第六話 |
遂に始まりを告げたホーリーロードの戦いの日々。強敵たちとの戦いを乗り越えてゆく天馬達は難関、帝国学園との戦いに挑むこととなった。だが、そこには待ち受けていたのは……。
『激闘、ホーリーロード!! ―帝国学園の罠―』
神童「大変です、監督!」
円堂「どうした、キャプテン。そんなに血相を変えて、何かあったのか?」
神童「俺と三国先輩以外、全員が腹痛で倒れてしまったんです!」
円堂「なんだと?! いったい、どういうことだ?」
神童「まだ詳しいことは分かっていません。ただ……」
円堂「ただ?」
神童「これをみてください。帝国学園が差し入れてきたと思われるミネラルウォーターとカップラーメンです。これを飲んだり、食べてから倒れてしまったんです」
円堂「そうか。それに何かが盛ってあったわけか。でも、キャプテンと三国は無事だったんだよな? 食べてないのか?」
神童「俺は専属のシェフが作ったもの以外は食べない主義なので……。三国先輩については丁度、席を外していてまだ食べていないんです。けれど、他のメンバーは見ての通り……」
そう言って、神童は俯きながら男子トイレを指差す。そこには苛烈な争いを繰り広げる雷門イレブンの姿があった。
天馬「うおぉー! もう我慢できない! これは仕方ないから女子トイレへ行くしかないよね? ね?! いざ、男子禁制の秘密の花園、女子トイレへ!」
信介「させるか! ぶっとびジャンプ!」
天馬「がはぁっ!」
便意とは別の意味で興奮した様子を見せる天馬は意気揚々と女子トイレへ入ろうとするも、寸前のところで信介に体当たりをされて阻止されてしまう。
信介「我慢できないって、どっちを我慢できないのさ?! というか、切羽詰まっててもそれだけはやめてよ! 天馬のせいで男子サッカー部がおかしな目で見られるだろ?!」
天馬「けど、男子トイレの個室の数が全然足りないんだから仕方ないだろ?! 剣城だってそう思うだろ?」
剣城「はっ、女子トイレに行きたいなら勝手にしろ! だが洋式便所は俺がもらう!」
車田「なら和式便所はもらった! ダッシュトレイン!」
ドナルド「んー…… 和式なら二人で重なれば一緒に入れそうだね。ドナルドと連結しようよ!」
信介「何言ってるのさ、そんなの無理だよ! って、君、誰?!」
ドナルド「あはっはっはっはっはっ!」
霧野「ふ、ふふ…… お前たちは男子トイレで争い合っていればいいさ。俺はいつもどおり女子トイレを使わせてもらう」
天馬「霧野先輩、いつも女子トイレつかってるなんて……。やっぱり、女子だったんですね!」
信介「だからやめてよ、天馬! あと霧野先輩も!」
霧野「安心しろ。俺のことは誰も男だと気づかないからな」
信介「そういうことじゃなくて! あー、もう、僕じゃボケを阻止しきれないよ!」
試合開始まで時間がないというのに、散々たる状況が目の前で繰り広げられているのだった。
神童「まさか帝国学園がここまで卑劣な手を使ってくるなんて……」
円堂「いや、帝国学園相手でこのくらいならまだ序の口だろう。俺なんて何度か殺されかけたし」
神童「殺されかけたって……。さすがです、監督! 俺たちなんか想像もできないような修羅場をくぐってきたんですね!」
円堂「あぁ、色々とあったんだよ。それより、あいつらが食べたものを見せてもらえないか? もしかしたら、毒の痕跡とかが残ってるかもしれない」
神童「それなら、まだ手をつけてないものがここに」
そう言って神童が差し出したのはあまり見かけないミネラルウォーターとカップラーメンだった。雷門イレブンを葬ったというイメージがあるためか、その赤い配色と大きく『辛』と書かれたパッケージはどことなく毒々しさを感じさせた。
円堂「ん? ちょっと待て、これは……」
パッケージを見た円堂の表情は途端に厳しいものになる。
神童「どうしたんですか?」
円堂「これは、まさか『辛ラーメン』か? お前ら、とんでもないものを食べてしまったようだな……」
天馬「とんでもないものですか? ……まあ、辛いだけで全然、美味しくなかったですけど」
円堂「知らないのか? これは韓国産のラーメンで、ゴキブリの幼虫とかネズミの頭とか入って問題になったもんだぞ」
天馬「ゴキブリの幼虫……」
剣城「ネズミの頭……」
円堂の話を聞いた雷門イレブンは一気に真っ青になり、再びトイレを奪い合い始める。
天馬「うぷぅーーー! もうダメだ、我慢できない! 早く胃の中のもの全部、吐かせてくれー!」
剣城「上から出すべきか、下から出すべきか…… それが問題だ」
信介「冷静に考えてる場合じゃないよ! とりあえず、水で口の中だけでも……」
円堂「ちなみにこっちのミネラルウォーターも韓国のものみたいだな。中に虫の死骸が入ってるし」
信介「おえぇーーー!」
天馬「ちょっ、信介! 変なところで吐かないでよ!」
食べたものの本当の恐怖を知ったとき、真の恐怖に陥るのだった。
神童「どうします? もう試合が始まってしまいますよ」
円堂「仕方ない。このまま、試合にでるぞ」
天馬「ちょ、ちょっと待って下さい! こんな状況でフルタイムは…… うっ!」
円堂「コールドゲームでもなんでもして勝てばいいだけだ。大丈夫、お前達ならやれる」
天馬「そんなぁ……。サッカーのコールドゲームなんて聞いたことないですよ」
『激闘、ホーリーロード!! ―帝国学園の猛攻―』
円堂「コールドゲームでもなんでもして勝てばいいだけだ。大丈夫、お前達ならやれる」
天馬「そんなぁ……。サッカーのコールドゲームなんて聞いたことないですよ」
神童「ちなみにサッカーにおけるコールドゲームは、相手チームが棄権するか、選手が退場などで七人を下回った場合などに適用されるぞ」
信介「あるんだ……。でも、それってフィフスセクターがやってたようなものじゃないですか。いくらなんでもそんなのやる人……」
剣城「いいだろう。一人残らず退場させてやる!」
天馬「帝国学園のユニフォームを着て女子トイレに入るならいいよね?」
霧野「グラウンドではDFの俺も、今日だけは私生活同様、攻めて攻めて攻めまくらせてもらうぞ!」
ドナルド「ドナルドは男子に夢中なんだ!」
信介の心配をよそに、全員、やる気満々だった。
円堂「みんな、やるき充分じゃないか。これなら心配いらなそうだな」
神童「さすがです、監督! ここまで見通していたなんて、俺には想像も出来ませんでした!」
信介「円堂監督! 神童キャプテン! ろくでもない情報教えないでくださいよ! みんな、目の色変わっちゃってるじゃないですか! やっぱり僕のツッコミじゃ誰も止められないよ!」
円堂「それじゃあ、みんな行くぞ!」
全員『おぉー!』
三国「おっ、みんなやる気でどうしたんだ?」
試合の開始時間になったらしく、よりにもよって三国が戻ってきてしまった。せめてあと九十分、行方不明になっていてくれれば良かったものの……。そう誰かが思ったのはいうまでもない。
三国「……なんか、誰かがろくでもないことをかんがえてませんでしたか?」
円堂「気のせいだろ。それじゃあ、入場だ!」
こうしてコンディション最悪の状態で雷門と帝国学園の試合は始まりを告げた。
――試合開始から十分……
剣城「くらえ! デスソード!」
雅野「うわぁー!」
解説『ゴォール!! 剣城選手、またしても長距離からのシュートでキーパー雅野選手もろともゴールへ叩き込んだ! 帝国学園相手に雷門の鬼気迫る猛攻、試合開始から僅か十分で早くも二十点目だー!』
真っ青な顔色と脂汗をだらだらと流した剣城がデスソードを放てば、ディフェンスに入った選手とゴールキーパーともども、ゴールへと叩きこむ。とても単純な力押しの攻撃だが、これだけで既に帝国の選手が三人が下げられ、二十点を奪われていた。
単純な実力での敗北。それゆえに天才ゲームメーカーと呼ばれた鬼道でさえも手こずっていた。だが、鬼道の顔に諦めの色は微塵もなかった。
鬼道「さすがは円堂……といったところか。だが、攻撃力だけでどうにかできると思わないことだ。いけ、御門!」
鬼道の指示を受け、ボールを取った御門は剣城より遙か遠く、自陣で指笛を吹く。
天馬「まさか……!」
御門「皇帝ペンギン7!」
御門はまさかの超長距離シュートを放った。それも超上空へ向けてだ。
霧野「た、高い……! これじゃあ、ゴール直前まで手が出せないぞ!
解説『な、なんと! 御門選手も超長距離からの必殺シュートだ! 遙か上空へ放った皇帝ペンギン7相手では、キーパー以外、手が出せない!』
三国「キーパーしか手が出せないって? なら俺に任せぐわぁ!」
上空からの落下で重力加速したボールはたやすくがら空きのゴールに突き刺さる。
解説『ゴォール! 帝国学園、反撃のゴール! 雷門の弱点を突いた見事なシュートが決まったぁ!』
神童「さすがは帝国学園だな」
霧野「あぁ。まったく嫌なところをついてきやがる。だが、まだまだだな」
神童「霧野、何か対策でもあるのか?」
霧野「俺なら弱点なんか突かず、あえてガードの硬いところをじわじわと追い詰めて抵抗する気力を奪っていく。ふふっ、抵抗が強ければ強いほど、ガードを崩すのが楽しいものだろ」
神童「……みんな、防御は考えるな! 徹底的に攻めつづけて、攻撃の隙を与えるな!」
霧野の話を聞いていつにも増して死んだ目をした神童は、何事もないふりをして攻撃の指示を出すのだった。
天馬「わかりました、キャプテン! 攻めて攻めて攻めまくります! いくぞ、そよかぜステップ!」
帝国DF「ぎゃー!」
解説『松風選手、DF三人を抜いたー! そして、どういうわけか帝国学園のユニフォームまで奪っているぞ?!』
天馬「よし! これを着ていけば、女子トイレに入っても帝国学園の責任になるぞ!」
信介「なにやってるのさ、天馬!」
天馬「いや、だって、キャプテンが攻めて攻めて攻めまくれっていうから。だから、帝国がプライベートで責めて責めて責められまくる展開にしようと……。ほら、実益も兼ねてるし」
信介「プライベートまで攻めるのはやめようよ!」
ドナルド「んー……。なら、グラウンドなら攻めてもいいんだね?」
信介「まあ、そうだけど……。だから君は誰なの?」
天馬「よし! 何か考えがあるんだね。ドナルド、パス!」
ドナルド「いってみよう!」
解説『松風選手、ドナルド選手にパス! ドナルド選手、見事なドリブルで単身、帝国へと切り込んでゆく!』
帝国DF「させるか!」
ドナルド「ヘブンズタイム!」
ドナルドが頭上でパチンと指を鳴らすと周囲の時間が停止する。ドナルドは何も出来ないDFを悠々と抜いていった。
ドナルド「ふぅ……」
抜き去った後に、ドナルドが再び指を鳴らせば停止していた時間は再び動き出す。抜かれた男子達は何が起きたかも分からないまま、吹き飛ばされるのだった。
解説『ドナルド選手、DF三人で抜いた―! そして、どういうわけか帝国学園のユニフォームまで奪っているぞ?!』
信介「だから、何やってるのさ! って、いうか、解説も微妙におかしかったよ?!」
ドナルド「ドナルドは男子に夢中なんだ!」
天馬「俺は女子に夢中だよ!」
信介「やっぱり、僕にツッコミは無理だよ! なんとかしてよ、剣城!」
剣城「俺に触るな!」
剣城に頼ろうとした信介であったが、強烈な拒絶をみせつけられてしまう。その姿といい、攻撃的なサッカーといい、はまるで黒の騎士団のときに戻ったかのようだ。
信介「つ、剣城…… ま、まさか……」
剣城「……いちいち言わなくちゃわからないのか?」
いつにない迫力で剣城は信介を睨み、吐き捨てる。
剣城「もう、わずかな振動で限界突破しそうだ……。後少し、後少しだけ我慢すれば、きっと波が収まって…… ぐぅおぉぉ!」
信介「ダ、ダメだ……。剣城はもうツッコミ出来る余裕なんて残ってないんだ。一体、どうすればいいんだ……!」
強力なツッコミを失い、どこまでも追い詰められてゆく雷門。果たして、幾つものタガが外れた雷門を相手に、帝国学園は無事に済むのだろうか? 不安に満ちた後半戦は今、始まろうとしていた。
『激闘、ホーリーロード!! ―帝国学園の終焉―』
解説『後半も残すはロスタイムだけ。試合は152対152! だが、両チームとも限界が近いか? どうする雷門、そして帝国学園!』
神童「152点もとってるのに、まさか同点まで追い詰められるなんて……」
三国「さすがは帝国学園。一筋縄にはいかせてもらえないようだな」
神童「……152点もとられた人のいうセリフはひと味もふた味も違いますね」
三国「ははっ、遠慮するな。もっと誉めろ誉めろ。試合が終わったらラーメン奢ってやるぞ」
神童「誉めてませんし、いりませんよ……。しかし、みんな大丈夫か?」
天馬「すみません、キャプテン。俺、これ以上動いたら…… あっぐぅ!」
神童「しっかりしろ、天馬!」
剣城「俺に近づくんじゃねぇ! 波が…… 波が収まらねぇんだよ!」
神童「もう喋るな、剣城……。こうなったら」
霧野「わ、悪いな、神童。俺のDF技術でも、もう抑えきれそうにない……。後は頼むんだぞ」
神童「下痢野…… じゃなかった霧野……」
ドナルド「犯バーガー三個分くらいかな?」
神童「誰だよ、お前……」
信介「もう誰も動けるような状況じゃありません。これで延長戦になんてなったら、勝ち目ありませんよ!」
三国「みんな、どうしたんだ? 腹でも減ってるのか? なら、試合が終わったらラーメン奢ってやるから頑張れ!」
神童「さっきからラーメン、ラーメンって、なんでそんなにラーメンに拘るんですか、このブロッコリーは!」
三国「誰がブロッコリーだ! せっかく、一袋十円でワゴンで売られてたのに誰も買ってなかったカップラーメンを買い占めたから奢ってやろうって言ってるのに」
天馬「一袋十円……?」
剣城「誰も買ってなかった……?」
信介「ラーメン……?」
三国の口から出たラーメンの話を聞いて、雷門選手たちの顔色が一気に変わる。
神童「それって、赤いパッケージに大きく『辛』って書いてあるやつですか?」
三国「なんだ神童、知ってるのか? 今日、食べようと思って部室に置いておいたから欲しいなら分けてやるぞ。あっ、水なら一緒に激安で売られていたミネラルウォーターもあるぞ」
天馬「へぇ…… じゃあ、あれは三国先輩が用意したものだったんですね」
剣城「それはそうと152点もとられるなら、キーパーなんていらないよな?」
霧野「今回ばかりは一撃でとどめを刺してもいいんじゃないか?」
ドナルド「もちろんさー!」
信介「うん……。僕のツッコミじゃみんなを止められるわけないよね。だから、何が起きても仕方ないよね?」
三国「ん? どうした? みんな、妙に落ち着いて……」
このとき、三国を除く雷門全員の気持ちが一つにまとまった。
神童「いくぞ! 下痢野!」
下痢野「俺は下痢野じゃない霧野だ!」
天馬「ドナルド!」
ドナルド「ウゥーッ! フゥーッ!」
信介「剣城!」
解説『雷門選手達は次々にパスを繋げる! パスで繋げられたボールは勢いを増して、最後の剣城選手へ渡ったぁー!』
剣城「くらえ! 必殺タクティクス・アルティメットサンダー!!」
皆のパスで繋げられたボール、それはまるで自らの腹のように凶暴に荒れ狂うボールだった。剣城はそれを更なる力で押さえつけ、強烈なキックを叩きこむ。そのときの破壊力は必ず殺すと書いて必殺と呼ぶのに相応しい威力まで高まっていた。
今にも破裂しそうな勢いのボールは、そのまま自陣のゴールへと向かう。
三国「って、なんでこっちにシュートしてるんだぶぼぉー!!」
オウンゴールと思われたシュートは、しかしボールポストで跳ね返り、更に勢いを増したところへ再び剣城がキックを叩きこみ、帝国のゴールまで一直線に伸びてゆく。
雅野「ば、ばかな! うわぁーーーーー!」
解説『ゴ、ゴ、ゴール!! 剣城選手、オウンゴールをしたかにみせかけ、ゴールポストを利用して強力なシュートを決めたぁーーー! と、ここで試合終了のホイッスルがなったぁー! 稀に見る点取合戦を制したのは雷門だー!』
こうして雷門は三国の卑劣な罠をくぐり抜け、また一つ、本当のサッカーを取り戻す戦いのコマを進めたのだった。
だが、まだ油断をしてはいけない。三国はまだチームにいるのだから。
戦え、雷門。本当のサッカーを取り戻す、その日まで。
負けるな、雷門。食べ物には気をつけろ!
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