真・恋姫無双 〜乱世に吹く疾風 平和の切り札〜第4話 襲撃のM/足りない力
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一刀が桜桑村で生活を始めてから、一週間が経過した。

 

劉備たちの家に居候することになった一刀がまず初めに考慮したことは、働き口だった。

『働かざるもの食うべからず』とは、非常に有名な言葉だ。

雨風凌げる宿に泊めてもらい、都までの道が分からないがために情報を仕入れてくれるという高待遇を得ているのにもかかわらず、穀潰しになるなど一刀自身が最も許せなかった。

 

というわけで、一刀が始めた仕事は…

 

 

 

『探偵』

 

 

 

あらゆる事件の謎を名推理で解き明かし、巧みな追跡術と探索術で犯人の手掛かりを掴む、なんともハードボイルドな事業。

警察(この時代で言う県尉)でも手に負えないような難事件を解き明かすというのは夢でもあったので、折角だからこれまでの探偵術を活かせるような仕事をしていきたい。

それが一刀の夢でもあったので、一刀は劉備家の家前を借りて受付を始めた。

 

そして今や、一刀は村の皆から頼られる名探偵に………

 

 

 

「あ、一刀さんおかえりー」

「ただいま〜……はぁ、腰が猛烈に痛い……畑仕事なんて全然慣れねぇ……」

 

劉備の温かい笑顔での迎えに生返事で応えた一刀は、力無くその場にヘナヘナと倒れ込む。

 

 

 

探偵こと北郷一刀の本日の仕事は、村人の畑仕事のお手伝いであった。

 

後漢末期、『探偵』という名前も仕事内容も、誰にも馴染みの無いものであった。

基本、何か事故が起これば警備の者が抑え込んだり軍隊を以って鎮圧するなど、力づくで解決させる傾向が強いこの時代。

当然、『探偵を始めました』という一刀の言葉に、村人たちは不思議そうな表情を浮かべていた。

と言うより、怪訝と言う方が妥当だろうか。

 

そんなこんなで村人達に探偵の仕事を説明した一刀だったが、村人たちの探偵への認識は『頼んだら何でもしてくれる便利屋さん』といったものだった。

まぁ浮気調査から猫探し、落し物の捜索なども請け負う探偵もいるため、あまり否定できないが。

 

 

 

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そして先ほど一刀が受けた依頼内容は『今日は少し暑いから畑仕事の手伝いをしてほしい』という、探偵スキルが活用できそうにないものだった。

しかし一刀に断る義理もないため、律儀に仕事をこなしてはいるが

 

「はい一刀さん。お茶が入ったよ」

「おぉ、ありがとう劉備さん」

 

差し出された湯呑みを手に取り、疲れていながらも笑顔を向ける一刀。

 

しかし、逆に渡した側の劉備は不満そうな顔をしながら一刀をジトリと睨んでいる。

 

「む〜……さん付けしなくて良いって何回も言ってるのにー。知り合ってもう一週間になるっていうのに、どうしてそんなに他人行儀なの?」

「あはは……いや、別に距離をとってるわけじゃないって。なんか劉備さんの名前って、呼び捨てにするのは気が引ける雰囲気があるから」

「そうなの?でも白蓮ちゃんとか千瑠(読みはちる、簡雍の真名)ちゃんは私のこと呼び捨てにしてるよ?」

「女の子同士だし、前々から見知った間柄ならあまり気にしないかもしれないけどさ……」

「うーん……じゃあじゃあ、私の真名だったら呼び捨てにしてくれる?」

「劉備さんの真名って言えば…………そう、だな。あっちの方が呼び捨てにしやすいかもな。と言うより真名を許し合えるくらいの仲になってたら別に何とも思わないんじゃないか?」

「あ、それもそっか」

 

いつだったか説明はしていただろうが、この世界の『真名』は非常に神聖かつ清らかな存在となっており、これを呼べるのは家族や仲の良い親友、結婚相手くらい。

許されてもいないのに真名で相手を呼べば、斬首も辞さないほどの徹底っぷりだ。

 

だが、劉備は一週間前に盗賊に襲われたところを一刀に救われており、いわば彼は窮地を救ってくれた恩人そのもの。

劉備の寛容さを考えてみれば、もう既に一刀に真名を預けても何ら問題は無いと思えるのだが……

 

「でも……お母さんから一刀さんに真名を預けるの禁止されるんだよねぇ……」

「まぁ劉紀(劉備の母)さんの気持ちも分からなくはないけどね。俺が劉紀さんの立場だったとしても、もしかしたら同じこと言ってたかもしれないし」

 

実を言うと、劉備は一刀に真名を呼ぶことを何の躊躇いも感じておらず、むしろ助けてくれた恩もあるので是非呼んで貰いたいと思っている。

しかし、劉備の母である劉紀がそれを認めようとしなかった。

 

劉紀曰く。

 

 

『危ない所を北郷さんに助けてもらいましたけど、まだ知り合って三日も経たないお人に真名を許すなどあまり感心出来た事ではありませんよ。そもそも最近の若い子たちは真名を容易に許していて、真名を軽んじているように思えますよ私は。私があの人と出会っていた頃は……』

 

 

 

 

 

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話の本筋より盛り上がりそうな、劉紀の昔の惚気話は割愛。

 

そう言うわけで、一刀が劉備の真名を受けるに値する人物だと劉紀が判断するまで、一刀が劉備の真名を呼ぶことを禁じている。

劉紀が言うには昔は真名の扱いが今より慎重で、今回のような出来事も、助けた側の一刀も狙われた立場だったため自己防衛の意思もあるとみなされ、昔ならば真名を許すほどまでには至らないという。

ちなみに、その分真名で呼び合った時の絆は十分に深いものだと彼女は言う。

 

そんな劉紀の意見とは逆に、劉備は真名を一刀に預けることが出来なくて不満がたまっているようだが。

 

「はぁ〜あ。もういっそのこと、お母さんのいない所でこっそり呼ばせよっかなぁ」

「あらあら、お母さんとの約束を破るなんていけない子ね、桃香は」

「うひゃう!?」

 

約束を反故にしようかと劉備が悩んでいた時、奥の方から劉紀が一刀たちの方に近づいてき、桃香の後ろから声を掛けてきた。

心の準備をしてない劉備は驚きのあまり凄い勢いで身を跳びあがらせ、そそくさと後ずさる。

 

「お、お母さん!?まだ筵作りが残ってたんじゃなかったの!?」

「それならもう終わって一息ついていた所ですよ。それにしてもお母さんは悲しいですよ。桃香が私の言いつけを破って本当の不良娘に成り果てようとするなど……」

「いや、別にそこまでの事じゃないからね!?」

「でもそう言う小細工も無駄ですよ。私は5里先(約2q)で繰り広げられる、自分にとって都合の悪い話や陰口は全て聞き取ることが出来ますから」

「え、でもこの間、鶴綺(読みはつるぎ、田豫の真名)ちゃんとお母さんのこと話したとき………あ」

「なるほど、今日の桃香の夕食は川へ投げ込む、で決定ですね」

「刑罰がご飯って聞いたことないんだけど!?」

「あら、桃香って何だかんだで素直にお仕置き受けてるんだからそういうのも嫌ってないのかと」

「お仕置きするときのお母さん、力とか速さがもの凄く上がってるから逆らえないだけなんだよ!」

「母は強し、と言うものです」

 

親子でそんな漫才が繰り広げられている最中、一刀は彼女たちの漫才の輪から離れて思考に耽っていた。

 

「(そういえば、もう此処に来て一週間になるのか……劉紀さんの知り合いの人がガイアメモリとかの情報を都で集めてくれるそうだけど……帰って来るまでもう少し時間が掛かるだろうな)」

 

村への滞在時間、ガイアメモリ諸々に関する事、それらを一刀は考えていた。

今のところガイアメモリに関する事件が発生した、ということは聞いておらず、一刀の中でこの世界に対する疑問は日に日に色濃くなっていく。

本当にこの世界にガイアメモリは存在するのか、と。

現在一刀の方で確認できているメモリは、一刀の手元にある6種類のみ。

 

「(こっちにいる間は俺の世界の時間は進んでないから特に制限時間もないけど……あまりのんびりしてても、その分犯人が好き放題してしまうからなぁ……)」

 

どうしたものかと一刀が溜め息を吐こうとした、その時だった。

 

 

 

 

 

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≪ドォォォォォン!!≫

 

 

 

「きゃ!?」

「…!?」

「今の爆音は…?」

 

突然、3人の耳に届けられた轟音。

 

大木が倒れたような音でもなければ、家が崩れたような音でもない、耳を劈くような強力な爆発音だった。

突然の事態に劉備は短い悲鳴を上げて身を縮こまらせ、劉紀は悲鳴こそあげなかったものの、驚いた表情で周囲を見探っている。

 

そして動揺する3人の耳に次に入ってきたのは、聞き馴染みのある声……村人たちの悲鳴だった。

 

「きゃあぁぁぁぁ!!」

「ば、化け物だぁー!!」

「っ!」

「まさか…!」

 

悲鳴を聴いた時、劉備と一刀はピッタリのタイミングで駆け出し、外へと飛び出していった。

 

「二人とも、お待ちなさい!」

 

劉紀が二人を止めようとするも、彼女の声は二人の耳に届いていなかった。

知り合いの悲鳴を聞いて、冷静でいられなくなった二人を止めることなど誰にもできなかった。

 

 

 

一刀と劉備、二人は自分の限界の速さで村を駆け抜けていく。

全力で走る二人の目に移ったのは、数百メートル先に浮かぶ不気味な黒煙が天へと昇っていく光景。

嫌な予感を漂わせたその光景を捕捉した時、二人は強く地面を踏み少しでも前へ進もうとする。

 

二人が黒煙の立つ場所へ向かう最中、大勢の村人たちが二人の進む反対方向…つまり黒煙の方から必死の形相を浮かべて逃げてきた。

 

その中で一刀と劉備の姿を確認した若い男が立ち止まり、二人の前に立ち止まる。

 

「待て二人とも!この先には見たことも無い化け物が暴れている!近づけば危険だぞ!」

「化け物?」

「あぁ、俺は妖魔の類については詳しくないんだが、あれは間違いなく人間ではない。身体から何やら燃えた物を放出させて、近くの家をぶっ壊したんだ!」

「人間じゃ…ない?」

 

男の発言に首を傾げる劉備。

 

そんな彼女に、一刀が前に進み出つつ声を掛ける。

 

「劉備さん、この人と一緒に逃げててくれ。俺がそいつを止めてくる」

「え…!?」

「馬鹿を言うなアンタ!あんなの普通の人間が立ち向かえるような相手じゃない、まともに戦ったら命は無いぞ!」

「そ、そうだよ一刀さん!一人で行くなんて絶対に危ないよ!」

 

一人で現場へ行こうとする一刀に、男が掴みかからんばかりの勢いで止めにかかってきた。

その形相はとても必死で、彼自身も今すぐにこの場から逃げ去りたがっているよう。

 

そんな男の様子から、現場がどれほど危険な事となっているか、傍らで見ていた劉備にも理解できた。

なので劉備も、男に便乗して独行しようとする一刀を止めにかかる。

 

しかし、一刀の決意を秘めた瞳がブレる気配は無かった。

 

「確かに、この先は危ないってことは分かる。だけど…俺は……」

 

 

 

―――お前は、お前のやりたいように進めばよい。

 

 

 

「……こういう時のために、この世界に来たんだ」

 

 

 

そう言いだした一刀の動きは、実に軽やかだった。

自分の方を見てくる二人に軽く目くばせすると、地面を勢い良く踏み込み、瞬発的に二人との距離を離し、黒煙巻き上がる方向へ再び駈け出して行った。

 

「おいアンタ、待て!……ってちょ、劉備ちゃん!?」

「ごめんなさい!でも私もこのまま逃げたくないから!」

「いやいや、だから駄目だって!」

 

 

一刀が走り去る中、劉備もまた、一刀の後を追うように黒煙の昇る方目掛けて走ろうとした。

しかし、男が咄嗟に劉備の腕を掴んだことによって、彼女の身体は前に進まなくなる。

 

「離してください!このままじゃ一刀さんが…!」

「さっき言っただろ、この先にはとんでもない化け物がいるって!あの兄ちゃんが戦えるのかは分からんが、少なくとも劉備ちゃんは武芸なんて心得てないだろ!加えて武器も何も持ってないのに、どうやって戦うって言うんだ!」

「でも…でも!とにかく行かないと!」

 

劉備は精一杯の力で男の手を振り払おうとした。

しかし男女の筋力の差に加わり、武芸の心得を持たない劉備の華奢な体格では男の手を払う事は出来なかった。

 

そうこうしている間にも、一刀はどんどん先へと進んでいく。

 

距離を離されていく現状と、一向に前へ進めないもどかしさに劉備の心が焦燥に駆られる。

走り去って行く一刀の背中に、彼女は懸命に手を伸ばす事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

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「……見つけた、あいつか!」

 

走り続けること数分、一刀は先ほどの轟音や黒煙を起こした者を視界に捉えることが出来た。

来る途中で会った男から化け物と聞かれていたので、一刀もある程度は覚悟していた。

先程の男の言うとおり、一刀の先には見たことも無い風貌を持つ化け物が佇んでいた。

 

化け物は近寄ってきた一刀の足音と気配に気づき、そちらの方を振り返る。

 

『あぁん?なんだてめえは』

 

深淵のように黒い肉体。

見たものを振るい上がらせるほどの鋭い眼光。

そして、身体から吹き上がる紅蓮の炎。

 

 

 

bP【マグマ・ドーパント】

 

 

 

確かに情報通り、この世界ではおろか一刀の世界でさえ見たことのないその存在は非常に禍々しく、まさに化け物と呼ぶにふさわしい。

その化け物の周辺には炎をメラメラと上がらせて燃え、面影がどんどん消えつつある民家や、道端に生えていた草の焼け焦げた跡がある。

燃える民家は柱や屋根が崩れ落ち、その度に周囲を照らす炎と天へ昇る黒煙の量、そして勢いは増していく。

 

非常識極まりないこの光景に一刀も怪物の前で足を止め、思わず息を呑む。

恐る恐る、一刀は口を開く。

 

「……これは、お前がやったのか?」

『ああそうだ!凄いだろう、これを全部オレがやったんだぜ!オレ一人でなぁ!』

 

あまり意味の無い質問だと思っていた一刀だったが、律儀にもその怪物――マグマ・ドーパントは興奮気味に語りだしてくれた。

 

『あの女から今回の話を聞いた時、最初は胡散臭ぇ話だと思ってたが……こんなに美味い話だったとはな!これさえありゃ飯にも困らねえ、誰も俺に逆らわせねえ!クソ官軍の連中だってラクラクぶっ殺せそうだぜっ!』

「……あんた、一体何者なんだ?」

『ああ?んなこと聞いて何になるってんだ?答える義理もねえ』

 

マグマ・ドーパントにはそう言われたが、一刀は先ほどの男の台詞を思い返す。

 

 

『飯に困らない』

『誰も逆らえない』

『官軍も怖くない』

 

 

情報量は少々心許ないが、一刀の中では一つだけ思い浮かぶものがあった。

 

恐らく、この怪物は元々どこかの村で貧しい暮らしをしていた農民だったのだろう。

食事に困らない事を案じていたという事は、以前はまともに食事にありつけなかった生活を送っていたと判断できる。

そして自身の強さに酔い痴れている辺り、以前は肩身の狭い立場にあったという事。

 

『まあいいさ、先ずはあの女の依頼を済ませちまわねえと。別にあんな依頼、反故にしたって構わねえが【変わった奴】ってのには興味があるからな』

「…何の話だ?」

『言っただろ。答える義理は……無えってなあ!』

 

その瞬間、マグマ・ドーパントの身体から吹き上がっていた炎が紅く輝き始め、熱気が上空に立ち込む。

 

『うおぉぉぉ!』

 

すると、マグマ・ドーパントは自身の身体から何発もの火山弾を一刀へ向けて飛ばしてきた。

 

「うお!?」

 

咄嗟の事態で反射的に体が反応した一刀は、横に転がり込んで自分に向かってくる火山弾を躱す。

一刀が元いた場所…つまり火山弾が着弾した場所は小さな爆発と共に炎が周囲に拡散し、辺りの地面に火をつける。

 

今の一刀の身体でまともにぶつかれば、確実に冥土の旅へ一直線となる事確実なものだった。

 

 

 

 

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「…こりゃ、こっちもゆっくりしてられないか」

 

一刀はすかさず起き上がると、懐からWドライバーを取出して自分の腰へ装着する。

そして間隙入れずに、先程ドライバーと共に取り出した黒いメモリ――ジョーカーメモリを構える。

 

≪Joker(ジョーカー)!≫

 

「…変身!」

 

ジョーカーメモリをWドライバーのバックル部分に挿し込んだ一刀の周囲に黒片が舞い踊り、一刀の身体を覆うように集束する。

そして、一刀は仮面ライダージョーカーへと変身した。

 

『なんだなんだぁ?妙ちきりんな真似しやがったが……まさかお前があの女が言ってた【変わった奴】か?』

「さあな。…行くぜ!」

 

マグマ・ドーパントの質問を切り捨て、一刀は左手首のスナップを利かせると敵に目掛けて駆け出した。

ある程度まで接近したところで、一刀は軽い跳躍を組み込みながら鋭いパンチを繰り出す。

 

「おらぁ!」

 

一刀の拳がマグマ・ドーパントの胸部に叩き込まれた。

しかし怪物の身体はびくともしておらず、一刀自身も今の攻撃に手ごたえが無い事を察し、続けざまに左足での回し蹴りを打ち込む。

 

『ははははは!なんだなんだ、その弱っちい攻撃はよぉ!』

「ちっ!」

 

一刀の蹴りを浴びて尚、高らかに笑って余裕の雰囲気を醸し出しているドーパント。

 

小馬鹿にしたような態度に反応して舌打ちを打ちつつ、一刀は敵の懐に素早く潜り込み連続でパンチを叩き込む。

そして止めにマグマ・ドーパントの腹部目がけて、ストレートキックを放つ。

 

ここまでの怒涛の攻撃には流石に堪えたのか、マグマ・ドーパントは小さな呻き声を漏らしつつ、蹴りの衝撃で数歩後ろに下がらされる。

 

『ふん、少しはマシな攻撃してくるじゃねえか。けどなぁ……攻撃ってのはこんな風にあるんだよおっ!』

 

そう言うとマグマ・ドーパントは上半身の炎を激しく真っ赤に燃え上がらせ、再び火山弾を放った。

しかし、その量は先ほどよりもずっと多く照準こそは曖昧なものの流星群のような火山弾の群れが一刀へと襲い掛かる。

 

「くそ…おらぁ!」

 

迫りくる火山弾に対し、一刀は自分に直撃する分の火山弾のみを分別し、それを蹴りで破壊しては腕で軌道をずらす。

火山弾の耐久力はそれほど高くは無く、一刀の蹴りを食らった弾は呆気なく崩れ落ちていくため、防衛に入った一刀に致命傷はない。

 

だが火山弾はその攻撃を収めるつもりが無いように次々と撃ち出され、一刀の攻撃に転じる隙や一息つく暇を完全に潰しにきている。

 

『へっ、随分頑張ってるみたいだが…無駄なんだよ!』

 

マグマ・ドーパントは嘲笑すると、未だ火山弾の猛攻を防いでいる一刀に向かって肉薄を仕掛ける。

そして一刀の側面に近づくと、その丸太の様な剛腕で一刀に向けて殴り掛かる。

 

『食らえやぁ!!』

「しま……ぐあっ!?」

 

ドーパントの接近こそ気づいていたものの、火山弾とドーパントの攻撃がドンピシャで被さり防御の手が足りなくなった一刀は、マグマ・ドーパントの一撃を横腹に喰らう。

猛烈な一撃に肉体が踏ん張りきれなかった一刀の肉体は地面から離れて後ろへ吹き飛び、家屋に勢いよく突っ込んだ。

 

一刀が突っ込んだことにより民家は崩れ、一刀は瓦礫の中に埋もれてしまう。

 

 

 

 

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「おらぁ!」

 

が、一刀は強引に瓦礫の中から飛び出して脱出した。

 

「くそ……パワーが全然足りねぇ!やっぱメモリを2本使うこのドライバーでジョーカーメモリ1本ってのは無理があったか……」

 

現状の不利に対し、仮面の中で一刀が顔を顰める。

 

元々Wドライバーと言うのは2本のメモリを使用し、そこでようやく本来の力を引き出すことが出来る代物となっている。

しかし現在一刀が使用しているのはジョーカーメモリ一つ、本来であれば左半身のみに現れて力を十分に発揮するのだが、メモリの不足のおかげで右半身もカバーしなくてはいけないため、今の一刀は本来の力を出せずにいるのだ。

 

己の力不足に悔しみ、一刀は自身の拳を強く握りしめる。

 

「(仕方ない……一か八かだ!)」

 

一刀はWドライバーに刺していたジョーカーメモリを抜き取り、右の腰に装着されたスロットにそれを差し込むと軽く手で叩く。

 

≪Joker(ジョーカー)!≫

≪Maximum Drive(マキシマム ドライブ)!≫

 

機械音声が鳴ると、一刀の右手に紫色の炎が纏う。

 

 

「ライダーパンチ…!」

 

 

地を力強く踏み、弦から離れた弓のように疾く駆けて行く一刀。

紫炎が宿る右手にさらに力を込め、腕を引く。

 

『何をしようとこの俺には勝てん!無駄だあ!!』

「うおおおぉぉぉっ!!」

 

マグマ・ドーパントは一刀を返り討ちにすべく、持ち前の筋肉を更に膨張させていつでも最高の攻撃を放てるよう待ち構える。

やられる前にやる、一刀が攻撃を繰りだす前にこちらから止めを刺すという実に単純明快なプロセスだ

 

それでも尚、一刀はドーパント目掛けてひたすら駆け続ける。

 

そして互いの距離が一メートル強まで至ったところで、二人の拳が動き出す。

 

『はあああ!!』

「うぉらあ!」

 

交差する二つの拳。

 

マグマ・ドーパントは上から下にかけて、一刀を地面に殴り伏せる軌道に拳を乗せる。

 

対する一刀は、迫りくる拳撃の軌道が地面寄りだったことを見抜き。

瞬間的に腰を落とし。

自分の頭部を敵の拳の軌道に入れ。

首を横に動かし、ギリギリのところで拳を躱す。

 

≪ドゴォ!≫

 

そして、敵の腹に目がけて強烈なストレートパンチを叩き込んだ。

 

 

 

 

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マグマ・ドーパントの腹部にめり込む一刀の拳。

 

『グ、グオォォ……』

「やったか…!?」

 

怪物から苦しそうな呻き声を聞き取った一刀は、勝利の瞬間を感じ取った。

 

 

 

しかし……

 

 

 

『調子に……乗るんじゃねええぇぇぇぇぇ!!』

「ぐああ!?」

 

怒り狂ったような怒声を放つマグマ・ドーパントは一刀の身体を両腕で捉えると、足元の地面に向けて強く叩きつけた。

背中を強く強打された一刀の口からは、潰れた蛙のような悲鳴が上げられる。

 

一刀を地面へと叩き付けたマグマ・ドーパントだが、受けたダメージも大きかったのだろう。

眼光は先ほどよりも衰えており、息も若干荒々しくなっている。

 

『ぜえ……ぜえ……このクソガキ、いつまでもいい気になってんじゃねえぞ……そんな蚊が刺したような攻撃、俺に聞くわけねえだろ!』

 

いかにも効いていますというような状態になっている男の言葉に説得力はまるでない。

しかし、現在一刀が置かれている状況は非常にマズイものとなっている。

現在一刀は地面に叩き付けられた衝撃で、身体が軽く麻痺してしまっている。

生身で受けたら一体どうなるか、想像するのも怖いくらいだ。

そんな一刀の上には、彼を叩き付けた本人であるマグマ・ドーパントがいる。

 

この状況、完全にマグマ・ドーパントが有利である。

 

『まぁ、この俺にここまで戦えたのは褒めてやるぜ。なんせ今まで襲った連中はどいつもこいつも逃げてばっかでよ……官軍とも戦いたかったが、生憎出くわさなくてな。……まぁ、てめえを殺してから捜せばいい話なんだがよ』

「…くっ……」

『じゃあな、最後くらいは楽に殺してやるぜ』

 

話すのにも飽きが見え始めたのか、会話を締めたマグマ・ドーパントは足元に倒れている一刀を見やると、腕を構える。

 

 

 

 

 

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「一刀さんっ!!」

 

一刀に止めが刺されようとしていた瞬間、両者の元に戦いの場には似合わない声が響く。

 

『ああ?』

 

マグマ・ドーパントは聞き覚えの無い声に反応し、腕を下ろして声の聞こえた方向を見やる。

 

 

 

だが逆に一刀は、マグマ・ドーパントと同じ方向を見る前にその声の正体に気付いていた。

何せ一刀がこの世界にやってきて一週間、毎日聞いた声だからだ。

そして一刀がドーパントと同じ方向を見た時、一刀の中で思い浮かんでいた人物の姿がそこにあった。

 

戦いに割って入ってきた声の主は、先程村人に引き留められていた筈の劉備であった。

 

「劉備さん…!?馬鹿!さっき逃げろって言っただろ、何でここまで来てるんだ!」

「だ、だって……あのままじゃ一刀さんが危ないような気がして…」

「だっても何も無い!っていうかさっきの人が止めてくれてたんじゃないのかよ!」

「え?う〜ん……私もよく分かんないんだけど、私が泣きそうになってた時に急に力が緩んだから、その間に手を振り払ったんだよ」

「泣き落とし……なのか?それ」

 

実際は、一刀が心配なあまり涙目になった劉備が男の方を見て、彼女のウルウルとした瞳に罪悪感を抱いた男が手の力を緩めてしまったのだ。

よく分からないけどこれはチャンス、とばかりに劉備はその手を払ってここまで来たのである。

もちろん当の劉備に泣き落としのつもりは毛頭ない、あくまで天然が導いた運命である。

 

『はっ……イマイチ良く分かんねえが、獲物がもう一匹増えたと言ったトコか。てめえも死ね!』

「させるか!」

『ぬっ!?』

 

マグマ・ドーパントの攻撃目標(ターゲット)が劉備に切り替わる。

しかし、その隙をついた一刀は倒れた状態のままドーパントの横腹付近を蹴りつけ怯ませる。

ドーパントの新しい隙を生むことに成功した一刀はすかさず起き上がってバックステップで距離を取り、劉備の盾になるように彼女の前に立つ。

 

「取り敢えず劉備さん、危ないから帰って。ダッシュで」

「え、まだほんのちょっとしか経ってないのに!?というか何で奪取?」

「ほんのちょっとしか経ってない内だからこそ、怪我する前に帰らせるんだよ!あと何も盗らなくていいから、走って行けって意味で」

「でも一刀さんだってさっきやられてたじゃない!一刀さんも一緒に逃げようよ!あと『だっしゅ』は此処に来る前にしたもん!」

「だから、ここで逃げたら被害が拡大するから俺が踏ん張ってるんだろ!あ、今の奪取の使い方、完璧だったよ」

「え、ホント?えへへ……」

「……あれ?俺らどういう話してたんだっけ?」

「え?『だっしゅ』についての話じゃなかったっけ?」

「…そうだっけ?」

 

 

 

 

 

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『てめえら……俺を馬鹿にしてんのかぁ!』

「「あ…」」

 

置き去りにされたことが気に障ったのか、マグマ・ドーパントが二人に向かって怒りを示してくる。

忘れていた、と言った感じの二人の反応は何とも残酷なものだった。

そしてそんな反応をされれば、当然マグマ・ドーパントは……・

 

『てぇめえらぁぁァァァァァァァ!!』

 

まるで火山の噴火を具現化したような荒れっぷり、その怒り狂い模様はまさしく『マグマの記憶』を語るに相応しいものだった。

ドーパントの怒りに呼応し、その体から吹き上がっていた炎がさらに激しさを増していく。

 

「うわわわわ!?い、一刀さん、早くここから逃げないと…!」

「いや……もしここで逃げても、あいつは満足するまで近隣の村や町を破壊して回ると思う。もしコイツをここで野放しにしてたら、もっと被害が出る筈だ。怪我人はおろか、死人すら出てくるほどのな」

「そんな…そんなのダメだよ!」

「ああ、俺だって見ず知らずの人たちとは言え、それをみすみす見逃したくない。……けど、今の俺じゃこの先どう抗っても力不足になっちゃうんだよ。……劉備さん」

「…なに?」

 

劉備が一刀の方を振り向いた直後、一刀は腰につけたWドライバーのバックルを畳み、元の姿に戻った。

 

「自分の力で、自分で力を振るって沢山の人を助ける覚悟……あるか?」

 

変身を解いた一刀はそう言って自分の右手にWドライバーを、左手には緑、赤、黄色の3色のガイアメモリを劉備の目の前に示して見せた。

 

『何をコソコソしてんだ……てめえらぁ!』

 

しかし一刀が急に元の姿に戻ったことになにか怪しさを感じたマグマ・ドーパント。

何を仕掛けてくるかは見えていないが、元の姿に戻ったことに何かしらの作戦をかんじたのだろう。

その策封じてみせんとばかりに、先ほど一刀にしてみせた時より大き目の火山弾を一つ発って見せた。

特に深く追究せず力尽くで捻じ伏せようとしているのは、今までの挙動から見てらしいと言えばらしいのだが。

 

とは言え火山弾の向かう先には変身を解いた一刀と、彼から選択肢を突きつけられた劉備という絶体絶命的状況。

 

 

 

「さぁ……どうする、劉備さん!」

「わ、私は……」

 

 

 

 

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そして。

 

 

二人のいた場所に巨大な火山弾が直撃する。

 

 

 

火山弾が着弾した地点を中心に、周囲に強烈な衝撃と爆風が巻き起こる。

崩れた家の木材が風でバラバラと薙ぎ飛ばされ、地面の砂が砂塵を生んで周囲を舞い踊る、混沌とした場がそこにあった。

 

自身の力でここまで出来た、という心情が強かったのだろう。

マグマ・ドーパントは荒々しいその風景を見て盛大に笑い出した。

 

『はははははは!!やっぱこの力はとんでもなくスゲエ代物だぜ!あの女の依頼も済ませたし、これで俺の邪魔をする奴はこの世に――』

 

 

 

突如、盛大に荒れたそこに一迅の風が吹き上がる。

 

『んん?』

 

風はまるで渦のように周囲を駆け回り、崩れた木材、爆発による黒煙や砂塵など外へと吹き飛ばしていく。

その風の中心となる地点(ポイント)。

それは、先程火山弾が着弾した…つまり一刀と劉備がいた場所である。

 

マグマ・ドーパントは風の流れが不自然に変わったことを敏に察し、一刀たちがいた場所に目を見やる。

 

其処に見えるのは、煙と砂塵でシルエットになった影が一つ。

否、正確には影は二つ。

足元に倒れているのが一つで、もう一つはその影とマグマ・ドーパントを挟んだ場所に立っている。

 

 

 

やがて煙が晴れると、そこには先ほどとは違う存在の姿があった。

左半身は先程と同様の真っ黒な体だが、逆の右半身は全身が緑色の配色となっていた。

右は緑色、左は黒色と言う左右対称なその姿。

風に煽られて揺らめく、首に巻かれた白銀のマフラー。

 

その姿こそが、北郷一刀……そして、劉備玄徳が持つ真の力。

 

『てめえ……一体何者だ!?』

「俺か?俺は……いや、俺たちは二人で一人の探偵であり、そして…………」

 

 

 

 

 

「仮面ライダー……ダブ――」

『うわわわ!な、何これ!?さっき火の玉が来たと思ったら急に無くなっちゃうし…しかもそこに私が倒れてるし、一体どうなってるの!?』

「……ここはビシッと決めさせろよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

仮面ライダーW、誕生せり!

 

 

 

-12ページ-

 

お待たせいたしました、第4話が書き終わりました。

本当はもっと早く書き上げたいんですけどね……どうにも最近は学園祭やらバイトやらが入ってて忙しくて、中々執筆の時間が取れず困ったものです。

…はい、完全に言い訳です。もっと早く書けるように努めます(・ω・` )

 

 

と言う訳で、私の作品での相棒は劉備玄徳こと桃香でいきたいと思います。

元から戦闘力のある愛紗や鈴々、星や翠だと折角の武力が勿体ないような気がして…かといってロリッ子軍師たちや璃々だと、ファングジョーカーの時めちゃ苦しくなる気しかしなくて…

まぁ一刀の身体をベースにしておけば、大将である桃香も本陣にいたままでオッケーでしょうし。

 

 

ちなみに現状は、どの登場人物にガイアメモリを使用させるか、とか武将たちはどの辺りで仲間に加えようか、といったことを考えてます。

黄巾の乱、反董卓連合などで登場するガイアメモリはある程度方針が固まってきましたが……また色々と変更が起きるかもしれません、まぁその辺りも含め頑張っていこうと思います!

 

 

それでは、次回もよろしくお願いします!

 

 

説明
第4話です。

今更ながら、前回の幕間は結構便利だなぁと思いました。
いざという時はそれを挟んで執筆ペースの安定化を図れるし…結果的に小説を書いてるので嬉しい手段です!

…でも過信し過ぎて調子に乗らないようにしないとなぁ(^^;

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コメント
デーモン赤ペンさんへ  デ、デーモンさぁぁぁぁぁん!(; ´ Д ` ) くそっ、一体何処の尻神さまの仕業な―(討ち死に!(kishiri)
XXXさんへ ありがとうございます!(kishiri)
ナスカは尻つながりの蓮華さんd・・・(ここから先は赤い液体で汚れて見えない (デーモン赤ペン)
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真・恋姫無双 仮面ライダー 仮面ライダーW 北郷一刀 劉備 ハードボイルド 

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