超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 リーンボックス編
[全1ページ]

『知った。彼は知った。己を』

 

 

『ハハハハハ!!。その程度で絶望するなんて早いぞ!早いぞ!』

 

 

『私たちの知る盟主はいない。しかし、彼の形は確かにそこに存在している』

 

 

『ならば、俺たちたちのすべきは決まっている。』

 

 

『果てなき暗黒の忌地を総べる己を』

 

『万物を焼き尽くす獄炎を』

 

『惨劇を奏でる禍風を』

 

『狂気を謳う水禍を』

 

 

『『『『求めるならば、ただ渇望しろ』』』』

 

『その先にどんなことがあろうとも』

 

『その先はお前が決めた道』

 

『その先にどんなことが待ち受けようとも』

 

『その先は儚き黎明にたどり着くだろう』

 

 

『『『『狂えし神、ヌギル=コーラス。夢幻の果て、切なる願いを持つ大罪人、世の天理を切り裂く魔刃で、お前はいったいなにをする?』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

薄らと意識が見知らぬ天井に付けられた蛍光灯から放つ人工光に俺は腕を顔の所まで動かして影を造った。

あの後、真っ黒に焦げて原型のほとんどが燃えて消えている家を見て、精神的ショックなのか倒れてからの記憶が一切ない。

最後に覚えているのは、冷たい雨と硬い地面に横になった自分だけだ。

 

「…………畜生…ッ」

 

強く、これまで以上に手を握りしめる。

痛覚が刺激され、頭が警告を鳴らすが理性が、それを凌駕して心に巨大な重みが伸し掛かる。

よくよく考えれば、俺はおかしなことをしてきた。本当に俺には軽い思い中で右往左往と無意識ながら、動いてきた。人を救って、守りたいという思いは俺の理想…ではなかった。

最初から、俺はそう考え、そう思うように操られていた、定められていた。

覚悟も、善意も、信念も全て仮初の物だった。

もう、何もする気が出ない。知らない誰かの部屋でベットに仰向けになっている態勢の中で、ただ底なしの脱力感が襲う。

それに抗う気力も俺にはなかった。それにただ身を捧げる。最初からこうしておけばよかった。堕落していき、誰からも見放され、孤独に死んでいく……なんて、輝かしいんだろう。

 

「生きていても……俺には…」

 

異端者という烙印を押された俺は、もうこの国に居てはいけない。

どうしようか、体中を撃たれて死んだかと思えば、摩訶不思議な自分の体の能力で、直ぐに回復するんだ。

意識を失い直前にイヴォワール教院長は言っていた俺はバケモノだと、名も知らない街の人は言ったバケモノだと。

そして、最初から俺は、映画の主人公をまるで自分のように思い重ねていただけだ。

常に思い描いていた理想も、勇気も、苦悩でさえも、他人のもので、俺は最初からその場から動いていなかったのだーーー………。

 

「起きたのね」

 

耳に届いたのは、無機質な声。微かに光から逃れるために顔に置いていた腕を動かすとそこには、赤いツインテールの女性、ベールの護衛役で特殊警備隊に配属されているケイブ先輩だった。

ケイブ先輩は、ベットに腰を下ろして、仰向けになっている俺の額をやさしく触った。とても暖かった。

 

「……少し、熱があるかもしれないわね」

 

そう言って、立ち上がって居間のほうへ消えていく。

要約、光に目が慣れてきて俺は腕を顔から外して、周囲を確認する。

窓際には小さい花などが飾られ、俺が寝ているベットには大きいテディベアがあった。

ケイブ先輩は、地位的にもかなり上で高収入なのか、部屋は大きい。

それにしても、なかなか感情を見せない年相応に大人なケイブ先輩が、可愛らしい物を集めているとは新しい発見だった。

なんというか、女性らしい部屋に入ったのはこれが初めてかもしれない。……ベールの部屋?あれはノーカウント、あれはオタクの部屋だ。

そんな、無気力状態で呆然と思考を動かしていると、水の入ったコップと薬を持ったケイブ先輩が戻ってきた。

 

「………飲みたく、ないです」

 

ケイブ先輩から背けるように俺は、体を横にした。

アホらしい、俺は人間じゃないバケモノなんだ。思い返せば徹夜続きで体が怠いとは思ったことは数回会っても体調不良レベルまで来たことがない。多分、霊崎 紅夜がそういうゆうになるように調整したんだろうな。

 

「……………」

 

背中から刺すような視線。しばらくの沈黙の後、コップを机に置く音がしてベットが一部凹んだ。

俺からは見えないだろうが、ケイブ先輩がベットに座ったんだろう。

 

「………紅夜」

 

「…………」

 

逃げるように、俺は耳を隠した。

もうなにも見たくない、なにも聞きたくない。

体を丸めて、そう訴える。何もしても、俺には何も残らない。強く目を瞑るもう……嫌だ。

 

「つらいこと、あったのね」

 

現実逃避に動く思考を咎めることもせず、非難することもせず、優しく包むように頭に触れた細い手が壊れかけた物を磨くように撫で始めた。

 

「なんで、俺を……助けたんですか」

 

「…………」

 

「俺は……異端者ですよ。ベールを、この国を…裏切った最低な奴なんですよ……なんで、こんな匿うようなことをしているんですか…。見つかったら、ただじゃすみません……」

 

外傷は完全に無くなったはずなのに、刺すような痛みがする胸を抑えながら、震えた声で絞り出すように俺は口を開く。

 

「だから、はやく、追い出してください。……俺のことは、もう忘れてください」

 

「捨てられた小犬みたいな顔しても説得力がないわ」

 

「…………」

 

疑問が頭を支配する。この人は自分が好きではないのか?自分が大切じゃないのか?俺は不幸を呼ぶバケモノだ。

どれだけ人に褒められるようなことをしても、どれだけ人を救って守っても、どれだけ人の為に努力をしても今の俺は、こんなものだ。結果は、なにも残らなくて、楽しかった自分の居場所すら焼かれて消えた。

 

「貴方は、ここでずっと丸まっているつもり?」

 

「俺は、俺には……何も存在しなかった。それでも誰かの為に働いて、結果がこれなんですよ……!俺が一体何をしたって言うですか!!誰かに咎められるようなことを!誰かを傷つけるようなことを!誰かを陥れるようなことを!!!!−−−………俺は、ただ、みんながいいと思うことに全力で答えたのに………」

 

「だから、ここで?」

 

「……疲れたんですよ。もう、嫌なんですよ!最初から……最初から!何もしなければ良かった!こんな辛いことなら……誰とも、関係を持たず、一人でいればよかった!!」

 

ーーもし、あの時、ベールに助けられなかったら。

ーーもし、あの時、ネプテューヌ達と出会わなかったら

どれだけ良かったんだろう。どれだけ軽かったんだろう。

そんな現実があればよかった。そんな未来があればよかった。

悔しくて、悲しくて、全部グシャグシャになる。

 

「紅夜」

 

俺のものではない俺の名前を呼ばれて、肩を掴まれ強制的に横から仰向けの姿勢にされる。

そして、ケイブ先輩が俺に乗った瞬間、意識がスパークした。……頬を叩かれたことを意識するまで、暫く俺は動けなかった。

 

「しっかりしなさい」

 

「ーーーーッ!!」

 

目が熱くなる。頬に雫が流れる。なんで、こんなことをするんだ。

貴方に、メリットはないあるのはデメリットだけだ。なんで、俺を立ち上がらせようとする。

 

「正直な所、あなたの抱えている物の辛さは私には分からない。私には、あなたのような経験はないから。けど、自分で殻を造って今のように誰からも耳を塞ぐような人に、自分勝手な現実逃避な人に……なってほしくない」

 

「俺は……俺は……!!」

 

ーーー何かが欲しかった。

記憶喪失になった時、俺には何もなかった。

だから、求めた。何かを

一杯手に入れた。俺の意思で動いてベールやケイブ先輩や、ネプテューヌ達と出会えたーーーけど、それは全て嘘だったんだ!最初から俺は、何も成し遂げなかった。何も手に入れてなかった!

 

「明日がある」

 

「…えっ」

 

「明日がある。紅夜だけに訪れる朝がある。明日が苦しい事に楽しい事に感じさせるのは、本人の頑張り次第。紅夜、例え今日が苦しくても悲しくも、明日そんな思いをしながら迎えるの?迎えたいの?」

 

そう言って、また俺の頭を優しくケイブ先輩が撫でた。

表情を変えるのが苦手と本人が言っていたが、その時はケイブ先輩の表情が安らかに笑っていた。

感情が激しく動く、また涙が溢れだす。

どうしようもない俺に、真っ直ぐ真摯に向き合ってくれたことに対する嬉し涙か、ケイブ先輩の言葉に感激を受けたか、俺には分からない。

けど、今まで閊えていた心がほんの少しーーー軽くなった気がした。

 

 

「今日は休みなさい。大丈夫、ここは安全よ」

 

 

ありがとう、ケイブ先輩。

 

 

 

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その12
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