とある キスの日記念 短編集3
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とある キスの日記念 短編集3

 

10 インデックスさんの場合

 

『とうまは……わたしのこと、好き?』

 1週間前のあの晩、俺は何と答えるべきだったのだろうか?

 真摯な瞳で尋ねた彼女に何と返すべきだったのか?

 今でも俺は答えを出しあぐねている。

 あの時、他の答えを出していれば今という時が変わっていたのではないか?

 そんなifを心に投げかけながら今も悩み続けている。

『も、もちろん、す、好き、だぞ』

『本当っ?』

 月明かりだけが差し込む暗い部屋の中、彼女は縋るような瞳で首を傾けた。

『ああ…………俺とインデックスは一つ屋根の下で暮らす……家族、だからな』

『家族……ねっ』

 咄嗟の思い付きではあった。家族という単語が飛び出たのは。

 実際、その単語が間違っているとは今でも思っていない。

 記憶を失った俺にとって、いつも一緒にいてくれる家族と呼べる存在はインデックスだけなのだから。

 その意味では間違ってない。

 でも、家族という単語で俺たちの関係を全部表していいのかと訊かれれば……俺には自信がない。分からない。そう。分からないんだ。

『それって、とうまがわたしの弟ってことになるんだよね』

『逆だろ逆! 俺がインデックスのお兄ちゃんってことになるんだろうが!』

『…………とうまがわたしの……お兄ちゃん、か』

 インデックスは右手で額を掻いていた。その表情は照れ臭そうで嬉しそうで、けれど悲しそうで寂しそうでどこか哀愁を帯びていた。

『つまり、わたしととうまは兄妹ってことになるんだね』

『そ、そういうことになるな……』

 インデックスの表情がいつもより大人っぽく見えて俺は調子が狂っていた。心臓の音がやけにうるさく聞こえていた。

 

『それがとうまの考えるわたしたちの関係……家族ってことなんだね』

 インデックスは普段と変わらないはずだった。声色、音程、リズム。普段の彼女と何も変わりはなかった。長い間一緒に暮らしてきた俺が判断するのだから間違いはない。

 でも、それなのに俺は……インデックスが泣きながらその言葉を紡ぎ出したように感じていた。

インデックスを見ていて胸が締め付けられた。悪いことをしている気持ちでいっぱいになっていた。何に対する罪悪感なのかその追求を自分にしないまま。

そして彼女の言葉は核心に至った。

 

『とうまはさ、わたしがとうまのこと好きだって言ったら……どう返事してくれる?』

 

 それは驚かされる問いであり、同時に予想通りの問いだった。

 インデックスの質問が始まった時から、俺はこの問いがいずれ投げ掛けられることを心のどこかで予期していた。

 そして俺は自分のこれまでの返答の意味をようやく理解する。俺は彼女の告白に対する予防線を張っていたのだと。

『もちろん好きだって返すぜ……何たって俺とインデックスは家族なんだからな』

 自分の返答に白々しいものを感じて止まなかった。

 嘘はついていない。嘘は存在しないのに本当のことを述べている感じがまるでしない。

 何なんだよ、これ?

 他人の書いた模範解答を棒読みにしてお茶を濁そうとしているみたいな感じ。

 説教臭いと揶揄される俺らしい熱さ、真摯さが欠片も感じられねえ。何答えてんだ、俺?

『とうまはさ、ずっとわたしのお兄ちゃんでいたいの? わたしに妹でいて欲しいの?』

『えっと、それは、その……』

 家族という単語を最初に持ち出しのは俺。兄ポジションを口に出したのも俺。

 なのに、インデックスの問いに返答できないでいる俺がいた。

『わたしはね。とうまが望んでくれるのなら……妹以外のポジションになりたい、かな』

 俺を見ながら彼女は弱々しく笑った。

 それがインデックスと交わした最後の会話になった。

 

 

 

 翌朝、インデックスは俺の部屋から姿を消していた。

 それから1週間、彼女からは何の音沙汰もない。

 俺は彼女を見失っていた。

 彼女と一緒に自分も見失っていた。

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「カミやんは今日も元気がないんだぜよ」

「大好きな深夜アニメの録画にでも失敗したんとちゃうんか? ボク、1本撮りそこねると1週間は落ち込みますもん」

 5月21日昼休み。インデックスが俺の前から姿を消してから1週間が過ぎていた。

 インデックスに関する情報は全く入ってこない。俺は自分の無力ぶりを噛み締めながら登校して机に突っ伏して落ち込んでいるだけの日々を過ごしていた。

 そんな俺を心配して土御門や青髪ピアスはよく話し掛けてくれる。友達甲斐のあるいい奴らだ。けれど、俺の方には返答するだけの気力が湧いて来ない。悪いと思いながらも放置状態が続いていた。

「カミやんを元気にできる素敵アイテムとかはないのかにゃ〜?」

「もちろんありまっせ。どんなに心に深く傷を負った重病人さんでも立ちどころに元気になれる素敵アイテムですわ」

 今度はテレビショッピングのようなノリのいい掛け合いを始めた2人。

「それでは、そのとっておきのアイテムを紹介して欲しいんだにゃ〜」

「オーケー分かったで〜」

 青髪ピアスは自分の鞄を開けて1枚のBDケースを引っ張り出した。

「古今東西お兄ちゃんを元気にするのは魔法少女アニメと相場が決まっておりますやん」

 ……決まってねえよ。

「そうだにゃ〜。俺っちも魔法少女は大好物なんだにゃ〜。義理の妹メイドの次に」

 ……土御門は義妹の土御門舞夏のこと以外はどうでもいいんだよな、確か。

「そんなわけでぇ〜妄想の翼を広げれば男の子の色んな所が色んな意味で元気になる魔法少女モノアニメの中でも、今回は僕とびっきりのお薦めの1品を用意してきたんやぁ」

 ……本来は女児向けアニメを汚れた目で見すぎだろ、それは。

「魔法少女カナミンBD第1巻。王道モノの魔法少女で今回は決まりやっ!」

「!?」

 『魔法少女カナミン』という作品名に一瞬全身が反応した。カナミンはインデックスが大好きなアニメだったから。

「おっ! カミやんが反応を示したんだにゃ〜」

「やはりかみやんも健全な男の子。魔法少女の魅力には逆らえないんやなあ」

 好き勝手なことばっか言ってくれてマジうぜぇ。カナミン好きは俺じゃなくてインデックスだっての。

「かみやんを元気にする方法が分かった以上、ボクの家にある全てのカナミンBDを持って来るでぇ。5時間目は遅れるって小萌先生に伝えておいてくれやあ」

「カミやんの男の子を元気にするため。きっと先生も許してくれるに違いないんだにゃ」

 許してくれるわけがないだろうが。

「ほんじゃ。僕はちょっと家に帰ってまたきますわ」

 教室から駆け去っていく足音が聞こえた。青髪ピアスの奴、本当にBDを取りに家に帰ったらしい。

 アイツに悪いことしたと謝罪すべきなのだろうか?

 それとも青髪ピアスの無謀を嘆くべきか?

 まあ、どっちにしてもそれはアイツが帰ってきてから考えればいい。まずはそれよりも……。

 

 

「なあ、土御門」

 机に突っ伏した体勢のままもう1人の友人に声を掛ける。

「何だにゃ?」

 すっとぼけた声を出す土御門。コイツは何ていうか、食えない男だ。いつも腹の中になんか隠してやがる。だからこそ信頼が置ける奴でもあるのだが。

「インデックスの行方について未だに何も掴めないのかよ?」

 余計な会話は省いて本題に最初から入る。

「少なくとも俺の元へはあの子の行方に関する情報は入ってきていないんぜよ」

「本当は知っていて俺に隠してるんじゃねえのか?」

 コイツは知っていても知らないと平然と嘘がつけるヤツだ。だから、知らないと言われてもはいそうですかと簡単に引き下がってしまっては意味がない。

「俺たちには隠されていると言った方が状況的にはきっと正しいんだにゃ」

「それはつまり、教会側はインデックスの居場所を知っているけれど、土御門はそれを知らされてないってことか」

「ご明答なんだにゃ〜」

 拍手の音が聞こえてきた。

「何故そう思う?」

「あの子……禁書目録が本当に行方不明になったとするなら、教会側の動きが静か過ぎるんだにゃ〜」

「教会側が静か過ぎる?」

 2センチほど顔を上げる。

 

「もし、敵対勢力にインデックスが誘拐でもされたのなら、俺の所に事実確認の連絡がひっきりなしに来るはずなんだにゃ〜」

「でも、それがないと?」

「ああ。俺がインデックスの失踪を知ったのはカミやんの口を通してだったからにゃ。教会からの問い合わせは1度もないんだぜよ」

 顔をもう1センチ上げる。

「カミやんの話を聞いてから俺の方でも教会に何度も尋ねてみた。けれど返答は“問題ない”の一点張り。少なくとも教会は今回のあの子の失踪について問題視していない」

「教会はインデックスの行方を知っており、そこに事件性を感じていないから?」

「まあ、そう見るのが妥当なんだにゃ〜」

 顔を更に2センチ上げる。

「土御門に知らさないのは?」

「俺っちがカミやんと繋がっているからだろうにゃ〜。俺っちを通じてカミやんに情報が伝わることを阻止したいんだろうぜよ」

 顔を更に5センチ上げる。

「じゃあ、教会は俺にインデックスの行方を知らせたくないってことか」

「まっ、そう考えるべきだろうぜよ」

 上半身を半分起こす。

「何故なんだ?」

「教会の意思なのか、それともインデックス本人の意思なのか。情報封鎖に遭っている俺には分からないんだにゃ〜」

「インデックスの意思かも知れないってのかよ!」

 上半身を完全に起こす。

「その可能性もあるってだけの話だにゃ。今の段階では全く分からんぜよ」

 土御門はサングラスを掛け直しながら頭を振った。

「インデックスがどうして俺に黙っていなくなるんだよ? 何の理由があるってんだよ」

「それはカミやんの方がよく知っているじゃないのかにゃ? 何せ一緒に暮らしているのだし」

 土御門の言葉を聞いてインデックス失踪前夜のことを不意に思い出した。

 

『とうまはさ、わたしがとうまのことを好きって言ったら……どう返事してくれる?』

 

 インデックスがいなくなった理由と直結しているのかは分からない。けれど、あの晩俺が彼女に悲しませたことは紛れもない事実だった。彼女の弱々しい笑顔が今も脳裏に焼き付いて離れない。

「畜生っ!」

 苛立ちの声と共に舌打ちが出た。自分に対して腹が立って仕方ない。

 

「土御門……俺は一体どうしたらいいと思う?」

 険しい表情で友人に問う。

「インデックスの居場所は分からない。だから今、カミやんにできることはないんだにゃ」

「でも、それでも俺にできることはあるんじゃねえのか?」

 土御門は首を横に振った。

「インデックスはしばらく待っていれば帰ってくるに違いないんだにゃ」

「けどよ!」

「もし仮に、教会が悪意をもってインデックスを隠匿している場合、それは教会内の緊張となり、情報という形で俺の耳に入ってくる。耳に入ってカミやんがインデックスを取り戻しに乗り込んで来たら下手をすれば魔術と科学の全面戦争になりかねない。教会とてそこまでバカではないんだにゃあ」

「インデックスが危険な目に遭っていないってんならさ……まあ、いいんだけど。けどよ」

 唇を噛み締めて胸から沸き起こってくるものをジッと耐える。

「とにかく、情報が入ってくるまではカミやんはのんびりと英気を養っていればいいんだにゃ。彼女が戻ってきた際にカミやんが元気でなければあの子が悲しむだけだぜよ」

「……………そう、かもな」

 土御門の話に全て納得したわけじゃない。けれど、土御門が俺をとても心配してくれているのは分かった。

インデックス不在のこの1週間、食事もまともに採らず、睡眠も十分に取っていない。

 確かにこんな状態が続いたのではインデックスが帰ってくる前に俺が倒れてしまう。それは絶対に彼女の望みとは一致しないだろう。

「俺って無力だなあ。待つことしかできないなんて」

「戦場では無敵の力を発揮するカミやんも、所変われば普通の男子高校生に過ぎないってことは理解していたおいた方がいいぜよ」

「右手の力で解決できることなんてそんなに多くはないよな……」

 右手をジッと眺める。世界は救えても女の子1人救えないこの手を。

「まっ、今回は普段とインデックスとポジションが入れ替わったと思って、あの子がどんな気持ちでカミやんを待っているのか知るいい体験なんだにゃ〜」

「インデックスは……いつも、こんな不安な気持ちで俺の帰りを待っているのか……参ったな。こりゃあ入院して帰ってくる俺よりキツいぜ」

「あの子の気持ちが分かったんなら……帰ってきた時は優しくしてあげるんだぜよ」

「あ、ああ。そうだよな」

 土御門は小さく微笑むと俺の前から去っていった。

 

「上条くん……お弁当作りすぎて余ってるから……一緒に食べよ」

「健康パンもあるぞ」

「姫神、吹寄っ」

 振り返ると姫神と吹寄が立っていた。

 土御門、青髪ピアス、姫神、吹寄。俺には心配してくれるいい仲間がいてくれる。

 それはとても幸せなこと。

 俺はみんなに支えられて生きている。

 そんな当たり前の事実を改めて知った。

 少しだけ……元気が出た。

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「あのぉ〜姫神さん。これはもしかするとデートというヤツなのではないでしょうか?」

 ちょっと洒落た喫茶店で高校生の男女が向かい合って座る。青春真っ盛りを連想させるこの構図に慣れなさと居心地の悪さを感じながら姫神に戸惑いの視線を送る。

「放課後に親しい仲の高校生男女が2人きりで喫茶店に立ち寄ることをデートと言うのなら。これはデートに違いない」

 姫神はほぼ無表情のまま答えてみせた。

「ちなみにデートに誘ったのは上条くん。私はデートに誘われて受け入れた側。私はデートに誘われて受け入れた側」

「そんな無表情のまま2度繰り返さなくてもいいっての」

「大事なことだから2度言ったの。私はデートに誘われたのだから」

 姫神の無表情はいつもと変わらない。けれどとても嬉しそうな雰囲気をまとっている。

「デートデート連呼しないでくれ」

 俺は350円もする高いコーヒー(この店で一番易いメニュー)を口に含みながら苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「それで上条くんが私をデートに誘ってくれた理由は何?」

 姫神はデートという単語をやけに強調しながら尋ねてきた。

「それはだな……」

「私に上条秋紗になって欲しいとか? 学生結婚を決意したとか?」

 無表情のままどこか期待が篭った瞳が俺を見ている。

「違うっての」

 俺は彼女からわずかに目を逸らした。

「デートが度重なればやがてはそうなる。私はお母さん。上条くんはお父さん」

「さっきより話進んでるっての」

「じゃあ……何で?」

 姫神が顔を近付けて覗き込んでくる。彼女は俺との放課後のひと時を楽しんでくれている。俺に対する好意が本気なのか冗談なのかはよく分からないけれども。

 そんな女の子に対してこれから述べる話題が失礼に当たることぐらいは俺でも分かる。でも、聞かないわけにはいかない。そのために彼女を誘ったのだから。

「そのさ……インデックスのことを聞きたくて。アイツのこと、尋ねられる人って限られてるからさ」

「…………そう」

 俺の返答に周囲の空気が一瞬にして冷えた。

「そんなことだろうとは思った」

 いやに淡々と喋る姫神が怖い。

「あの、怒ってますか?」

「私が怒っているか訊いてどうするの?」

 姫神の瞳が鋭い。怒っているのはもう間違いない。

「えっと、あの、そのですね…………すみませ〜ん。こっちのテーブルにジャンボフルーツパフェを持ってきてくださ〜いっ! 大至急でお願いしま〜すっ!」

 俺にできることは彼女への誠意を精一杯見せてご機嫌を取ることだけだった。

「上条くんは女の子を物で釣るんだ。サイテー」

「カタカナでサイテーって言われちゃったよ!」

 頭を抱えて落ち込む。デート経験のなさが裏目に出てしまった。

「じゃあ、パフェはキャンセルの方向で……」

「デート相手がせっかくご馳走してくれるのだから食べるに決まってる」

 姫神は勢いよく首を横に振った。

 女ってよく分かりません。

 

「それで……あの子の何について聞きたいの?」

 口の周りをクリームでベトベトにしながら姫神は尋ねてきた。真剣な表情と口周りのクリームがコントラストを成してすごくシュールな光景だ。

「アイツの様子が知りたいなって思ってさ」

「あの子のことなら……同棲中の上条くんの方がよく知っているんじゃないの?」

「同棲じゃなくて同居だっての!」

 大声で反論する。

「年頃の男女が同じ部屋に住んでいるのにそんな風に言われても説得力の欠片もない」

 姫神はキッパリとした口調で更に反論してきた。

「けど、俺はインデックスとはそういう関係になったことは1度もないし……俺が寝ているのは風呂場だし……」

「上条くんは紳士なんだと思う。でも……それはあの子が望んだことなの?」

「えっ?」

 姫神は俺から目を逸らさずに静かに続けた。

「上条くんはあの子と正面から向き合うことを本当は恐れている。あの子のあなたへの真っ直ぐな恋心に向き合えないでいる」

「…………っ!」

 姫神の言葉は辛辣で的確だった。

「上条くんは男女交際のモラルを強く打ち立ててあの子の想いと向き合わないことを正当化している。あの子の好きと向き合うのが怖いから」

「…………その通りだよ」

 小さく息を吐き出す。

「俺はインデックスとの間柄を兄妹という枠に押し込めた。そうでないと……アイツにどう接したらいいのか分からなくなるから」

「…………女の子は上条くんが思っている以上に大人」

 姫神の言葉が胸にチクッと刺さる。

「分かってる。インデックスを子供扱いしていれば済むと思っているのは俺の願望に過ぎないってことぐらい」

「上条くんは自分が思っている以上に子供」

「それもこの1週間で十分なほど身に染みました。自分のガキさ加減に嫌になったよ」

 大きく息を吐き出しながら姫神の言葉を認める。自分の前提が過ちだったことを認める。

 大きな喪失感が俺を襲っている。けれど、同時に息苦しさも減った。船から投げ出されて穏やかな海面にプカプカ浮かんでいる。そんな感じだ。

 

「俺……何やってたんだかな」

 インデックスのためと思い込みながら取ってきた行動が実は全部弱い自分のためだった。

 ヒーロー気取ってきた男の正体がこれかと思うとガッカリだ。

呆然と天井を見上げていると視界が霞んでくる。

「誤解しないで欲しいのは……私は…上条くんを非難したいわけじゃない。その逆」

 姫神の声と表情には少しの焦りが含まれていた。

「上条くんが女の子の気持ちをもっと汲んでその望みのままに行動する人だったら……あなたとあの子はまだ社会的には許されない関係にきっとなっていたはず」

 姫神に何と返せばいいのか分からない。ただ天井を見上げ続ける。

「そうなってないから私にも……まだ……」

「まだ?」

 よく分からない話が出たので問い返す。

「何でもない」

 姫神は首を横に振った。

「とにかく……上条くんが女の子の気持ちに鈍感で意固地なのは間違ってなかった」

「少しも褒められている気がしないんですが?」

 鈍感で意固地って……いや、確かに俺はそんな人間だけどさ。

「でも……その間違っていない選択はあの子を苦しめている」

「だよな。大事なのはそこだよな」

 ため息が出た。情けない自分が嫌になる。

「違っ! 私はそれを言いたいんじゃなくて……」

「姫神が俺を元気づけようとしているのは分かったから気持ちだけもらっておくよ」

「……上条くんはやっぱり鈍感。私の気持ちも全然分かろうとしてくれてない。これじゃあ私。上条くんに厳しい意地悪な女の子にしかなってない。逆のことが言いたいのに」

「へっ?」

「もういい……私は意地悪な魔女役。もうそれでいい」

 姫神は表情をムスっとさせて口を膨らませた。

 

「でさ、本題だけど」

「何?」

 不機嫌を解いてくれない姫神に恐る恐る話し掛ける。

「俺が学園都市を離れていたり入院中だったりする時のインデックスってどんな感じなんだ?」

 俺があの家を離れている間、インデックスは小萌先生、もしくは姫神の所にお世話になっている。その間アイツがどのように過ごしているのか聞いたことがなかった。

「………………ずっと祈ってる」

 姫神は小さな声で静かに答えた。

「あの子はうちにいる時も小萌先生の家にいる時も、ずっと窓際で空を見上げて祈ってる」

「そっか。ちょっと意外な行動を取ってるんだな」

 姫神や小萌先生からインデックスが何か問題を起こしたという話は聞いたことがない。2人が俺に遠慮しているのかと思っていたけれど、そうではなかったらしい。

「俺はアイツが祈ってる姿なんてほとんど見たことがない。いっつも遊んでるか食べてるか寝てるかでさ」

 俺の前でほとんど祈りを捧げたことがないシスターが俺のいない所で静かに祈りを捧げている。それは想像すると何だかとても悲しくて胸が苦しくなる光景だった。

「女の子がね。生き生きと振る舞えるのは。一緒にいてくれる人を心から信頼している時だけなんだよ」

 姫神の言葉はとても優しかった。

「…………そっか」

 彼女の言葉は俺の胸に大きく響いた。

 インデックスの笑顔、怒り顔、空きっ腹、満腹時の表情などが次々と浮かんできた。

「私だって……上条くんの前だから。生き生きとして振る舞えるんだよ」

 期待の篭った瞳が俺へと向けられる。

「そう、なんだ。あっ、うん」

 どう答えたら良いのか分からず戸惑いながら相槌を打つ。

「脈…なさすぎ。上条くんは釣った魚にもっとエサを与えるべき。あの子はまだ中学生ぐらい。下手をすると小学生かも……上条くんのロリコン」

 姫神の頬がプクッと膨れ上がった。

「いやいやいや。ロリコンって言うのはちょっと勘弁してくださいよっ!」

 何か急に話の風向きが変わってしまった気がする。そして俺の社会的ステータスが最悪な方向に舵取りされた気がする。

 

「話の続きはうちでする。話が長くなるから上条くんはうちで夕飯を食べていって」

 姫神は立ち上がってスタスタと出口に向かって歩き始めてしまった。

「女子高生の家で2人きりで夕飯って言うのは倫理的にちょっとまずいんじゃないか?」

「幼さ残る少女とは食事はおろか同じ部屋で寝ているロリコン上条くんが倫理を語るの?」

「…………分かりました。姫神のおうちに寄らせてもらいます」

 そう答えるしかなかった。姫神の怒りを解くためにはそれしかない。

「美少女女子高生の自宅訪問イベントの発生。上条くんはラッキースケベ」

「どっちかというと回避不能な強制イベントに突入した感じなんですが……」

「きっと私はシャワーを浴びている最中に上条くんに裸を覗かれる運命にある」

「姫神は俺をどんな男だと思ってるんだよ!?」

 とんでもない言い掛かりだった。でも、姫神は少しも悪びれた様子を見せない。それどころかとても冷たい視線を俺にぶつけてきた。

「あなたに関わった女の子たちの総意を口にしたまで。あなたは今までに何人の女の子の裸を覗き見てきたの?」

「俺、ものすげぇ誤解を受けてる。上条さんは硬派を貫く今時珍しい若者なのに……」

 脱力する。また一つ自画像が崩れた。俺って一体、どう認識されてんだよ?

「落ち込んでないで早く会計を済ませて私の部屋に行く。ご馳走になった分は美味しい手料理を振舞って返すから」

「フッ。上条さんは料理にはちょっとうるさいですよ。何せ食欲魔人相手にずっと腕前を鍛えていたのだからな」

「フッ。私の料理の腕に驚くがいい」

 姫神がちょっとだけ笑ったように見えた。

 こうして俺はインデックスの話をもっと聞くべく姫神の家へとお邪魔することになったのだった。

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「それでカミやんは姫神の家にお邪魔して一緒に夕飯を食べたと」

「ああ。成り行きでそうなった。姫神は俺に勝負を挑んでくるだけあって料理の腕前は確かなもんだった。身近にいるライバルってやつだな」

 5月22日の放課後。俺は補習が始まるのを待つかたわら昨日の放課後の出来事を土御門に報告していた。

「まさかカミやんが姫神ルートに突入するとは思わなかったんだにゃ〜」

「何だよその姫神ルートって?」

 土御門の奴、やたらニヤニヤして気持ち悪い。

「カミやんは姫神の手料理を食べたんだにゃ?」

「ああ」

「その後、カミやんのことだから、姫神の裸を覗いてしまうようなイベントが起きたんだじゃないのかにゃ?」

 土御門の口が左右ににぃ〜と広がった。

「確かに食事の後で風呂場から姫神の悲鳴が聞こえたから慌てて飛び込んで行ったら……ゴキブリを見て驚いている裸の姫神と遭遇はした。で、思いっきり叩かれて怒られたさ」

 姫神に思い切り引っぱたかれた右の頬は今でも赤く腫れ上がっている。

「まさか本当にラッキースケベイベントを引き起こしてしまうとは……さすがはカミやんなんだにゃ。恐ろしいにゃあ」

 土御門の額から冷や汗が流れ出ている。

「それで、何だかんだでそのままお泊りなんて展開になったんじゃないのかにゃ?」

「…………なったさ」

 小声で呟く。

「……風呂場の一件で水を掛けられて着るものが全部濡れてしまってな。コンビニで着るものを買おうとしたんだが、急に大雨が降ってきて身動きが取れなくなってな。結局、そのまま姫神の家に泊まったんだよ」

「なるほど。それでカミやんは姫神と熱い夜を過ごしたと。今頃姫神のお腹には新しい生命の息吹が芽生えているんだにゃ〜」

 土御門はウンウンと頷きながら感動の涙を流している。

「そんなわけあるかっての!」

 土御門の後頭部を引っぱたく。

「昨夜もちゃんとバスルームで寝ました。姫神には指1本触れてません」

「ああ。だから今朝から姫神はあんなに不機嫌だったのかにゃ。納得なんだぜよ」

 土御門は再びウンウンと頷いてみせた。

「何で紳士を貫いたのに姫神があんなに不機嫌なんだか……分からねえ」

 今朝、バスルームで目を覚ましたら制服姿の姫神がすっごい膨れっ面で俺を睨んでいた。全くもって理解不明。

「それが分からない所がカミやんのカミやんたる由縁なんだにゃ〜」

 馬鹿にする笑い声が俺の耳に届いた。

「まあ、泊まった件はどっかに置いておくとしてもだ。姫神のおかげで俺の知らないインデックスの話がたくさん聞けたよ」

「そっか。それは良かったぜよな」

 黒板を眺める。

「俺が知っているインデックスと姫神の知るインデックスは結構違うんだ。インデックスのことを何でも知っていた気になっていたけれど、全然そんなことなかったんだ」

 力なく笑う。俺はまだまだ彼女のごく一部しか理解していない。

「なら、インデックスが帰ってきたら、もっと彼女のことをちゃんと見てやらないとにゃ」

「ああ、そうするよ」

 返事をした所で補習担当の小萌先生が教室内へと入ってきた。

 

 

「いいですかぁ、無能力者でマゲッツ(蛆虫)ちゃんのみなさん。所詮この世は弱肉強食。強ければ生き弱ければ死ぬのです。これがこの世界のルールなのです」

 小萌先生の補習授業が始まった。

「この学園都市が学生たちを能力の強弱に従いレベル分けして経済援助格差を露骨にしていることはレベル0のみなさんが一番よくご存知のはずなのです。この都市の教育には他の地域では敢えて見せないようにしている資本の論理が露骨に組み込まれているのです。10代にしてこの仕打ちではスキルアウトが大量発生するのも無理ないと思うのです」

 先生の熱い語りはぶっちゃけ過ぎていてハラハラさせられる。いいのか、学園都市所属の教師がこんな学園都市批判をあからさまに行って。

「ですがみなさんは社会からドロップアウトしてはなりません。自分自身のために。家族や友人のために。そして何より先生のために」

 自分と先生の順番逆にした方が良いんじゃないだろうか?

「どうせ学園都市を出たら能力を使うことは禁止されてるんです。更に都市の外では高位能力者は危険人物扱いされているのが一般的です。今は耐え難きを耐え、学園都市を出たら高位能力者よりもいい所に就職できるように就職スキルを磨くのが吉なのです♪ 能力幻想にいつまでも囚われてスキルアウトになるなんて愚の骨頂なのです♪」

 ニッコリと微笑む小萌先生。この人は俺や一方通行よりも激しくこの学園都市に対して反旗を翻しているのかも知れない。

「ですが、無能力者のマゲッツちゃんたちは、学業でも一般教養でも専門スキルにおいてもダメダメちゃんであることが多いのです。お前らそんなことじゃ学校出ても就職できねえのです。性根を入れ替えろなのです」

 小萌先生の言葉は手厳しい。そして真実だった。

 能力開発はある程度までは優等生的な気質や飲み込みの速さで決まる。先生に言われた通りにできる子や要領の良い子はレベル3ぐらいまでは結構誰でもなれるらしい。

 優等生のはずの吹寄のレベルが悪いのは能力開発に対して内心での反発が大きいからだろう。学園都市に来た経緯は人それぞれ。誰もが能力を好きなわけでもない。

「マゲッツちゃんなみなさんが就職するためにまず必要なスキルは、自分をよく観察し、自分のことを正しく他の人に伝えることなのです。学もスキルもなくて自己アピールもできねえ輩に職を与えてくれるほど今の日本には余裕がねえのです!」

 能力開発のための補習のはずが就職講座になっている。でも、先生の言うことももっともだった。

 俺はインデックスに自分の気持ちをきちんとは伝えてこなかった。紳士であろうする気概ばかり見せてきただけで。

「毎日一緒にいたってのに……気持ちを伝えるって難しいんだな」

 ため息が漏れ出る。

 

「というわけで今日はマゲッツちゃんたちに自己アピールの練習をしてもらいます。具体的にはみんなの前で告白をしてもらいますです」

 告白という単語が出て教室内からどよめきが起きる。

 姫神と吹寄は険しい表情で小萌先生を睨んでいる。一体、何故だ?

「それじゃあマゲッツちゃんを代表して上条ちゃん。教卓の前に出てくるのです」

「えっ? 俺っ?」

「そうなのです。さっさと出てきやがれなのです。教師の言うことを聞きやがれなのです」

 小萌先生にご指名を受けてしまったので仕方なく教卓に向かって歩き出す。

「上条当麻……気を付けろ」

「あの年増……あの子がいない現状を好機と捉えて一気に勝負に出たのね。上条くん油断してはダメ」

 左右から俺のワイシャツの袖を引っ張りながら警告をくれる吹寄と姫神。彼女たちはこれから俺が何をされるのか確信しているようだった。

 そしてそれはどうやら俺に暗雲をもたらすものであるらしい。

「まっ、心配すんな」

 2人の頭に軽く手を置いて撫でる。

「小萌先生を恐れてるようじゃ……本当に大切な言葉を届けるなんてできないからな」

 インデックスの笑顔を思い浮かべながら前に向かって再び歩き出す。

 

「くっくっく。よく逃げ出さずにここまで来たのですよ、上条ちゃん。あっはっはっは」

「どこの悪役のセリフだよ、それは?」

 教卓の前に辿り着くと腕を組んでふんぞり返っている小萌先生が高笑いしている。

「上条ちゃんへの課題はただ1つ。先生への愛の告白の言葉をみんなの前できっちりと述べることなのですっ!」

 先生は1枚の紙を手で叩きながら高々宣言してみせた。

「その手に持っている紙は一体何でせうか?」

「婚姻届に決まっているのですよ」

 先生は邪悪な笑みを浮かべた。俺は今まで数々の悪党と渡り合ってきた。だが、こんなにも欲望に満ち満ちた邪悪な表情を浮かべた人間とは出会ったことがない。

 小萌先生は……コイツは、本物の悪だっ!

「上条ちゃんの先生への愛の告白にちょっとでも誠意が欠けていると判断すれば……この婚姻届を役所に提出するですよ。罰として先生の人生を一生背負わせてやるのです。同じお墓に押しかけてやるのです」

「……なんて邪悪なことを思い付くんだ」

 まさか、補習を盾にして生徒に結婚を迫る女教師が実在するだなんて……。

「上条ちゃんの愛の告白が誠意の篭った真実のものであるならば……先生は上条ちゃんの告白を受け入れて、この紙を役所に提出するのです。2人は晴れて結ばれるのです。げっへっへっへ。なのです」

 婚姻届を撫でながら高笑いを奏でる小萌先生。

「結局どう述べても結果は同じじゃねえか!」

 誠意があったら結ばれて結婚。誠意がなければ罰で結婚。こんな恐ろしいトラップがこの世に存在していいのか?

「あっはっはっはっはなのです。シスターちゃんがいない今こそ絶好の好機。一気に勝負を決めさせてもらうのですよ」

 小萌先生がギラギラした瞳で俺の尻から背中に掛けてを撫で回している。まさにケダモノ。先生は本気で俺を生贄にして独身生活にピリオドを打つつもりだ。

 だが、そんな狼藉を見過ごせない正義の少女たちが俺の周りにはいてくれた。

 

「先生は間違っているっ!」

 姫神が立ち上がって抗議する。頼もしいぜ。

「上条くんが告白し結婚するのは。昨夜同じ部屋で一夜を共にしたこの私が相応しい」

 姫神は自分の胸を叩いてみせた。

「あっ……2人きりの秘密をついみんなの前で話してしまった」

 どこかわざとらしく言い訳を述べながら頬を赤らめる姫神。

男子生徒たちの怒声と怒りに満ちた視線が俺へと突き刺さる。畜生……お風呂で遭遇ハプニングはあっても、結局指1本触れなかったというのに。

「ええい、静まれ馬鹿男子どもよ」

 続いて立ち上がったのはおっぱいの付いた頼れるイケメン女子高生の吹寄だった。

「ちなみにあたしも上条には何度も裸を見られている間柄だ。胸のほくろの存在も知られてしまっている」

 イケメンは照れ臭そうに頬を染めた。

 そんな吹寄の言動を見て、男子生徒たちの怒りの視線が更に激しくなる。状況は確実に悪化している。

 姫神も吹寄もこの事態を鎮圧するために立ち上がったんじゃないのかよ?

「即ち、上条当麻に告白されて妻になる権利はあたしにもあるというわけだ」

 腕を組んでその大きすぎる胸を強調しながら語る吹寄。コイツは俺に助け舟を出しているのかそれとも沈めに来たのか。現状的には後者が近い。

「なるほど。姫神ちゃんも吹寄ちゃんもここで決着を付けようというわけなのですね」

 1人小萌先生のみは吹寄たちの行動の意味を理解しているらしい。

「面白い……先生の半分の時間も生きていない小娘どもの挑戦を受けてやるのです!」

 小萌先生が姫神たちを睨む。吹寄たちも先生を睨み返した。殺伐とした空気が3人の間を包み込む。レベル5同士のマジバトル発生時みたいな雰囲気だ。

 

「上条ちゃん。お題を変えるのですよ」

 先生は手をパンっと叩いて場を静めると凛とした声を発した。

「上条ちゃんが誰を好きなのか……この場でハッキリとさせてくださいなのです。誰のことを愛しているのか、上条ちゃんの口から誤魔化しなしで聞かせてください」

「えっ?」

 先生の質問替えは唐突だった。けれど、その声は俺の胸の奥にまで突き刺さっていた。

「誰でも……つまり今この教室にいなくてもいいということ」

 姫神が澄んだ声で小萌先生の話に付け足す。

「この場にいないことが理由で除外されるのはフェアではないからな。上条当麻は心の命じるままに本当に好きな女子の名前を挙げればいいさ」

 吹寄の声はいつものようにサバサバしている。でも、どこか温かい。

「上条ちゃんがずっと一緒にいたい女の子をど〜んと告白しちゃってくださいなのです♪」

「上条くんの好きな子を教えて欲しい」

「上条当麻の渾身の選択だ。如何なる回答であれ我々はそれを受け入れるだけさ」

 3人は俺を見ながら力強く頷いてみせた。

「お前ら……」

 小萌先生たちの笑顔を見てようやく気が付いた。吹寄たちが何のためにこんな仕掛けを準備してくれたのかを。

「カミやん。男の見せどころなんだにゃ〜。自分の想いに正直に、な」

「まさかこんなギャルゲー的シチュエーションをこの目で実際に見ることができるなんてなぁ。かみやん。これは誠心誠意、心を篭めて答えんとアカンでぇ」

 土御門と青髪ピアスが後ろから俺の両肩を叩いてくれた。

「ああ、分かってる。俺はもう……逃げない」

 2人の親友に力強い口調で返す。

 俺はみんなに支えられてここまできた。

 なら、最後の1歩ぐらいは自分の力で踏み出さなきゃならない。

 いや、踏み出してみせる。

 大きく息を吸い込みながら心の中を落ち着けていく。

 好きな女の子と言われて思い浮かんだのは1人しかいなかった。

 だから俺は、この場でその子に対する想いをきちんと口にしたい。

 そんな衝動に溢れている。

 その胸を焦がす熱い衝動を原動力に俺は口を開いた。

 

「俺が好きな女の子は────」

 

 俺は初めてその子への恋心を口にしてみせた。

 

-5ページ-

 

「とうま……ただいま」

「おかえり……インデックス」

 5月23日夕方。インデックスは約10日ぶりに俺の部屋へと帰ってきた。

 彼女は昼に遊びに出た子どもが夕方にお腹が減ったので帰ってきたようなごく自然な様子で部屋へと入ってきた。

「やっぱりこの部屋に戻ってくると……落ち着くんだよ」

 クッションの上に座ってお茶を飲むインデックスがほっこりした表情を見せる。和んでいるのがよく見て取れる。

「そっか」

 彼女がお茶を飲み終えるのを待ってから聞いてみることにする。

「そのさ……この10日間、どこに行ってたんだ?」

「ほへっ? わたしが書いた手紙を見なかったの?」

 インデックスは大きく首を傾げた。

「手紙?」

「うん。急に出発することになったから、とうまに手紙を書いてこのテーブルに置いて……あっ」

 インデックスが途中で喋るのを止めて顔を引き攣らせた。

「ポケットの中に……手紙を入れっ放しだった……」

 インデックスはプルプルと身体を震わせながら修道服のポケットから1通の白い便箋を取り出してみせた。

「インデックスが出発前に俺に連絡を取ろうとしていたのは分かった」

 どうせなら電話なりメールなりで知らせてくれれば。そうは思ったものの、彼女なりに自筆の手紙で誠意を示したかったのだろうなあと推測する。

 

「で、結局どこに行ってたんだ?」

「イギリスに戻ってたんだよ。飛行機移動が疲れたんだよ」

 インデックスは息を吐き出しながら首を回した。

「何をしにイギリスに?」

「わたしの身分を学園都市の正規滞在者に変えてくれるって話がきたの。それでこれを契機にちゃんとしようと思って。でも、どうなるか分からない面があったから、とうまをガッカリさせたくなくて目的は秘密にしてたんだよ」

「…………そっか」

 インデックスが家を出た理由は普段は意識しないけれど切実な問題のためだった。

 何しろ彼女は本来学園都市に入ることも住むことも許可されていない不法滞在者。加えて日本人でもないから不法入国さえもこれに加わってしまう。

 そんなインデックスは大手を振って街を歩くこともできない。何しろアンチスキルやジャッジメントに尋問されたらあっという間にお縄になってしまう。

 もちろん学校にも通えない。自分の名前で何か契約を結ぶこともできない。いつも明るい表情を浮かべて街を歩いているけれど、インデックスはとても不安定な地位にいた。

「それで、身分の書き換えは上手くいったのか?」

「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたんだよ」

 インデックスは立ち上がりながら踏ん反り返ってみせた。

「なんと今のわたしは……留学生身分でこの学園都市にいるんだよっ!」

 インデックスは自信満々に答えてみせた。

「留学生? じゃあ、学校に通うのか? そりゃあスゲェっ!」

 インデックスが学校に通うと聞いて俺まで興奮してくる。インデックスが普通の生活をできるのだと思うと胸がとても熱くなってくる。

 

「で、どこの学校に通うんだ?」

「どこかはとうまに当てて欲しいんだよ」

「そうだなあ……」

 インデックスの全身を改めてジッと見る。

 年齢は12〜14歳ぐらい。

 とはいえ、わざわざ留学生身分を使ってまで小学校に入学したりはしないだろう。

 となると……。

「常盤台中学か?」

 御坂や白井や操祈ちゃんという知り合いがいるお嬢さま学校の可能性が一番高いはず。

「違うよ」

 インデックスは首を横に振った。

「じゃあ、柵川中学か? 佐天さんや初春がいるから」

「それも違うよ」

 インデックスは再び首を横に振った。

「なら、イギリス人らしくインターナショナルスクールか? そういう学区あったよな?」

「知り合いもいない学校に通ったりしないもん!」

 インデックスは3度首を横に振った。

「じゃあ、一体どこなんだよ?」

 インデックスの知り合いがいる他の中学なんてあっただろうか?

「どうして一番可能性が高い学校を挙げないかなあ?」

「どうしてって言われても、俺が知ってる中学校はそんなにないぞ」

「中学校って…………はぁ〜」

 インデックスは大きくため息を吐いた。

「わたしはね、完全記憶能力を持ってるすごい子なんだよ。できる子なんだよ」

「自分ですごいとかできる子とか言っちゃいけません」

 母親っぽく注意する。

「わたしの能力をもってすれば、飛び級も可能なのです。えっへん!」

「えっ? 飛び級……」

 ドキッとした。インデックスがどこに入学するのか、見当がついたから。

「高校生にだって、なれるんだよ」

 インデックスは照れ臭そうに微笑んだ。

「そ、それじゃあ……」

 ドキドキしながら続きを促す。

「うんっ」

 インデックスは静かに修道服を脱いだ。

 その下に着ていたのは……俺の通う高校の制服だった。

「来週から……わたしはとうまのクラスメイト、なんだよ」

 恥ずかしがりながら告白するインデックスがすげぇ可愛いと思った。

 思わず、見惚れてしまった。

「そっか、これからはクラスメイトか。改めてよろしくな」

「うん」

 彼女の笑顔を見ていて俺は確信する。

 昨日の判断は間違っていなかったと。

 そして俺は、昨日述べたことをもう1度述べなきゃいけない。

 インデックスに向けて。

 彼女に俺の本当の気持ちを伝えないといけない。

-6ページ-

 

「インデックスにちゃんと聞いて欲しいことがあるんだ」

 彼女の手を握りながら彼女に話しかける。インデックスは突然手を握られて一瞬身体を震わせたがそのまま俺を見上げてくれた。

「なあに?」

「俺さ……」

 いざとなるとやっぱり緊張する。

 昨日は本人がいないからこそ堂々と言えた。

「だから俺さ……」

 インデックスは何も言わずに上目遣いに俺を見上げている。

 そんな彼女を見ながら二度三度深呼吸して緊張を解きほぐす。

 彼女はイギリスまで戻って頑張ってくれた。そんな彼女の想いに応えたい。いや、ここから先は俺が彼女をリードする番だ。

 インデックスに報いたい。彼女のために頑張りたいと思うと脳の混乱が急速に薄らいでいく。代わりに胸が温かくなってくる。

 今、この胸の温かさを彼女に、俺の気持ちを彼女に伝えたい。そんな想いに包まれていると彼女の姿が一段とクリアに見えた。その瞬間、俺の口は自然と言葉を紡ぎ出していた。

 

「俺は……インデックスのことを愛している。大好きだ」

 

 遂に、俺は自分の気持ちを打ち明けた。

 インデックスは目を大きく開いて驚きの表情で俺を見ている。

「えっと……それは、妹として……ってこと?」

 唖然としながら彼女は聞き返した。

「いいや。1人の女の子として俺はお前を愛してる。お前と一生、ずっといたいんだ」

 インデックスの全身が急激に赤く染まる。

「えっ? えっ? 急に、どうしちゃったの、とうま?」

 目が挙動不審に左右に動いて忙しない。

「もっ、もしかして、この制服? この制服姿が新鮮で、とうまがおかしくなっちゃったとかなのかなぁ? きっと、そうなんだよね?」

 インデックスは制服のスカートの裾を持ってわたわたしている。動揺している彼女が可愛らしくて仕方ない。

「違うよ。お前がいなくなってる間にさ……俺、気付いたんだよ」

「な、何に?」

「俺にとってお前がどれだけ大切な存在なのかってことにさ」

 優しく彼女を抱きしめる。

「あっ」

インデックスは身体を小さく震わせたものの大人しく俺の胸の中におさまってくれた。

「…………なんかずるいよ」

 インデックスは俺の胸に顔を押し当てながら呟く。

「何がずるいんだ?」

「帰ってきたらさ……高校生に変身したわたしでとうまを驚かせようと思ったのに……とうまに驚かされてばっかりだから」

「お前が黙っていなくなっちまうんだもん。もう既にいっぱいいっぱい驚かされたさ」

 彼女を強く強く抱きしめる。今度は手放してしまうことがないように。

「だからもう……黙っていなくなんてなしにしてくれよ」

「うん……わかった」

 インデックスは俺の胸の中でゆっくりと頷いてみせた。俺は更に強く彼女を抱きしめた。

 

「……それでさ」

 今度は俺から問い掛ける。

「何?」

「その……俺の告白の返事、聞かせて欲しいんだけど」

 インデックスは唇を尖らせて膨れっ面を見せた。

「自分で言うのもなんだけど……わたしはいつだってとうまに積極熱愛アピールを続けてきたと思うんだよ。とうまがわたしのことを子ども扱いしてはぐらかしてきただけで」

「それについては否定できないが……ちゃんと、返事を聞かせて欲しい」

 心臓がバクバク言いながら彼女に返事を促す。

「どうしても…言わないとダメ?」

 密着しているインデックスの心臓も速い鼓動を奏でている。

「インデックスの口から、ちゃんと聞きたい」

 インデックスの顔が完熟トマトよりも真っ赤に茹で上がっている。

「じゃ、じゃあ……言うね」

「ああ」

「わっ、わた、わたしも、わたしもね……」

 口をパクパクさせながら必死に言葉を紡ぎ出そうとしている。先ほどの俺と同じだった。

「落ち着けよ。俺は逃げないから」

 言いながらインデックスの頭を撫でる。

「また子ども扱いしてるぅ」

 プクッとインデックスの頬が膨れた。

「子ども扱いしたのは悪かったよ。でも、緊張はほぐれただろ」

「…………うん」

 インデックスは大きく息を吸い込んだ。そして照れ臭そうに想いを語ってくれた。

 

「わたしはね……とうまのことが大好きだよ。ずっとずっと、とうまと一緒にいたいです」

 

 インデックスの返答を聞いて俺の胸は安堵感でいっぱいになった。

「そっかそっかぁ。インデックスも俺のことを好きでいてくれたんだな。これで俺たち両想いってやつだなあ」

 自然と笑みが毀れ出る。

「さっきも言ったけど、わたしはとうまへの想いをずっとアピールし続けてたんだよ。とうまが無視してくれてただけで」

 対するインデックスはちょっと不満顔。

「それは悪かった悪かった」

「言い方が軽い気がするよ……」

「なら、これからは俺の方から好きをいっぱいアピールするさ」

「それは……嬉しいかも」

 インデックスの頬が染まった。

「じゃあ、早速……愛してるぜ。インデックス」

 俺はゆっくりと彼女に向かって顔を近付けていく。

「わわっ。わわわわ。初めてのキスなんだから、もうちょっとロマンチックな雰囲気を作って欲しかったかも」

 彼女はそう零しながら目を瞑って顔を上げてくれた。

 それから数秒後、俺とインデックスの唇が重なった。

 彼女との初めてのキスだった。

 

-7ページ-

 

「ちょっと強引だけど……こうしてとうまにリードしてもらえると嬉しいかも」

 唇を離して目を開けると潤んだ瞳でインデックスが俺を見つめている。そんな健気な彼女を見ていると俺の体が際限なく燃え上がってくる。

 アレ? 

 この燃え上がり方って……。

「あっ」

 インデックスが俺の体の変化に気付いてしまった。

 彼女の全身が瞬く間に真っ赤に染まり上がる。やべぇ、気まずい……。

「わたしたち……恋人同士、だよね?」

 インデックスは俯いたままボソボソと喋る。

「あ、ああ」

 恋人同士と言われてドキッとした。

 俺とインデックスが以前までとは違う関係になっていることを認識する。

「わたし……高校生になるんだ」

「そ、そう言ってたよな。俺のクラスメイトになるって……」

 心臓がバクバクしてたまらない。このまま彼女に話を続けさせるのはまずい。そんな予感が胸いっぱいに広がっていく。主に……俺の理性の面から警告が発せられていた。

「こ、高校生同士なら……その、あのね……」

 インデックスの視線がベッドと俺をチラチラ行ったり来たりしている。

 やめろ。そんな潤んだ瞳でベッドを見るんじゃない。俺の理性が崩れちまうじゃねえか。

「わっ、わたしはとうまのこと……本気だから……一生を捧げてもいいって思ってるから。ううん。わたしはとうまと一生一緒がいいからっ!」

 インデックスが俺の両肩をギュッと掴んだ。その瞬間、何かがプツンと切れた音がした。そんな気がした。

 

「インデックス……俺は……俺はっ!」

 2度目のキスをするべく彼女へと顔を近付けていく。

 このキスをしたら……俺はもう止まれなくなる。きっと彼女のことを滅茶苦茶にしてしまう。それが分かっていながら、俺はもう自分を御する術を持たなかった。

 彼女の唇をもう1度味わいたくてたまらなかった。彼女が欲しくてたまらない。

 そして──

 

「いい加減にしやがれ、このエロガキどもぉおおおおおおおおおおおぉっ!!」

 

 部屋の中に乱入してきた小萌先生にドロップキックでぶっ飛ばされた。

 切れたのは、小萌先生の堪忍袋の尾だったらしい。

 

「何で小萌先生がここに?」

 壁に打ち据えられて背中を摩りながらちびっ子先生に尋ねる。

「シスターちゃん、改めインデックスちゃんをここまで送ってきたのは先生だからです」

「えっ?」

 とても嫌な予感がした。

「そ、それじゃあ、まさか最初から……」

「玄関越しに全部見聞きさせてもらったのです。エロガキは死ねばいいのです」

 小萌先生は般若の表情で俺を見ている。

「……何で教えてくれなかったんだよ?」

 小声でインデックスに訴える。

「だって、今日は制服姿でとうまを驚かせることが主旨だったから。とうまに愛の告白されるなんて思わなかったんだもん」

「そ、そうか」

 真っ赤になって恥ずかしがるインデックスを見ているとこれ以上彼女を責められない。

 だが、般若は確実に怒っている。

「おい、クソガキッ!」

「……昨日婚姻届を見せながら脅しを掛けた相手にクソガキ呼ばわりかよ」

 大人って変わり身早ぇなあ。

「恋人同士になるのは、キスまでなら100歩譲って認めてやろうと思ってましたが……テメェら何をする気だった? 高校生の分際で何をする気だったか言ってみろ?」

 並みのヤクザじゃ比較にならないヤバい眼光が俺を睨んでいる。怖いって言うか、死。死を感じてならねえ。

「えっと……それは……」

 正直に言うわけには絶対にいかない。そうしたら殺される。

「わっ、わたしととうまは恋人同士なんだもん! だ、だから……」

「だから何だ、小娘?」

 小萌先生の邪眼が今度はインデックスへと向けられた。

「…………何でもないです」

 インデックスは大人しく自分の意見を引っ込めた。生物としてそれは正しい選択だった。

 

「先生やっぱり決めました」

 魔王なオーラを放ちながら先生は姿勢を正した。

「何を、ですか?」

「インデックスちゃんには今夜から先生の家に来てもらい、しばらくしたら女子寮の方に移ってもらうことをです」

「「えっ?」」

 俺とインデックスの驚きの声が揃う。俺たちは顔を見合わせた。彼女は気まずそうに目を伏せた。

「ちょっ……いきなりそれは……」

 先生の提案に気落ちする。やっとインデックスが帰ってきてくれたというのにまたいなくなってしまうなんて。

「インデックスちゃんが高校に入学することになってからずっと考えていたことなのです。インデックスちゃんにも既に通達済みで了承を頂いてます」

「そうなのか?」

「うん」

 インデックスは俯いたまま頷いた。

「2人の関係が以前のままならあるいはとも思いましたが……2人が恋人同士で、上条ちゃんはインデックスちゃんをベッドに押し倒す勢いでした。そんな2人の同棲を高校教師として認められる訳がないのです!」

 耳に痛いけれど、小萌先生の言うことは正しい。

 今のインデックスと一緒にこの部屋で住んだら……もう今までの様に風呂場で寝てジェントルを気取っているわけにはいかなくなる。そんなの俺が1日だって耐えられない。

「そういう関係になるのは……2人が高校を卒業してからにしやがれなのです」

「「えっ?」」

 再び俺とインデックスの声が揃う。

「上条ちゃんとインデックスちゃんはこの先一生ずっと一緒にいると言っていたのです。 なら、高校生の間ぐらいはチュッチュまでの関係にしておきやがれなのです」

 小萌先生はニヤッと意地悪そうに笑ってみせた。

 

「さっきも言いましたが、先生は2人が交際するのもキスするのも反対はしません。昨日アレだけ熱く上条ちゃんにインデックスちゃんへの愛を語られてしまっては、認めないわけにはいかないのです」

 小萌先生はそう言いながらMP3プレーヤーを取り出して俺たちに見せびらかした。

「まさか……その中に……昨日の……」

「はいっ♪ バッチリ録音されちゃってますよ。昨日の教室内での上条ちゃんのインデックスちゃんへの愛の告白のその全てが」

「そんなもん……録音してんじゃねえっ! プライバシーの侵害だろうがっ!」

「是非聞きたいかもっ!」

 俺とインデックスがプレーヤーに向かって一斉に手を伸ばす。だが、俺たちの動きを予測していた小萌先生は俺たちの手をあっさりと避けてしまった。

「インデックスちゃんには後で先生の家で特別に聞かせてあげますよ♪」

「わぁ〜いなんだよ♪」

 両手を挙げて喜ぶインデックス。

「待て。それは俺に対する羞恥プレイってヤツじゃないのか?」

「先生昨夜は上条ちゃんの告白を再生しながら悶え死にそうになったのです」

「そっ、それは絶対絶対聞きたいかも!」

「俺には人権が適用されないんですか〜? もしも〜し」

 俺の意見は2人には届かない。全く届かない。

 

「それじゃあインデックスちゃん。先生の家に移動しますよ」

「うん♪」

 膝をついてガックリとしたままの姿勢の俺を置いて2人はスタスタと玄関に向かって歩いていく。

「いっ、インデックス……」

「小萌にわたしたちの仲が公認されて良かったよね♪」

 インデックスは俺たちの仲が親しい人に認められて嬉しい気持ちで充足しているらしい。

 一方、上条さんは一度燃え上がってしまったのでなかなか頭の切り替えができません。だって男の子ですからっ!

「インデックスちゃん。これからは小萌ではなく小萌先生と呼ばないとダメなのですよ」

「うんっ。小萌……先生」

 だが2人はあっという間に玄関に辿り着いてしまった。俺は無力だった。

「ほらっ、インデックスちゃん。長い間お世話になった上条ちゃんにちゃんとお礼を言わないとダメなのですよ」

「うん、わかった」

 インデックスは這うようにして玄関前に辿り着いた俺の顔を見て朗らかに笑った。

「今まで本当にありがとうね。とうまにはとってもとっても感謝してるんだよ♪」

 ゆっくりと頭が下がる。

「そしてこれからは……彼女としてこの家に毎日遊びに来るから♪」

 屈託のない満面の笑みを浮かべるインデックス。小萌先生は色々と言いたいことがある表情だが、空気を読んで黙っている。

「それでね……」

 インデックスの顔に急に赤みがさした。

「次にね、一緒に住む時はね……」

 彼女の言葉に予想がついて俺の頬も熱を持っていく。

 そしてインデックスは最強の言葉を放ってくれた。

 

「妹じゃなくて……とうまのお嫁さんとして家族になりたいんだよ」

 

 可愛く微笑んでみせる彼女に俺はもう何も言えなくなっていた。

 幸せ過ぎて嬉し過ぎてただただ彼女を見つめるしかできなかった。

「先生の白馬の王子さまは……いつ現れるのですかねえ?」

 哀愁を含んだ先生の声が俺の耳を右から左へと通り抜けていったのだった。

 

 

 了

 

 

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