真恋姫†夢想 弓史に一生 第八章 第七話
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〜楽進side〜

 

 

ドキドキ………。

 

ソワソワ………。

 

 

 

「………ふぅ〜………。」

 

 

 

ドキドキ………。

 

ソワソワ………。

 

 

 

「………ふぅ〜………。」

 

「……………なにしとんねん、凪のやつ……。」

 

「徳種さんに教えてもらえるのが楽しみでソワソワしてるの〜………。」

 

「………今日一日しかない……今日一日でどこまで私に出来るのだろうか………。」

 

「…………なんや、ぶつぶつ言いだしたで……。」

 

「…………ちょっと心配なの〜…………。」

 

 

町から一里程離れた平地。

 

ここには、先ほどから落ち着きなくそわそわとしている銀髪の少女楽進と、その姿を呆れた様な目で見つめる彼女の幼馴染李典と于禁の二人がいる。

 

彼女たちはこの地でとある男を待っているのだが、その男が一向に来る気配がないのだ。

 

約束の時刻には既になっているというのに……。

 

 

「…………それにしても……何かあったんかな、徳種はん。」

 

「……う〜ん……。もしかして、凪ちゃんに技を教えるのが嫌になってたりして!!」

 

 

沙和が冗談めかして言ったその言葉に、私はドキッとして体が一瞬膠着する。

 

 

「…な……何を馬鹿な………。徳種殿は来ると言ったんだ。来ないはずが………ないだろう………。」

 

 

徳種殿は私に教えてくれると言ったんだ。今はたまたま遅れているだけ……。そう、それだけだ…!!

 

 

強気な言葉で答えてみるが、顔は半笑い、おまけに足が震えているのを見れば動揺を完全に隠しきれていないことが二人にばれるのは当然だった。

 

 

「にひひっ……。凪のやつめっちゃ動揺してんで……。」

 

「本当だ〜。凪ちゃん可愛らしいの〜!!!」

 

「こら、もうちょいからかってもおもろいやろな〜……。」

 

「絶対良い反応すると思うの〜!!!!」

 

「「じゃあ、やってみますか……!!!」」

 

 

そんな様子を見た李典と于禁は、その悪戯心に火が付く。

 

 

「いや〜凪、そんなことないって〜……。徳種はんは昨日の戦いの一番の功労者やで〜…。今日は疲れて教えたくなくなってもうたんかもしれんで…。」

 

 

そう真桜に言われて私もはっとする。

 

確かに徳種殿は昨日の一番の功労者。

 

昨日の内には感じなかった疲れや怪我などが今日になって感じるようになり、今動けないのかもしれない。それならば、今日私に教えに来るのは確かに不可能で、こうしてここに来ない明確な理由となる。

 

 

「だ……だがしかし………昨日、徳種殿は私に稽古をしてくれると直々に言ってくださったのだ。その本人が来ないなどと言うことは……。」

 

 

さらに激しい動揺に襲われながらも反論を企てるが………。

 

 

「でも〜……昨日は宴会の席だったし〜………。徳種さんも忘れちゃってるかもしれないの〜……。」

 

 

今度は沙和がもっともらしい理由を述べる。

 

 

確かに宴会の席であったことを考えれば、あれは酔っぱらった上での前口上かもしれない……。

 

しかし、彼も武人であることを考えるならば一度した約束をそう簡単に無碍になど……。

 

 

「あっ!! もしかしてや………。技を凪に教えるんが嫌になったかもしれんで!!!」

 

 

真桜の放った言葉は私の心に突き刺さり、その衝撃はとても大きく少し足もとがふらつく。

 

 

そ……そんな馬鹿な………。

 

いくらなんでも教えたくなくなるなんてことが…………。

 

いやっ……しかしよくよく考えれば私は何とも図々しいお願いをしてしまったのだろうか。

 

仮にも武人として生きる彼に、彼の生きる技を教えろと言ったのだ………。

 

一度は承認したものの、よくよく考えた末にやはり教えれないとなったのかもしれない……。

 

それぐらい、身一つで戦う人にとっての技と言うのは大事なものなのである。

 

私の技も、親から伝わる一子相伝の技なれば、他人に教えることは……出来ない……。

 

 

「い…今すぐ徳種さんに謝りに行く!!!!」

 

「「…………はっ??」」

 

 

お腹を抱えるようにして笑っていた李典と于禁は、急に楽進が真面目な顔して斜め上の発言をしたことで豆鉄砲を食らったような顔になる。

 

たっぷり三十秒ほどそのまま固まった後、李典は恐る恐る楽進に尋ねる。

 

 

「………あ〜……凪……??  一体どうしたって言うん?」

 

「どうしたもこうしたもない!!! 私は徳種殿にとんでもなく失礼なお願いをしてしまったのだ!!!  命の恩人であるお方にこんな仕打ちをするなど………わが一生の不覚……。かくなる上はこの命を差し出す他あるまい!!!!」

 

 

今度も豆鉄砲を食らったような顔になる二人。

 

彼女たち二人の暇つぶしだったものが、段々と話が大きくなってしまった。

 

ばつが悪そうにお互いを見つめあう李典と于禁。

 

ここら辺で一度しっかりと訂正しないと彼女は本当に彼に謝りに行くだろう。

 

勿論、真実を話せば楽進が怒るのは目に見えていることだが、それでも友を一人減らすことに比べればなんてことはない。

 

 

「…………あんな〜凪。実はな…………。」

 

「いや〜悪い悪い。遅れちまったな!!!」

 

 

李典がちょうど真実を語り始めようとしたところで、渦中の男が三人の後ろ側から登場した。

 

 

その声に、体をびくつかせる三人。

 

 

「ん?? 一体どうしたんだ三人とも……。」

 

「いやいや、何でもないって……。」

 

「そうなの……。なんでもないの〜……。」

 

 

聖の登場に、動揺を悟られないように対応する李典と于禁。

 

しかし、真面目な楽進は彼に謝らないと気が済まないのであった…………。

 

 

 

 

 

 

 

徳種殿が来た………。

 

此度の非礼を詫びるなら、今しかない。

 

 

「図々しいことを言ってすいませんでした!!」

 

「………………はい??」

 

 

突然の私の叫び声のような謝辞に目を丸くする徳種殿。

 

その顔は、まるで何を言っているのか分かっていないと言うそんな顔だった。

 

そんな顔に私も疑問符を浮かべる。

 

 

「…………えっ…??  怒っているのではないのですか……??」

 

「…………えっ…?? 何それ怖い………。身に覚えがないんだけど………。」

 

 

お互いに頭の上に疑問符が並ぶ。

 

一体どういうことなんだ………??

 

 

「凪〜!!!!!!!!!!! ウチが悪かった〜!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「ごめんなさい、凪ちゃん!!!!!! ちょっとからかっただけなの〜!!!!!!!!!!!」

 

 

すると、私の幼馴染二人が勢いよく頭を下げて私に弁解をしてきた。

 

何の事を言っているのか………あぁ…成程……………そう言うことか………。

 

 

「真桜……沙和……。話は分かった。良くぞ話してくれた。」

 

 

頭を下げていた二人は、楽進のそんな優しい言葉を聞き今回はお咎めなしで終わる、と期待に胸を膨らませて頭を上げた……。

 

 

「…………………な………凪………??」

 

「………凪ちゃん………なんでそんないい笑顔なの……??」

 

 

頭を上げた二人が見たのは、普段の私からは想像できないほど良い笑顔だったそうだ。(後日談)

 

 

「何故って………??  詳しく話すから、おとなしくそこになおれ!!!!!!!!!!」

 

「「い〜〜〜や〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」」

 

 

まるで羊を狩る狼のように、獰猛な殺気を駄々漏らして幼馴染二人に襲いかかる私。

 

その姿を傍目から見ていた聖は、「親しき仲にも礼儀あり…だな…。」と呟いていたそうな……。

 

 

 

 

 

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〜聖side〜

 

 

 

「「本当にすいませんでした………。」」

 

「声が小さい!!!!」

 

「「本当にすいませんでした!!!!!」」

 

「声に気持ちが入ってないぞ!! お前たちには謝ろうと言う意思があるのか!!!!」

 

「「……………鬼だ……。」」

 

「…………何か言ったか?」

 

「「いえ、何でもありません!!!!!!」」

 

 

あの後楽進に捕まった李典と于禁はこってりと一刻程絞られた後、嘘に俺の名前を使ったと言う事で楽進監修のもとで俺に謝罪を行っていたりする。

 

俺としては、別に嘘に使ったぐらいで怒りはしないし、気にもしないのだが、楽進が二人にはきちんと謝らせると言ってきかないのでこれに付き合うことにしている。

 

しかし、何時まで経ってもこの謝罪は終わりそうにない……。

 

今日一日しか稽古を見てやれない事を考えれば、そろそろ本題に入りたいんだが……。

 

 

「あ〜…。楽進?」

 

「はい?どうしましたか、徳種殿。この二人の反省が甘いですか? それならば、より一層の……。」

 

「いやっ、良いからね。もう充分に謝罪の心は伝わったからね…。」

 

 

今でさえ十分に心折れてる二人にこれ以上何をするって言うんだよ……。

 

それこそ、一生物のトラウマでも植え付けるつもりなのかよ…。

 

 

「はぁ……。私としては未だ不服なのですが……。徳種殿がそう言うのであれば……。」

 

「話も進まないし、稽古の時間もなくなるしな。」

 

「…………そうですね。はぁ〜……二人とも、もう良いぞ。」

 

 

俺がそこまで言うと、楽進は渋々ながらも二人を許す。

 

すると、二人はもの凄い勢いで俺の前まで移動すると、涙を流しながら俺の手を握る。

 

 

「ほんまにありがとう……。徳種はんは神様仏様や…。」

 

「ありがとうなの〜………。お陰で助かったの〜……。」

 

 

彼女たちの言葉は何かと切実で、それだけ楽進の説教と言うのは彼女たちに恐怖を与えていたのだった…。

 

 

 

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〜楽進side〜

 

 

「さて、それでは稽古を始める!!」

 

「はい、徳種殿。よろしくお願いします!!」

 

 

元気で返事をする私。残りの二人は稽古には参戦せず、見学をしているとのことだった。

 

 

「良いか。この稽古中は俺のことは師匠と呼べ!! そして、俺の技を盗めるものは盗み、応用し、自分だけのものにしろ!! そのため、稽古は厳しいぞ!! 付いてこれるか!?」

 

「はい、師匠!! 必ずや最後まで付いていきます!!」

 

「よし。やることは一つ。俺とひたすら乱取りだ!!その中で、自分で答えを見つけろ!!」

 

「は……はいっ!!!」

 

 

若干の緊張感を含んだ声で答える。

 

師匠は私と少し距離を開けて対峙し、一呼吸付く。

 

その姿から、武人としての気迫と言うものが充分に伝わってくる。

 

やはり、師匠は強い…。

 

 

「準備は良いか!! 行くぞ!!!!」

 

「はいっ!!!!!」

 

 

元気よく返事をすると共に、構えをとる。

 

それに対して、師匠は自然体のまま私と向き合う。

 

 

「まず、一回目だ!!  ………………受け身だけはしっかりとれよ?」

 

「……へっ?? それは一体どういう………。」

 

 

言葉が終わりきる寸前、師匠の姿が消え、気付いた時には腕を持たれて背負うようにして投げられている。

 

突然の事に驚いた私は、何もすることが出来ずに地面へと投げ付けられた。

 

しかし、気づくのが遅れたとはいえ私も武人。

 

地面との距離が近くなるところで、逆らわずに力を投げられる方向にかけ、体を一回転させて足から地面へと着地、そのまま師匠から距離をとる。

 

 

「やるじゃないか……。いい反応だったよ。」

 

「………すごい…。やはり、師匠は凄いです!! 技の速さ、力強さ、正確さ。どれをとっても完璧な一撃でした!!私が避けられたのが奇跡見たいです……。」

 

「そう褒めるなよ、照れるじゃねぇか。……さて、気を取り直して続きと行くぜ?」

 

「はいっ!!!!」

 

 

今度は先程とは違い、お互いに睨み合う展開が続く。

 

傍から見ればお互いに敵の隙を狙っているように見えるが実はそうではなかった。

 

聖は楽進が攻撃してきたらそれを捌き、隙を見て投げに繋げようと考えていた。

 

それに対し、楽進も聖の意図を読み取っていた。

 

むやみに攻めては負ける。それがひしひしと聖から伝わってきているのだ。

 

しかし、ここで一つ問題になってくるのが先ほどの聖の一本背負いだ……。

 

楽進は、油断していたとはいえ先ほどの聖の一本背負いを目で追うことが出来ていない。

 

それだけ聖の踏み込みが早かったのだ。

 

もし、今ここで聖があの踏み込みで攻めてきたら……??

 

楽進はその考えが頭に残るために自分から攻めていかなければならないのだ。

 

攻めに行っても負け、このまま何もしなくても負け。

 

そう、実はとうにこの勝負の決着はついていたのであった。

 

 

 

このままだと何時師匠が攻めてくるか分からない…。

 

ここは一か八か……こちらから攻勢をかけるしかない!!

 

師匠に勝つためには、それこそ死中に活を求めなければ無理だろう。

 

ならば、私の技がどこまで師匠に通用するか………それを試すいい機会だ!!

 

 

 

「はぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!! 猛虎連撃!!!!!!!」

 

 

何発もの蹴りが師匠を襲う。

 

その蹴りの範囲はとてもじゃないが逃げ切れるものではない。

 

これならば一発くらいは師匠に入るのではないか………。

 

と、淡い期待に胸を躍らせるが、そんな淡い期待も、師匠は打ち砕いていく。

 

 

一発………二発………三発……と、私の蹴りが襲ってくるが、師匠はそれを絶妙なほどの力加減と体捌きでかわしていく。

 

そして、私の最後の蹴りに対してその足を掴むと、身を捻るようにしてその身を滑り込ませ、私は空中へと体が浮き上がった。

 

 

空中では身動きがとれず、そのまま一回転するようにして地面に投げ飛ばされた私。

 

碌に受け身も出来ず、ぐっと詰まる息をどうにか吐き出して起き上った時には、既に目の前に師匠がいて、その手で手刀を作って私の首筋にあてていた。

 

…………完敗だ…。

 

世界にはまだこれほどまでに強い人がいるのだ……。

 

私は彼のように強くなれるのだろうか……。

 

民衆を助けるために、守るために、必要な力を手に入れれるのか……。

 

そして、師匠は一体どれほどの期間でここまで強くなったのか……。

 

 

師匠との一戦は、今の自分を見つめるための大きな起点となりそうだな……と、楽進は決着がついた瞬間に微笑むのだった。

 

 

 

 

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弓史に一生 第八章 第七話  稽古   END

 

 

 

 

 

 

 

 

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後書きです。

 

第八章第七話の投稿が終わりました。

 

 

今話は前話の間に凪が聖に頼んでいた稽古をメインに描いています。

 

次の話も稽古がメインになるため、ここ二話は物語の進行は無いと思っていただいても良いと思います。

 

 

 

 

次話はまた日曜日に…。

 

それでは、お楽しみに!!!

説明
どうも、作者のkikkomanです。

今話は物語としてはあまり進行しません。

あくまで下地作りといったところですかね…。

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