真恋姫†夢想 弓史に一生 第八章 第五話
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〜聖side〜

 

 

 

「はい。これで良いですよ。また明日包帯を換えますから。」

 

「うぅぅ〜…………。」

 

「…傷が…痛みますか? この薬を塗っておけば……直ぐによくなりますからね…。」

 

「痛ぇ……!!!! 痛ぇよ………!!!!!」

 

「あんた男だろ!! 男ならそれぐらい耐えな!!!」

 

「………いやっ奏さん。そりゃ鬼でしょ……。」

 

「こらっ!! そこの二人は喋ってないで早く手当てを手伝うのです!!」

 

「……………薬……持ってきた……。」

 

 

 

 

賊との戦闘が終わり、今は戦後処理として兵たちの治療に総動員で取り掛かっている。

 

 

兵達は無事なものから少し傷を負ったもの、骨折などの重傷を負ったものまでいるが、幸い死者はごく少数にとどめることが出来た。

 

すぐにでも出発するつもりであったが、重症患者も少し休ませれば動ける者も出るようだし、曹操の顔も見ておきたかったので今日明日はこの地にとどまることにしたのだった。

 

 

 

 

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「徳種は居るか?」

 

 

 

負傷兵の治療をしていると、天幕に青いチャイナドレスを着た青髪の女性が入ってきた。

 

 

 

「あぁ、夏侯淵さん。伺おうと思ってたんだけど、生憎この有様でね……。」

 

「いやっ、いいさ。今回は私たちが助けられた側だ。助けた方が助けられた方を訪れるのは少々お門違いだろう…。」

 

「ふ〜ん……。じゃあ、お言葉に甘えとくよ。」

 

「あぁ、そうしてくれ。」

 

 

 

そう言ってしばらく無言が続くが、しばらくして夏侯淵さんが頭を下げながら言葉を発する。

 

 

 

「…………ありがとう。」

 

「ん? どうした、一体。」

 

「お前たちがいなければ私たちの部隊は壊滅していたであろう……力を貸してくれて本当にありがとう……。」

 

「なに……俺達も兵の訓練ができた。それに乗りかかった船だ。助けねぇ方が後味が悪い……。」

 

「そう言ってもらえると助かる……。」

 

 

 

 

俺の言葉に微かに笑みを浮かべる夏侯淵さん。

 

 

その表情には安堵の色が見えた。

 

きっと不安であったのだろう………この街を守りきることが出来るのか………。

 

 

 

 

今回の戦、数は圧倒的に不利だし兵の中には民兵が多く含まれる。

 

いくら籠城戦とはいえ大きな被害は免れなかっただろうし、最悪の場合賊の手に落ちていたかもしれない。

 

もしそうなっていれば、彼女たちは責任のある立場………彼女たち自身の将としての心に傷がついたかもしれない。

 

そのような彼女たちをこれから先相手にするのは……ちょっと気が引けるからな。

 

 

 

 

「そっちの兵は大丈夫かい?」

 

「あぁ。お前たちのお陰で多くの兵士が無事だ。それに、この街の義勇軍だった面々が正式に私たちの主に仕えたいとも言ってきている。」

 

「へぇ〜…。戦に勝って、兵も手に入れて、さらに有能な武将が手に入った……一石三鳥だね………。

 

「…………なぁ徳種…。」

 

「断る。」

 

「…………まだ何も言ってないではないか…。」

 

「あんたの顔と空気を見てれば分かるよ……。悪いけど、会ってはみたいがあんたたちの仲間になる気はない。俺は俺の道を行く……この仲間たちと…。」

 

 

 

視線を夏侯淵さんから外してみると、

 

 

 

「蛍ちゃん……そこはこうして………。」

 

「……………難しい……。」

 

「おいっ、一刀!! 鬼とはどういうことだい!? あたいが鬼に見えるって言うのかい!?」

 

「いやいや!! 誰も見た目の事を言ってるのではなく、形容してだな……。」

 

「あぁ〜〜もう!!! 二人とも口を動かさずに手を動かすのです!!! 負傷兵の手当てが終わらないじゃないですか!!!!」

 

 

 

 

天幕の中は負傷兵だらけだというのに、あいつらはいつもと変わらない様子だ。

 

こんな風な仲間たちを持って俺も大変だが……それ以上に楽しい……。

 

 

 

「こいつらと一緒にいたい、こいつらと一緒にこれから先の未来を見ていきたい…そう思わせてくれるんだよ……………こいつらは…。」

 

 

 

そう言って夏侯淵さんの顔に目線を戻すと、彼女も彼らの様子を見ていた。

 

その眼は先ほどよりも優しく、彼女にも彼らのことが伝わったのかもしれなかった…。

 

 

 

「そうか………残念だ…。お前のような者が何れ敵になると考えると厄介なんだが……なるほど、彼らを見ていれば仕方ないとも思える……。徳種、お前は良い仲間を持っているのだな……。」

 

「あぁ。最高の仲間だ。」

 

 

 

自身の最高の笑顔でそう答えると、夏侯淵さんも笑い、しばらくそのまま笑いあっていたのだった。

 

 

 

 

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「そう言えば、徳種は先ほど華琳様に会いたいと言ったな?」

 

 

しばらく何気ない話をしていると、ふと思い出したように急に話を振られた。

 

 

「……それは誰のことだ?」

 

「おっと………わが主、曹孟徳様のことだ……。」

 

「あぁ成程……。確かに会ってみたくはあるな……」

 

「目的はなんだ?」

 

「どうせならあって顔合わすぐらいはしておきたいと思っただけだが……?」

 

「………。」

 

 

俺の目を見て言葉の真意を確かめる夏侯淵さん。

 

少し考えた後一度頷いてから話し始めた。

 

 

「ならば、私から華琳様に話を通そう。華琳様も私から言えば会っては頂けるはずだ。」

 

「助かるよ。」

 

「礼など無用だ…それにこれぐらいで私は助けてもらった恩を白紙に戻す気はない。こちらから改めてきちんと礼はさせてもらう。」

 

「はははっ。じゃあ、お言葉に甘えておきますか……。」

 

「それと、琉流……典韋将軍が今回の事で礼がしたいそうだ………。すまないが、後で私たちの所に来てくれないか?」

 

「良いのか?」

 

「私の方から誘っているのだ。遠慮はするな……それに、今日の戦について色々と教えてほしいこともあるしな。」

 

「分かった……。負傷兵の手当てが終わり次第、皆で行くってことで良いか?」

 

「あぁ……それで構わないさ。」

 

 

 

そう言って彼女は天幕から出て行った。

 

天幕内では今だに喧噪の中で負傷兵の治療がなされている。

 

こりゃ、終わるのにはもう少しかかりそうだ………。

 

 

 

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あの後、奏の頭に手刀を、一刀にリバーブローを叩き込み若干一名負傷者が増えたが、皆で治療を行うと意外と早く片付いた。

 

 

負傷兵の手当てが終わった後、俺は全将を連れて夏侯淵さんたちの所に行く。

 

 

夏侯淵さんの訪問から二刻程経ち、辺りを夕闇の静寂さで包みこまれた街では、その静寂と対比するほど喧騒さで溢れていた。

 

 

と言うのもしょうがない話で、今回の戦は防衛線、籠城戦が主だったものになり、時間を稼げれば良しというものであったのだ。

 

 

ところが実際はどうだろう………。

 

籠城するどころか、敵と対峙し殲滅。

 

圧倒的不利な兵数差をひっくり返して、この街を守り切ったのである。

 

ならばすることは当然勝利の祝杯………つまり、宴だ……。

 

 

 

「はははっ…。皆嬉しそうだな。」

 

「はぁ…?? そりゃ当然だろ……。戦に勝ったんだから。」

 

「そうなのです。それに彼らの中には初陣の兵もいるのです。今回の戦で生き残ることが出来たことはきっと彼らの自信になり、力になり、誇りになるでしょう。ともすれば、彼らは立派な兵となるわけです。」

 

 

 

俺のぼそっと零した独り言に、隣を歩いていた奏と橙里が反応する。

 

二人の顔には、何を当然のことを……。と書いてあるように見えるのは気のせいではないのだろう。

 

 

 

「まぁ、そうなんだけどね……。」

 

 

 

立ち止まり、焚火の傍らで酒を飲み交わす二人の兵士を見つめる。

 

戦いに勝ち、今日を生き残る権利を勝ち取った彼らは、その権利を祝い宴を上げる。

 

勿論それはこの時代からすれば当然のことである。

 

しかし、裏を言えば今日負けて、死に行く者たちもいたのは確かだ……。

 

そんな彼らを弔うことは出来ないものだろうか……。

 

 

 

「………先生は、嬉しくないのですか?」

 

 

 

橙里は俺の表情から何かをくみ取ったのかもしれない。

 

恐る恐るではあるが、俺にそう訪ねてきた。

 

そんな彼女に、俺は微笑を受けべて答える。

 

 

 

「嬉しくないって言えば嘘になるけど……でも、死にゆく人たちの事を思えば、弔ってやりたい……。あいつらも賊とは言え人間だ……。助けてやれなかった代わりに、ゆっくりと眠って欲しいと思うのは……利己的すぎるのかな……。」

 

「………通常、この世界では敗戦者を弔うことはしませんです。それは、その賊が自分の家族を殺したかもしれない、自分の友達を、恋人を殺したかもしれないからです。そんな者の為に祈ることなど出来ません。家族の、友の、恋人の敵………。そう言った者を憎みこそすれ可哀想などと思うこと自体、殺された人たちに失礼なのです……。」

 

 

 

 

ここは、現代日本ではない。

 

いや現代日本だとしても、自分の身内を殺されてその殺人犯が死んだときに、その人を弔おうとする被害者遺族などいるはずがない……。

 

当たり前と言えば当たり前……それが普通でありそれが常識……。

 

分かってはいる……分かってはいるが………。

 

 

 

「人一人が死んだというのに…………その者を供養せずして良いのか……。」

 

 

 

視線を焚火に移し、目を閉じて合掌する。

 

人でなしと呼ばれようが、無礼な人と呼ばれようが構わない。

 

俺は人として人が死ぬのを黙ってみていられない……。

 

だから………これからも俺は供養する。

 

人を殺し、人を傷つけた罪の罪滅ぼしのために……。

 

 

 

 

「ふぅ………。」

 

 

 

祈りを終え、左右を見ると奏も橙里も目をつぶって合掌をしていた。

 

いや、彼女たちだけではない。後ろを見れば俺の仲間たちは皆目を閉じて合掌しているのだった。

 

 

 

 

「…………お前ら…。」

 

 

 

俺がそう声をかけると奏と橙里が目を開ける。

 

 

 

「あたいたちはお頭に付き合うよ。」

 

「稀有な人だとは前々から思ってはいたのです。だから、これぐらいなんてことないのです。」

 

 

 

そう言って微笑んでくれる二人を見ると本当に嬉しくて、俺は二人に抱きついた。

 

 

 

「………ありがとう。本当にお前らは良い仲間だよ………。」

 

 

 

俺の事を立て、尊重し、従ってくれる。

 

そんな彼女たちの想いの強さが再確認出来て、嬉しくて彼女たちを抱く手に力が籠る

 

 

 

「………んっ……ちょっと……苦しいのです……。」

 

「お頭………その………ちょっと緩めてもらえないかい…??」

 

「…………ごめん…。ちょっと我慢して……。」

 

 

 

今はまだ離れたくなかった……俺の愛する仲間たちと……。

 

 

 

「……………え〜い……。」

 

「……………あうぁぅ……。」

 

 

 

すると、前と後ろから同時に何かがぶつかってくる。

 

見れば、蛍と麗紗が俺に抱きついて来ていた。

 

 

 

 

「私たちも………一緒ですよね……??」

 

「…………おいてけぼり……だめ……。」

 

 

 

この言葉を聞いてさらに胸の奥が摘まれたような気持ちになる。

 

あぁ………俺は本当に最高の仲間を持ったものだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………聖〜…。」

 

「………………。」

 

「………お〜い…聖ってば〜……。」

 

「………………。」

 

「………おい、聖!!!!!」

 

「だ〜!!!! うっせぇな一刀!!!! 今、仲間たちとの大事な絆を確認してる最中だって言うのに………。」

 

 

 

一刀に呼ばれた方に向き直ると、そこには顔を真っ赤にした典韋ちゃんと、面白い物を見つけた時のようなにやっとした笑い顔を浮かべる夏侯淵さんがいた。

 

 

 

「あれ…………?? え〜っと……………。」

 

「わわわっ………こ…こんな人前でいちゃいちゃと……( ///)」

 

「ほうっ……。愛されてるな、徳種……。」

 

「な……なんでここに……??」

 

「いやなに…。お前たちが来たと報告が来たものでな…。迎えに来たのだが………。」

 

「…………因みに何時から……??」

 

「お前が二人に抱きついた所ぐらいからかな……。」

 

「…………そっすか……。」

 

「いちゃいちゃするのはいいが、ここが徳種の軍だけじゃないことぐらいは理解しておくといい。さもなくば、私の所の兵士に呪い殺されるぞ?」

 

 

 

言われて辺りを見回してみれば、曹操軍の兵士の方々から鋭い視線が………。

 

おいおい……そんなに殺気を込めて視線を送んなよ……。

 

とりあえず、後ろには気を付けておこう……。

 

 

 

「ご忠告痛み入るよ……。今後は気をつけるさ…。」

 

「それが良いだろう。さて、こんなところで話していても仕方がない。奥の天幕に宴の席を用意してある。今日は戦勝祝いといこうではないか。」

 

 

夏侯淵さんが身を翻して歩き始めると、彼女の横について陣の奥に移動しながら話を続けた。

 

 

 

「あぁ、そうだな。俺も今日は機嫌が良い。戦の出来事を肴に酒を飲もうか…。」

 

「私も今日の戦については聞きたいことがたくさんある。そうしてくれるとありがたい……。後、この町の義勇軍を指揮していた彼女たち三人も一緒なんだが良いか?」

 

「良いんじゃねぇか? もう、お前さんの仲間なんだろ?」

 

「まだ華琳様に直接聞いたわけではないので正式には決まっていない…。しかし、彼女たちほど指揮がとれるならきっと我らの力にはなってくれるだろう…。」

 

「そうか………あいつらもよかったな……。」

 

 

 

安堵のため息とともに、にへへっという笑い声が漏れたのは内緒だ……。

 

 

 

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弓史に一生  第八章 第五話  弔い  END

 

 

 

 

 

 

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後書きです。

 

第八章第五話の投稿が終わりました。

 

 

 

今話では、私の生命倫理観について書いてみています。

 

私個人としましては、死と言うのは当然重いことであり、人を殺すなどと言うのは現代ではあってはいけないことです。

 

その一方で、人が病気などで死ぬことになっても、命の重みは変わりません。

 

死とはいかなる場合であっても悼まれないといけないものだと私は思っています。

 

 

 

それは、私が医療関係者であるからかも知れませんが、患者さんが過去に何をしていようが、その人は患者であって一人の命ある人間なのです。

 

死すれば当然弔います。それが例え重犯罪者であろうとも、家族を殺した人であろうとも……。

 

別な言い方をすればそれは職業病なのかも知れませんね…。皆さんにこの倫理観を植えつけることなんかは絶対にしません。これは私の倫理観であって、皆さんに分かってもらおうというものではないからです。

 

ただ単にそう言う人もいるということを知っておいてほしかった。ただそれだけです。

 

 

 

 

 

さて、暗い話になってしまったので一つ皆さんにアンケートを行う事前説明をさせていただきます。

 

と言いますのも、私の小説はもう直ぐ全100話を投稿することになります。

 

その記念をして、日頃読んでくださっている皆様のためにも何か還元できればなと考えたしだいであります。

 

 

さて、アンケートの内容ですが、『本郷一刀は、この小説内で幸せになって良いのか?』と言うことです!!

 

私の作品は、主人公はもちろん徳種聖さんです。

 

しかし、原作主人公である一刀君にも春があったっていいんじゃないか!?と言う思いに行き当たり、これは読者の皆様の判断にお任せしようとなった次第です。

 

もし、幸せになってもいいと考える方がいれば、誰とくっついてほしいかもお願いします。必ずそうなるとは限りませんが、作者の構想と重なれば皆さんの意見を反映した作品になると思います。

 

アンケート自体は100話投稿の時に行いますので、それまでに皆様に考えていただけると幸いです。

 

 

 

では、次話はまた日曜日に…。

 

説明
どうも、作者のkikkomanです。

投稿が遅くなってしまってすいませんでした。色々と問題がありまして…何とか解決しましたんでご心配なさらぬように…。


さて、今話は無事に戦いに勝利した聖たち。そんな彼らの戦いの後を描いてみました。
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