訳あり一般人が幻想入り 第17話 |
「あ〜、なんか面白いことないかなぁ」
水色の髪の少女が、周囲にいる少女たちに聞こえるようにわざと大きな声を上げる。周囲はそうだね、と肯定する答えとまたか、と呆れる答えが返ってくる。
「ここ最近異変も起きることなかったし、やることないなぁ〜」
「この森に来る人間も減っちゃったし、脅かすこととかいつ以来やってないかなぁ」
「近くの湖にいるとか言われてる魚の主とか釣ってみるかー?」
「それの噂も聞かないし、いないんじゃないの? というか道具とかどうするのさ」
各々何かしようにも行動を起こそうという気持ちに熱が入らず、このまま何もせず一時解散しようと思った矢先、湖側からやってきたトンボがマントらしきものを羽織っている少女の肩に止まる。その少女は、まるでそのトンボと会話しているかのように耳を傾けていた。そして口を開く。
「なんか、湖に人がいるらしいよ?」
「ほんと? じゃあ早速その人を見に行こう! そして何かいたずらをしよう!」
水色の髪の少女は思い立ったが吉日とすぐさま湖の方へ飛んでいく。残りの少女たちも後を追った。
第17話 息抜きは大切 ホウレンソウはもっと大切。
フランのワガママという免罪符を、勝手に許可無く使って門番をほっぽり出しフランを追って数十分。魔法の森側の((辺|ほと))りまで追う羽目になった。
フランの追跡に最後まで食らい付いた美鈴に対し横谷は途中からバテてしまい、二人のそばまで付いた頃には、幻想郷に来て数多の場面で酷使してきた心臓がバクバクと鳴らして、息もぜぇぜぇと荒くなっていた。
「だらしないなぁ。まだ遊んでもいないのにバテちゃ駄目だよ」
フランは横谷の姿に幻滅そうに言い放ち、小馬鹿するように肩をすくませて首を左右に振る。
「ぜぇ……人間と……はぁ……妖怪を、比べるな……っはぁ」
横谷は息を整えながら弱々しく反論する。しかしフランは聞いておらず、何をして遊ぼうかと考えるのに夢中だった。
「なにして遊ぼうか……そうだ! 久々に弾幕ごっこやろうよ! ねぇ美鈴!」
フランは美鈴に期待のまなざしを向ける。それを受ける美鈴はたじろぎながら言う。
「わ、私は構いませんが、優さんは普通の人間ですから無理ですよ」
「え〜そうなの? じゃあ的当て! スーちゃんを的にして二人が弾幕出して、先に当てたほうが勝ちっていう遊びはどう?」
「いや、それはもっと駄目ですよ! フラン様も見たでしょう? 優さんは只の人間ですからフラン様を追いかけるだけでも息が上がってますから、あまり面白くならないと思いますよ……?」
横谷を危険な目から合わせないようにして言ったのだろうが、もう少し良い言い方なかったのか――横谷は美鈴の諭し方につっこむ。
「私だけで弾幕ごっこの相手になりますから」
「えぇーつまんない! スーちゃんも一緒に遊びたいよね!?」
「……え゛ぇ!?」
横谷は思いがけない問いかけに一瞬間を置いて驚く。本音を言えば危険な目に会うことを知りながら遊ぼうと思わないので「遊びたくない」と言いたいが、そんな事を言えばフランに何をされるかわからない。
かといって「俺も遊びたい」などと言えばフランに何をされるかわからない……つまりどっちに転んでも危ない目に合うことになる。
「う、え〜と……ま、まぁ遊びたいけど……今ちょっと疲れてるから遊ぶのは後で……」
「駄目っ! 今遊ぶの!」
横谷が考えに考え抜いた陳腐な言い逃れの言葉を最後まで言わせずフランは遮る。美鈴は必死に巻き込ませないよう説得する。
「フ、フラン様、ですから只の人間には弾幕を跳ね返す((術|すべ))はないですし、避けることも至難の業なんですから、優さんを巻き込むのは……」
「やーだー! 今日は曇りだからせっかく久しぶりに外で遊ぼうと思ったのに!」
(曇りだから? ああ、そうか……)
横谷は空を眺め厚い雲を見て思い出す。吸血鬼は日光に弱い。伝記的なものにはそういった内容が書かれてある。
どうやら伝説通りなのか日光に当たれば灰になるか、ただ力が十分に発揮できないといった確実なものではないが、フランも日なたに当たるのは避けているようだ。
フランは人間以上に生きてはいても精神は子供そのもの。そしてフランに構う人物も少ない。そして幽閉された過去がある。今は自由に部屋から出られるし紅魔館の広さは決して狭いわけじゃないが、囲いも壁もない大きい「部屋」で数人と遊びたいだろう。日光を再び拝むことに強い憧れを持っていたことと同じく、フランはこの時を待ちわびていたのだろう。
とは思うものの、その時を待ちわびた鬱憤をこちらに火の粉が飛び散れば、現実世界に帰る機会を待ちわびている横谷は一生叶うことないものになってしまうかもしれない。
そうならないために何かいいアイデアはないかと思考していた矢先に、湖側の向こうから霧の深さで視界が悪いが数人こちらに飛んで来るのが見えた。
「あんたたちなにやってるの?」
最初に声を発した少女はウェーブがかかった水色のショートヘアーで頭には緑のリボンが、白のシャツの上にスカート縁が白いギザギザ模様ありの青いワンピース、首元に赤いリボン。そして背中に氷の結晶のような六枚の羽を羽ばたかせている。体も大きさもフランと大差ないほど小さかった。
「あれは確か紅魔館にいる門番と……」
「フランじゃないの?」
「その奥の人は誰なの?」
その少女の後ろにいる三人も揃えて声を出す。その三人とも体格は青い少女とほぼ同じくらいだった。
左から順に、緑色の髪に黄色いリボンでサイドテールが特徴。白いシャツに、こちらはスカート縁近くに白線一本がある青いワンピースに、首元は黄色いリボンを付けている。この少女も背中から羽が生えていたが、こちらは鳥か虫に近いような羽が一対のみだった。
その隣の両手を大きく広げて飛んでいる少女は、金髪のショートボブに首元と同じ赤いリボンを付けている。白シャツに今度は上下黒のブラウスとロングスカート。羽らしきものはなかった。そして何故かその子の周囲の風景が暗くなっている。
そのまた隣の少女は緑色でショートカット、頭に触覚らしきものが2つ生えている。白シャツと紺色のキュロットパンツという半ズボン、そして燕の尻尾のように中心が裂けた状態のマントを身に付け、傍目からはボーイッシュな少女だった。
「今から三人で遊ぶところだったんだよ。でもスーちゃんが私と遊んでくれないの」
フランは突然来た四人に説明する。四人はその状況は理解したが一つの聞き慣れない単語に首をかしげた。
「スーちゃん……て、誰のこと?」
一番左の緑髪の少女が尋ねる。フランは横谷を指差して「あれだよ」と言う。「あの人」でも「アイツ」でもなく「あれ」という所に、フランの横谷に対する扱いが垣間見える。
「え、アイツどうみても人間じゃないの?」
「フランの遊び相手に人間って、務まるとは思えないけど……」
残りの二人は横谷を見て何故あのフランに人間が付き添っているのか疑問に思う。
「じゃあさ、あたい達にも混ぜてよその遊び。あたい達も暇だったし、いっぱいいた方が楽しいじゃん!」
青髪の少女は横谷のことを気にも留めず、にこやかに遊びに混ざることを提案する。
「いいよ! いっぱいいた方が楽しいし、その方がいいよね美鈴? スーちゃん?」
「え、ええ構いませんけど……」
「ま、まあ、いいと思うよ……俺が居なくてもその子達と一緒に遊べるからね」
(これでフランの遊びに付き合わずに済むか……)
自分より先に後から参加してきた子たちに構って、見向きもしなくなるだろうと横谷はそう((画策|かくさく))し胸をなで下ろすつもりでいた。
「なんで? スーちゃんも入るに決まってんじゃん」
しかし、フランは頑なに横谷を遊びに混ぜる気でいる。またすぐに拒否しようと思ったが、これ以上の拒否にフランの気が触れてしまうといけないと考え、好きにしてくれと言わんばかりに横谷は溜息をこぼす。
「決まりだね! じゃあなにして遊ぶ? 弾幕ごっこ? それとも的当て?」
無邪気にフランはみんなに尋ねるところに一人、手を挙げた。
「はいスーちゃん。なにかいい遊び思いついたの?」
横谷が手を上げている姿に美鈴は驚く。わざわざ自分から動かないほうが良いのでは、と思ったからだ。
「……かくれんぼがいいと思う」
いい年の男が随分と幼稚な遊びを声に出したもんだ、と思うところだがそれを言った本人でさえ心の中では言うのをためらっていたが、これは横谷に考えがあっての発言だった。
もしこのまま弾幕ごっこなど弾幕を使った遊びを実行されるとたまったものではない。周りの連中が無難な遊びを提案すると期待しようにも、人間にとって無難ではない遊びを提案することも考えられる。
ならば自分から安全な遊びを提案し採用してもらおうと思い至った。周りが他の遊びが提案してそちらの方に採用される可能性もあるが、何も言わないよりかは言う方がいい。命と比べたら恥も外聞もなくした方がいい。
幾つかある外の世界の遊びの中で、かくれんぼなら見つけるだけで試合終了になるし鬼ごっこのように体に触られずに済む。鬼になっても見つけようというフリをしてダラダラと歩けばいい。横谷はそう考え、かくれんぼを選択し発言したのだ。
「え〜それなら鬼ごっこがいいなぁー」
そんな不満を漏らし答えたのは青髪の子だった。いかにもつまらなそうな顔をして手を頭の後ろに組んでさらに言う。
「ただ見つけるだけなら簡単すぎるじゃん。だから鬼ごっこにしようよ」
(お前人の考えを……)
自分の考えを打ち消すような発言に横谷は憮然としてしまう。だがまだ予測の範囲内だと落ち着かせる。体が触れてしまうということ以外は何ら危険を伴うものがないからだ。
「鬼ごっこか……みんなはそれでいいかな?」
((逸|はや))る気持ちを抑え、フランは周りに尋ねる。
「それがいいと思いますよフラン様」
「チルノちゃんが言ったからそれでいいよ」
「別に構わないよ」
「鬼ごっこなんて久しぶりだなぁ」
周りは反対意見を言うものはいなかった。そういうわけで今日の遊戯は鬼ごっこに決定した。
「じゃあ鬼決めのじゃんけんするよー。じゃん、けん、ぽーん」
(ちっ、鬼になれなかったか。ここでジャンケンに勝ったって意味ねぇっつの)
「じゃあ鬼はあたしとチルノとルーミアに決定ね」
配役はフランと青髪のチルノと金髪のルーミアが鬼、残りが子になった。ルールも単純で、三十秒の間に魔法の森全体を範囲内に離散して鬼に触れられたらその子は鬼になるという「増やし鬼」方式である。
「じゃあ早速始めちゃおー! じゃあ数えるね」
「あ、ちょっと待ってその前に……」
嬉々として鬼ごっこを始めようとするフランを、緑髪のワンピース着ている子が制止をする。
「まだスーちゃんのこと詳しく聞いてないんだけど、一体何者なの? なんでフランといるの?」
誰しもが感じる疑問だろう。只の人間がなぜ紅魔館の主人の妹フランと一緒にいるのだろう。乗り気じゃないにしてもどういった経緯で一緒にいるのかがわからない。
「スーちゃんは何でか知らないけど紅魔館で働いてるんだよ」
「知らない間に働いていたの……?」
「その本人でさえそういう羽目になることを知らなかったんだ。フランが知らないのも仕方ない」
会話の途中にその本人である横谷が割り込んで話しだす。
「俺は紫にハメられて働かされている外来人で、一緒にいるのはたまたま門番の仕事をしているときに見つかってここに来たってわけだ」
「そ、そうなんですか。あの、名前は……?」
「横谷優。そちらさんは?」
「あ、私は大妖精です。青髪のがチルノちゃんで金髪のがルーミアちゃん。もう一人の緑髪のはリグルちゃんて言うの」
「あたいはこの幻想郷で一番サイキョーの氷の妖精なのさっ!」
突然チルノが声高らかにふんぞり返って、根拠のない自慢を優に向かって言う。横谷はそのことにはあまり触れず周りを見渡す。
「あ、ああそう……リグル以外は全員妖精の種族なのか?」
リグル以外といったのは、リグルだけが虫のような触覚をつけていたからだ。
「私は違うよ。普通の妖怪だよ」
ルーミアがそう言いながら横谷の方に近づく。
「ところで……あなたは食べていい人間?」
「は!?」
唐突の危ない質問に横谷は目を点にして驚く。何の躊躇も無しに直球な質問をするところ流石は子供の妖怪というべきなのだろうか。
「いや、駄目に決まってんだろ。どこに食べていい人間だって言う奴いるんだよ」
「そーなのかー」
「いやそーなのかーじゃなくてよ……」
横谷は呆れ気味につっこみながら、こいつもあまり関わらないほうがいいと先程の言動を含め、己の野生の勘がルーミアを警戒する。
「……ん〜」
「? どうしたのチルノちゃん。難しい顔して」
手を顎に当てて考え込んでいるチルノに大妖精が問いかけてくる。
「……スーちゃんとリグルって、兄妹なのかなって」
「は?」
「え? なんで!?」
それを聞いた二人は耳を疑った。チルノがなぜその発想に至ったかがわからない。人間と妖怪の兄妹なんてあるわけ無いし、ましてや今回が初対面であるからありえない話だ。
「チ、チルノちゃん……何でそう思ったの?」
大妖精が恐る恐る尋ねる。するとチルノは自信を持ってハキハキと答える。
「だってさ、横谷優の「スグル」とリグル・ナイトバグの「リグル」って似てるから、もしかしたら
兄妹だったりしたりするのかなぁ〜って」
「違います」
「違うよ!」
二人同時に否定つっこみを入れる。言い方が似ているから兄妹だ、なんて無茶苦茶なゴリ押し理論だろうか。
「自己紹介はこれくらいにして早くしよーよ!」
一刻も遊びたいフランは声を張り上げて周りを急かす。
「フラン様を待たせているんですから早くしましょう!」
そう言って急かす美鈴の顔は明るい表情だった。
楽しまなきゃ損ということなのだろうが、今は仕事を放り出してやっていることを忘れてはいけない。
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◆この作品は東方projectの二次創作です。嫌悪感を抱かれる方は速やかにブラウザの「戻る」などで避難してください。 | ||
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