そのときキスができたなら
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「あたしはね、先輩のことが本当に好きだったんだよ」

 そう言って涙する彼女に、僕は何と声をかけたらよかったのだろうか。

 見上げれば、雪が降り始めていた。

 クリスマス・イヴ。聖なる夜に、彼女の恋は終わった。

 白状すると、僕は彼女が好きだ。彼女の嗚咽が示すとおり、これはまだ僕しか知らない感情。つまりは片思いだ。

 そんなラブリーキュートな幼馴染が、先輩とやらに告白して見事に振られた。これ自体は――大変に身勝手な話ではあるが――喜ばしい出来事である。その先輩とやらが彼女の溢れんばかりの美しさがわからない視覚障害者でよかった。おかげで僕は、傷ついた彼女を慰めるという大役をゲットできたのだから。ありがとう先輩、あなたは今日から僕の神です。

 そう、これはチャンスなのだ。秘めた思いを爆発させ、失恋による痛手でロンリーハートな子猫ちゃんを、口説き落とす絶好のチャンスなのだ。

 寒さか、悲しみか――震える彼女に、僕は缶コーヒーを差し出す。

「飲みなよ……あったかいよ?」

 COOLになれ。確かに僕は女を口説くようなまねはしたことがない。これが生まれて初めてだ。だが、足りない実体験は知識で補えばいい。そう、僕の後ろには10万3000冊の恋愛教本(小説や漫画、エロ雑誌だが)がついているんだ。百戦危うからずとはまさにこのこと!

「ありがとう……うん、あったかい……」

 缶コーヒーを頬に当て、鼻を赤くし、微笑む彼女。

 なんて可憐なんだ。マスカラが混ざった涙は、黒く彼女の目元を染めていたが、そんなものじゃあ彼女の美貌は少しも損なわれやしない。

 フォーリンラブ。どうやら見つけちまったようだぜ、俺の人生を捧げる相手を。これが文化の真髄ってやつか!

「ねぇ……聞いて欲しい話があるんだ」

 もう、迷いはなかった。このホワイトクリスマスの夜に、奇跡が起こらなくていつ起きるっていうんだ?

 

 

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「僕はね、彼女のことが本当に好きだったんですよ」

 そう言って涙する彼に、私は何と声をかけたらよかったのだろうか。

 見上げれば、雪が舞っていた。

 クリスマス・イヴ。聖なる夜に、彼の恋は終わった。

 白状すると、私は彼が好きだ。彼の嗚咽が示すとおり、これはまだ私しか知らない感情。つまりは片思いだ。

 そんな聡明で慧眼な彼が、幼馴染とやらに告白して見事に振られた。これ自体は――大変に身勝手な話ではあるが――喜ばしい出来事である。共に育っておきながら、彼の良さに気づけないなど、その幼馴染とやらは脳髄に大変な欠陥があるに違いない。しかし私は感謝する。おかげで私は彼の泣き顔という、世界でもっとも美しい風景を見ることができたのだから。

 そして私はひらめく。これはもしやチャンスなのではないか?

 寒さか、悲しみか――震える彼に、私はマフラーを差し出す。

「そんな格好では冷えるよ?」

 落ち着け私。心臓はまるで早鐘のように。指先のふるえが止まらない。自分の体だというのに、まるで制御ができない。これでは、彼に緊張がばれてしまうではないか。

「ありがとうございます……でも、先輩は寒くないんですか?」

 マフラーを巻きながら、微笑む彼。

「私はコートだけで十分だよ」

 それに今は君がいる。それを口にする勇気は、私にはなかった。少し、私にはキザすぎる。

 いいや、だから私は駄目なのだ。今日は聖夜だ、少しくらい気取った言い回しも許されるだろう。照れ隠しにはちょうどいい。

「ずっと……君に言いたかったことがあるんだ……」

 私はもう、目の前が真っ白になるくらい緊張していた。

 

 

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「私はね、彼のことが本当に好きだったんだよ」

 そう言って涙する先輩に、あたしは何と声をかけたらよかったのだろうか。

 見上げれば、雪がやんでいた。

 クリスマス。聖なる夜に、彼女の恋は終わった。

 先輩の隣にいるのがあたしじゃなくてもいい、先輩には幸せになってもらいたかった。失恋に泣く先輩なんて、見たくない。

 だからあたしは、殴りに行くんだ。

 あたしじゃ先輩を慰められないけど。

 先輩を泣かせる奴は許せないから。

 

 

 

 

 

説明
続き書こうかと思ったけど、これで綺麗に落ちてる気がするから微妙……
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タグ
 失恋 百合 クリスマス 聖夜 ラブリーキュートな彼女 

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