真・恋姫†無双 風雲となれ 第五話 |
第五話
最初に感じたのは、固く冷たい石の感触。緩やかに覚醒していく意識の中でそんな事を思った。
次に働き始めた聴覚で、周囲を探ってみればシン、として人気もなく静かだ。
最後にまぶたを開いて見れば、最初に飛び込んできたのは縦に並んだ鉄の棒。まさしく鉄柵だった。
「どういうことなの……」
典明の第一声がそれなのも仕方がないだろう。
典明が改めて周囲の状況を探ってみれば、ここは前面の鉄柵以外が石壁で囲まれた“牢屋”であった。
廊下の小窓から差す光によって、今が昼間だとわかる。
まったく身に覚えがないが、自分は牢に入れられているらしい。額が妙にズキズキするのも、わけが分からない。
そんな時、ある考えが脳裏をよぎる。
「まさか、また別世界にやってきた……!?」
慌てて自分の姿を観察する。着ているのは後漢時代の一般的な平民服だ、少なくとも記憶と同じである。
だが、この世界にもスーツ姿でやってきたのだから安心できない。
なにか、判断材料はないかと周囲を探す。床には粗末な筵が敷いてある。一応の寝床というわけだろう。
部屋の隅には桶……考えないでおこう。牢屋の中にあるのはそれだけだ。
ならば牢屋の外はどうだろうかと、鉄柵に顔を押し付けるようにくっつけて、廊下の先を覗く。
すると、南陽の街中で見たのと同じ格好の兵士を発見した。机に頬杖を突いて、暇そうな雰囲気を漂わせている。
少なくともここは、自分の知っている世界のようだ。安心して、その場に座り込む。
「すいませーん!ちょっといいですかー!?」
事情を確かめるために、廊下の兵士に大声で話しかける。
その声に面倒くさそうな顔をして、兵士が牢屋の前までダラダラとやってきた。
「何だ?」
「わざわざすいません。どうして自分はここに入れられているのか、さっぱりなのですが……」
「はぁ?そんなモン、お前が街で狼藉を働いたからに決まっているだろう」
「えっ?いやいや、何かの間違いではないでしょうか?」
「知らねえよ、俺はただの見張り番なんでな」
「じゃ、じゃあ俺の他に一緒に牢に入れられた人っていますか?」
「はっはっはっ、そんな馬鹿はお前だけだよ」
それだけ言うと兵士は再び机まで戻っていく。欠伸をして頬杖をつき直し、こちらへの興味も失ったようだ。
あの手の者は食い下がると、手を出してくるかも知れないと典明も追求は諦めた。
朱里と雛里は無事だろうか。牢には入れられてないみたいだが、それならば彼女達は今一体ドコにいるのだろうか。
無為に時間が過ぎ、焦りが典明を責め立てる。そんな時、廊下の先から声がした。
「そ、孫策様!!」
その声は先程の兵士のもの。“ソンサク”と呼ばれるような人物は、典明は今のところ一人しか知らない。
カツカツと床を叩く音が典明に近づいてくる。やがて、その音は典明の前に来て止まった。
「あなたが東雲(とううん)?」
「…………あ、はい。そうですが」
典明の名を呼んだのは、若い女性。薄桃色の長い髪に、日に焼けた肌を惜しげも無く露出させた美女。
布地の少ないチャイナドレスの深いスリットから、これまた日に焼けた健康美が覗いている。
自分の名を知る見知らぬ美女の登場に、典明はしばし彼女を呆然と眺めた後、何とか返事をする。
「本人のようね、私は孫伯符。よろしくね」
「こ、こちらこそ」
状況についていけず、ぎこちなく頭を下げる典明。それを見て孫策は軽く笑みを浮かべる。
どうやら、“ソンサク”は『孫策』で間違いないようだ。典明もまさかこんな場所で出会うとは思わなかった。
「どうして、自分の名前を?」
「その辺りの話は、此処を出てからにしましょう。牢番、開けなさい」
「はっ、ただちに」
先刻の典明への態度と打って変わって、キビキビとした様子で牢の鍵をあける兵士。
開放してくれるというのだから、典明も素直に牢から出る。「付いて来て」という彼女の言葉に従い、暫し無言で歩く二人。
牢屋のあった警備隊の詰所を出れば、太陽の眩しい光が典明を出迎える。孫策がグググと背を伸ばして振り返った。
「ん〜!やっぱり牢屋って辛気臭くてイヤなのよねー、貴方もそう思わない?」
「もし好きな人がいたら、その人には全力で近づかないようにします」
「言えてるわね、私だってそうするわ」
典明の答えが気に入ったのか、楽しそうな表情の孫策。そんな彼女に典明は一先ず礼を述べる。
「まずは、助けて頂いて有難うございます孫策様。改めて、私は東典明と申します」
「伯符でいいわ。それと……『助けた』ってのは語弊があるのよね」
「えっと、それはどういったワケで?」
「貴方が牢屋に入ったのは、私のせいなのよ」
「えっ!?」
突然のカミングアウト。恩人かと思ったら元凶だった。典明自身、何を言っているのか分からない。
不思議そうな顔で彼に見つめられた孫策はそれを察し、今回の顛末を説明してあげた。一言で言えば、不幸な擦れ違いというやつだ。
だが典明にとって重要なことは、朱里と雛里が孫策に保護され、孫策の邸宅で休んでいるという事実。
「じゃあ、孔明と士元は無事なんですね」
「ええ、特に怪我も無いし、元気よ」
「そうですか、良かった…………」
孫策の邸宅へと並んで足を進める二人。朱里と雛里の安否も分かり、ひと安心すると急激に疲れが体を支配する。
気疲れだけでなく、点心屋で大立ち回りをしたせいも、それなりにあるのだろう。
「とにかく、勘違いでとんだ迷惑をかけちゃったわ。お詫びをさせて頂戴」
「あの二人を心配してくれたが故の事故です。お気になさらず」
「私の場合、そ〜いうわけにも行かないの。色々とあってね」
そんな事を話していると、やがて孫策邸が見えてきた。遠目ではあるが門前に人影が見える。
「典明(てんめい)さん!!」
その人影は朱里と雛里だった。こちらを確認すると帽子を抑えながら、トタトタと駆け寄って来た。
帽子を胸に抱えると、二人して心配そうに典明を見上げてくる。彼女達には大分心配をかけてしまったようだ。
「よくぞご無事で……」
「グス……良かったでしゅ……」
「ふたりとも大袈裟だな。でも、ありがとう」
二人は涙を浮かべて、雛里に至ってはべそを掻いて典明を出迎えてくれる。ここで撫でなきゃ男じゃない。
面映い感情をそう誤魔化しながら二人の頭を撫でる。心無しか手に頭を押し付けられている気がする。
「あらら、私本当に悪い事しちゃったみたいね」
「いえ、お陰で自分は今いい思いをさせてもらっています」
「プッ、貴方って中々いい性格してるわ」
罰が悪そうに言う孫策に軽い冗談を言って、場を和ませる典明。
過ぎた事はさっさと流すのがいい。二人にこうして無事会えたのは彼女のおかげでもある。
もし、あの場に居合わせたのが孫策で無かったら、あの乱痴気騒ぎに二人が巻き込まれていたかもしれない。
こっちは殴られた瞬間の記憶すら感じていないのだ。今更怒りも覚えにくいというもの。
「さぁ三人とも、まずはウチに入らない?」
「よろしいのですか?」
「ここで帰すのなら、初めから二人を宿に帰しておけば済む話じゃない」
「ごもっともで…朱里と雛里も構わないか?」
孫策が三人に誘いをかける。さっきのお詫びの話に繋がるのだろう。典明は二人に確認をとる。
「はい。伯符さん、ご厄介になります」
「は、伯符さん、お邪魔します……」
「うんうん、孔明ちゃんと士元ちゃんならいつでも歓迎しちゃう!」
典明と離れていた間に、随分と孫策に気に入られたみたいだ。彼女は朱里と雛里の手を取ると邸内へと足を運ぶ。
そのやや引っ張られるような勢いに「はわわ」「あわわ」といつもの慌てた声が聞こえる。
置いていかれた格好になった典明は、ちょっとした寂寥感を覚えながら孫策邸へ足を踏み入れた。
孫策邸にしつらえられた小広間。例の『お詫び』をすると言われ、典明達はここで客人として饗されている。
準備は既に終わっていたのか、典明が孫策邸に来てすぐに広間に通された。いくつもの料理が並び、酒も用意されている。
「そっれじゃあ、かんぱーい!!」
孫策の妙に元気のいい号令の下、宴が始まる。グググーっと盃を傾け一気に飲み干す彼女。
最初の一杯は乾杯で空けるのが宴会の作法と考え、典明も一息に飲み干す。思ったより強い酒だった。
強い酒と言うことは、この時代では中々にいい酒を振舞ってくれたということ。
「ふぅ……」
「おおっ、典明いい飲みっぷりね。さあ、もう一杯」
「Oh……」
それを見た孫策が、典明の盃に酒を並々と注いでくる。気を利かせたつもりが、どうやら藪蛇だったようだ。
自分の盃も満たした孫策が、こちらを見ながら盃を構える。仕方がない、ホストには逆らえない。
典明と孫策は、同じ動作でグイッと盃を空にする。
「はわわ、典明さんすごいです」
「あわわ、私達には出来ないでしゅ」
典明の飲みっぷりに驚く朱里と雛里。彼が飲んでいる姿は学院でもほとんど見なかった。
旅先でも気を使ってくれたのか、荒くれ者も集まりやすい酒家の情報収集には、典明が一人で行ってくれていた。
二人もペロペロと自分の盃を舐めてみたが、酒精が強くて飲み干すのには苦労しそうだ。
そうしている間にも、既に孫策と典明は三杯目に移ろうとしている。典明は若干苦笑いだ。
酒に集中している二人のために料理を小分けしてやり、自分たちも宴に興じていたその時――――
「伯符……何をしている」
「ひぃっ!」「ひゃっ!」
突然、底冷えするような声を背後から聞き、朱里と雛里が悲鳴を漏らす。
声に含まれた怒気に、二人は怖くて後ろを振り向けず、互いに抱き合ってプルプルと震えている。
声に気づいた孫策と典明がそちらを見てみれば、広間の入り口に一人の女性が立っている。
「ん〜?あら冥琳じゃない。どうしたの?」
「どうした、じゃないだろう……酒宴など私は聞いていないし、そこの者は誰だ?」
雪蓮と呼ばれた孫策のあっけらかんとした態度に、宴席に現れた女性はやや気勢を削がれつつも再度詰問する。
長い黒髪に眼鏡、それに日に焼けた肌。胸元からヘソまでを大胆に露出させているのが目を引く美女だ。
怒気の成せる技か、纏っている羽衣が風もないのにフワフワとそよいでいる。
「彼は東典明。そっちの諸葛孔明ちゃんと?士元ちゃんの旅仲間なの」
まずは孫策が典明達を紹介する。孫策の側までやってきた女性は三人に向き直る。
「そうか……三人とも、私は周公瑾だ。伯符の関係者と思ってくれればいい」
「はじめまして、とうてんめいです」
「しょ、諸葛孔明れすっ」
「ほ、ほ、?士元でしゅ」
「う、うむ」
既に酔いが回った様子の典明、噛み噛みの朱里と雛里に周瑜は少し困惑して頷く。眼鏡の位置を直すと、今度は孫策に向き直る。
「で、なぜ彼らと酒宴を供にしているのか教えてもらえるかしら?」
「ふふーん、今回はちゃーんと理由があるのよ。実はね――――」
「申し訳なかった、典明殿。ウチの早とちりが迷惑を掛けたようだな」
「いえいえ、おきになさらず」
「典明は器がでかいわねー、えらいえらい」
事の仔細を聞いた周瑜は、額を押さえながら典明に謝罪する。典明は酒に呑まれてしまって気のない返事。
これまた酔いが回って上機嫌な孫策が、そんな典明の頭を撫で回している。
緊張が解けたことで朱里と雛里は背もたれに寄りかかりフニャフニャとしている。
「詫びという事であれば、宴をやめさせるわけにも行かぬな。私も相伴に預からせてもらおう」
「冥琳にしては珍しいわね、どうしたの?」
「雪蓮が飲み過ぎないための監視役に決まってるでしょ」
「ぶ〜ぶ〜士元ちゃーん、めーりんが意地悪するのー!!」
「あわわわわっ!?」
孫策がそう言って雛里をぎゅっと抱きしめ、その胸元に雛里の頭がすっぽりと収まる。
そのムニムニ、ムチムチ、ホカホカした感覚に慌て、目線で朱里に助けを求める雛里。
「ごめんね、雛里ちゃん……私では伯符さんには勝てないの……」
自分の胸をさすりながら朱里は無念を訴える。きっとそういう事を雛里は言いたいのではない。
「孔明、気にすることはない。お前はまだ年頃、先が十分にある」
「公瑾さん……本当ですか?」
「フフ、私もお前くらいの時は同じくらいだったよ」
「あぁ…なんて説得力に満ちたお言葉……」
周瑜が朱里を安心させるように言う。朱里もその助言に希望を見出す。周瑜の想定年齢と朱里の実年齢の違いには気づかないままに。
その後、雛里と孫策は一方的なじゃれ付き合いを繰り広げ、周瑜と朱里は兵法書の解釈に花を咲かせ思い思いに宴を楽しむ。
唯一、典明だけはテーブルに突っ伏して寝息を立てていた。
宴をお開きにした後、孫策と周瑜は孫策の私室に集まっていた。二次会といったところだ。
酒で顔を赤らめながらも、しっかりとした目つきで孫策が問う。
「冥琳、孔明ちゃんはどうだった?」
「ああ、あの歳で私と同等に話し合える人間がいるとは思わなかったわ。想像以上よ」
「冥琳がそこまで言っちゃうか、本物のようね」
周瑜の選別眼に信用をおいている孫策は、それ以上詳しくは聞かない。今度は周瑜が聞き返す。
「?士元の方はどうなの?黙って貴方に任せておいたけれど?」
「士元ちゃんはねー……とっても可愛いの!!ギューってしたらプルプルのウルウルで、キューンってなるのよ!!」
「雪蓮……私が何を聞きたいのかは分かってるでしょう?」
先ほどの真剣な顔もどこかへ。己の体を掻き抱いて悶えながら、感覚で喋る孫策。
周瑜はそこで溜息をつき、やれやれといった様子で聞き直す。
「これも偽りない本心なんだけどなぁ。そうねぇ……あの子は、まだ生まれたばかりのようね」
「また難解な答えね……説明してくれる?」
「今はまだ殻を被っているけれど、成長した時にどんな姿を見せるのかしら。ちょっとゾクゾクしちゃう」
「それは、いつもの勘?」
「まぁ、そうとも言うかな?」
結局はいつもの勘のようだ。もっとも、周喩も今回は孫策の勘を期待していたのだが。
「ま、どちらも有望な人材なのは確かね」
「そうね、是非その力を孫呉に活かしてもらいたいわ」
「それで、彼はどうなの?私は話す間もなかったから、知らないのよ」
「典明は…………わかんない」
「分からない?」
言葉を濁す孫策に、オウム返しの周喩。
「二人が真名を許すくらいには信用されているようね。人前で真名を許していないのが気になるけど」
「真名の扱いは人それぞれさ、それ以外では?」
「街の一件を見るに、人並みに腕はあるみたい。頭の方は試してないけど馬鹿じゃないわ」
「総じて言えば、普通と言うことか。なら、何が分からないんだ?」
今の所、とりたてて引き立つ物はない。察しのいい孫策が言いよどむ要素は、周喩には見えてこない。
「実像がボヤけているというか、ハッキリしないのよね。あるべき所にないというか」
「それは……まるで妖術使いみたいだな」
「そうじゃないと思うんだけど……まぁ、こんな感じで彼についてはわかんないのよ」
もしや、妖(あやかし)の類を孫策に近づけさせてしまったのか、と周瑜は一瞬考えるが、それならば孫策が斬っているだろう。
「調べてみる?」
「そこまでする必要もないと思うけどなぁ。あ、もしかしたら彼自身、自分の事が分かってないのかも」
「あら、また勘かしら?」
「ううん、ただの思いつき〜」
「それも勘というのよ」
そこでクスリと笑い合って酒を口にする。どうやらこの話はここでおしまいのようだ。
明日の出兵についての事を細々と話して、二人で同じ寝台に入るのだった。
「ウプッ。ま、た、か……」
そう言って口元を抑え、吐き気を堪える典明。たった今出てきたばかりの厠へ戻る。二日酔いだ。
口を濯ぎ大分スッキリした所で、改めて庭を横目で眺めながら廊下を歩き始める。
あの宴の後、典明が酔い潰れてしまっていたので、三人はそのまま孫策邸に一泊する事になった。
今は一宿の礼と暇乞いをするために、まずは朱里と雛里が泊まった部屋を探して歩いている最中だ。
廊下の曲がり角に差し掛かったところで、目の前に宴席で見た覚えのある人物が現れた。
「おや、典明殿。おはよう、体調はいかがかな?」
「公瑾さん、でしたよね?おはようございます。調子は何とか、といった所です」
周喩に話しかけられ、典明も足を止めて話をする。
大胆な露出の周瑜も朝は少し肌寒いのか、暖かそうなケープを肩掛けにしている。
「ふふ、伯符に相当飲まされたようだな。アレは『うわばみ』故に、加減を知らぬのだ」
「ええ、油断していました」
そうして二人で笑い合う。周公瑾といえば呉の大都督だ。昨日はベロンベロンだったので典明は気付けなかった。
店で大立ち回りをして、牢屋に入れられて、孫策に宴に招かれて、周喩にまで出会うとは、昨日は随分と濃い一日だったと思う。
「おかげで昨日の席で貴殿や士元とは、ほとんど話を出来なかったな」
「まぁ、孔明や士元と違って、知慧に富んだ話も出来ませんがね」
「孔明か。彼女とは有意義な時間を過ごさせてもらったよ。流石は水鏡殿の門下生といった処か」
「水鏡さんってやっぱり有名なんですか?」
周喩の口から水鏡の名が出た事に驚く典明。朱里から聞いたのかもしれないが、“流石”との言い方は前から知っていた口ぶりである。
「存ぜぬのか?典明殿は二人と旅をしていたのだろう?」
「い、いえ。見知ってはいますが風評はよく理解してないのです」
「そういう事か。世間的には知られていないだろうが、知を知る者、知を求める者であれば一度は耳にするくらいには有名だよ。
それも偏に、表舞台で働く門下生が、いずれも優秀な者たちだと知られているからだ。
例え主君が凡愚でも門下生……“彼女達”を手中に収めれば、郡太守程度なら楽々努められるだろうよ。
……もっとも、そのような人物に“彼女達”が有用に扱える事があるはずもないがな?」
気のせいだろうか、後半の言葉は自分ではない誰かに問いかけられているように、典明には思えた。
「扱えないとは、どういう意味ですか?」
「単純なことさ。凡愚ならそれが例え自分で招いた人材であっても、その才を正しく測れないから良くも悪くも不相応に用いる。
むしろその者が良く働けば、今度は己の立場を脅かされると危機感を持って冷遇するようになる。だからこそ凡愚と言うのだよ」
「それは……」
『袁術のことを言っているのですか?』とは流石に口に出来なかった。『彼女達』とは孫策達の事なのか、とも。
だがそんな典明の内心は、今困った顔で笑っている彼女には見抜かれてしまっていたようだ。
「やれやれ……私としたことが、かなり下手な諧謔を弄してしまったようだな」
「あ、顔に出てましたか?」
「いえ、そんな風に口篭ってしまえば『気付いてくれ』と言っている様なものよ」
自分の顔をペタペタと触る典明を見て、周喩も思わず口調を和らげる。
「一応は隠しているつもりだから、内緒にしてもらえると嬉しいのだけど?」
「ああ、それは勿論。いずれは分かることですし」
「ほう……」
「あ、あ〜。ナンデモアリマセン」
周瑜の眼がスゥっと細められる。今度はハッキリとヘマをしてしまった。
口調が柔らかくなった彼女に、気を抜いてしまったのが敗因だ。彼女が意図的に口調を和らげて誘導したのも確かであるが。
「孔明や士元だけでなく、貴殿もそれなりに解しているようだ」
「俺……自分は、二人に聞かされただけに過ぎませんよ……」
「そういう事にしておこう。それから、我らは口が滑ったもの同士。砕けた調子で構わんよ」
「はぁ……油断ならない御仁だね、公瑾は」
「それは軍師には褒め言葉だよ、典明」
苦笑いの典明と少し勝ち誇った笑みの周喩。対照的な二人だが、彼我の実力差ではこうなるのが自然であろう。
「そういえば、何故一人で出歩いていたのだ?」
「孔明と士元の居場所を誰かに聞こうと思ってね。公瑾は知ってる?」
「待て、侍女に聞いたのではないのか?」
「侍女?そんな人いなかったぞ?」
「まったく、雪蓮ときたら……」
昨日、客室まで典明を運んだのは孫策であった。成人男性を抱えられるような人間が、あの場に彼女しかいなかったからだ。
どうやら孫策は彼を運んだ後、侍女の手配を忘れてしまっていたようだ。
「ならば、私が案内しよう。お前を一人で歩かせては恥を晒す」
「俺ってそんなに恥ずかしいのかな……」
「なに?……いや違うぞ、恥を晒すのは伯符の方だ」
周喩が言うには、有力者というものは、侍女を抱えるのが一種の義務との事。
それは雇用を作ると意味のほかに、こうして客人を招いた際に侍女を付けるのが目的である。
客人が移動する際には案内を兼ねて一人にしないというのが、もてなしの作法であるようだ。
それを怠れば当然風聞は悪くなる。好き勝手に歩かれると困るので監視するという意味合いもあるようだが。
「じゃあ公瑾が話しかけたのも、俺を足止めさせる意味もあったわけだ」
「フフ、それはどうだろうな。まあ今後、誰かに招かれた際は勝手に出歩かない方がいいぞ」
典明のカマかけにあえて乗る周喩。それを見て、やはり自分如きには出し抜ける相手では無いな、と典明は考える。
やがて案内された部屋の前まで来ると、「侍女を遣るから待っていろ」と言って周喩はその場を後にした。
「あっ、典明さん。おはようございます」
「おはようございます…典明さん」
「おはよーさん」
部屋の前でノックをすると朱里と雛里が部屋から顔を出す。既に身だしなみも整えてあるようだ。
「昨日は随分と強いお酒を飲んだみたいですけど、大丈夫ですか?」
「ベロンベロンというのは、ああいうのを言うんですね……」
「……まぁ峠は超えたから、大人しくしてる分には平気だよ。それより、宿の荷物が心配だな……」
「あ、それなら伯符さんが人を送ってくれたので大丈夫ですよ。伯符さんなら信用できます」
「至れり尽くせりだな。その辺のお礼も言っておかないと……」
孫策も相当飲んでいたようだが、頭は働いていたらしい。侍女の件はともかく。
それにお詫びの域を超えて、少し恩を受けてしまっている気がする。主に自分のせいで。
「二人とも昨日は楽しめたか?」
「はい!公瑾さんは凄いお方です。あれだけ兵法について深く話し込んだのは、雛里ちゃん以来です」
「は、伯符さんも凄いお方です。人を強く惹き付けるというか、引き付けられたというか……」
「朱里はともかく、雛里は大変だったようだな……お疲れさん」
「はぃ…………」
朱里は感嘆を示し、雛里は疲れた顔をして対照的に感想を語った。とりあえず雛里を労っておく。
そんな会話もそこそこに、やがて漢服を着た侍女が現れる。
「東雲様、諸葛亮様、?統様、お待たせいたしました。主、孫策様の許へご案内します」
「分かりました、頼みます」
そうして三人は侍女の案内に付き従い、挨拶に向かうのだった。
案内された場所は、小さいながらも体裁を整えられた謁見の間。上段に座る孫策と横に立つ周喩が待ち構えていた。
周喩に促され、その手前に用意されていた椅子に座る三人。真ん中に典明、両隣に朱里と雛里の並び。
「三人とも、おはよ。昨日は楽しかったわ」
「いえ、こちらこそ昨日は望外の一時でした」
代表して典明が孫策に言葉を返す。旅先での対外的なやり取りは、年長者として彼が担っている。
朱里と雛里の為にはならないが、二人に任せておくのも不安だったりする。
「そう言って貰えれば、こちらもやった甲斐があるってものだわ。またやりましょう」
「雪蓮、次はお詫びなんて理由で始めないでくれよ?」
「ちぇ〜、冥琳ったらひどいと思わない典明?」
「えっと……どうなんでしょうね」
孫策の困った問いに典明はアルカイックスマイルで応える。日本人の必殺技である。
典明が思っていたより、この場はかしこまった雰囲気ではないようだ。
「ほら、典明が困っているであろう。それに三人は挨拶に来たのだから話を進めるぞ」
「ぶーぶー、冥琳は私より典明がいいのー?いつの間にか呼び捨てだし」
「はぁ……」
周瑜が話を戻そうとするも、孫策が駄々っ子みたいにまだ不平を述べている。
二人の関係性がわかると同時に、周瑜の日頃の苦労が忍ばれる。孫策を無視して周瑜が口を開く。
「見聞の旅をしていると昨日聞いたが、三人は今後どうするのだ?」
「しばらくはここ南陽で情報収集をして、洛陽でも目指してみようかと思っているよ」
「洛陽か……今はやめておけ、というか無理だ」
「あの……どういう事でしょうか?」
雛里がおずおずと聞いてくる。無理というには当然何かがあったのだろう。
「士元は最近、黄色い頭巾をした者達が世間を騒がせているのを知っているか?」
「は、はい。私たちは黄巾党って呼んでましゅ」
「……なるほど、言い得て妙だな。実は、その黄巾党と思われる一団が洛陽で蜂起した」
「あわわっ、み、都でも!?」
「はわわっ、そんな!?」
腐っても鯛。首都である洛陽の警備は国で有数の厳しさがある筈なのだ。
黄巾党の勢いが既にそこまで至っていたとは思わず、朱里と雛里は驚きに目を見開く。
「もっとも、未然に防がれたようではあるが」
「はわわ!」「あわわ!」
「めーりん。いじめちゃ駄目よ」
「フフッ、こうも驚いてくれると思わなくてな」
肩透かしを喰らい、椅子からズリ落ちかけた二人を見て、悪戯が成功したかのように嬉しそうな周喩。
「さて、重要なのはここからだ。どうやらこの一件……“タマ無し”の手引きがあったらしい。
さすがの帝もお怒りの様で、洛陽の門や洛陽に繋がる関所も封鎖され、厳戒態勢を敷いている。
内通者や潜伏していた黄巾の者を徹底的に洗い出すつもりなのだろう」
「そ、そんな……」
「む、無茶苦茶でしゅ……」
「“タマ無し”?」
愕然としている二人と対照的に、典明は分からない単語に引っ掛かり首をひねる。
「“タマ無し”とは宦官の事だ。大事な“アレ”を切る事で、帝の側近として仕える資格を得た男達……。
今の朝廷を牛耳って実権を握っているのは奴らと言っていい。百年を超える時をかけて、帝の権威を失墜させた張本人達だ」
「うわ、考えちまった……」
周瑜の説明を聞き、典明は股間に手を当てキュッと内股になる。宦官の特徴なら、典明も知っている。
ただ、『タマ無し』なんて言葉が周喩の口から出る事を想像していなかったから油断したのだ。
「え、じゃあ何か?皇帝の側近が反乱を手引きしたって事か?」
「そうでしゅ、だから無茶苦茶なんでしゅ……」
なるほど。二人が驚愕するのも無理もない、と典明も話を理解する。
「今、権勢と栄華を誇っているのは他ならぬ自分達であるのに、それを脅かす様な事態を自ら招き入れる。
まぁ、帝を害する為ではないだろう。奴らの権力は帝に拠って成り立つのだからな。
軍事力を持たぬ宦官が、政敵に対する兵力要因として反乱者をこれ幸いと手引きしたのだろう。
長きに渡り権力争いに腐心するあまり、物事の善し悪しも区別できなくなってしまったようだ」
「母様が洛陽に行きたがらなかった理由が、今回の件でよく分かるわ」
周瑜が今回の出来事を冷静に分析し、孫策が不味いものを口にしたかのような顔でそう吐き捨てる。
「ハァ……もはや、洛陽を目指す意味はありませんね……見るべきものは無いようです」
「そうだな、洛陽行きは中止に決定。……どの道入れないみたいだし」
朱里ががっくりと肩を落とし、そう呟く。その姿には隠せぬ失望の色が見て取れる。
彼女の中にあった、漢王朝への僅かな期待も失われてしまったのだろう。
「まぁまぁ、孔明ちゃんも落ち込まないの。可愛い顔が台無しよ?」
「はわわっ、わ、私は可愛くなんてないです」
孫策が気を使って声をかける。蠱惑的な蒼い瞳にジーっと見つめられ、朱里は赤くなって慌てている。
「話が逸れちゃったわね。それで、三人は南陽で何を知りたいの?」
「北方の情勢や、各地の有力者の情報を聞き込みで集めようかな、と思っています」
「へぇ……でも時間がかかるんじゃない?」
「そこは三人しかいないので割り切っていますよ」
今までは次の目的地の情報を集めるだけで十分だったので、さしたる苦労もなかった。
だが、これからは雑多な情報を集めなければならないので、どれだけの時間や労力がかかるかは未知数だった。
「そうだ!手伝ってあげましょうか?」
「ええっ、そこまでしてもらう理由が無いのですが……」
魅力的な提案を持ち出す孫策。典明達は思いがけない話に狼狽える。気前が良すぎると人は疑ってしまうものだ。
「雪蓮、私達はこのあと予定があるし人手だって無いぞ?」
「そうじゃなくて、教えてあげるって事よ」
「……まさか。それは駄目だ、許可できない」
二言三言話していた孫策と周瑜だったが、周喩の顔が厳しくなる。孫策の言葉に反応したようだ。
何やら剣呑な雰囲気を漂い始める、ここ謁見の間。気づけば典明の両袖が掴まれている。
やがて、孫策は渋々といった顔で、周瑜はやれやれといった顔をして、こちらに向き直る。
「待たせたな、典明」
「それは構ないけど何の話だったんだ?」
「……そうか、聞きたいのか」
「いやっ、やめときます!」
“聞くな”と“愚痴るぞ”という二つの思念を周喩から受け取り、典明は手を横に振って遠慮する。
「済まないが、こちらは力になれそうもない」
「ここには、挨拶に来ただけだから謝られる事じゃないよ」
「代わりと言っては何だが、卸問屋の主人を紹介しよう。会ってみるといい」
「卸問屋?」
思わず聞き返した典明の疑問に、朱里が答えてくれる。
「卸問屋は、様々な商人と関わる商売です。その中には各地を旅する行商人もいるでしょう。
つまり、民間の情報通とも言える存在ですが……赤の他人である私達にその情報は教えてくれません。
そこで、伝手のある公瑾さんが紹介して下さると言ってくれているのです」
「さすがは孔明。理解が早くて助かるよ」
「あ、ありがとうございます」
「まぁ、そこから先はお前たち次第だがな」
周瑜の賛辞に照れつつも嬉しそうな朱里。何だかんだで力を貸してもらえるようだ。
「ありがとう。その話、是非受けさせてもらうよ」
「むぅ〜、冥琳ばっか美味しいトコ持っていってズルい!」
「は、伯符さんのお気持ちも嬉しかったでしゅ」
「士元ちゃん、私に優しいのは貴方だけよ……」
またもむくれた孫策に雛里がフォローを入れる。一国の王としては随分と気さくだと典明はつくづく思う。
その時、一人の侍女が一礼をして現れた。周瑜の側にやって来ると耳打ちをして去る。
「雪蓮、そろそろ時間だ」
「あ、そうだったわね。それじゃ、三人とも元気でね」
「はい、宿屋の言伝といい紹介といい、色々とお世話になりました。お二人もお元気で」
要件があったのだろう。孫策が別れの言葉を口にする。典明もそれに倣い、朱里、雛里も一礼をする。
周喩から紹介状を受け取り、三人は孫策邸を後にし、宿に帰っていく。
こうして珍妙な出会いから始まった、典明達と孫策達の邂逅は終わりを告げたのだった。
荊州と豫州の州境を目指し、力強い行軍を行う一千の兵。その中で一際目を引く二騎の騎馬。
その馬上に孫策と周瑜の姿があった。
「冥琳、どうしてあの時止めたのよ?」
「我らの得た情報を一介の旅人に教える気なの?止めるに決まっている」
孫策が典明達に“教えてあげる”と言ったのは孫家の細作に集めさせていた諸侯の情報の事であった。
言うまでもなくそれは機密情報、軍事情報の類である。
「冥琳も私も、孔明ちゃんと士元ちゃんの事は買っていたでしょ。布石よ、布石」
「それは理解していたが、彼女達への貸しが大きすぎる。返して貰えなかったらどうする気?」
「あの二人なら、そんな事はしないと思うけどなぁ、いい子だし」
勿論、孫策もただの親切心などではない。諸葛亮と?統を取り込むための『楔』としての提案だったからだ。
聡いあの二人なら、それほどの情報を与えられてしまえば、孫策が自分達をどれほど買っているかを理解するだろう。
同時に、下手に孫家以外の勢力の下へ赴くことは身の危険を招くことになる。
つまり身の安全を確保するには、孫家の傘下に収まるしか無いという結論に達するのだ。
「雪蓮は強引な方だが、それでも今回は無茶が過ぎるんじゃない?
こんなやり方で孔明達を手に入れても、孫家に忠誠など誓ってくれまい」
「……ちょっと焦ってしまったのは否定しないわ。あれから、もう二年経つから」
「ええ、そうね……」
正直な胸の内を話す孫策。周瑜も静かに同意する。暫し、行軍の様子を眺める。
亡き母孫堅が『孫呉』を築いた揚州の地を奪われてもう二年。名声を得る機会を待って、袁術の粗略な扱いに耐えた二年。
今、この大陸に起きた動乱は千載一遇の好機。そう逸る気持ちが拙速な判断をしてしまったのかもしれない。
「まっ、あの子達も私を選ばなかったみたいだけどね」
「おや、気づいていたのか?」
「当たり前でしょ?諸侯の情報を集める気なら、私達の事も知っていたはずよ」
「フフ、その言い方だと何やら自信過剰に聞こえてしまうな」
行商人でもないのに諸侯の情報を積極的に求める人間なんて、間諜か仕官希望と相場が決まっている。
自分の前でそれを口にしたという事は後者であり、その候補は自分以外なのだろうと孫策は考えていた。
実の所、典明自身はあまり深く考えずに言ったのだが。
「あの子達が選ぶ主君はどんな奴なのかしらね」
「少なくとも雪蓮に劣らぬ人物だろうな」
「そうでないと困るわ、“私”を振ったんですもの」
そう言って笑う孫策の姿は、まさしく誇り高き王者の風格を漂わせていた。
再び南陽。
孫策達と別れた後、典明達は卸問屋の主人と面会を果たしていた。
周喩に貰った紹介状は効果覿面だった様で、典明達は主人の協力を得ることに成功する。
具体的には店の手伝いをする事で、行商人と自然に接する機会を作ってもらうのだ。
典明達は情報が得られる。卸問屋の主人は労働力を得られる。ウィン=ウィンの関係というものだ。
卸問屋で働き始めて二週間が経過した頃。朱里は、はるばる幽州からやってきた行商人の男から耳を疑うような話を聞く。
「え、それ……本当ですか?」
「おう、幽州じゃ誰もが知ってる話だよ。“天の御遣い”様が広陽太守、公孫?様の元にいるってのは」
カツーンガラガラガラ、と音が響く。朱里が、手に持っていた筆と木簡を床に落としたのだ。
そのままじっと動かない彼女を見かねて、行商人がそれらを拾ってやる。
「大丈夫か、嬢ちゃん?」
「はわわ、これは失礼しましゅた。ちょっと驚いてしまって……」
「ハハッ、御遣い様が本当にいるなんて聞いちゃあ、誰だって驚くわな」
「ア、アハハー」
引きつった顔で愛想笑いを作った朱里だが、内心は動揺が支配していた。
「ひ、雛里ちゃぁんっ!!!」
「あわわぁぁっ!!?」
突然の大声に、雛里は椅子から転げ落ち、机に置かれた台帳の山がドサドサと崩れ落ちた。
床に強かに打ち付けたお尻を擦りながら、涙目になった雛里が立ち上がる。
「い、いたた……しゅ、朱里ちゃんビックリしたよぉ……」
「た、大変な情報を入手しましゅた!!」
「あわわわわわっ、お、落ち着いて朱里ちゃんんん」
今度は肩を掴まれ、ガクガクと揺らされる。どうやらかなり慌てているようだ。
何度も根気よく朱里の肩をタップする事でようやく開放される。床に落ちた帽子をかぶり直し、改めて事情を聞いてみる。
「それで、一体どうしたの?」
「て、天の御遣い様がいるそうでしゅ!」
「…………?」
指を顎に当て、首をコテンと傾げる雛里。今更その噂を口にする理由が分からなかったのだ。
その様子に気勢を削がれ、朱里もようやく落ち着きを取り戻して話す。
「あのね、さっき行商人さんに聞いたんだけど、幽州に天の御遣い様がいるんだって。
幽州ではかなり知られている話で、今も公孫?さんという太守様の所で活躍しているらしいよ」
「あわわ、それって……。しゅ、朱里ちゃんは信じるの?」
「今は何とも……でも調べてみる価値があるかも、って思ってるよ」
天の御遣い。朱里と雛里がかつて関心を寄せていた存在である。
管輅の予言に近しい形で出会った典明に、その可能性を見出していた時期もあった。
だが彼は自分がやってきた理由を知らなかったし、日々接する内に神仙の術を持った存在でもないと知った。
勝手に期待して勝手に失望している内に、いつまでも曖昧模糊な迷信に頼ってはいけないと強く感じ、口にする事も無くなった。
典明が何者か、それについては何も手がかりは掴めていない。だが、大事なのは彼が自分達の隣にいてくれている事。それだけで十分だ。
だと言うのに。ここに来て再びその名前を聞くとは。それも実在を示す形で。
一度は閉じた好奇心が、朱里と雛里の心を大きく揺さぶってしまったのも無理は無かった。
説明 | ||
説明回っぽくなった。 『典明』をノリアキと呼ぶのは朱里と雛里のみ。 その二人も人前ではテンメイと呼んでいる。言うほど重要ではないかもしれない設定。 文脈で察していただければ幸いです。 |
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コメント | ||
更新待ってます。(PON) うわー所詮一般人とギャルゲーの主人公という魅力チートじゃ比べ物にならないわけだが・・・大丈夫か?普通ならキレるところだけど、わけわからん内に気絶していて牢屋からも割りとすぐ出してもらえたんなら怒りもあまり沸かないでしょうね。度がすぎるお人よしは人間とは思えなくて嫌いだけど、これは理解できる。蜀ルートなのかなぁ、やっぱり。(PON) 二人外史へ降り立ったという事ですね。ただ素直にハムさんのとこいってそのまま御使いと・・・とはならない気がする。はてさて?(きまお) ここに来て天の御使い≠典明とは想定外だ(アルヤ) |
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