リリカルなのはSFIA
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 第三十四話 免罪符

 

 

 

 ???視点。

 

 赤と黒がまじりあった世界で白い枠線のような物で描かれている世界。

 その中心に俺はいた。

 初めは見てわからなかったが、これは電車内の様子を映し出しているようだった。

 電車の中には人もいる。その人もこの世界の色彩の所為でかその人達の差が分からない。よくて、男性と女性。メガネをかけているかけてない。それぐらいの判断しか出来なかった。

 自分の目の前にいるメガネをかけた人は見覚えがある。この人は男、だ。

 なんですぐに分かったのか不思議だった。が、次のビジョンで直感した。

 真っ白い塊が目の前のメガネの男にあたった。

 ぱちゅん。と、水風船を落とした時になるような音を鳴らせて目の前の男ははじけ飛んだ。

 …これは、俺だ。転生する前までの俺だったんだ。

 

 アサキムは俺にこの映像を見せてどうしようというのだろうか?この空間にいるだけで気が滅入ってくる。こんな物ペイン・シャウターで吹き飛ばす。と、考えた次の瞬間。別の映像が映し出される。

 相も変わらず赤と黒の色彩に白い線での枠で人や建築物などを画している。

 白い枠線の何人かが大勢の誰かに掴みかかったが取り合ってもらえず追い出されるだけだった。が、一人だけ掴みかかった中で一番力の弱い人が最後まで齧りつかんばかりに粘っていた。

 

 「高志のっ。息子の探索をどうかっ!どうか!」

 

 「いい加減にしてくださいよ奥さん。貴方の息子さんの遺体なんてないんですよ。現場に残っていた靴。その中にあった右踵の部分以外はお粉微塵に吹き飛んでしまったんですよ」

 

 っ、あれは母さんだ。アレは俺の母さんの像だ。じゃあ、今掴みかかっているのは警察?

 

 「私には、私には聞こえたんです。今までありがとう。ごめんって。メールで来たんです事故があった直後に!」

 

 それって、俺が転生特典で頼んだ最後の…。

 

 「あんな事故があった後にこんな事が打てるという事は息子はどこかにいるという事なんです!だからっ」

 

 「よせっ。母さん!あいつはもう…」

 

 「…いこう。母さん。せめて兄さんが用意した温泉旅館に行って荷物を受け取らなきゃ」

 

 「はなして、コウ。あなただってタカを」

 

 「母さん!兄さんは死んだんだ!あの靴の下から出てきた足。あの位置に黒いほくろがあったろ。DNA検査もした。その全てが黒。アレは兄貴なんだよ」

 

 「いや、いやああああああああああああああああっっっ!」

 

 女性は三人の男に連れて行かれる。

 三人の男は俺の父と弟二人だろう。

 俺はここにいるよと声を出すもののこれは既に過去の映像。俺が何をしても何をやっても変わることが無い映像だ。

 

 更に場面は流れる遺体の入っていないお葬式。そして、火葬されていく場面を見せられていく。そんな中、家族の中で一番目をかけてくれた母さんが泣いていた。俺が死んだと知った次の日からずっと枯れることが無いと思えるほどの涙を流していた。

 葬儀了後、しばらく母は何とか平静を整えようとしたが、急に眼の色を変えて顔を上げる。その目の色は狂喜の色に染まっている。

 

 「はははははははっ。みんな聞こえない。聞こえていないっ。あの子の声を!私だけが聞こえる!」

 

 ―母さん!落ち着いて!俺は!―

 

 「大丈夫よ、大丈夫よ!きっとあなたを抱きしめてあげるから!だから待っていて!」

 

 ―違うんだ!母さん!俺はもう、逢えない。だから、だから、母さんっ。父さんやコウ。テイに優しかった母さんに戻ってくれ!俺の事はもう諦めてくれ!―

 

 「大丈夫よ!きっと私の声を、貴方の声を届けるから!」

 

 それから、俺の家族の枠線の境界線はぐちゃぐちゃになった。

 母は何やら妙な進行に入り、それを機に父と離婚して弟二人を両方に分けて暮らすことになった。

 一番しっかりしているコウが母さんと暮らしていた。

 入ってしまった宗教がかなり怪しく、生活が完全に乱れまくった母は病気で倒れ伏した。

 その連絡を受けてもう一人の弟を連れて来た父は母の状況を見て愕然とした。

 

 「…あああ、ごめんなさい。ごめんなさいね。…タカ」

 

 俺は聞こえるはずがない母さんの映像に向かって何度も叫んだ俺を読んでも意味は無い。だから、俺の事を忘れて幸せになってくれと叫び続けた。

 母さんは宗教に騙され、近所の人からも敬遠され、コウがいなかったら孤立死を迎えていただろう。

 それが死の間際にはなった最後の言葉だったんだろう。

 俺はそれを見ながらやり場のない怒り、苦しみを泣き叫ぶ以外に出来なかった。

 

 だが、この講演まだ終わらない。

 

 「…か………た」

 

 「…なに?」

 

 「兄貴なんか生まれてくるべきじゃなかったんだ!」

 

 三兄弟の真ん中にあたるコウが母の遺体の前で叫んだ。

 

 「兄貴が急にいなくなるから母さんがこんな風に心をおかしくしたんだ!」

 

 っ。

 泣きたかった。「それは違う」と否定できない自分が悔しくて泣いた。

 母さんの心を病んでしまったのは俺の責任だ。俺があそこで死ななければ…。

 

 「だいたい、初任給で温泉旅行なんて無理しているくせに無理に威張ろうとして事故で死んだんだ!」

 

 「…コウ兄さん。言い過ぎだよ」

 

 「俺達は別にそんな物を望んでなんかいない。それなのに部不相応に頑張って、こっちを心配させて、それで、この様だ!あんな兄貴なんか」

 

 コウの熱弁がさらに続くとは思ったがそれを止めたのは父だった。

 そして父は言った。

 

 「そこから先は私が言うべきだ。そして、あいつの育て方をした私の責任だ。だから、母さんの前でもうこれ以上兄貴の悪口を言うな」

 

 「…ちくしょう。ちくしょうぅううううっ。兄貴の馬鹿やろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 俺はその映像を見て必死に謝っていた。

 そっちの世界に行けなくてごめん。そこへ行くための力がなくてごめん。力を得ようとしなくてごめん。なのは達やアリシア達を見捨てれば帰れたのかもしれないのにそうしようとしなくてごめん。父さん。母さん。コウ。テツ。本当にごめ

 

 

 

 『『『許さない!』』』

 

 

 

 膝を折り、地面に顔を擦りつけている俺の耳元に父さんたちの声が聞こえた。

 

 『兄貴はこんな美人と抱き合ったんでしょう?』

 

 ハクが何やら片手に大きなビニール袋を持ちあげる。その中にはピクリとも動かないリインフォースがいた。

 

 『こんなおもちゃを持って楽しくしていたんだろ?』

 

 コウの手には待機状態のガンレオンが。

 

 『そして、お前は私達よりこいつ等を選んだんだろ』

 

 親父の声で後ろを振り向くとそこには意識を失った機動六課のメンバーやゼクシスのメンバーが倒れていた。

 その倒れた人の山の上にどっかりと腰を下ろした親父は言う。

 

 『こいつ等なんか無視してスフィアを集め、帰ることが出来た』

 

 『そう、こんな風に…』

 

 一番下の弟。ハクがビニール袋からリインフォースを引っ張り出すとおもむろに頭と首をねじ切って俺の方に投げた。

 その動作に驚きかけたが暖かさを感じないマネキン。いや、幻。

 

 『お前は私達よりこの女たちを選んだ』

 

 親父がハクと同じようにどこからか取り出したビニール袋を取り出す。そしてそれをひっくり返す。

 ごとごとと音を鳴らして袋の中から出てくるなのは達の亡骸。

 傷一つないその、マネキンのような彼女達を一人ずつ踏み砕いていく。

 

 そうだとわかっても、この映像が!

 あまりにもリアル過ぎて…。

 心当たりがありすぎて…。

 

 元の世界よりこの世界の方がいい。そう思った事はないか?

 

 俺は…。

 俺は元の世界よりもこの世界を選んだ

 

 「『偽りの黒羊』の嘘か!」

 

 俺が叫ぶとアサキムの声が響く。

 

 『それなら確かめるといい。君のスフィアの力で。君の本能ならこの映像が『嘘』か『真実』かが分かるだろう』

 

 再び、俺がいなくなった後の『俺のいた世界の顛末』が映し出される。

 何度も何度も。

 前も、後ろも、上も、下も。

 どこを見渡しても。目を閉じても…。

 

 これは幻だと自分に言い聞かせたかった。

 俺はそれをしようとした。でも、出来なかった。

 今も流れている映像には俺を求めて最後まで苦しんだ母の顔。

 そんな母の最大の原因である俺に向かって呪いの言葉を吐き続ける親父と弟達。

 

 『お前が母さんを殺した』『兄貴が俺たち家族を壊した』『兄貴は疫病神だったんだ』と、そして、父が発した言葉で俺は。俺の心は砕け散ってしまった。

 父は弟たちの前ではなく一人になった個室でポツリと言葉を漏らしたのだ。

 

 

 

 「お前なんか生まれてこなければよかったんだ」

 

 

 

 ・・・。

 ・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 …俺は、いつかは逢えるんじゃないかと心の中でかすかながらにも自分の板世界に帰れることを夢見ていた。

 今まで頑張ることが出来たのは、この俺の『本当の家族』の前で威張りたかったから、すげぇーな。よくやったな。と褒めて欲しかったからなんだ。

 もちろんアリシアやリインフォース。プレシアにリニスさんといったスフィアの問題も解決していつか皆で行けなくても、それら全てを解決してすっきりした状態で彼等の前に戻りたかった。

 そこで出来た自分が一番好きな人と一緒に…。

 

 だけど…。

 

 そんなことを考えている間に、向こう側の人間の時間は早いもので、結局高志の家族の全員が彼に恨みを持って死んでいった。

 

 母さんはあまりにも早くに死んでしまった俺の所為で心を壊した。体を壊した。そして、死んだ。

 

 

 

 ―お前なんか生まれてこなければよかったんだ―

 

 死んでいった。

 

 ―家族を壊した―

 

 死んで…

 

 ―母さんを殺した―

 

 お前が

 

 ―壊した―

 

 ((沢高志|お前))が

 

 ―殺した―

 

 ((俺|お前))が。

 

 ―殺したっ―

 

 お前が

 沢高志が

 

 ―殺した。殺したっー

 

 俺が俺が俺が!

 

 ―殺した!殺した!殺した!―

 

 おれが!((お前|おれ))が!((沢高志|おれ))が!俺がぁああああああああああああっ!!

 

 ―殺した!!―

 

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プレシア視点。

 

 機動六課が襲撃されると同時に私達はチビレオンとなのはさんから貰ったウサギの人形を抱えたヴィヴィオを連れて緊急避難通路を走っていた。

 アサキムの作り出した赤黒い卵の様な結界。

 その決壊の外殻に映し出されたのは老婆と壮年の男性。中年の男二人がガンレオンに抱きつくように、そして潰そう大蛇の様に締め上げていく。

 ガンレオンの装甲があのような一般人の体つきで。しかも病弱な体つきの人間がどんなに締め付けようとその装甲を突き破ることは出来ないそれなのに…。

 

 

 『傷だらけの獅子』は血の涙を流しながら苦しんでいた。

 

 

「なんですか?!あの真っ黒な繭のような結界は!?」

 

 …黒い?

 私は隣で避難をしながらモニターに映し出された映像を見て混乱したように叫ぶシャーリーの言葉に疑問を持った。

 確かに映し出された結界は黒い。だけど、それはただ黒いのではない。

 稚拙な白い線でガンレオンを。そして、それを押しつぶそうとしている亡者を描き、映し出しているではないか…。

 彼女には真っ黒に見えるというの?

 

 『…へぇ、そこまで((聖痕|スティグマ))を刻んでいるのか』

 

 私がその疑問を口に出そうとした時。アサキムが((モニターの画面越し|・・・・・・・・))に私を見た。

 

 「ひっ?!」

 

 隣にいたシャーリーとヴィヴィオもその不気味さを感じ取ったのか、短い悲鳴を上げる。

 そして、私達のすぐ傍にあった壁が爆発する。

 私とシャーリー。ヴィヴィオはその爆風に弾き飛ばされるように廊下に身を投げ出される。

 シャーリーは廊下に頭を打ちつけた時に気を失ったのか、額が割れて赤い血が流れているのにピクリともしない。

 私も打ちつけられた痛みで起き上がることが出来なかった。

 そんな私達をしり目に爆発した壁から数体のガジェットU型が現れ、そのベルトコンベアのようなアームがヴィヴィオを捕まえようとした。

 やっぱり奴等の目的はヴィヴィオかっ。

 だったら。いや、もう((これ|・・))だけしか手は打てない。

 

 「緊急コード!『((汝に罪無し|ユーアーノットギルティ))!』Dエクストラクター零号機!ヴィヴィオを守りなさい!」

 

 私の言葉を受信してチビレオンがヴィヴィオの腕から飛び出し巨大な球体の形をしたU型に自前の電動ノコギリを回転させながら突っ込む。

 ガジェットはAMFを起動させるが今のチビレオンは、魔力と電力を動力としているガンレオン型のガジェットと同じ機械である。

 

 ドガンッ!

 

 と、U型のアームを砕きながらそのアームの付け根。アームの出入り口に無理矢理入り込むように突入したチビレオンは内部からガジェットを破壊していき、最後にガジェットを爆散させると同時に後続のガジェットも同様に突撃、内部から破壊していった。

 見るからに今のチビレオンは質量兵器だ。

 だけど、AMFという存在を知ってから私はチビレオンに戦闘プログラムと能力を組み込んだ。

 アリシア蘇生を考えていた頃。当時の私は管理局と対峙することを前提に『時の庭園』に設置した対魔導師用を考えていた狂気に駆られていたお蔭で、対ガジェット用ガジェットと変化を見せた。

 後から後からと近寄ってくるガジェットはチビレオンに任せて私達はこの場を早く逃げなければならない。

 

 「…これで、少しでも時間を稼がないと」

 

 私はヴィヴィオ胸に抱き、シャーリーを担いで何とか移動を開始する。

 最終防衛ラインで出張っているシャマル。ザフィーラももはや自衛で精一杯。

 ヴァイスも他の六課局員を避難させるので精一杯。

 

 『プレシアさん!すぐ行きます!だからもう少しだけ気張ってください!』

 

 疲労困憊な上に重傷かもしれないダメージ。そんな状態でもヴァイスがモニター越しにこちらに向かってきている。

 だけど、

 

 「腐ってもスフィアを模造した物か…」

 

 いつの間にか私の真後ろに転移していたアサキム。

 そして、ガジェットを破壊していたチビレオンが彼の手の中にあり、そして…。

 

 「だが、所詮は模造品だ」

 

 ボンッ。

 

 小さな爆発がアサキムの手の中で起こる。

 そして、粉々に砕け散ったチビレオンは私の足元に散らばる。

 そして、その爆発の中から生えた赤黒い剣が振り返った私の目の前に現れる。

 

 「…あ」

 

 死んだ。私はそう思った。

 だけど…。

 

 「があああああああああああああああああああああ!!!」

 

 悲鳴を上げながらタカが私とアサキムの間に割り込む。

 もはや、ガンレオンが普段は背中の部分に収めている悪魔じみた翼。

 『傷だらけの獅子』の牙であり爪であるライアット・ジャレンチのみを展開させたタカがいた。

 

 「…『傷だらけの獅子』。君はまだ立つのか」

 

 心も体もボロボロになっても『本能』でこの世界の((家族|・・))。プレシアの危険に反応した。

 だけど、そこまでだった。

 それまでだった。

 

 「その人間を守る。それを((理由|・・))に君はこの世界に留まる」

 

 「っ?!」

 

 アサキムはそれを感心したかのような声で話しかける。

 剣を振り降ろす。

 

 「それを理由にこの世界に留まる」

 

 「が、あ…」

 

 

 タカの持つライアット・ジャレンチが紙の様に切り裂かれる。

 タカはアサキムの言葉を聞き、震え、血を吐き、血の涙を流す。

 

 「…その免罪符を君の家族が?他の誰が?君自身が?それを許す?答えは既に知っているんだろう、タカシ」

 

 「あ、あああ…」

 

 震えている。まるで己の罪を嘆く囚人の様に。これから裁かれる罪人のように。

 そして、振り下ろした剣を今度は切り返す形で剣を振るうアサキム。

 その声色はこれまで聞いたことがない程、優しく、そして…。

 

 「そんなことは決して『『『許さない』』』」

 

 

 

 残酷だった。

 

 

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 燃え盛る街。その一角で機動六課があっただろう、その場所。

 多くの人が過ごしていた影を残した瓦礫。

 その近くで救助されていく人達。

 プレシア達はその中にいた。

 その中には焼けて薄汚れた小さなウサギの人形があった。

 

 その人形はまるで、絶望の底に堕ちた『傷だらけの獅子』を悲しんでいるようだった。

 

 

 

説明
第三十四話 免罪符
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コメント
誤字修正しました。申請ありがとうございます(たかB)
メールで来たんです事故がった直後に!→メールで来たんです事故があった直後に! (シキ)
ちょい手直ししました。誤字申請ありがとうございます(たかB)
↓細かいことはいいんだよ!!!とにかく弾けてればそれでいいんだよ!!!!(匿名希望)
今すべて読み終えたのですが、推敲はしていますか?文章からは違和感しか感じませんし、接続詞の使い方もおかしいところがあります(レミス)
気温がな!!!!(匿名希望)
熱くなってきたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!(匿名希望)
なんか……今までで一番絶望的な感じでしたね……最早救いが無さ過ぎて鬱になりそうだ……。(神薙)
誤字発見です。 以外現場→遺骸(神薙)
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