第八話 |
霧野と狩屋の連携によって月山国光を打ち破った雷門中。次なる相手は円堂の旧友、吹雪が監督を務める白恋中だったが……。
『血闘、ホーリーロード!! ―白恋から来た男―』
解説『さあ、前半が終わって3−1と白恋がリード! 後半で逆転を狙う雷門はこの差を覆せるのか?!』
前半終了のホイッスルが鳴り響き、選手たちは一息ついて、ベンチへと戻ってゆく。雷門の選手たちは白恋が思ったよりも大したことがなかったためか、余裕の表情を見せていた。
天馬「まさか、三国先輩を相手に前半だけで三点しかとれないなんてね」
剣城「ふっ、前半だけで10点はいくと思ったが、過大評価だったみたいだな」
餓チャピン「僕がキーパーだったら、0点どころ、逆に点をとっていたところだよ」
ムッ苦「がんばれー、餓チャピーン! ……まったく、あの緑芋虫は口だけは達者で困りますぞ。ねぇ、狩屋君」
狩屋「お前、誰だよ……」
三国「ははっ、まったく大したことないな、白恋も」
神童「三国先輩、あなた、点とられておいて、なんで余裕かましてるんですか?! あと天馬達も俺たちが2点負けてることを忘れるな!」
天馬「でも、失恋の必殺タクティクス『絶対領域』は簡単には落とせないですよ」
剣城「失恋じゃなくて白恋だろ。あと『絶対領域』じゃなくて『絶対障壁』だ。試合中くらい、その煩悩を抑えこんだらどうなんだ……」
信介「でも、天馬のいうことももっともですよ。せっかくのダブルウイングも、天馬と剣城じゃバランスが悪くて通じなかったじゃないですか」
ムッ苦「餓チャピンとムッ苦なら出来るかも知れませんぞ。私のさりげなく葬るつもりのパスを餓チャピンが止められるかどうかが問題ですけどね」
狩屋「いや、さりげなく葬るとかいうなよ。そういうのは内側にしまっておいて、表面上は仲良くしておくんだよ。そうすれば、またいつかチャンスだってあるんだからさ」
ムッ苦「さすがは狩屋君。参考になりますぞ!」
天馬「まったく、剣城も餓チャピンももう少し協調性をもったほうがいいよ?」
剣城「なんで俺だけの責任になるんだよ?! お前のパワーが足りてないのがいけないんだろうが!」
狩屋?「そうですぞ! わた…… 俺は狩屋ですが、緑は独りよがりすぎですぞ! やはり、ここは赤がキャプテンになるべきだとおもいますぞ! あと、わた…… 俺は狩屋ですぞ」
ムッ苦「む? やはり、狩屋君もそう思いますか。ここは不甲斐ない餓チャピンに変わって、不肖、ムッ苦が……」
狩屋「って、勝手に俺の声色つかうんじゃねぇよ!」
餓チャピン「はははっ! そぉれ、場外乱闘だぁー!」
ムッ苦「ぎゃあぁぁーーー!」
狩屋「うわぁーーー! なんで俺まで!」
三国「俺も関係ないのになんで来るんだよ!」
味方打ちで乱闘をはじめる雷門であった。
吹雪「み、みんな、落ち着こうよ。ほら、仲間うちで喧嘩してる場合じゃぐふぅ! 今、さりげなく殴ったの誰だ?!」
ムッ苦「見たわけじゃありませんが餓チャピンですぞ」
天馬「吹雪さん、殴られたところに赤い毛がついてますよ」
吹雪「貴様か!」
ムッ苦「これは餓チャピンの陰謀に違いありませ…… うわぁー!」
神童「吹雪さんまで?! と、いうかなんか性格変わってませんか?」
円堂「そうか? 昔からそんな感じだったぞ。」
鬼道「ふっ、懐かしいな」
神童「そ、そうでしたか。それはともかく、もう俺の手にはおえません。監督、どうにかしてください!」
円堂「ん? 別に気が済むまでやらせればいいんじゃないか? 俺達も昔はこんな感じだったしな」
鬼道「ふっ、懐かしいな」
神童「ほ、本当にいいんですか? 既にムッ苦と狩屋が吹雪さんと餓チャピンと霧野にやられてますが……」
円堂「そうやってぶつかりあってこそ、仲良くなれるってものだろ。俺達も昔はそうやってぶつかりあって、でも最後はみんなで男子トイレにいったものさ」
鬼道「ふっ、懐かしいな」
神童「なんで男子トイレにいくんですか! どういう意味で仲良くなってるんですか! あと鬼道コーチ、あなた、同じことしか言ってないじゃないですか!」
それぞれが本当にやりたいようになってしまい、ついに収拾がつかなくなってしまったときだ。そんな空気すらも凍りつかせるような冷たい風が吹いた。
???「ずいぶんと楽しくやってるみたいですね」
吹雪「え? ゆ、雪村……?」
雷門のベンチに現れたのは対戦相手である白恋の雪村だった。その瞳はひどく冷たく、そして拒絶と嫌悪、なにより侮蔑の篭っていた。
神童「白恋の選手が何の用だ?」
雪村「別に大した用はない。ただ……」
神童のいうことなどまるで興味なさそうにして、凍える眼差しで吹雪達を睨みつける。そして、わずかに視線をずらして、ぶっきらぼうに言い放つ。
雪村「帰るぞ……」
吹雪「……え?」
雪村の言葉に吹雪は戸惑いながら、喉の奥から言葉を紡ぎだす。
吹雪「い、いいのかい?」」
餓チャピン「もう随分とこっちに馴染んじゃったからねぇ」
ムッ苦「誰にも許されずに磔くらいは覚悟したほうがいいかも知れませんぞ」
雪村「良いも悪いもないだろ。俺達の居場所は白恋なんだからな」
吹雪「そ、そっかぁ。そうだよね。で、でも、フィフスのことは……」
餓チャピン「あははー! 誰か嫌いな人がいるからって帰らないなんて大人のいうことじゃないよね」
ムッ苦「そうですぞ。嫌いな奴がいたら抹殺すればいいだけですぞ」
雪村「いいから早く帰るぞ」
吹雪「まあ、フィフスは二人でなんとかすればいいよね? いやあ、仕方ないなぁ」
雪村「いいから早くしろ、餓チャピン、ムッ苦! 二人とも後半から出場だ」
餓チャピン「よし! 雷門のみんな、サッカーで勝負だ!」
ムッ苦「がんばれー、餓チャピーン! 氷上の試合とは、餓チャピンを葬るまたとないチャンスですぞ」
狩屋「お前ら、敵チームの選手だったのかよ! さりげなく馴染んでんじゃねぇ!」
雪村に呼ばれて、餓チャピンとムッ苦は手を振りながら白恋のベンチへと帰ってゆくのだった。
残された吹雪は呆然としながら、すがるように雪村をみつめる。
吹雪「あれ? ぼ、僕を連れ帰りに来てくれたんじゃないの?」
雪村「あぁ?! 働くのが嫌だからってコーチ辞めていった裏切り者が何言ってやがる!」
吹雪「えー……。フィフスセクターって、僕がいなくなった理由をそんなのにしたの? もうちょっと他のはなかったの?」
雪村「ラーメンに入ってた寄生虫同然の裏切り者が! せいぜい、雷門に養ってもらうんだな!」
吹雪「ゆ、雪村……」
師弟の間に作られた溝は埋まることなく、運命の後半戦が今、始まりを告げようとしていた。
『血闘、ホーリーロード!! ―イタリアから来た男―』
剣城「いくぞ! 必殺タクティクス!」
天馬「ダブル・ウイング!」
天馬と剣城をツートップに、白恋へと攻めこむ雷門。そこに立ちふさがるのは真狩を中心とした白恋メンバーだ。
真狩「必殺タクティクス、絶対障壁!」
高速のパスを繰り返し、白恋を翻弄するかに思えたダブルウイングだったが、やはり絶対障壁を打ち破ることはできなかった。ボールを持った天馬達は文字通り壁にぶち当たり弾かれてしまう。
弾かれたボールはすかさずムッ苦が拾い、そのまま餓チャピンへとパスを送る。
ムッ苦「いきますぞ、餓チャピン! ……凍てつけ、ノーザンインパクト!」
解説『ムッ苦選手、こぼれ球を拾って餓チャピンへシュート……? いや、パスなのか? とにかくボールを送ったぁー!』
餓チャピン「ナイスパス!」
ムッ苦の殺る気まんまんのシュートを餓チャピンは垂直に高く蹴りあげる。同時に雪村が餓チャピンの前へ踊り出る。
吹雪「あ、あれはまさか!」
見覚えのあるモーションに驚愕する吹雪。その驚愕は現実となって見せつけられる。
餓チャピン「いくよ! ワイバーン――」
雪村「ブリザード!」
餓チャピンと雪村の連携によって生み出された超速度の必殺シュートは、雷門の誰一人としてまともに反応する暇も与えずにゴール前へと突き進み、あっさりとゴールネットを揺らした。
三国「絶対止めてみせる! フェンス・オブ……」
解説『ゴォーーーーール! 餓チャピンと雪村の合体シュートが雷門のゴールを貫いたぁー!』
三国「ガイア!」
剣城「って、もう決められてるだろうが! 発動遅いのはともかく、ゴールされてるのも気づかないってなんなんだよ!」
三国「くっ! 僅かに遅かったか」
剣城「あぁ、ゴール決められているのに気付くのがな」
またしても雷門の攻撃は絶対障壁に阻まれ、更にカウンターによって点差を広げられてしまった。もとより三国が止められないのは覚悟していた天馬達も、ここまでゴールがザルであると思い知らされれば、嫌でも不安に襲われる。
気づけばチーム内から明るさは消え、どんよりとした空気が漂っていた。
神童「くっ。こんなとき、あいつがいてくれたら……」
天馬「剣城より優秀な人ですね。その人と俺のダブルウイングなら絶対領域も突破して禁断の領域へ突入できるんですね!」
剣城「いや、足引っ張ってるのはおまえだからな、天馬! あと絶対領域じゃなくて絶対障壁だからな。つーか、絶対領域を突破してどこに行くつもりなんだ、お前は!」
ムッ苦「でも、いない人を頼っても仕方ないですぞ。やはり、ここは狩屋君をもっと重要なポジションに置いて、共に餓チャピンを始末するのが得策だと思いますぞ」
狩屋「いや、その前にお前は自分のチームに帰れよ」
餓チャピン「んー、僕の見立てだと剣城と輝がいいんじゃないかな?」
輝「え? ぼ、僕が?」
戸惑う輝に吹雪はしっかりとした眼差しを向ける。それは明確な意思をもったもので、いい加減なものではないことはすぐわかる。
吹雪「……いけるかい?」
輝「は、はい!」
吹雪の采配により、ダブルウイングは天馬に変わって輝が剣城と組むこととなった。まだ初心者も同然だというのに試合に、それも大事な局面を任せるなどと無茶な要求だ。だが、選手達は餓チャピンの、そして吹雪を信じて、全力を向けることにしたのだ。
そのかたわら、いつになく緊張感が溢れる雷門イレブンの姿を見つめる円堂は、誰にでもなく呟く。
円堂「……監督は俺なんだけどな」
鬼道「ふっ、懐かしいな……」
円堂「いや、まだ監督辞めてないからな! 過去のことみたいにいうなよ!」
忘れ去られた円堂達はともかくとして、新たな布陣で雷門は再び白恋へと勝負を挑む。
剣城「いくぞ! 必殺タクティクス!」
輝「ダブルウイング!」
解説『雷門、メンバーを入れ替えてのダブルウイングだ! 今度こそ白恋の絶対障壁を打ち破れるか?!』
真狩「通しはしない! 必殺タクティクス、絶対障壁!」
雷門のダブルウイングに絶対障壁で対抗する白恋。今までは天馬のパワー不足が原因で突破できなかった。だが、輝のキック力によってパスのスピードが十分なものに達し、ボールを持っているのがどちらか判断できなくなっていた。
雷門の二つの翼は決して越えられないと思われた壁を打ち砕く――
真狩「うわぁー!」
解説『と、突破したー! 雷門、ついに白恋の絶対障壁を打ち破ったぁー! ボールをキープしたまま、剣城選手、ゴールを目指す!』
剣城「くらえ……、デス――」
ムッ苦「させませんぞ! フローズン――」
剣城「ソード!」
ムッ苦「スティうわぁー!」
剣城を止めようとしたムッ苦だったが、フローズンスティールを発動するよりも先に、デスソードを決められ、白恋のキーパー共々、吹き飛ばされてしまった。
解説『ゴ、ゴ、ゴォール!! 雷門、剣城選手のシュートで反撃の狼煙を上げたー!』
まだ同点にも追いついてないが、それでも絶対障壁を打ち破っての得点だ。当然、選手たちは喜びの声をあげ、ゴールを決めた剣城の元へと集まって行った。
神童「やったな、剣城、影山!」
吹雪「おめでとう! これでまずは一点だ!」
天馬「すごいよ、輝! あの剣城に足を引っ張られながらダブルウイングを成功させるなんて!」
信介「天馬、いい加減、自分の力不足を認めようよ……」
餓チャピン「ね? 僕の言ったとおりでしょ?」
ムッ苦「さすがですぞ、ガチャピン! ……まったく、緑芋虫は偶然が当たったくらいで騒ぎすぎですぞ。ねぇ、狩屋君」
狩屋「だから、お前、敵チームだろうが……」
閉塞した空気を突き破り、ついに逆転への光が見えた雷門。そこへ何者かが颯爽と割って入った。
???「みんな、待たせたぜよ!」
天馬「え?」
神童「その声は、まさか……」
雷門の制服を着た色黒の少年がベンチへとやってきた。
錦「錦 龍馬、帰国ぜよ!」
神童「やはり…… 錦だったか……」
霧野「よぉ…… 久しぶりだな……」
三国「まったく…… いつ、日本に帰ってきたんだよ……」
餓チャピン「留学してたんじゃなかったっけ……」
天馬「あぁ。だから、日本語喋ってないんだね……」
錦「……なんで、みんなしてテンション低いぜよ? 俺、帰ってきたらまずかったか?」
神童「いや……。別に、もうお前の力はいらないっていうか……」
錦「……え? 」
天馬「今、いい調子なのに、いきなりメンバー変えるとかはしたくないですよね。あと留学してたのは知ってますから、格好つけていつまでも向こうの言葉を使わないでくださいよ」
錦「いや、日本語話してるきに!」
吹雪「うん、うん。だいたい、何を言いたいかは分かるよ。長旅で疲れてるだろう? 今は特にメンバーを変える必要もないから、とりあえずベンチで休んでいなよ」
錦「いや、全然、わかってないぜよ! そもそもわしは日本語話してるぜよ!」
結局、円堂たちのいるベンチへと追いやられる錦であった。
『血闘、ホーリーロード!! ―雷門から追い出された男―』
剣城「ロストエンジェル!」
白咲「くぅっ!」
剣城の化身シュートは難なく白恋のゴールネットを揺らす。絶対障壁という最強の壁に守られていた白咲の実力は、三国と同等かちょっと上しかなかったのだ。絶対障壁が破られた今、もはや雷門のゴールラッシュを止める手立てはなかった。
解説『ゴォール! またも雷門、ゴールを決めたー!』
だが、白恋もまた負けていない。すぐさま、逆転を狙う。
雪村「アイシクルロード!」
三国「フェンス・オぶわぁー!」
解説『ゴォール! 白恋も負けじと追いかける! これで11−10! 雷門がかろうじてリードしているが、まだどうなるかわからないぞ!』
激しい攻防の末に残り時間はあと僅かとなり、逃げ切りを計る雷門と、追い上げる白恋ともに苦しい状況となってきていた。だが、その中に雪村達はフィフスセクターが潰してきた本当のサッカーを垣間見ていた。
雪村「いいか、みんな! なんとしてでも一点とるぞ! 誰でもチャンスがあったら、全力でシュートを決めるんだ!」
真狩「俺達、DFもか?」
雪村「あぁ! 大丈夫、相手のゴールキーパーはうちのと大差ない。いてもいなくても同じようなものだ。どんどん攻めるんだ!」
ムッ苦「そうなると私も攻め上がることになりますが、よろしいのですかな?」
雪村「ムッ苦、あんなシュート……いやパスをしていてDFだったのか。充分、通じるだろ……」
餓チャピン「じゃあ、みんなでがんばろう!」
白恋一同「おーっ!」
残り時間は僅かになった白恋は果敢な攻めのサッカーを見せる。絶対障壁は破られているため、もう安全に守って勝つなんてことは出来ない。だからこそ、死力を尽くして雷門へとぶつかってきたのだ。
神童「残り時間なんて考えるな! とにかくボールだけを追え!」
天馬「はい!」
白恋の止むことのない猛攻に、雷門もまた攻撃的な布陣で押し返す。そこにはもう、小さなわだかまりも、フィフスセクターの指示も、吹雪がニート扱いされたことも何もなくなっていた。誰もがただひたすらに全力でボールを追い続けていた。
解説『凄い! 凄い接戦だ! しかし、もはやあと一本シュートを打つ程度の時間しか残ってないぞ! どうする白恋!』
雪村「うおぉー!」
浜野「しまった!」
最後の最後で接戦を制したのは白恋だった。雪村の果敢な攻め、そしてロスタイム突入で僅かに気が緩んだ浜野。その二つが重なりあうことで均衡が敗れたのだ。
雪村はボールをクリアして、前線にいる餓チャピンへパスを通す。
雪村「いけー!」
餓チャピン「絶対に通す! ダイナソー……」
餓チャピンが必殺シュートを放とうとするも、即座に反応する二つの影があった。
狩屋「させるかよ! いくぞ、ムッ苦!」
ムッ苦「餓チャピンにいいところは残しませんぞ!」
餓チャピン「ブレイク!」
狩屋・ムッ苦『くらえ! ザ・バース!』
餓チャピンのダイナソーブレイクと狩屋とムッ苦のザ・バース。二つのシュート技がぶつかり合い、一歩も譲ることなくしのぎあい、ボールは空高くへと弾かれる。
最後の最後、このこぼれ球に全てを賭けて、天馬と雪村、二人がぶつかり合う。
吹雪「いけー! 雪村!」
天馬「はぁー! 魔神ペガサス!」
雪村「うおぉー! 豪雪のサイア!」
二つの魂、二つの化身が残る全ての力を持ってぶつかりあう。そして……
ボールはゴールネットを揺らすことなく、試合終了のホイッスルが鳴り響くのだった。
試合が終わり、勝者と敗者、それぞれに一喜一憂する。だが、勝者と同様に敗者はそこで終わりなどではない。負けることで得ることだってあるのだから。
円堂は吹雪と雪村が和解した様子を眺めながらそんなことを思うのだった。だが、得ることがあったのは彼らだけではなかった。円堂もまたあることに気づいたのだった。
円堂「……鬼道、しばらく雷門の監督を頼めないか?」
鬼道「急に何をいうんだ?! 今がどんなときか分かってるだろう?」
円堂「無茶を言ってるのはわかってる。だけど、いかなくちゃならないんだ」
鬼道「いく……? どこにだ? まさか、一人でフィフスセクターに乗り込むつもりなのか?!」
円堂「あぁ……。このままじゃ手遅れになるからな」
鬼道「危険過ぎる! 無事に済むなんて保証はないんだぞ!」
円堂「わかってるさ。だけど、それでもいかなくちゃならないんだ! そうでもしないと俺の影が薄くなって自然消滅的に出番がなくなるだろう!」
鬼道「確かに別の場所へ行くことで、影が薄いから出番がないんじゃなくて、その場所にいないから出番がないということには出来る。更にいきなり戻ってきて劇的な再開で存在感をアピールすることも可能だ。だが、そのままお前のことを忘れてしまう可能性だってないわけじゃないんだぞ!」
円堂「わかってる! だけどな、今までのことを振り返ってみろ! 俺のセリフ、どんどんと少なくなってきてるんだぞ! セリフだけじゃない、出番も扱いもどんどんとぞんざいになってるじゃないか!」
鬼道「確かにそうだが……。けど、そんなの春奈に比べれば、ずっとマシだろう! 作者が女キャラを喋らせるのが苦手というだけで、あいつはまだ一言も喋ってないんだぞ!」
円堂「鬼道、お前の言いたいことはわかる。だけどな……、ここでテコ入れしないと俺の出番はこのまま減ってゆくだけなんだよ!」
鬼道「だがな、下手すればホーリーロードが終わるまで書き続けている保証なんて……。いや、そんなことを言っても仕方ないか。どうやら説得は無理みたいだな」
円堂「え? いや、ホーリーロードが終わるまで書き続ける保証ないって何だよ?! なんか、今出ていったら出番がどうとかいうより帰る場所すらなくなってないか?!」
鬼道「いいだろう、雷門のことは俺に任せろ。だから……、あいつらがお前のことを覚えている間に帰って来い。いいな」
円堂「いや、だから! ちょっと! ねぇ!」
円堂はそう言い残して単身、フィフスセクターへと送り込まれるのだった。果たして彼はフィフスセクターの陰謀を探り当てることができるのか。
なにより、彼に再びの出番はあるのだろうか? それを知るものはまだいない……。
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