無表情と無邪気と無我夢中6-1 |
【無表情と無邪気と無我夢中6-1】
おうかです。
小学二年生になりました。
あのジュエルシードが落ちてくる事件が起きる時期まであと一年だと。
いつもの剣のトレーニングも少しハードにして備えていたのですが。
それよりも重大な事実が発覚したのです。
「さて、本当のことを話してもらおうかな」
それは、夏休みに八神姉妹が私達高町家の2泊3日のキャンプに参加したことから始まりました。
キャンプから帰ってきて、四人で一緒に絵日記を書いていたら四人に睡魔が襲ってきまして。
そのまま八神姉妹は家に急遽泊まることになったのです。
そしてその日のお昼。
八神姉妹は家に帰る前に、お父さんに翠屋へ来るようにと言われました。
「本当のこと、ですか?」
「何のことですかね?」
「……ちょっとね。君達のこと、昔の仕事のコネを使って調べさせてもらった」
「「!?」」
一応八神姉妹の隣に私、お父さんの隣にお母さんとなのはが同伴しています。
「昔、俺は君達に両親のことを聞いたこと覚えているかい?」
「……はい。直接会っておうかちゃんやなのはちゃんのことお礼がしたいて」
「でも毎日帰ってくるわけじゃないから代弁したはずだけど?」
そうです。
八神姉妹のお父さんはパイロットでお母さんはエリートOLだから頻繁に帰宅してこないと言っていました。
だからなのか、私は一度も二人の両親に会ったことがありません。
でもお父さんは一体何を二人から聞こうとしているのですか?
二人共何回か目を合わせ、はやては膝の上で握り拳を作り、あらしは爪を噛み始めます。
この姉妹が知られたくないことをお父さんが調べて知った。
こんな状態の二人は見たことありませんし、見ていられません。
私が向き直るとお父さんは一通の封筒を姉妹に差し出します。
「中身を見るのは家に帰ってからでいい。だけどこれについて真剣に考えてほしいと思う」
「お父さん!」
お母さんとなのはが二人を送り、お店の仕事に戻ろうとするお父さんを私は引き止めます。
「何だ、おうか?」
「何だ、じゃありません!はやてとあらしが一体何をしたというのですか!!」
私は我慢出来なかったのです。
親友である双子の姉妹をあんな風に追い詰めて苦しませたお父さんは何のつもりだったのか。
お父さんは何を知ったのか。
ちゃんと説明してくれないと私は。
「……これから話すこと、誰にも言わないか?」
「……約束します」
私はその日一日、あらしと初めて出会った空き地でボーッと過ごしていました。
なんで、忘れていたのでしょう。
あらしがいるから?
久遠がいるから?
確か前世でもはやてはそんな状態だったと思いますが、曖昧すぎてよく思い出せない。
そのことについて聞いてもいなかったし。
前世で出会った頃にはもう彼等がいたので安心していたからなのかも。
あ、でも……あの時は放っておけない状態にまでなっていて。
えっと、なんで、でしたって……?
うう……頭痛いです。
去年ぐらいまでは前世のことを思い出すのは簡単だったのに、今になると頭痛が襲ってくる。
これは、何かしらの警告なのでしょうか?
まあ、今はそのことは置いといて。
お父さんは、確証が無いからこちらから事態を動かすことは出来ない。
当の本人達が動いてもらわないことには解決しない、と。
今日渡したものがキッカケになるかどうかはわかりません。
何を渡したのかは教えてもらいませんでしたが。
はやて。
あらし。
悪い事態に発展しなければいいのですが、心配です。
あらしよ。
ばれた。
知られた。
調べられた。
もし本格的に踏み込まれたら。
何とか保っていたこの生活が崩れる可能性がある。
最悪、アタシは、はやてと、離れ離れ。
それだけは嫌!
「あらしは、どう思う?」
「え……ごめん聞いてなかった。何?」
「これ」
それは封筒の中身。
一通の“養子縁組みの書類”。
「これが無くても、いつかは真剣に考えなと思っとった……」
「何でそれが今なのよ」
「士郎さんもワタシ達のこと想って動いてくれてたのはわかる」
「でも!もうアタシ達が変なことに巻き込まれてるの明白じゃん!!」
そうだ。
もう亡くなっている両親の親戚だと言って勝手に遺産管理して、資金援助するだけして一度も顔を見せないアイツ。
お爺ちゃんお婆ちゃんまで騙くらかして悠々と海外で暮らしている足長おじさん気取りなアイツ。
ただ普通じゃないだけでこうも怖い。
いつ壊れてもおかしくない生活を強いられているアタシ達姉妹。
「やだよアタシ……怖いよ」
「……時間が、ほしいな……でも」
はやてはアタシの震える肩を掴んで目を合わせる。
「あらし。ワタシの考え、聞いてくれるか……?」
おうかです。
翌日、八神姉妹が揃って翠屋に来ました。
昨日の返事をしにきたとのこと。
「とりあえず、こちらお返しします」
席に着く前にはやてが一通の封筒をお父さんに渡しました。
「そうか……」
「ただ、必要事項は全て記入してあります。それも含めてお話しにきました」
「そうか……そんなことになっていたとは―――それに、それが君達の考えか」
「……もし親戚を名乗る人が来たら、お願い出来ますか……?」
はやての声色が少し不安そうです。
お父さんの隣で話を聞いていましたが、こんな問題子供に解決出来る訳がありません。
簡単に誰かに託すなんてもってのほか。
「安心してくれていい。二人の考えはとりあえず現状維持ってことでいいんだな」
「「……はい」」
「確かに安易には踏み込めない問題だ。下準備だけは万全にしておく」
「……お父さん」
私はどうしても言いたかったことを口にします。
「二人を、守ってください。絶対です。守って、あげてください……」
「おうか……」
「おうかちゃん……」
二人が悲しむのを、苦しむのを、見たくないから。
「……何でアンタまでそんな顔してんのよ」
「な……いいじゃないですか!二人が心配なんです!!」
「うれしいけど、そんな顔してほしくないから答え出したのに、意味ないじゃん!!」
「うれしいなら素直になれば!……もしかして素直になれなくてごめんなさい、夢の中でならというやつですか?」
「はぁ!?アンタが何言ってるか訳わかんないんですけどぉ?」
「わかんないならいいです。つまりあらしは照れ屋だと言ってるのです」
「ばっ……!」
はやてや。
「ワタシの妹がすみません」
「いや、いいんだ。おうかのこんな姿を見られるのはあらしちゃんといる時だけだからね」
数年前、あらしがぶっ倒れたおうかちゃんを連れてきたのがキッカケ。
そのままおうかちゃんとなのはちゃんと友達になって、高町家の人達と仲良くなって。
あらしのこんな姿を見るのはおうかちゃんと一緒にいる時だけ。
「こんな空気になってしまいましたが、士郎さん。よろしくお願いします」
「なんだか、君は随分大人っぽいな」
「そんなことありませんよ。ワタシだって、あらしがいなかったら、とっくに壊れてたと思います」
あらしは時々何かに脅えるかのような姿をさらす。
でも逆にワタシも色々耐えられなくなった時はあらしに支えられて来た。
あらしがいなくなったら、誰が家族として新しく接してきてもワタシは拒絶するだろう。
もしワタシがいなくなったら、あらしはどうなってしまうのか。
きっと同じで、周りを拒絶してしまうやろ。
離れ離れになることは、考えられない。
「大丈夫だ。君達姉妹は必ず守る」
「……ありがとうございます」
そう言って士郎さんはワタシの頭を撫でてくれます。
お父さんの温もりって、いいなぁおうかちゃん。
「はやてちゃん……」
「はっ……!?」
いかん。
お父さん大好きおうかちゃんに今の姿見つかってもうた。
「帰るであらし!」
「了解!」
素早くあらしが私の車椅子を押して翠屋から出る。
「はやて!」
「何や?」
「アタシは、はやてと一緒ならどこ行ってもいい!」
「何言うてんねん。おうかちゃんやなのはちゃん、翠屋の人達がいなかったらあらし悲しむやん」
「ちょっ、そんなことな〜い!」
「はいはい」
ワタシ達は。
アタシ達は。
ずっと。
ずっと。
ず〜っと!
説明 | ||
6話目。 一応八神姉妹の秘密というか、原作でのはやての境遇に踏み込んだ内容としています。 原作では周りとの付き合いが薄かったのと魔法の類があってうやむやになってましたけど、この小説の展開ではうやむやに出来そうになかったので。 |
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