第一話
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 久遠監督がフィフスセクターの指示に従わず、辞任させられてから数日後。逆風吹きすさぶ雷門に新たな監督がやってきた。

 それは雷門サッカー部にとって、荒れ狂う暴風となるなのか、それとも追い風となるのか、それを知るものはまだいなかった……

 

 

 

『新監督、来たる』

 

「俺が新監督の円堂だ。よろしくな」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。円堂さん」

 

 円堂は気さくに接してくるものの、神童はややぎこちない面持ちで握手を交わす。

 

「あー、なんていうかさ、その……円堂さんて呼び方はやめてくれないか? 急に監督が変わって仕方ないのかも知れないけどさ、やっぱりこれから長い付き合いになるんだし、円堂監督ーって……」

 

「は、はぁ……」

 

 円堂はできる限り親しげな態度を見せるが、神童は強張った表情を崩そうとはしなかった。それはおそらく、頭ではわかっていても、まだ監督として認めきっていないといったところだろう。

 

 けど、それとはまた別の理由もあるようだ。それに気づいた円堂はからかうような笑みを浮かべる。

 

「なんだ、緊張してるのか?」

 

「は、はい……。あ、いえ、すみません」

 

 神童が緊張するのも仕方のないことだ。相手はかつてはイナズマジャパンを率いて数々の強敵を打ち破り、今やプロリーグで活躍する一流の選手。サッカー選手であるなら誰でも憧れるような存在だ。そんな相手を前に平静でいろと言われても難しいだろう。

 

 それは円堂と直接、相対する神童だけではない。他のメンバーも緊張を隠せずにいた。

 

「それで、えーと、し、し、し…… キャプテン」

 

「神童です。円堂と神童と一文字違いだから、最初の一文字、覚えたらすぐに覚えられますよ」

 

「悪いな、えーと…… キャプテン」

 

「いえ、だから最初の一文字覚えればすぐに覚えられるっていったでしょう? と、いうか、なんで最初の一文字をわすれてるんですか?」

 

「いやぁ、悪い悪い。海外生活長かったから、日本語をど忘れしちゃってさ。改めてよろしくな、キャ…… じゃなかった」

 

 そう言って円堂は危なかったといわんばかりに苦笑いを見せる。それから改めて、その名を呼ぶ。

 

「よろしくなキンドウ!」

 

「誰がキンドウですか! キャプテンから離れたように見せかけて融合しちゃってるじゃないですか! そもそも、最初はシを覚えてたのに、なんで忘れるんですか!」

 

「それはそうと……緊張はとれたか?」

 

「いきなり話を変え…… え?」

 

 円堂のその一言で熱くなった気持ちは一気に霧散する。気づけば、あんなにも遠かった距離はいつのまにか、円堂のボケに激しくツッコミを入れられるほどに近しいものへと変わっていた。

 

「ま、まさか…… 緊張をとるためにわざと……?」

 

 円堂は何も答えず、笑顔でサムズアップを返すのだった。

 

 なんて大きいんだ……。円堂の笑顔を前に、神童は素直にそう感じてしまっていた。

 

 これがイナズマジャパンを率い、久遠監督が雷門を任せられると判断した男の姿。キャプテンとしてチームを率いていた神童にとって、その存在は越えることなどできないほどのものだと認めざるを得なかった。

 

 この人ならば、全てを任せられる……。そう思った時、神童の中で全てのわだかまりが消え去り、素直な気持ちで一礼をすることができた……

 

「改めてよろしくお願いします。円堂監督!」

 

「あぁ、よろしくな! し、し、し…………キャプテン!」

 

「って、やっぱり覚えてないだけでしょう、あなたは!」

 

 気もしたが、気のせいだったようだ。

 

「むしろ、神童よりキャプテンで統一したらどうだ?」

 

「って、ちゃんと覚えているじゃないですか! 統一しなくていいから名前で呼んでください!」

 

「それはそうと…… 緊張はとれたか?」

 

「まさか、俺の緊張をとるためにわざと…… って、それはさっきやったでしょうが! ただ単に名前覚える気がないだけでしょうが!」

 

 ……こうして雷門に新たな監督が就任したのだった。果たして、この新監督就任は雷門にとって吉とでるか凶とでるか……。いまはまだ誰も知る由はなかったのだった。

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『新監督、居座る』

 

 チームを代表して神童が挨拶をした後、円堂は全員へ新監督就任の挨拶をする。

 

「大人の事情で辞任させられた久遠元監督に代わって、監督になった円堂だ。みんな、これからよろしくな!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 久遠監督は別に大人の事情でやめさせられたわけじゃないですから! フィフスセクターの指示に逆らったせいですから! なんか爽やかに挨拶してるふりして、さりげなく汚れた話をしないでください!」

 

「久遠監督って大人の事情でやめさせられたんだ……。大人の事情っていうとやっぱり回想シーンでモザイクかかっちゃうようなやつかな? ね? ね? 信介はどう思う?」

 

「なんで嬉しそうなのさ、天馬……」

 

 なぜか嬉しそうに信介に話しかける天馬であった。

 

「って、言ってるそばから誤解するんじゃない、天馬! お前が考えるような事情じゃないからな」

 

「いや、でも大人の事情っちゃ大人の事情だろ? お前たちには関係ない、大人の薄汚れたやりとりがあったわけだし」

 

 必死に天馬を止めに入る神童に、しかし円堂は助けどころか追い打ちをくらわすのだった。

 

「そ、それは…… まあ、あながち間違ってはいませんが、ですが、言葉の使い方っていうものがあるでしょう」

 

「大人の薄汚れたやりとり…… い、いったい、どんな口にだせないような展開があったんだろうね!」

 

「だから、なんで興奮してるのさ、天馬!」

 

 なぜか興奮しながら信介に話しかける天馬であった。

 

「あなたが変なこというから、明らかに間違った方向へ勘違いしてるじゃないですか!」

 

「いやぁ、松風は面白いな。キャプテンももうちょっと面白いほうが俺は楽しいぞ?」

 

「いや、だから俺、キャプテンが名前じゃないですから! 神童ですから! いい加減、名前で呼んでください!」

 

「え? キャプテンって呼んじゃダメなんですか? じゃあ、神童」

 

「って、おい! 天馬に言ってるんじゃない! そもそも、なんでキャプテンじゃなかったら呼び捨てになるんだ! 先輩だぞ、俺は」

 

「えー?」

 

 とても不満そうな天馬であった。

 

 そんな自由奔放な天馬を見ていた円堂は楽しそうに笑いながら、彼の頭の上に手を置いて、軽くくしゃくしゃと撫でる。

 

「ははっ、松風は冷凍イカみたいな目をしてるくせして、なかなか面白いじゃないか。同じように目が死んでるキャプテンも少しは見習ったらどうだ?」

 

「いえ、俺は面白くなくていいですから。あと天馬はともかく、俺の目は死んでないですから」

 

「俺だって冷凍イカみたいな目はしてないですよ! 単に目に光がないだけですよ!」

 

「それを冷凍イカみたいな目というんだ。いや、そんなことより、監督。なんで天馬の名前は覚えているのに、俺の名前は覚えてないんですか?」

 

「え? そんなの面白いからに決まってるだろ?」

 

 なんのためらいもなく、なんの悪気もみせず、あっさりと答える円堂であった。

 

「って、面白いかどうかで決めないでくださいよ!」

 

「何を言っているキャプテン、面白いかどうかは重要だ!」

 

「え?」

 

「面白いっていうのは、つまり常識に囚われない心を持っていること! その心が想像もつかないようなプレーや必殺技を編み出すんだ!」

 

「な、なんだって?!」

 

 それは神童にとって晴天の霹靂だった。だが、言われてみればそうだ。小さな常識に囚われたプレイヤーに何が出来るというのだ。せいぜいが誰もが考えつくような小さなプレーしかできやしないだろう。そう、円堂はそれを伝えようとしていたのだ。

 

「くっ……、俺はまだまだ底が浅かったのか! なのに、それに気づくことなく、またも円堂監督を疑ってしまうなんて……。すみませんでした、監督! 俺も名前で呼ばれるように頑張ります!」

 

「あぁ、その日を待っているぞ」

 

 そう言って円堂は、満足そうな笑みを向けるのだった。再びのぶつかりを乗り越えて、二人は深いところで分かり合えた気がしたのだった。

 

「よし! それじゃあ、お笑いの練習だ! 付き合ってくれるな、天馬!」

 

「はい! 任せてください!」

 

 こうして、二人はサッカーの練習も忘れて、お笑いの練習に走るのだった。そんな二人を見守りながら、円堂は誰にともなく呟く。

 

「……俺は面白い奴になれとは言ったけど、お笑いをやれとは一言も言ってないんだけどな。まあ、いいか」

 

 それはまだ、ツッコミ役がいない雷門でのことだった……。

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『新監督、辞めず』

 

「そういえば、円堂監督はプロリーグで活躍してたのに、なんで監督を引き受けたんですか?」

 

 ふと思い出したのか、天馬は疑問を口にする。彼としては特に大した意味のない質問だったが、神童は血相を変えて、すぐさま制止にはいる。

 

「おい、天馬。そんなことを聞くんじゃない!」

 

「え? キャプテン、なんですか急に?」

 

「なんですかじゃない、よく考えろ。円堂監督が自分から話さないってことは何か言いたくないことがあるってことだ! なのに、そんなことを尋ねてみろ。円堂監督は辛い過去であろうと俺たちに気を使わせまいと何事もなかったように話して、誰もいないところで一人、苦しむに違いないだろうが!」

 

 勝手な思い込みで涙ながらに力説する神童であった。

 

「キャプテン、どれだけ監督を見る目にフィルターがかかっているんですか!」

 

「フィルター? そんなものはかかってない。俺は円堂監督が言葉で語らない何かを感じ取っているだけだ!」

 

「その感じ取っているものが明らかにフィルターかかっているんですが……。まあ、いいや。でも、確かに神童キャプテンの言うとおりかも知れませんね。もし久遠監督みたいに大人の事情だったら大変ですよね」

 

「いや、別に俺は大人の事情じゃないからな。ただ、単に怪我をしてだな」

 

「隠さないでください、監督!」

 

 変な方向に話が進もうとしているのを察し、円堂が止めようとしたときだ。神童は強烈な勢いで円堂を止める。なぜか、涙まで流して。

 

「し、神童?」

 

「そんな下手な嘘なんてつかないでいいんです! 俺は…… 俺達は監督がどんな理由でチームを追われようと関係ないんですから!」

 

「いや、誰も追われてここに来たわけじゃないぞ?」

 

「大人の事情っていうと、やっぱり酒の勢いで何かやっちゃったんですよね? 回想シーンでモザイクがかかっちゃうようなことがあったんですよね? そ、そんなことしてるなんて…… すごく羨ましいです! 俺、一生ついていきます!」

 

「ほら、天馬もこういってることですし。監督、俺たちの前ではありのままの姿でいてくれていいんですよ」

 

「いや、ありのままも何もないだろ? つーか、天馬もおかしいだろ! なんで目をキラキラさせて息まで荒げて、とんでもないことを言ってるんだよ! そもそも羨ましいってなんだよ?」

 

 円堂は違う意味で詰め寄る二人を抑えて、なだめて、落ち着かせる。

 

「えーとだな、俺は本当に大人の事情でここに来たわけじゃないからな。怪我で試合に出られないから、ここに来たんだからな」

 

「怪我…… ですか。なら、大人の事情なんて言わずに本当のことを言ってくれて良かったのに」

 

「いや、だから最初からそう言ってるだろ」

 

「……はっ! もしや、怪我をおして練習を見ているのを知られたら、俺たちが気をつかうと思って黙っていたんですか?! そんな…… 俺達に気遣いなんて無用です! 誰も監督が怪我してようと遠慮なんてするつもりありませんから!」

 

「いや、そういう場合はちょっと気を使えよ」

 

 本当に円堂を慕っているのかどうか疑わしい神童であった。

 

「監督、怪我じゃつまらないです! やっぱり大人の事情がいいです!」

 

「そして天馬、お前は俺に何を期待してるんだ……」

 

 天馬もまた、本当に円堂を慕っているのかどうか疑わしかった。

 

「それで、監督はどこを怪我したんですか? 恥骨ですか?」

 

「そうだな、天馬の言うとおり恥骨……って、おい! なんでいきなり恥骨がでてくるんだ! むしろなんで最初から恥骨って発想ができるんだ?! 普通は足とかだろ? それをスムーズに恥骨ってなんだ?!」

 

「え? キャプテンは恥骨って発想ないんですか?」

 

「いや、普通そうだろうが」

 

「えー?! いや、それは、さすがにその…… あ、でも俺、キャプテンのこと尊敬してますから! いきなり恥骨って発想出来なくっても、想像力が乏しいとか目が死んでるとか思ったりしませんから!」

 

「いや、なんでこの展開で俺が変みたいに言われなくちゃならないんだ?! おかしいのは天馬だろう? あと目が死んでるって、お前にだけはいわれたくないぞ」

 

「それじゃあ、一体、どこを怪我したっていうんですか? 恥骨以外に監督が怪我するような場所なんてないですよね?」

 

「天馬、お前は俺をなんだと思って……。まあ、いいけど。俺が怪我したのはな」

 

「頭……じゃないですか?」

 

「え?」

説明
イナズマイレブンGO 二次創作。作者HPより転載
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2011 2011 0
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