真・恋姫†無双〜家族のために〜#30落日の十常侍
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ーー虎牢関で深達が打って出る少し前

 

 

「ここまで来れば大丈夫であろう」

 

「そうですな。なにより切り札はこちらが握っている」

 

 二頭の馬が引く煌びやかな装飾を飾られた豪華な馬車。その周りには護衛が数名。

 護衛に囲まれた馬車の中には男が三人。一人は年端もいかない少年、残りの二人はそれなりに歳を重ねたのであろうか。厳格な雰囲気をまとい、華奢な体躯に似つかわしくない鋭い眼光を秘めていた。

 

 さきほどの会話は二人の男、かつて十常侍として猛威を振るっていた((段珪|だんけい))と((畢嵐|ひつらん))によるものだった。

 彼らは袁紹らの報復から辛くも逃げ延びたが、すぐさま董卓に捕縛された。しかし、腐っても最近まで実権を握っていた者達だ。ぞんざいに扱うわけにもいかず、洛陽に軟禁するという少々グレーなところで手を打った。

 そして、反董卓連合が結成され多くの将が水関ならびに虎牢関へ向かっていったあと、段珪、畢嵐は私兵達の手引きにより脱出。同時に周囲の警戒が手薄になっていた劉弁を保護の名目で拉致し、共に洛陽を脱した。

 

 今、彼らが向かっているのは長安である。

 反董卓連合が董卓を討ち取るのは、集まった諸侯の名を聞けば明白。いくら飛将軍と呼ばれる呂布がいたとしても、数の暴力には勝つことは難しいだろう。

 そうして連合軍が董卓を討ち取ったあと、劉弁は自分達が保護をしていることを公表し、長安に新たな帝を立て、洛陽から長安へ遷都させるつもりだった。

 

 洛陽から脱した直後の二人に余裕はなく、質の悪い私兵が声を発しようものなら怒鳴り散らしていたものだが、今はかなりの距離を稼ぎ追っ手の一つもないことから精神的に落ち着いてきたようで、悪巧みをする際の嫌な笑みを浮かべられるほどに気が緩んでいた……。

 

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 私を含めた騎馬十騎は距離をあけ、遠くから気付かれないように監視していました。

 そろそろ昼になる頃ですが、前方の馬車は一向に止まる気配はありません。

 私は逸る気持ちを抑えながら、馬車の監視の継続を皆に伝えました。

 

 

 『劉弁様の失踪』

 その報告があったのは朝議の時。身の回りの世話をしていた侍女により発覚しました。

 慌てて詠様が城内を探すよう指示を出したところ、段珪殿、畢嵐殿の姿がないことが確認されました。

 

 ここまで深の予想通りに進んでいます。

 十常侍の生き残りが脱走することも、劉弁様を拉致することも、おそらく二人は長安へと向かっているであろうことも全て。

 月様、詠様は驚かれていました。深の予想が当たっていたからなのかは分かりませんが。

 

 ここからは私の仕事です。深が私に頼んだ仕事……。必ず完遂します。

 

 

「詠様、少しよろしいでしょうか」

 

 朝議を中断し月が休憩のため退出したあと、続々とあげられる報告に的確に指示を飛ばしていた詠。それらがひと段落し、劉弁の救出隊を編成し始めようとしたタイミングで影華は詠に話しかけた。

 

「……影華、どうしたの?」

 

「劉弁様の救出隊、その指揮を私に任せていただけないでしょうか」

 

「それは……」

 

 言い淀む詠。

 正直、詠には影華がどれだけの能力を有しているのか推し量れずにいた。

 詠が知る影華の姿とは、反董卓連合が組まれるまでは、深に常に付き従う副官がいるといった感じで、深という大きな存在の後ろに隠れていた存在だった。

 そして連合が組まれた後、深達が水関へと赴き一時的に詠の副官として起用された影華は、言われたことは必ず期日までに完遂するし、人一倍回りに気を配り率先して茶を用意するといった、副官としてはこれ以上ないほど仕事を完璧にこなせる人材だった。

 だが、文官としての実力は測れるが、武官としての実力は測れない。詠はあくまで董卓の軍師−−文官であり、武官のように武を見極められる力などもってはいないからだ。

 深と共に洛陽の警備隊を日々調練していたことから、並の兵士よりは強いのだろうということは推測できたが、それまでだった。

 段珪らを長安に逃がすことは、今後の月にとって大きな障害になることは明白。

 かといって、実力が不透明な者を救出に向かわせ、万が一にでも返り討ちにされた場合、ただでさえ少ない洛陽の兵士が減るだけではなく、その報告を彼女の本来の上司である男に伝えなければいけないのだ。そのことを伝えられた男が取る行動のなかで最悪の選択肢を考えたとき、そんな危険な橋はわたるわけにはいかなかった。それゆえに詠は言い淀んだのだ。

 

「現状を理解した上で言ってるのよね?」

 

 だからこそ、その真意を問いただしたかった。

 

「はい。現在、洛陽にいる兵は最低限の防衛として残された者達しかおりません。ですが、段珪、畢嵐両名が脱走した今、洛陽を脅かす勢力は皆無。懸念されていた馬騰殿の部隊は反董卓連合に参加しているとのこと。そのことは、伝令により娘の馬超の姿が確認されたことで判明しております。

 そして……深の策を為すためには彼らの捕縛が必須。それも出来るだけ無傷で。

 詠様が今なおこの策に反対の意を示していることは重々承知ではございますが、この機を逃してしまえば月様を助ける方法が無くなってしまいます」

 

 影華は淡々と事実を告げていった。それも、周りから埋め反論させないように。

 深の考えた策は、考えうる中で最も月への危険が少なく、また生き残る確率が高いものだった。

 それでも詠は最後まで反対した。他に策はないかと寝る間も惜しんで考えた。それだけ、詠にとってその策は認められないものだった。

 

『月に董卓の名を捨ててもらう』

 

 世の風聞は、洛陽周辺を除けば董卓は悪として認識されている。

 なら、董卓の名を捨てればいい。そう深は言ったのだ。

 幸い、詠の手腕によって月の容姿は宮中でも、それなりに地位がある者にしか知られていない。

 名を捨てることに葛藤はしたが、翌日に月は了承した。それで皆が助かるならと。

 詠も月の決めたことなら……上目遣いでお願いされ陥落した。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 まるで月を相手にしているような感覚だった。

 普段は表に出ないのに、大事なときはやたらと頑固な……。

 

「……はぁ、分かったわよ。指揮でもなんでもやればいいじゃない」

 

 もはや投げやりだった。

 

「ありがとうございます」

 

「必ず生きて帰ってきなさいよ。それだけは守りなさい。あなたの大事なあいつも、そして月も悲しむんだから」

 

 そこに自分の名を入れないところが詠らしかった。

 影華は笑みを浮かべた後

 

「御意」

 

 深々と拝礼をし、部隊の編成を始めた。

 

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 日は真上からあたり、また傾こうとし始めた頃、馬車は森の中にある小川で休息を取っていた。

 影華はここで仕掛けることを兵達に伝え、馬を木に繋いでその場で待機。

 敵の護衛は馬車の中にはいなかったようで、外から見えた六人のまま。さらに、段珪と畢嵐と思われる男性が二人。劉弁様は馬車の中にいるのか、姿を確認できず。

 

 馬車の周りには二人の護衛がおり、それ以外は小川に向かっていったままだ。

 影華は後ろに待機している兵達に合図を送り、同時に馬車へと駆け寄った。

 声を上げさせる間もなく近くにいた男の首を飛ばす。もう一人のほうは、兵士により心の臓を一突きにされていた。

 馬車の中で少年が発見されると二人を護衛として馬車のもとに残し、残りは小川へと向かっていった。

 

 無防備に小川で休憩する段珪と畢嵐。護衛の男達も緊張の糸が切れたのか、周囲への警戒がまるでなく賑やかに談笑していた。

 

 影華は草陰から、予備に持ってきていた短剣を水平に構え、一番近くにいた兵目掛け投擲。同時に八人の劉弁救出隊は草陰から躍りだし、段珪達に襲い掛かった。

 

 

 護衛達は、私達が襲い掛かってきたことがわかると武器を持たず、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めました。そのお陰で多少手間取りましたが、こちらには全く被害を出さずに制圧を完了しました。

 

 

「な、なんじゃお主らは! わしらを誰だと心得ておる!」

 

 抵抗らしい抵抗をしなかったあげく喚くだけとは……十常侍という者達は皆こうだったのでしょうか。

 だとすれば、なるべくしてこうなったのでしょうね。

 

「段珪様と畢嵐様とお見受けしますが」

 

 表面上は敬うように。こういう手合はまず持ち上げる、洛陽で生き残る術として基本中の基本です。

 とはいえ、このまま喚かれたままですと話が進まないので、用件を申し上げましょうか。

 

「……馬車に劉弁様と思しき方がおられたのですが、お二人は何かご存知でしょうか?」

 

 先ほどまで縄を解け、無礼であると喚いていたのが嘘のように静かになるご両人。

 相手に話す隙を与えない。考える暇を与えない。追い詰めることこそ最上と、諳の教えは本当にありがたいものです。

 

「なぜ、洛陽にいたはずの劉弁様がここにいらっしゃるのか。なぜ縛られたままだったのか。知らないはずがありません。そうでしょう、((段|・))((珪|・))、((畢|・))((嵐|・))」

 

 うろたえ言葉にならぬ声を発し、呻くだけの二人。

 所詮、追い詰められた者はこの程度ですか。敬う必要もなかったかもしれませんね。

 

 

 護衛の処理を終え、後ろで静かに待っていた兵達にあとのことは任せ、馬車のもとへと戻っていく。

 劉弁はすでに縄を解かれ、こちらが用意した食事を取っていた。

 近付いていくと、影華に気付いた劉弁が食事をとめ居住いを正すと、影華達は皆頭を下げ

 

「頭を下げなくともよい。そなたらは余の恩人なのじゃ。かたくならんでよい」

 

 それでは失礼してと、跪いたまま頭を上げる。

 その姿勢も……などと言ってはいたが咎めるわけにもいかずそのままにした。

 

「こんな喋り方をしておるからに、そなたらもわかっておるとは思うが、余が劉弁じゃ。そなたらは見たところ洛陽の兵のようじゃが、間違いないかのぅ?」

 

「はい。私の名は黒纏と申します。洛陽の県長である黒繞の補佐を勤めております。今回、董卓様、賈駆様の命により、劉弁様の救出に参りました」

 

「そうか、董卓がのぉ。あやつにはあとでまた礼を言うが……改めて、そなたらに礼を言おう。洛陽に戻れば褒美もやる」

 

 礼を言った際、一瞬だが震えていたのを影華は見逃さなかった。が、恐怖にさらされてもなお毅然と振舞う劉弁の姿に、深とは違った王の素質を感じた。

 

「……失礼ながら、発言をしてもよろしいでしょうか」

 

「構わぬ」

 

 口調が堅いことには何も言わなかった。

 

「洛陽で褒美を受けとらない代わりに、一つ聞いていただきたいものがあります」

 

 …………………………。

 

「それだけで構わないのか?」

 

「はい。それは董卓様も了承済みでございます。そして、それこそが董卓様を助ける唯一の策でございます」

 

 失礼とわかりながらも、劉弁と目を合わせ、逸らさずに説明を終えた影華。

 その内容に劉弁は驚きながらも

 

「うむ、分かった。あやつらは長く余を支えてきた者達だが、余がきちんと後始末をつけよう。董卓が宮中からいなくなるのは、ちと寂しいがの」

 

 憂いを帯びた儚い素顔が垣間見えた気がする。

 刹那のことだったが、何か懐かしい思い出を思い出していたのかもしれない。

 劉弁と董卓に何があったのかは、本人達にしか分からないこと。気にするべきことではないと自らに言い聞かせ、影華は立ち上がる。

 

「それでは、洛陽へ帰還しましょう」

 

 

 一日と経たず帰還した劉弁及び救出隊。目立った外傷は一切無く、疲れも見せなかった。

 詠は影華の実力を素直に認めた上で、深の副官という位置にいるのはなぜかと聞いてみた。

 返ってきたのは

 

「惚れた相手と、家族と言ってくれる相手と、共にいてはいけませんか?」

 

 真っ直ぐに、それでいて美しい。誰もが一度は時が止まったように感じるほどの笑顔だった。

 

 

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【あとがき】

 

おいでませ本編!

こんにちは 九条です。

 

前回、前々回と本編とは関係の無い話を挟みましたが、ようやく更新です

深君が出ることを期待してた方、ごめんなさい

次回(たぶん)でます

 

本当ならこんなに長く反董卓連合をやるつもりなかったんだけど

書いているうちに色々と増やしたり消したり……

#40までには終わらせたいなぁ(遠い目

 

夏コミ2日目行って参りましたよ!

暑すぎ……2L持っていった飲み物は一瞬で溶けました(汗

戦利品はゲームブランド各社、艦これ関係、あとは贔屓にしているサークル様などなど

欲しいものすべてではなかったけど、それなりに満足する分はGETしたかな

山猫部隊のコスはちゃんと見に行ったぜb

 

6日とかに艦これのBGM動画をニコ動に上げたんだけど

カテゴリランク4位とかびっくりしたね、ほんと

さすがは艦これやで……

 

次回は夏モノの投稿予定

暑すぎて、どうも執筆する気になれなくて速度が大分遅くなってるけど

気ままにお待ちくださいね〜

 

あまりにも長く期間が開きそうだったら、また偽√載せるかも……

 

では、次回も楽しんでいただければ〜

説明
おいでませ本編!
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コメント
>アーバックス様 理想の人を目指してます(九条)
>観珪様 必要悪という言葉がありましてね… 最初に考えていた内容と少し変更されてますが、お楽しみに〜(九条)
影華さん佳い女だなぁ…w(アーバックス)
この世に悪が栄えた試しなし! 十常侍の掃除も終わりましたし、残すはいかに月ちゃんたちを守るか、ですね。 深くんがんばれー(神余 雛)
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