偽りの世界に何を願う 2章 動き始める敵
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学園祭も無事に終わってから、約1週間が経った。

あの1件以来、浅井とは仲良くなり親しい仲になった。

クラスの目も変わって、俺にとってはいいことなのか分からないが、でも、これは悪くないと思う。

やっぱり、俺は変わったのだろうか?

 

殉朔「まあ、いいかな。これはこれで」

 

今日は日曜日、学校も休みで何もすることがない。

いつも通り、暇を持て余すことになるかな。

 

殉朔「でも、たまには外に出かけてみるのもいいかな」

 

そうとなれば、行ってみるか。

どうせ、引きこもっているよりはましだし。

俺は、とりあえず近くの商店街へ向かった。

 

殉朔「うむ、どうしようかな。やはり、ここは本屋にでも・・・・・・あれ?」

 

本屋に知っている人物が入るのを見かけた。

 

殉朔「あれは・・・・・・」

 

俺は急ぎ足で、本屋に入った。

さて、どこに行ったのかな。

しかし、うろうろしては怪しまれてしまう。

とりあえず、参考書を見ることにするか。

 

殉朔「えっと、物理は・・・・・・っと」

 

俺は、適当に本を選び出し、眺めていた。

そういえば、そろそろテストが始まる時期でもあるんだよな。

また、秋村と競争することになるのか・・・・・・。

面倒なんだよな、あいつは。

今まで何度か勝負を挑まれているが、ほとんど俺の勝ちでいる。

と言っても僅差で勝っているわけで、気を抜くと負ける。

だから、今回も負けるわけにはいかない。

 

殉朔「ふむふむ」

 

俺が本に夢中になっている間、背後から近づいてくる人物に気付かないでいた。

そして、その人物はそっと俺の肩を叩いた。

 

殉朔「うわ!」

 

浅井「し、静かに」

 

殉朔「って、晴菜さん」

 

浅井「殉朔君もテスト対策?」

 

殉朔「えっと、そうかな」

 

浅井「じゃあ、同じだね」

 

そうか、やっぱりさっきの人は晴菜だったんだな。

そう、仲良くなったわけで、名前を呼ぶ時も変わっているのである。

 

浅井「どう? やっぱり余裕なのかな」

 

殉朔「いや、そうでもないかな。今回は、ちょっと」

 

浅井「ああ、演劇で大変だったからね」

 

殉朔「うん」

 

でも、頑張れば挽回は出来る程度だけどね。

それは、言わないでおく。

 

浅井「もし良かったら、一緒に勉強でも」

 

殉朔「えっ?」

 

浅井「駄目かな?」

 

こんなことは初めてだ。

昔の俺ならば断っていた。

しかし、今は違う。

 

殉朔「うん、いいよ」

 

浅井「ありがとう」

 

殉朔「じゃあ、どうする?」

 

浅井「えっと、私の家なんてどう? この近くだし」

 

殉朔「へっ?」

 

晴菜の家に?

でもなんで・・・・・・、でも、一緒に勉強すると約束したわけだし。

 

殉朔「じゃあ、おじゃまさせてもらうかな」

 

浅井「うん、じゃあ行こう」

 

晴菜は俺の腕を掴むと引っ張っていく。

 

殉朔「ひ、引っ張らないでよ」

 

嬉しそうに俺を引っ張る。

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殉朔「あっ、後ろ!」

 

浅井「えっ?」

 

晴菜は後ろに不注意だったため、後ろにいた人物に気付かなかった。

 

──どん

 

浅井「あたっ・・・・・・」

 

殉朔「だ、大丈夫か?」

 

浅井「あ、うん、何とか」

 

・・・「・・・・・・」

 

晴菜にぶつかった人物は、ぶつかった晴菜でなく、俺を見据えていた。

 

殉朔「なっ!」

 

なんだ、この感覚。

 

浅井「あの、すいません。こちらの不注意で」

 

晴菜が謝っているが、それでも視線は俺に向けている。

こいつ、普通の人間ではない。

俺の本能が、そう告げている。

 

・・・「・・・・・・」

 

殉朔「・・・・・・」

 

汗が滲み出てくる。性別は分からないが、この者はただ者じゃない。

どうする!?

 

・・・「・・・・・・ふっ」

 

殉朔「なっ?」

 

笑った?

この俺を侮辱してるのか?

それとも・・・・・・。

 

浅井「あ、あの?」

 

・・・「・・・・・・」

 

その人物は何も言わずに、その場を立ち去っていった。

 

浅井「何なの、あの人。謝っているのに無視なんて」

 

殉朔「ああ、そう・・・・・・だな」

 

浅井「どうしたの?」

 

殉朔「いや、なんでもない。じゃあ、行こうか」

 

浅井「あ、うん」

 

本屋から5分ほど歩いた位置に晴菜の家はあった。

俺と同じく、1人暮らしのようだった。

 

浅井「散らかっているけど、どうぞ」

 

殉朔「おじゃまします」

 

あれ?

良く考えたら、女の人の部屋に入るのなんて初めてじゃないか。

うわ〜、緊張する。

中に入ると、自分の部屋とは違い、ほのかに甘いにおいがした。

たぶん、香水とかのにおいだろう。

 

浅井「じゃあ、ここに座って。飲み物を用意するから」

 

殉朔「あ、ありがとう」

 

しかし落ち着かないな。

どうしても、ちらちら周りを見てしまう。

 

浅井「どうしたの?」

 

殉朔「あ、いや。別に・・・・・・」

 

浅井「そう? はい、紅茶」

 

殉朔「いただきます」

 

そういえば、同じ組織の女の先輩は、紅茶に対してとてもうるさかったな。

そのお陰で、紅茶のルールはある程度覚えている。

しかし、それは淹れる時のやつで、飲む事の方は知らない。

でも、別に公の場所でもないからいいんだけど。

取り合えず、飲むとしよう。

 

──ゴク

 

殉朔「ん? これは、なかなかおいしい」

 

浅井「そう言ってもらえて、うれしいよ」

 

殉朔「(うわ〜、笑顔めちゃくちゃ素敵だ)」

 

俺は、もしかしたら・・・・・・。だが、それはまだ胸にしまっておきたい。

本当に、この気持ちが正しいのか。

長続きするのか。確かめたいから。

 

浅井「それじゃあ、勉強を始めよう」

 

殉朔「うん」

 

静寂に字を書く音だけしか聞こえない。

俺は、一旦集中してしまうと、ほとんど周りの音が聞こえなくなるぐらいになる。

しかし、今は目の前に晴菜がいるせいか、ほとんど集中出来ない。

目線を上げ、晴菜をみる。

 

浅井「えっと、ここは・・・・・・」

 

勉強を頑張っている姿が目に映る。

今までこんな日を送ったことはなかった。

これが本当の日常なんだろうか。

俺が組織で送っていたのは非日常なのか。

 

浅井「で、計算して」

 

今も俺を狙う組織が暗躍してることだろう。

いずれ、この日常は崩されるのかもしれない。

しかし、そんなことはさせない。

偽りの平和だろうが、俺は守らないといけない。

せめて、学校の件は解決しないとな。

 

浅井「出来た!」

 

殉朔「俺も出来たかな」

 

浅井「じゃあ、答え合わせを」

 

殉朔「うん」

 

そうだ、俺は昔の俺ではない。

今は、守るべき人がいる。

だから、頑張ろう。

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・

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・・・「へぇ、それで?」

 

・・・「お前に監視をしてもらいたい、あいつが勝手な行動をとっている。もし、ターゲットと接触してるようなら・・・・・・」

 

・・・「排除──ですか」

 

・・・「構わん、しかし。それはあくまで」

 

・・・「最終手段というわけですね」

 

・・・「ああ、優秀なお前なら信頼できる。あいつを止められることを信じてる」

 

・・・「ありがとうございます」

 

・・・「これで通信は終わる」

 

──ピッ

 

・・・「ふ〜、信頼か・・・・・・。そんなのは脆い、いずれ崩れるもの」

 

・・・「そうだな。だが、いいのか? お前の真の目的を果たせることは難しくなるぞ。だから、この・・・・・・」

 

・・・「いや、あいつは死なない。だが、それはあいつが自分の本当の力を取り戻した時だ」

 

・・・「そうか」

 

・・・「俺は戻る。お前は、後の3人を捜してくれ」

 

・・・「了解」

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

──次の日

 

今日からテスト週間。

その為授業では、ほとんど自習となっていた。

 

殉朔「今回ヤバそうなのは英語だな。テキスト100ページとか鬼だろ」

 

秋村「ああ、いつもよりは多いな」

 

殉朔「とりあえず、英語の範囲は終わらせないと」

 

でも、良く見れば簡単なことばかりで、授業が終わるころには半分を終えていた。

次の時間で今日の授業は終わり、最後は物理なので英語の自習はさせてもらえないだろ。

 

狩谷「今日は自習だ。質問があるなら先生の所に来てくれ」

 

さて、テキストを解くか。

 

狩谷「・・・・・・それと、坂城」

 

何だろう?

 

殉朔「はい」

 

狩谷「放課後、職員室に来てくれ」

 

殉朔「はぁ・・・・・・、わかりました」

 

何だろう? 何かしたか俺?

秋村が、こそこそと俺の所に来た。

 

秋村「おい、何かしたのか?」

 

殉朔「いや、俺の知る限りではないな。覚えがあるなら、秋村のシャー芯を勝手に貰ったことぐらいか」

 

秋村「おい!」

 

俺にツッコミを入れる。

もちろん、マジで貰っています。

 

秋村「しかし、そんなことではないのは確かだな」

 

殉朔「だな」

 

秋村「一緒に行こうか?」

 

殉朔「いや、いいよ。俺のことだし」

 

秋村「そうか」

 

とりあえず、直ぐに終わる用事ならいいんだけどな。

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・

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そして、放課後。

 

殉朔「失礼します」

 

えっと、先生は。

きょろきょろと周りを見渡す。

 

殉朔「いないな・・・・・・」

 

先生「どうした?」

 

殉朔「あの、狩谷先生はどこにいますか?」

 

男の先生「ん? 分からないな。おい、誰か狩谷先生がどこに行ったか知ってるか?」

 

女の先生「狩谷先生なら、屋上に行きましたよ。あ、坂城君ちょうど良かった、彼が屋上にいることを伝えてくれと」

 

殉朔「どうもありがとうございます」

 

屋上か。なんだろういったい。

 

殉朔「失礼しました」

 

屋上へ向かう。

放課後は滅多に来たことがない。

屋上へ出ると、夕方の涼しい風が頬をなでる。

夕焼けが見事にきれいだった。

 

殉朔「へぇ〜、昼間とは違って、これはいいな」

 

さて、先生はどこにいるのかな。

 

殉朔「狩谷先生? どこにいるんですか〜?」

 

俺が歩み寄った刹那。

 

──っ!?

 

この感覚、間違いない。

俺は、誰かに狙われている。

 

殉朔「そこにいるのは分かってる。出て来い!」

 

俺は物陰にいると思われる人物に呼びかける。

 

・・・「やれやれ、見つかりましたか」

 

俺は驚愕した。

犯人が簡単に姿を見せたからではない。

そう、俺が驚いたのは。

 

殉朔「か、狩谷先生・・・・・・」

 

狩谷「はい」

 

何故だ?

先生は何故俺を狙っている。

まてよ、これからの流れを考えると。

 

殉朔「あんたか。俺たち組織を狙っているのは」

 

狩谷「ええ、そうです」

 

殉朔「狙撃したのもあんたか」

 

狩谷「2度も狙撃をかわすなんて、さすがだな」

 

くっ!

しかし、思い出せば学園祭の時、俺が見たのは間違いなく先生だったんだ。

だが、色々あったせいで忘れていた。

こんなことでは、先輩になんて言われるか。

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狩谷「でも、これで終わりです。さようなら」

 

──チュン

 

なっ、躊躇なく撃ってきただと。

だが俺は、狩谷が引き金を引いたと同時に避けていた。

 

殉朔「くっ!」

 

狩谷「ほう、流石だな。でも、甘いぞ」

 

──チュン、チュン

 

立て続けに銃を奔らせる。

俺は、無様に転げ避けるしかなかった。

こんな予想だにしなかった事態だ。

銃なんて持っていない。

武器になるのは、常に持っているシースナイフ(先輩がキャンプの時にくれたものだ)と毒が塗ってある針を収めたシャーペン(組織から渡されたもの)のみ。

どれも、接近戦で格闘に持っていかないと使えない代物だ。

 

狩谷「そんなんでは、俺を斃せないぜ」

 

んなことは、わかってる。

しかし、わかっていてもこの状況ではどうも出来ない。

 

──チュン

 

再度銃を放つ。

また、俺はそれをかわす。

 

狩谷「意味のないことを」

 

──チュン、チュン

 

俺は、またそれをかわす。

しかし、俺はただかわしているわけでなかった。

かわしつつ、物陰に潜める場所まで移動していたのだ。

 

──チュン

 

再度撃ってきたと同時に、物陰に隠れる。

 

狩谷「隠れても無駄さ」

 

狩谷が歩み寄ってくる。

まだだ、まだ我慢の時だ。俺は、チャンスを待つ。

 

狩谷「これで・・・・・・終わりだ!」

 

狩谷が俺が隠れている場所に素早く転がり、銃を奔らせる。

──しかし。

 

狩谷「なっ! 消えただと!」

 

消えてないさ。

残念だが、この屋上はあの日以来、晴菜と色々探索してたりしてたんだ。

だから、ここは俺の庭に近いんだよ。

俺は、一気に狩谷に攻め込む。

 

殉朔「終わったのは、貴様のようだな!」

 

俺はシースナイフで狩谷を切りつける──はずだった。

 

──キン

 

なっ!?

 

狩谷「危なかったぜ」

 

狩谷の手には、コンバットナイフが握られていた。

俺のシースナイフとコンバットナイフがぶつかった衝撃で火花が散る。

 

殉朔「くっ!」

 

これではまずい。一旦、引くべきか。

俺は、力を込めて狩谷を押しのける。その反動で距離を取る。

 

──ドン

 

と同時に発砲の音がした。

撃ったのはもちろん狩谷。

しかし、今の俺は着地する寸前。

避けることが出来ない。

 

殉朔「ぐぅぅっ!?」

 

狩谷が放った弾丸が左腕に着弾した。

被弾した腕は、全く動かない。

血が腕をつたい、手を真っ赤に染めた。

 

狩谷「ちっ!」

 

しかし、あの状況で命中させた狩谷の銃の腕は流石としか言えない。

俺は、腕をかばい再び物陰に隠れる。

 

狩谷「ふん。もう隠れても無駄だ」

 

殉朔「そ、それはどうかな?」

 

狩谷「何?」

 

強がってみたものの、狩谷の言う通りだった。

撃たれた腕の痛みで、意識がしっかりしない。

しかし、こんなところで死ぬわけにはいかない。

持っているハンカチで腕を縛りあげる。

失血で意識を失うわけにはいかない。

再び、ナイフを握りしめる。

 

狩谷「さあ、そろそろ終わりにしようではないか」

 

狩谷が歩み寄る。

あいつが持っていた銃、あれは確か──ベレッタМ8000だったはず。

40口径だから、11発の弾が装てん出来る。

あいつが撃っていた数は、8発以上は撃っているはず。

しかし、もし10発しか撃っていないなら・・・・・・。

ここは一か八か。

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狩谷「さあ、祈りの時間だ」

 

今しかない。

手元にあった石を投げる。

 

狩谷「っ!?」

 

──チュン、チュン

 

運がいいことに狩谷は俺の罠に嵌ってくれた。

 

狩谷「くそ!」

 

と同時に俺は飛び出す。

 

狩谷「なっ! だが、飛び出るとが愚かな、死ね!」

 

──カチ

 

狩谷「そんな!」

 

狩谷にとって絶望とも言える音。

そのスキを見逃さない。

 

殉朔「うおぉぉぉ!」

 

俺は狩谷にタックルをくらわせる。

予想だにしない攻撃に、狩谷が吹っ飛ぶ。

 

狩谷「ぐふぅ・・・・・・」

 

だが俺の反撃は終わらない。

狩谷が体勢を立て直す前に、次の攻撃を喰らわす。

この時の為にとっておいたもの。

そう、毒が塗られた針。

 

──プス

 

狩谷「なっ! 毒だと!?」

 

殉朔「ああ、だが死にはしないさ」

 

狩谷「くっ・・・・・・」

 

そして狩谷はそのまま眠りについた。

 

殉朔「・・・・・・」

 

俺は、朦朧とする意識の中、組織に連絡をする。

 

殉朔「例の組織と思われる・・・・・・敵を捕まえました」

 

御堂『そうか。よくやった』

 

殉朔「ありがとうございます」

 

御堂『そちらに、班を送る。もちろん、救護班も送る』

 

殉朔「は、はい。わかりました」

 

御堂『大丈夫か? とりあえず、休め。学校には何とか言っておく』

 

殉朔「でも、テストが・・・・・・」

 

御堂『そんなもんどうでもいい。お前に無理をして、死なれても困る』

 

殉朔「それは、組織としてですか?」

 

御堂『親としてだ』

 

殉朔「あ、ありがとう・・・・・・ございま・・・・・・」

 

御堂『おい、殉朔? おい、大丈夫か!』

 

俺はその場に倒れ込み意識を失った。

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・「やはり勝手な行動をしていたのか」

 

・・・「はい。そのようです」

 

・・・「何故、止めなかった?」

 

・・・「・・・・・・(チッ、やっぱりか。だが、俺の目的の為だ。仕方ない)」

 

・・・「ふん、まあいい。あれは捨て駒だ。通信を終える」

 

殉朔の一部始終を見ていた男は、通信機をしまいため息をつく。

 

・・・「あれでは能力を発揮させることは出来なかったか・・・・・・」

 

男は、もう一度視線を殉朔に向ける。

殉朔の組織が到着したのか、慌ただしかった。

 

・・・「だが、俺は諦めない。いずれ、機会があることを願うぜ」

 

男はその場を後にした。

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・

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──2週間後

 

俺は未だ病院のベットで寝ていた。

血があまりにも流れていたせいで、長引いているそうだ。

何度か、秋村や晴菜がお見舞いに来てくれた。

やはり、最初の話題が狩谷先生の辞職だった。

もちろん、それは組織が根回ししたことである。

俺が寝ている間、先輩たちは狩谷から色々な情報を聞き出していた。

それで得た情報は、どうして俺を狙ったのかしかなかった。

組織名は、一切口を開かなかったようだ。

 

殉朔「いてて、まだ痛むな」

 

御堂「まあ、あれだけの怪我で済んでいるんだから、いい方だと思うぞ」

 

殉朔「うん」

 

御堂「そうそう、お見舞いに来てた・・・・・・そう、あの女の子の名前は?」

 

殉朔「なんで教えないといけないんですか?」

 

御堂「親として、上司として。恋の相談なら・・・・・・」

 

殉朔「ごめん、それは出来ない」

 

御堂「そうか。で、名前は?」

 

殉朔「浅井晴菜。クラスメートだ」

 

御堂「ほう。良い名前だな」

 

殉朔「・・・・・・」

 

御堂「俺は、戻るぞ」

 

殉朔「あ、はい」

 

先輩は、何故か本を数冊置いて行き去って行った。

考えられることは、結局テストを受けることが出来なかったため、課題が多く出されていた。

それは既に終えているので、暇な日々を送っている俺にたいしてのプレゼントなのだろう。

まあ、先輩らしいといえばらしい。

 

──コンコン

 

また新たな訪問者が来たようだ。

 

殉朔「どうぞ」

 

小夜「やあ、久しぶりだね」

 

殉朔「ああ、宮川さん」

 

そういえば、1ヵ月くらい前に会った記憶があるな。

確か、何かを開発していて、その開発に俺の組織が関わっている。

しかし、その開発を良く思わない、奴らすなわち狩谷たちの組織が俺たちを狙っている。

でも、俺は聞かされてないな、何を開発してるのか。

 

小夜「御堂さんから話は聞いているわ」

 

殉朔「そうですか。なら、話は早いですね。何の開発をしているのですか?」

 

宮川さんは、一呼吸おいて喋り出す。

 

小夜「私たちが開発しているのは、戦争を仮想空間で体験してもらう装置よ」

 

殉朔「戦争を仮想空間で?」

 

小夜「そう。私たちは別名、VWS=iVirtual War System)と呼んでいるの」

 

殉朔「VWS=H」

 

そんなすごいものを開発していたのか。

しかし、何故今の時代にそんなものを作るのか?

前の時代なら、そのようなことが好きな人は多くいただろう。

 

小夜「もう既に開発は終わっている」

 

殉朔「では、もうその組織は意味が・・・・・・」

 

小夜「いいえ、まだ油断は出来ないわ」

 

何故だろう。

開発は既に終わっているはず。

ならば、安心していいと思う。

でも、油断が出来ない?

・・・・・・そうか!

 

殉朔「ハッキングか」

 

小夜「ええ。万が一、システム作動中にされてしまえば、何が起きるか分からないわ」

 

殉朔「運が悪ければ・・・・・・」

 

小夜「最悪の想定では、その装置を使っている人は死ぬ」

 

殉朔「っ!?」

 

なんてことだ。

と言うか、こんな深刻な問題だったなんて思いもしなかった。

 

小夜「でもね、殉朔君。私は、絶対にそんなことはさせない。私たち、研究者全員の意地を見せてでもさせない」

 

すごい気迫だ。俺より年上でも童顔なせいで、子供に見えたりするが、それを微塵に思わせないほどすごい闘志だった。

 

小夜「それでね。今度、VWS≠フ体験してもらうイベントがあるのよ。殉朔君にも、それに参加してもらいたいの」

 

殉朔「えっ!?」

 

小夜「でも、それは一応応募した中から抽選となっているんだけど。はい、これはそのチケット」

 

と封筒を渡される。

考えてみれば、ここで参加を断っても、組織から参加しろ、そんなことを言われるのは見えている。

だから、もう既に答えは出ている。

 

殉朔「わかりました。参加します」

 

小夜「ありがとう」

 

これも訓練だ。

先輩ならそう言うだろう。

 

小夜「じゃあ、これで失礼するね」

 

殉朔「はい」

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宮川さんが出ると同時に、晴菜が入ってくる。

 

浅井「今の誰?」

 

殉朔「知り合いかな」

 

浅井「ふう〜ん」

 

晴菜は、花瓶に入っている花と持ってきていた花を入れ替えていた。

 

浅井「退院は、いつ頃になりそう?」

 

殉朔「えっと、あと1週間くらいかな」

 

浅井「そう、良かった」

 

殉朔「学校の方はどう? 何かあった?」

 

浅井「そうだね。最近来た転校生が面白くてね」

 

殉朔「へぇ〜、名前は?」

 

浅井「杉田君だよ。変な口調だけどね」

 

殉朔「ふ〜ん」

 

俺が入院している間に、転校生なんて来ていたんだ。

しかし、こんな時期に転校生か・・・・・・。

 

浅井「でね、今日は・・・・・・」

 

色々と嬉しそうに話す晴菜を見ながら、俺は今までの事を振り返った。

狩谷が謎の組織に属していたこと。

その組織が俺たちを狙っていること。

そしてこれは推測だが、刺客は他にもいるということ。

もしかしたら、今度のイベントにも送り込まれるかもしれない。

俺は既に逃げることは出来ないのだ。

しかし、たとえこの件を解決したとしても平和が来るだろうか。

分からない、でも、俺はそれを信じて闘うしかない。

 

浅井「じゃあ、私はこれで」

 

殉朔「ああ、うん。気をつけてね」

 

浅井「分かった」

 

ふう、もう今日は来客は来ないだろうな。

しかし、暇だな。

俺は、先輩が持ってきた本を見る。

 

殉朔「なっ!!?」

 

俺は素早くその本を閉じる。

 

殉朔「あれ? 表紙は普通なのに、何故中身は・・・・・・」

 

俺は表紙をとってみる。

やはり、中身は違っていた。

いたずらなのか?

 

殉朔「なんで、中身はエロいものなんだよ・・・・・・」

 

俺は、本を読むのを諦めてそのまま寝た。

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・「今度の行われるイベントに、どうやらあいつらも参加するようだ」

 

・・・「そうか」

 

・・・「これは、このイベントのチケット。お前にやる」

 

・・・「どうしてでしゅね?」

 

・・・「お前に、あいつらを監視してもらいたい」

 

・・・「わかった」

 

・・・「あの女が関わっている以上、あれも含んでいるだろう」

 

・・・「・・・・・・」

 

・・・「それで、あいつが記憶を取り戻してくれれば」

 

・・・「・・・・・・」

 

・・・「おい、寝るなよ」

 

・・・「す、スマン、スマン」

 

・・・「さて、今度こそ楽しましてくれ」

 

2人は、会話を済ませると1人は立ち去り、1人は近くの建物に入っていた。

こうして、今日の夜も更けていくのであった。

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

それから約10日が経った。

俺は、退院し家に戻っていた。

長い間戻っていなかったのか、新聞やら広告やらがたまっていた。

新聞には、例のVWS≠ノついて書かれていた。

 

殉朔「ふう〜。しかし、人は集まるのかな」

 

でも、記念でやってみたいな。

そんな人もいるかもしれないから、ある程度の人数は応募するだろう。

まあ、いずれ分かるからいいか。

 

殉朔「さて、何もすることがない!」

 

もちろん、今日は念の為学校は休んでいる。

しかし、そうなるとやることが全くない。

家にいても暇なだけ。

秋村がパソコンに勝手に入れたゲーム(エロゲだが)はやる気はしない。

でも、あいつのことだから感想を求めてくるんだよな。

まあ、とりあえずやってみてもいいか・・・・・・。

そして、今日一日ゲームによって終わってしまった。

 

殉朔「な、泣けるぜ! よし、次のルートを開始するぞ」

 

ハマりだしたら止まらないな、このゲーム。

いつの間にか、朝を迎えていることに気付いた時はもう手遅れだった。

 

説明
動き出した謎の人物。
殉朔を狙った犯人の正体とは・・・・・・。

戦闘シーンは難しいよ、本当に。

プロローグ→http://www.tinami.com/view/59872
1章→http://www.tinami.com/view/60087


3章は、旅行に行くためしばらく書くことができませんので更新がかなり遅れます。
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