リリカルなのはSFIA
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 第三十六話 ブロックワード

 

 

 

 プレシアのレポートの中にいくつか奇妙なレポートがある。

 その中の一枚にこんなレポートがあった。

 

 

 

 一つ。スフィアはなのは達がいる世界とは別の世界の力の一つである。

 一つ。そのスフィアの力はこの世界。『原作』では現実となり、タカやアサキムといった『原作』とは関係のない者から、リインフォースやユーリといった『原作』に関係している人物達に介入した。

 

 以上の事から、タカの知っているゲーム要素がこれからもこの世界に介入してくることが考えられる。

 中でも最悪と考えられる要素。それはゲームという概念上必ず存在するボスの存在。

 タカは基本的に戦闘を嫌うが、その中でも一、二を争って戦いたくないボス。

 

 『ジ・エーデル』

 

 自分の傀儡となる人形を。クローン体を作りだし、その人形に指示を出しながら世界の安定を乱しに乱し、最後には壊滅寸前まで追い込んだ。

 その目的はただ自分が楽しめればいいと言う純粋に狂気に駆られたものだ。

 ただ刺激がほしい。ただ楽しめればいい。

 

だからこそ、自分の傀儡に本当の事を伝えず、知らせずに自分自身を家畜以上に働かせ、卑下に扱わせた。

その身に走る『被虐』を楽しむ為に。

 

だからこそ、自分の傀儡に本当は操り人形という事を伝え、絶望させ、わざと自分に歯向かうようにした。

その行為を嘲笑う為に。確実に楽しむ為に。ジ・エーデルは『ブロックワード』をその人形に取り付けた。

その『加虐』を満たすために。

 

 『ブロックワード』。

 その言葉を聞いた特定の人間は自分の意志に反して、意のままに操られる悪魔のささやきだった。

 憐れ、その傀儡は自分の意志に反して、ジ・エーデルに弄ばれ、絶望し、屈辱にまみれながら死んでいった。

 

 ゲームの中でも純粋な悪。

 タカにそう言わせるほど嫌悪する存在。

 それがジ・エーデル。

 

 そして、ジ・エーデルが使っていた悪魔の言葉それが…。

 

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 ドゥーエ視点。

 

 『ア〜イラビュ〜?ドゥーエちゃん、やめなさい?』

 

 「わかりました」

 

 え?!私は今、この薄暗い部屋で目の前の腐れ脳みそをぶちまけようと…。

 

 『うんうん♪いい子だね♪ドゥーエちゃん♪今度は三回まわってワンと鳴いてよ♪』

 

 「貴様ぁっ、私に何を…」

 

 目の前にプカプカと浮いているだけの脳みそに。自分では何もできない。その脳みそ本体に繋がれたコードを通じでしか指令を出すことが出来ない、私達の『枷』ともいえる脳みその言葉に私は再度腕を振るおうとした。

だが!

 

 『ア〜イラビュ〜?これはお願いじゃない。命令だ』

 

 くるくるくるっ。

 

 「ワン」

 

 私の意志に反して私の体はその場で脳みその言う事を実行していた。

 

 『うんうん♪ブロックワード。ぶっつけ本番だったけど上手くいってよかったよ♪そのままクルクルと踊っていてもらおうか。せっかくのかわいこちゃんなんだから笑顔でね』

 

 やめろ、やめろぉおおおおおっ!

 私の体は一体どうしたというのだ!?

 私は脳みそが言うように動く体に悔しさとも情けなさとも取れない歪んだ表情をしていたら、まるで無理矢理顔を押さえつけられて笑顔を作らされている感覚に襲われる。

 未だに踊り続ける体が止まったのは、その場に『知りたがる山羊』のスフィアリアクター、アサキム。そして、『偽りの黒羊』のスフィアリアクターのレジアスだった。

 

 『っ。…おやぁ、他にもお客さんを連れて来たのかい?』

 

 その言葉に答えるかのように私の体はその場に崩れ落ちた。そして、二人のスフィアリアクターがこの部屋に入ってくる。

 

 「これが君の信じていた正義。その正体さレジアス」

 

 「…馬鹿な。管理局の最高評議会がこのような脳みそだというのか」

 

 「君も管理局で『嘘』を。偽りを着込んでここまで来たんだろう?とはいえ、僕も予想外だったよ」

 

 アサキムは目の前に浮かぶ脳みそに話しかける。

 

 「ブロックワード。それを聴けばどんな物の命令にも従ってしまう。それを((自分自身|・・・・))にかけて僕の目を欺いていたんだからね」

 

 『そう怒らないで欲しいな色男。別に僕は最初から((僕|・))だったわけじゃない。僕がこの僕に仕掛けたブロックワードは自分の話し相手に『世界を守る』と言わせないと僕は僕として覚醒しないんだよ。まあ、そこのドゥーエちゃんや戦闘機人たちには…』

 

 アサキムとこの脳みそが何を話しているかどうかはわからない。

 呆然自失しているレジアスを無視して私はこの脳みそを他の二つの脳みそ同様にぶちまけてやろうとしたが、

 

 『アイラビュ〜♪そのまま大人しくしていてくれ♪』

 

 「…っ!」

 

 今度は全身の筋肉が固まったかのように動かなくなった。

 

 「…趣味が悪いね。ジェイルや僕にも気がつかれないように組み込むなんてね。まさか生まれる前から、遺伝子にブロックワードを組み込むなんて」

 

 アサキムの言う通りなら私は…。

 私はこの脳みその手の平で動いていたというの!?

 私だけじゃなく、ウーノ姉様やチンク達も!

 

 『そうかな?このブロックワード『((私は貴方を愛してます|アイラビュー))』。結構僕はこれを気にいっているんだけどね?』

 

 「…ふんっ」

 

 アサキムは鼻を鳴らしながら私に手を向けて緑色の光を当てる。

 すると、今まで言うことをきかなくなった体が動くようになった。

 アサキムがスフィアの力で私を動かせるようにしてくれたのか。それを確かめるすべはない、だが、もう一度動きを縛られる前に一言もしゃべらせる前に目の前の存在を消す!

 

 ガキィンッ。

 

 『おや?』

 

 「な、なぜ?!何故止める!アサキム」

 

 私が振るった刃と化している爪はアサキムの剣に寄って受け止められていた。

 私達と協力体制だから私が動けるように魔力を施したのはわかる。だが、どうしてアサキムが目の前の脳みそを守るように立っているのかが分からない。

 

 「…僕は『太極』に縛られている。だから誰かに操られるということがどうにも気にいらなくてね。だから君を動けるようにした。そこのレジアスをここに連れて来た」

 

 「ならば尚更!」

 

 「だが、スフィアが関われば話は別だ」

 

 「っ」

 

 スフィア!?

『偽りの黒羊』や『傷だらけの獅子』といった他のスフィアが有るのか?!

 

『…やれやれ。そこまで知られちゃっているのかい?まあ、それだから僕を助けたともいえるんだろうけど』

 

 脳みそはやれやれと言った具合にアサキムの言葉を繋ぐ。

 そのすぐ隣で膝をついたレジアスがぶつぶつと「俺が信じた正義は…。今までの正義は…」と呟いていた。

 それをちらりと見たアサキムは無表情のままシュロウガの鎧を顕現させ、赤黒い剣ディスキャリバーでレジアスの胸を貫く。

 

 「っ」

 

 そして、アサキムはレジアスから剣を引き抜いた。

 にもかかわらずレジアスの胸からは血の一滴も滲み出ていない。

 代わりに剣の先には緑色に光る球があった。

 あれが『偽りの黒羊』のスフィアなのか…。

 

 『ハハハ♪ブラボーブラボー♪スフィアだけを抜き取るなんてね』

 

 「少し前に((彼|・))が使っているところを見た事があるからね。一度見ればどういうものか分かる」

 

 『興味を持てばだろう。いいね。いいね。『知りたがる山羊』。すぐに解析結果が出てくるなんてチートだよ。ただ、学者にとってそれほど便利な物はないよ』

 

 「そうかな?少なくてもジェイルはすぐに結果は求めなかった。自分の力で、自分の答えを求めていた。その姿に僕は関心を持っている」

 

 自分が貫かれたこともわかっていないのかレジアスは未だに呆けている。

 それほどまでに自分が信じていた正義が偽りだったということにショックが大きかったということか。

 そんなレジアスを私の元に蹴りとばして受け止めさせるアサキムの真意がつかめない。

 

 「ドゥーエ。君とレジアスは『この世界の真実』の一片を見た。それから何を考え、どう行動するかは君に任せる。君に施された魔力をジェイルに渡せば君達もその呪縛から解き放たれるだろう」

 

 つまり、この『真実』を知った後の私達がどう行動するかは自由という事か!

 どこまで上目線なんだ!

 未だにぶつぶつと呟くレジアスを抱えながら私はこの部屋を飛び出す。

 気に喰わない奴だが、アサキムの目の前でレジアスを見捨てれば切り捨てられるような気がしたので仕方なくこいつも連れて行く。適当な所で転がしていれば他の局員が気がつくだろう。

 

 『おいおいっ。勝手に僕の玩具を取り上げないでくれよ』

 

 「代わりはいくらでもあるんだろう?((君自身|・・・))も」

 

 『…やっぱり欲しいね『知りたがる山羊』。どこまで知っているんだい?』

 

 「…さてね。…ドゥーエ、ジェイルに伝えていてくれ。君達と過ごす時間。決して悪い物じゃなかった。と」

 

 そんなやりとりを背に私が部屋を飛び出すと同時にアサキムはそう声を投げかけた。

 私は何か言い返したかったが、ドクターと建てた作戦は失敗だ。

 困惑と失態を残しながら私は管理局本部からの脱出をするのであった。

 

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 アサキム視点。

 

 二つの脳みそが撒き散らされた部屋でアサキムは部屋を飛び出していたったドゥーエを見送ると再び最後の脳みそに話しかけられる。

 

 「…さて、彼女もあそこまで逃げればジェイルの所まで逃げ切れるだろう」

 

 『ちぇー、もう少しあの人形と遊びたかったのになぁ』

 

 「あまり調子に乗るんじゃない。僕はいつでも君を殺せるんだ。…ジ・エーデル。ブロックワード。絶対の命令コード。『太極』に捕らわれている僕からしてみれば嫌悪すべきものだね」

 

 『だからあの人形とレジアスを助けたのかい?『呪われた放浪者』と呼ばれた君が?随分と((前|・))に出会った時に比べてお人好しになったじゃないか?』

 

 「そう言う君は変わらないな。この世界で君のいるその立場はほぼ全てと言ってもいいぐらいに彼女に殺される存在だったの言うのに…」

 

 『なかなかのスリルだったよ♪僕自身にかけたブロックワードは『世界を守る』という合言葉を相手に言わせることで僕という存在は覚醒する。『知りたがる山羊』の君でも直接実物に会わなければそれが分からないだろう?』

 

 被虐も加虐も大好きなのさ。と、言わんばかりに脳みそ。いや、ジ・エーデルは言う。

 この目論見が失敗するかもしれないというスリルを。そして、成功した時の達成感を今まさに楽しんでいた。

 

 『そ・れ・で。そのスフィアをどうするんだい♪色男♪』

 

 「…決まっている。この世界に眠っているスフィア。『尽きぬ水瓶』を目覚めさせる。だが、『知りたがる山羊』を持つ僕にはそれが出来ない」

 

 ジ・エーデルはアサキムの持つ『偽りの黒羊』のスフィア。それの今後の扱いを問う。

 アサキムはその問いに呆れるように。だが、感心するように答えた。

 目の前の脳みそがジ・エーデルとして覚醒した時に『尽きぬ水瓶』のある場所。そして、その力の解放のやり方を『知りたがる山羊』の力で知った。

 だが、それは自分では出来ない事を知った。

 ジ・エーデルの計画。それを実行することが出来れば『尽きぬ水瓶』のスフィアを目覚めさせることが出来る。

 そう、彼の計画にアサキムの持つ『偽りの黒羊』の力があれば…。

 

 

 

 「だから君にこれを預けるよ。ジ・エーデル。だが、君が『尽きぬ水瓶』を目覚めさせたその時は…」

 

 『オッケー♪その時はお互いに、存分に殺し合おうよ、色男♪』

 

 

 

 あくまでも、そして管理局が創立してから建てていた気の遠くなるような計画が最後の最後に潰されるかもしれないのに、その『緊張感』すらもジ・エーデルには快楽の一つに過ぎない。

 その狂気が、他人に見返りを求めないという『慈愛』を糧にする『尽きぬ水瓶』を目覚めさせることが出来る。

 

 『だけど、いいのかい?君は知っているはずだよ?僕が『尽きぬ水瓶』を扱えることが出来ればいくら君でも危ないんじゃないの?なにせ、君は愛しの『((傷だらけの獅子|ダーリン))』。いや、この世界では『((傷だらけの獅子|お兄ちゃん))』と言った方がいいかな?』

 

 『傷だらけの獅子』のスフィアリアクターはとある事情でゲームの中では時に『ダーリン』と呼ばれていた。

 目の前のジ・エーデルにもその知識はあったようでその言い方になったが、今の『傷だらけの獅子』はどちらかと言えばお兄ちゃんだろう

 まあ、これといった事に張らないだろう。

 

 『君は『傷だらけの獅子』の回収をしてないじゃないか。それなのに僕戦おうなんて侮辱としか感じられない。まあ、そこもまたいいんだけどね』

 

 「彼には期待しているんだ。スフィアを越えたスフィアリアクターになっていることを、ね」

 

 『それは楽しみ♪っと、ジェイルの放ったガッジェトが街中、ここまで迫って来たね』

 

 「それじゃあ、僕はこれから帰る…。後はこのスフィアを好きにしてくれ」

 

 そう言ってアサキムは部屋を出て行った。

 

 

 

 『傷だらけの獅子』早く目覚めないと本当に世界が壊れてしまうよ。

 だからこそ早く目覚めるんだ。傷だらけの獅子。

 アサキムはそんなことを考えながら高志に無事を祈った。

 どうか僕に殺されるために、元気になってくれと…。

 

 

 

 

説明
 第三十六話 ブロックワード
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コメント
雷光さんへ。ですねい。誤字修正しました。申請ありがとうございます。(たかB)
誤字報告 アサキムはそんなことを考えなが高志に無事を祈った→ながら ですね。(雷光)
失礼しました。誤字修正しました。申請ありがとうございます(たかB)
『傷だけの獅子』って弱そうやな(匿名希望)
最後のほうで『傷だらけの獅子』が、『傷だけの獅子』や『傷だられの獅子』になってます。(T4号)
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