怒らせちゃだめですよ?
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「何の騒ぎですか…?台所まで響いてますよ?」

 

途中まではいつも通りの平和な昼下がりだったはずなのだが、にわかに居間が騒がしくなった。

 

騒がしいのもいつも通りと言ってしまえばそうなのだが、今日のは少々不穏だ。

 

台所で茶を淹れていた涼が来てみると、梨と黒犬、そして十助がにらみ合いをしていた。

 

状況を知らずに口を出せば拗れる。経験から察し、涼は困った様に笑っている鶯花にこっそりと聞く。

 

「…鶯花さん…何があったんですか?」

 

「う〜ん…話しても短いよ?」

 

いつもの流れだから。

そう言って、鶯花は涼の背に合うように屈んで、事の顛末を手短に説明する。

 

 

 

「十助くんのあだ名…どうしようかな〜」

 

人をあだ名で呼ぶ苺が、ふと、そんな事を口にしたのだった。

 

「あだ名?…要らねぇよそんなの。名前で呼べば良いだろ」

 

畳に寝転がったり、武器の手入れをしたりと思い思いに過ごして居た中で、名前の出された十助が起き上がって億劫そうに言う。

 

「くーちゃんとかおーちゃんだってあだ名あるじゃない?十助くんにもあった方が苺も呼びやすいもん」

 

何にしよっかな〜と楽しそうな苺に対し、十助は何故かムキになって止めに入る。

 

止めろって。呼びやすいのに。のやり取りを続ける間に、部屋にいた人はあだ名について考えていた。

 

 

黒犬がくーちゃん。

鶯花がおーちゃん。

 

ならば十助は……

 

「あ。」

 

気付いてしまったが、鶯花はなんとか言葉にせずに飲み込んだ。確かに、これは嫌がるだろう。

 

上手く苺を誘導してこの話題を終わらせた方が良い。そう思い、手入れの終わった火縄銃を仕舞い始めた時だった。

 

「あぁ…なるほど。苺のあだ名の付け方だと「とーちゃん」になるのか」

 

からかう意図があったのか無かったのか、無感動に…寧ろ得心がいったと言う風に梨がポツリと溢した。

 

「とーちゃん…あ、そうか、だからお前あだ名嫌がってたのか」

 

そりゃ嫌だよな〜と、こらえ切れずに黒犬が忍び笑いを漏らした。

 

考えに耽って会話に気づいていなかったのか、苺は不思議そうに小首を傾げた。

 

一方で、十助は怒気を隠すことなく立ち、拳は強く握りすぎてプルプルと震えていた。

 

(あ、まずい)

 

「苺ちゃん、お茶にしようか。涼ちゃん呼んできてくれないかな?」

 

「ん?わかった!行ってくるね、おーちゃん」

 

 

苺が障子を閉めた音を合図に、十助が怒鳴った。

 

「黒髪女!!負け犬!!てめぇらよくも笑いやがったな!!覚悟できてんだろーな!?」

 

受けて立つ。と言うように、黒服二人は構えた。

 

 

 

 

 

「…という訳なんです」

 

「…なるほど…」

 

仲間内でも三本の指に入る戦闘能力を持つ三人の喧嘩だ、生半可に止める事も出来ずにこうなっているらしい。

 

かといって放っておくと近所迷惑な上に、現在怪我の手当てをするのは主に涼なのだ。

一つ、息を吐いて涼は声をかける。

 

「三人共、その辺にいてください。部屋の中で暴れるものじゃありませんよ!」

 

「邪魔すんな〜!」

「悪い!ちょっと聞こえねぇ!」

「後で聞く!!」

 

武器を打ち合う音や互いの攻撃をさばきあうせいで聞こえないのか、三人からの返事は芳しくない。

 

鶯花も声をかけるが、変わらない。

 

何度か繰り返すうちに、眉根が下がり、心配から困惑に変わった頃、誰かがこう言った。

 

「うるさい」

 

と。

 

 

ブツンッ

 

 

 

 

その時、鶯花は、何が太いものが切れるような音が聞こえたような気がした。

 

音の元は…隣に立つ、涼。

 

「鶯花さん、少し耳を塞いで下さい」

 

閉眼し、口角だけを上げた涼が手にしたのは、話し合いの時に議事録を書き留めるのに使っている、黒板。

 

察した鶯花が耳を塞ぐと、涼は爪で黒板を思いっきり引っ掻いた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜!!!

 

 

表現しがたい音が部屋に響き、耳を塞いだ鶯花は元より、喧嘩の最中の三人の動きをも止めた。

 

耳を劈く音に悶絶する三人に歩み寄り、涼はキッパリと言い放った。

 

 

「三人共、今からお話をしますので正座していただけますか」

 

後に十助はこう語る。

何時もの笑顔から優しさを消して、閻魔様はっつけたような笑顔だったと。

 

 

 

「涼ちゃ〜ん…あ、いた!!」

 

部屋に苺が戻ると、入口に鶯花が、そして中央付近に正座する三人と、涼。

 

苺に気付いた三人は助かった、と言うような表情をみせた。苺が居れば、さすがにお説教は中断するだろうと。

 

しかし、涼はそれに先手を打つ。

 

何時もの柔らかな笑顔で振りかえり、苺に向けて台所を指さした。

 

「あ、苺ちゃん、台所にお茶と…あと、井戸で桃が冷えてますから鶯花さんと一緒に先におやつにしてて下さい」

 

意図を察し、鶯花は苺を台所へと誘導する。

まだお説教は続くのだと。

 

 

 

障子が閉まると、涼が息を吸う気配がしたので、そっと、苺の耳を塞ぐ。

 

「前から部屋の中で暴れてはいけないと言ってますのにどうして武器まで振り回すんです!!壊れた畳や襖は誰が直すと思っているんですか!?黒犬さん、貴方年長者でしょうに率先して………」

 

 

お説教はまだまだ、あと四半刻はかかるかもしれない。

 

鶯花はそっと心の中で三人に手を合わせた

 

 

桃は仲良く人数分、桶でぷかぷかと涼んでいる。

説明
桂馬さんの企画された「ここのつ者」の企画の交流小説です。 ツイッターで盛り上がった内容を少々変更しております。家族みたいにわちゃわちゃしている彼らが大好きです。また色んな子たちと交流していきたいです。 登場人物:玉兎苺さん・金鳥梨さん・魚住涼・遠山黒犬さん・黄詠鶯花さん・猪狩十助さん
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