだ狙っていたんですが、諦めて立ち去ったようです・・・・・・」
腕の痛みがだんだん増してきた。
やはり、ライフルで撃たれたからだろう。
晴菜「あっ、ち、血が出てます。早く治療しましょう」
殉朔「いえ、これは」
晴菜「いいえ、治療します。いきますよ」
俺の腕をつかみ、舞台を後にした。
観客A「すげぇ。最後の演技は迫真ものだぜ」
観客B「ああ、あれはすごいぜ!」
真実を知らない観客たちは、本当の演技だと思い込んでいたようだった。
しかし、これで良かったのかもしれない。
狙撃がばれずに済んでいたのだから。
俺と浅井さんは保健室に来ていた。
しかし、先生は何処かに行っているようだった。
浅井「先生いないね」
殉朔「うん。でも、これぐらい自分で何とか出来る」
浅井「へぇ〜。すごいんだね、勉強も出来てこんなことも出来るなんて」
殉朔「いや・・・・・・そんなに」
ただ組織にいた時に色々な知識を植え込まれたからであり、俺がもし普通の生活を送っていたならば、今の俺はいなかっただろう。
しかし、この怪我に対しては、何も聞かないのか?
いや、深入りしないなら俺はいいんだが。
浅井「謙遜は良くないよ。他人が、褒めているんだから・・・・・・素直になってみればいいじゃない」
殉朔「・・・・・・」
謙遜か・・・・・・。
俺は、褒められたことはほとんどなかった。組織にいた時もそうだった。
しかし、先輩は違っていた。
俺が良く出来た時は、褒めてくれて。駄目な時は、怒ったり励ましてくれた。
学校でいい点数を取れば、先生も褒めてくれたけど、どれも心がないものだった。だから、喜べなかった。
でも、今は違う。なんだか、嬉しい気持ちが沸いてくる様な気がする。
殉朔「あ、ありがとう」
浅井「うん、それでいいんだよ」
その笑顔を見ると、今までの苦労が飛んだような気がする。
もしかしたら、俺は・・・・・・いや、よく考えろ。
まだ、先は長い。これで決めるのは駄目だ。
浅井「えっと、せっかくだから学園祭・・・・・・一緒に見て回る?」
殉朔「・・・・・・俺なんかでいいのか?」
浅井「う、うん」
殉朔「じゃあ、行こう」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・「すいません、また外しました。それに、姿も見られました」
・・・「このカスが!」
・・・「・・・・・・」
・・・「もう、お前は何もしなくていい! いや、戻れ!」
・・・「しかし、それでは」
・・・「大丈夫だ、前もってお前と同じ様に送った刺客はいる」
・・・「まだ、チャンスを」
・・・「駄目だ!」
・・・「くっ・・・・・・」
・・・「通信を終える」
──ピッ
・・・「くそ! いや、まだチャンスはある。今を狙うんだ。俺の立場を使えば、な」
その男は、成すべくことをするために何処かに消えていった。
説明 | ||
殉朔にとって、今までになかった出来事が起きた。 それは、学園祭で行う劇の主役だった。 とりあえず、1章が終わりました。2章はまだ先になると思いますが、よろしくお願いします。 アクションは苦手だ。 前の章(プロローグ)はこちら→http://www.tinami.com/view/59872 次章→http://www.tinami.com/view/60550 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
549 | 512 | 1 |
コメント | ||
いつもすごく楽しんでます。次回も楽しみにしてます。(篇待) 殉朔の自分ツッコミ……、こんなコミカルなキャラだったんですね。学校で狙われる理由や、殉朔と晴菜、この二人の今後の関係が気になります。第二章も楽しみに待ってます。(華詩) |
||
タグ | ||
学園 学園祭 | ||
メシアさんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |