真・恋姫†無双〜絆創公〜 中騒動第一幕(後編・下) |
真・恋姫†無双〜絆創公〜 中騒動第一幕(後編・下)
−よし。まずは状況を整理しよう……−
北郷一刀は、短く息を吐き落ち着いて考えてみた。
状況を簡単にまとめると。
母親の後ろ盾もあり、自分は今まで、愛する女性の一人と結婚式をしていた。
だが、それが一番の盛り上がりとも言える所に差し掛かると、自分が愛する他の女性たちが乗り込んできた。
しかも、自分たちが何をやっているのかを理解して。その怒りを盛大にぶちまけて。
そして何よりも、一番怒らせちゃいけない方が、すんごい怒っていらっしゃる。
その怒りは凄まじく、強気に親友二人に言い返していた少女が震えだし、牧師は床に正座になり、ほぼ力尽きているハズの見張りの二人が、自然と土下座の態勢になる程だ。
それではここでクエスチョン。
この皆の怒りを何とか鎮める方法とは、一体何でしょうか……?
−うん。ないな−
頭に思い浮かぶのは、自分の命が虚しくボッシュートされるイメージだけ。
せめて、なるだけ安らかに逝けたら良いなぁ。と、おめでたい席で縁起でもない思考を巡らす中、一人の女性がゆっくり歩み出る。
今回の発端となった一刀の母親、北郷泉美であった。
「……説明は私がしてもいいかしら?」
胸に軽く手を当てて話し出した声は、何故か凄く穏やかだった。
その声に、式に参加していた全員が不安そうな顔になる。
それは新郎新婦の二人も含まれていた。
−母さん……説明って……−
−だ、大丈夫なの……?−
確かに、この騒動を引き起こしたのは泉美である。故に説明するのに相応しい人物といえるのも事実ではあるのだが……。
果たしてうまく宥めることが出来るのか……?
この状況。下手したら、泉美にまで被害が及ぶ可能性だってあるのだ。
無力な自分の母親を傷付けるほど、我を忘れて怒り狂ってはいないだろうとは思う。しかし、一方的に責め立てられてしまう事は十分に考えられる。
そんな心の内を悟ったのか。泉美は二人に一瞬視線を送る。
−とりあえず、何とかやってみるわ……−
声と同じく穏やかな笑顔を向けられ、二人はそう言われたように感じる。
数歩歩み出した泉美に対して、一番怒りを感じているであろう少女。華琳は微かに表情を緩める。
「そういえば、この催しはお義母様の考案だそうで……。お聞きしましょうか。何故このようなことをなさったのか……」
「そうですっ!!」
華琳の言葉の後に続いて叫んだのは凪。その瞳は潤んで、すぐにでも涙がこぼれ落ちそうだ。
「わ、私だって……あのような服を着て…………隊長の、隣で……///////」
「せや……。ウチかて隊長の事好きやもん……。隊長のお母はんも、ウチらに黙ってるやなんて、いけずやんか…………」
顔を赤らめて俯いてしまった凪に加え、真桜も珍しくしおらしい雰囲気になり、今にも泣き出しそうな顔になっている。
「そうだぞっ、北郷の母よ!! 華琳さまを差し置いて、沙和と婚儀を進めようなどとは! その白く気高い衣装は、華琳さまに似合いそうではないか!!」
ただ一人、見当違いの意見を述べているのはお約束であった。
「以前に泉美様は、私に仰ってくださったじゃありませんか! 私は、隊長の良き妻になれると……。あの言葉は偽りだったのですか!? やはり……傷だらけの女は見苦しいのですかっ!!!?」
怒りと悲しみとが混じり合って、どうしたらよいか解らなくなっているのか。ついには泣きじゃくりながら、悲痛な叫びを上げる凪。
「凪ちゃん。そんな訳ないじゃないの……」
態度は変わらず穏やかに、優しく言い聞かせるように泉美は語りかける。
「だ、だったら……!」
「私はね? 沙和ちゃんの協力が必要だと思ったから、沙和ちゃんに着せたのよ」
「沙和の……協力…………?」
ほんの少し落ち着いた凪が、話を聞く態勢になる。
「皆はカズ君と心から愛し合って……。そして蓮華ちゃんみたいに、カズ君の子供を産んだ娘もいるけど、誰もちゃんとした結婚式を挙げてないって聞いたの……。どう?」
「た、確かに、私も隊長とは正式には……」
「でしょ? 多分皆それぞれ政務とか訓練とかで忙しかったから、そうする余裕が無かったと思ったの。だからね? こうやって、私たちが来たのも何かの縁だし、私たちが結婚式を手伝いたいと思ったのよ。……だけどね?」
ふう、と溜め息をついた泉美に、首を傾げたのは真桜であった。
「……どないしたんですの?」
「私たちの国と、この世界とでは婚儀のやり方が違うから……。どうしても、皆戸惑っちゃうと思ったのね。何より沙和ちゃんが今着ている服って、着せるのに凄く時間が掛かるし、人手も必要になってくるのよ。ねえ、沙和ちゃん?」
「は、はいなの。沙和、これを着せて貰っている間に、結構疲れちゃったの…………」
不意に話を振られて僅かに狼狽えた沙和の言う通り。ウェディングドレスは一着をちゃんと着るとなると、少なくとも一時間は掛かる。そして一人の着付けに対して、三、四人は必要となるのだ。
「だからね。今後皆の結婚式をやるとしたら、その手順を覚えている子がいてくれたらこっちも凄く助かるのよ」
「……それで沙和を選んだ、と?」
軽く眉根を寄せた華琳が、納得のいかないような少し低い声で訊ねる。
「沙和ちゃんが服に詳しいって聞いてね。そういう子だったら、こういう着付けも覚えるのが早そうだし。もしかしたら、沙和ちゃん自身が新しい意匠を思いついてくれるかもしれないでしょ? だから、身をもって体験して貰いたかったのよ」
少し嬉しそうに話す泉美の目は、嘘を吐いているようには見えなかった。沙和を選んだ理由の詳細とはこの事だったのかと、一刀は合点がいった。
「それに今回は私が勝手に着せちゃったけど、この服は着る人によって、似合う意匠が違うのよ?」
「……そう、なのですか?」
「ええ。早い人なら五着くらいで。多い人は二十着くらい着て決めるくらいだから……」
「そ、そないあるんかいな。この服!?」
「そうよ〜。やっぱり女の子の一生の思い出ですもの。本当ならそれくらい時間を掛けて、選ぶものなのよ……。だから、沙和ちゃんには申し訳ないと思って……」
笑顔で泉美が話している、この言葉も本当だ。
さっき約束した、沙和の“本当の”結婚式の事は、まだ話していないだけで、やらないとは言っていない。
「あっ、そうそう! 凪ちゃんと真桜ちゃんも、後で私が持ってきた本を見てくれないかしら? この服がどんな種類があるかとか、何が似合うかとか、実際に見て貰った方が良いと思うの!」
「じ、自分がですか……!?」
「いや〜……。ウチにはあんなヒラヒラしたの、似合うんかいな……?」
少し迷っているのか、二人は視線が色々と定まらない。
「だからこそ、色々自分の目で見て確かめるんじゃないの。きっと二人に似合う服があると思うの」
「そ、そうでしょうか……///////」
「ま、まあ、見てみるだけなら、減るモンちゃうしなぁ……///////」
さっきまでとは違う感情で顔を赤くしている凪と真桜。明らかに機嫌が良くなった二人を見た一刀と沙和は心の中で歓声を上げた。
−す、凄ぇ……。大人しくなった……−
−流石は隊長のお母さんなのー……!−
少し和やかになった雰囲気の中、次に口を開いたのは春蘭だった。
「北郷の母よ。華琳さまに似合うのもあるのだろうか?」
「絶対あるわよ! 勿論春蘭ちゃんに似合うのもあるハズよ?」
「な!? わわわわわ私は別にきききき着たいとは言っていない!!」
「そう? 羨ましそうに沙和ちゃんを見ていたような気がしたから、そうかと思って……」
やはり同じく春蘭を真っ赤にした泉美。向かうところ敵無しなのか、この女性は……?
と、場の空気が柔らかくなる中、一人だけ不機嫌そうな顔をしている人間がいた。
会話にあまり参加していない、華琳である。
「……華琳ちゃん、どうかした?」
それに気付いた泉美は、話を振る。
「お話しは分かりました。ですが、私から幾つか質問しても宜しいですか……?」
丁寧な言葉ではあるが、聞きようによっては“言いたいことはそれだけか?”のような印象を受けた。
不穏な空気を漂わせた華琳に、一刀と沙和の嫌な予感が再び甦る。
「あ、あら。何かしら?」
予想外の反応に、珍しく泉美が焦りを見せた。
「先程お義母様は、沙和に手順を覚えさせたいと仰いましたが……」
「ええ。そうよ?」
「それなら、沙和がその服を着なくとも……。他の誰かに着せ、それを手伝わせれば良い話だと思いますが……? 」
−あっ…………−
全員気が付いた。つまり、最初に沙和がウェディングドレスを着る必要が無い、と。
裏を返せば、“私が一刀と挙式をしても問題なかった”とでも言いたいのだろう。
「…………そうね」
泉美のいつもの穏やかな笑顔が、ほんの微かに歪む。
「それに……。お優しいお義母様の事ですから、沙和には後々正式な天の国の婚儀をして差し上げるのでしょうね。今回の件が台無しになった罪滅ぼしとして」
−ッ!!!?−
流石は曹孟徳。どこまでも先読みしていた。再び訪れた気まずさに、一刀と沙和の視線は泉美から離れない。
−か、母さん…………−
−どど、どうなっちゃうの……?−
「………………その通りよ、華琳ちゃん」
−自白しちゃったーーーーー!!!?−
一刀と沙和の心の声が見事にシンクロする。
泉美はチラリと、二人に目を向ける。
−ごめんなさい、二人とも…………。説得できなかったわ…………−
本当に申し訳なさそうにしているその表情に、二人は責め立てる気持ちなど微塵もない。
それよりも今は、目の前で再び湧き出しているどす黒いオーラを何とかしたかった。
それはついさっき、満更でもなさそうな顔をしていた少女二人から発せられている。
何にも言わないが、その二人の般若はこちらに伝えてくる。
−花嫁衣装を、誰よりも早く着たのに……また隊長と結婚式をする、だと……!?−
−いっぺんキツーく懲らしめないと、分からんようやな…………!?−
すんごく気が充実しているし、すんごくドリルが回ってる。
一刀は腹をくくりかけていた。
「どうするか……。沙和、こうなったら早く謝った方が………………沙和?」
小声で作戦会議を開こうとしていた一刀は、自分の服の胸元を強く、そして震えながら掴まれている少女の両手に気付く。
そして、今にも泣き出しそうな顔で少女の親友の方を見る、その辛そうな表情にも。
その時、一刀はかつて沙和の言っていた言葉を思い出した。
自らの事を“ヘタレ”と称していた沙和を。
そして、ありったけの勇気を振り絞って自分に告白をして、結ばれた……
あの夜の事を。
恐らく今一番逃げ出したいのは、他でもない彼女なのかもしれない。
でも、それをしようとはしていない。今も震えながら、自分の傍から離れない。
自分が所属する国のトップである人間の怒りを目の当たりにしていながら、だ。
彼女は今も、自分の中にある勇気を振り絞って、恐怖に耐えながらも立ち向かっているのだ。
それは、愛する一刀との結婚式という、思い出を守るために。
そして自分を選んでくれた、一刀の母親の想いを守るために。
それを認識した一刀は、激しい羞恥に襲われると同時に、湧き起こる侠気を自分の中に感じた。
−応えなきゃ、ダメだよな…………−
一刀は決意した。
場はいまだに膠着状態であり、動けない沙和の耳元にゆっくり近付き、そっと囁きかける。
「…………沙和、逃げようか」
「へっ? た、隊長……って、ふあああ!?」
いきなり聞こえてきた一刀の悪戯っぽい言葉に驚いた沙和は、休む間もなく更に驚く。
自分の身体がフワリと浮くような感覚に襲われたかと思うと、次の瞬間には一刀に抱きかかえられていた。
一刀の片方の腕が、沙和の背中上部を支え、もう片方は太腿の裏を支えて、沙和の身体を横にして一刀の身体の正面で抱いている。正式名称、横抱き。
俗に言う、“お姫様だっこ”である。
「あ゛っ!!!?」
と、呻きに近い叫びは、凪と真桜と、そして華琳。
「むっ?」
と、ほとんど事態を理解していないであろう疑問符は、春蘭。
「あら!!」
と、どこか楽しそうな顔の感嘆符は、泉美。
「おっ!?」
そして、残り数名のほぼ同時の驚き顔。
「みんなゴメン!! 俺を恨んでいるのは十分解ってる。でも……」
沙和を抱きかかえたまま一刀は、一瞬だけ静かになった室内で大声を上げる。
その顔は、吹っ切れたというよりも、何か使命感に満ち溢れた力強い表情である。
「でも俺はっ!! 沙和の想いを守りたいんだっ!!!!」
「ッ!! たいちょお……っ!!」
一刀を見上げる態勢になっている沙和は、それも相まって今まで以上にカッコ良く見えていた。
大きな瞳を嬉しそうに細めた沙和の笑顔が、もはや一刀の虜であると雄弁に語っている。
「沙和……。とりあえずしっかり俺に掴まっていろ! 逃げ切れるとは思えないけど、こうなりゃどこまでも足掻いてやる!!」
「はいなのっ!!」
沙和は強気に言い返した時のように、一刀の首の後ろでしっかりと手を組んだ。お姫様だっこが完成した瞬間だった。
「お二人とも! 出口は私が出てきた扉の、左の道をお使いください!!」
いきなり大声を上げたのは、立ち上がっていた牧師役のヤナギ。その指が、主祭壇の後ろの方の扉を指していた。
「ヤナギさん!?」
「私は今の貴方の御言葉に感動いたしました! こうなれば私も最後までお手伝いいたします! さあ、お行きなさいっ! お二人の愛を貫くのですっ!!」
「もうキャラ変わりすぎだけど、ありがとう!」
「あっ! 隊長、待って!!」
ヤナギに礼を告げて駆け出そうとした一刀は、抱きかかえた沙和にいきなり呼びかけられた。
力強く踏み出した一歩が、踏みとどまるためにダンッと床を叩いた。
「なんだ、沙和? どうした……ンッ!?」
聞き返そうとした一刀の唇が、何かで塞がれる。
直後、間近に現れた沙和の顔で、それが何かを一刀は理解した。
ほんの一瞬でありながら、時間が止まったような感覚。
軽く麻痺した一刀。その顔全体に熱が行き渡った時、沙和の顔が離れた。
「さ、ささ、沙和?!」
「今度は本当に、ちゃんとした結婚式……やろうねっ♪」
本当の誓いのための、誓いの口付け。
幸せそうに笑うその顔は、頬を唇と同じ淡い桃色に染めている。
たが、二人だけの世界は長くは続かない。
妨害するオーラが、寒気となり一刀に襲いかかる。
身震いした一刀が発生地点らしき場所を見る。
そこには、どう形容したら良いか解らないほどに怒り狂っている少女らしき影が三人。
「って、まったりしてる場合じゃないな!! とにかく全力で逃げるから、振り落とされないように、しっかり掴まっていろよ!!」
「さーいえっさー、なの!!」
必死な形相になる一刀は、どこか楽しそうな様子の沙和を抱きかかえ、猛スピードで扉から出て行く。
「たーーーーーーいーーーーーーちょーーーーーー!!!!」
「ずぇーーーったいに逃がさへんでーーーっ!!!!」
「かーーーずーーーとーーーっ!! 覚悟なさーーーーーーいっ!!!!」
「な、なんだか解らんが北郷を痛めつけられるのか!? ならば待てーーーっ!!」
二人の後を追い、三人の鬼神(あとも一人)も同じく扉へと飛び込んだ。
「あらあら! 何だか映画みたいになってきたわね〜!!」
「面白がっている場合じゃないぞ、泉美……」
「やれやれ……。やはり静かには終わらんかったか……」
残された北郷一家は、騒々しさが通り過ぎていった扉を眺めていた。
室内の散らかりようは、まるで廃れて何年も経ったような荒らされ方であった。
「しかし、一刀も無茶な策を考え出したのう……」
「えっ? 何ですか、お義父さん。策とは」
「ああやって皆を刺激する事で標的を自分に変えて、于文則殿を……そして泉美を守ったのだ」
「あらっ、私も?」
「于文則殿を守るのは当然だろう。だが一刀はそうする事で、彼女に託した泉美の想いをも守ったのだ……」
「……成長しているのね、あの子も」
誰もいなくなった扉の向こうを眺めながら、和やかな空気が戻ってきた……のだが、
三人の下に、申し訳なさそうに近付いてきたのは、クルミとアオイ。
「あの……ムードを壊してゴメンなんだけどー……」
「後始末を、手伝っては頂けませんか……?」
二人がチラチラと視線を移すのは、土下座の態勢のまま気を失っている見張りの二人。
そして、鬼神たちが扉に駆け込む勢いで撥ね飛ばされてしまっていた、白目を剥いてしまっている牧師。
「…………とりあえず、三人の介抱が先かしらね」
発端者の泉美が、溜め息をついた。
「……これはまた、派手にやらかしているな」
門をくぐった秋蘭は、引きつった笑みを浮かべる。
「どどどど、どうしよう、秋蘭お姉ちゃん! 私のせいで……!」
その傍らにいた北郷佳乃は、秋蘭の服の裾を掴んで涙声になっている。
二人の表情の原因は、視線の先の光景。
場所は、城主を北郷一刀とする城。
そして、目の前にあるのはまさしくその城である。
…………七割ほどは。
見れば所々崩れていたり、壁や屋根に穴が空いていたり、柱が傾いていたりと、残り三割弱は無惨な様を晒している。
−ドゴオオオオオン!!−
派手な音を立てて、屋敷の壁が吹き飛んでいった。これで四割に届いただろうか。
と、力なく眺めていた二人の後ろからやってきた男が一人。
「……流石の俺でも、建物の治療は出来んぞ?」
熱血医師、華陀は盛大な溜め息を吐く。
秋蘭と佳乃の二人が遅れて現れた理由。
佳乃が事情を話した後、すぐに一刀の所へ戻っていった女性陣。
それを見て兄の身を案じた佳乃が、秋蘭と一緒に華陀を呼びに行ったからであった。
「どどどど、どうすればいいんですか……!?」
佳乃はオロオロしながら、傍にいる二人と半壊している屋敷を交互に見ている
「……まあ、お前の兄が疲れるか、気を失うのを待つしかあるまい」
「それ以外ないな」
「エエエエエッ!!!?」
まさかの傍観を選んだ秋蘭と華陀に、佳乃は珍しく大声を上げる。
「そ、そんな……じゃあカズ兄ちゃんと沙和お姉ちゃんは……!?」
「心配するな、佳乃。沙和は、ああ見えても武人だ。あれくらいでは死にはしない」
「で、でも、カズ兄ちゃんは……?」
「それも心配はいらん。あいつにとってこのくらいは良くある事だ。そう簡単に死にはしない」
「ってカズ兄ちゃんだけあんまり安心出来ません!!」
別に冗談を言ったつもりはない秋蘭は、何故佳乃に怒られたのか解らなかった。
と、軽くコントを繰り広げていた二人の視界に、今まで逃げ回っていたであろう、少し解れた衣装を着た新郎新婦の二人が入り込んできた。
「あっ! カズ兄ち…………ッ!?」
二人に呼びかけようとしていた佳乃の口は、秋蘭の手に塞がれていた。
「今は二人に声を掛けない方が良い。お前まで巻き添えを食らうぞ……?」
秋蘭に背後から抱かれるような体勢で、口を塞がれている佳乃。
小さく呟かれたその声は真実味を帯び、佳乃は言われた通りにするしかなかった。
そうしている間に、二人を追いかけ回している集団も現れた。
−一刀っ! 止まりなさい!!−
−華琳さまの命令だッ!! さっさと止まらんか!!−
−止まったら痛い目に遭うから、止まれる訳無いだろーが!!−
−凪っ! もう一発撃ち込んだれ!!−
−ハアアアアアッ!!−
−隊長っ! 左なのっ!!−
−ほいきたっ!!−
−チィッ!! また避けよったで!!−
どうやら後方から来る攻撃を沙和が見極め、その軌道などを聞いた一刀が避けているようだった。
「……どうやら、まだ長引くようだな」
「じゃあ俺は、ひとまず帰っていいかな? まだ診ていない患者が残っているんだが……」
「ああ。頃合いになったら、そちらに遣いを寄越す」
秋蘭の許可を得た華陀は、軽く手を挙げ屋敷に背を向けて行った。
そんな落ち着いた様子の二人と、騒がしい兄と姉たちの様子。
両極端な光景を見比べながら、まだ口を塞がれていた佳乃は、只々唖然としていた。
−話には聞いていたけど、本当にこれが日常茶飯事なの…………!?−
比較的この世界でゆっくりしていた佳乃だが、改めて自分が、現実世界とは次元の違う場所にいることを再認識した。
そして、自分の兄が色んな意味で成長している事も。
「ところで、佳乃」
考え込んでいた佳乃の耳に、秋蘭の声が届く。自分の頭一つ分背の高い秋蘭の顔を、見上げる形で覗き込む。
「沙和が今着ているあの服が、天の国の花嫁衣装か?」
口を塞がれていて喋れないため、佳乃は問い掛けに無言で頷く。
「…………参考までに訊くだけだが、あれは私のような女でも…………似合うのだろうか?」
その問い掛けの後、少しの間が空いて佳乃はしっかりと頷いた。
秋蘭はそうかと呟いた後、そのまま黙り込んだ。
少し日が低くなった時間帯ではあるものの、その光が微かに邪魔をして秋蘭の顔をちゃんと見れなかった。
でも、多分嬉しそうな顔をしているのかな……。
そう考えた佳乃は、この世界は自分のいた現実世界とあまり変わらないのかもしれない、と少し思い始めていた。
その考えは、聞こえてきた兄の叫び声にかき消されてしまった。
−続く−
説明 | ||
本来、もっとカオスな展開を予定していたのですが、少し和やかにしてみました。 カオスなオチ。出来るならそちらもいつかお見せしたいと思います。 |
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>naku様 “最低”の概念が希薄なのかもしれません(笑)(喜多見功多) >観珪様 華琳にまわりこまれてしまった!!(喜多見功多) >mokiti1976-2010様 恋姫に甘い一刀。その母親もまた然り(笑)(喜多見功多) ボッシュート! ボッシュート! しかし覇王さまからは逃げられないww(神余 雛) 怒れる恋姫達を説得するなど至難中の至難技に違いない。泉美さんの考えは少々甘かったような気もしました。(mokiti1976-2010) |
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