魔法先生ネギま! 悪と正義のマギステル・マギ候補生 第一節「日本上陸1」 |
†ルーン
久々の日本。それこそ五年程振りの日本。電車に揺られて目的の学校に向かう俺の隣にはネギが立っている。杖に吊革を引っ掛けることで立っているネギに対して俺は普通に直立していた。正直この程度の揺れならバランスは取れるからだ。
「ニッポンは人が多いね!」
少しだけ興奮気味にそう言ってくるネギに苦笑しながらも、ウェールズみたいにのどかな所と一緒にするなよ、と一言返すや否や、電車が急停止した。流石に少しフラついたが転けるには至らず、ネギも一緒だった。同じ車両に乗っている歳上の女の子達も体勢を崩しかけたため、彼女達がクッションになったからだ。柔らかい、というコメントは差し控えておかないと冤罪に巻き込まれるか、などと卑屈な考え方をして黙っていると、周囲の女の子達は俺たち二人を見てニッコリと笑って来た。悪い気はしないが、小学生扱いで声をかけられたので俺は無視するが、人のいいネギは律義に何か。答えようとしてくしゃみをする。
風の魔法が得意なネギのクシャミは困った物だ。風の精霊が勝手に魔力に反応して風を起こすからだ。短縮した魔法で防ぐが、それが出来ない女の子達はつむじ風に見舞われたように衣服が舞う。リアクションに困るからやめて欲しいのだが、暴走に近いそれを責めるのはネギには酷だろうと思い再び苦笑するしかない。
「な、何なの今の?」
「つむじ風?」
そんな会話が目の前で行われるのでまたまた苦笑。それとほぼ同時に電車が目的の駅に着いたので、ネギの手を引いて下車する。
†ネギ
初めてくるニッポンは何処を見ても人が多くて僕には新鮮でした。ルーンは慣れているように落ち着いているけど、修行自体は気になっているのか普段より少しだけ落ち着きがないようです。笑いかけて来たお姉さん達に緊張してくしゃみをしてしまった時、ルーンに苦笑されてしまったのが少し恥ずかしかったけど、降りる予定の駅に到着したら彼が手を引いてくれました。
「迷子になったら面倒だからな……俺がじゃねぇ、お前がだ」
付け加えられた言葉は彼なりの不器用な優しさだとそこそこに長い付き合いで知っていたので思わず微笑みが零れました。素直じゃないなぁ、と漏らしてしまってから口を慌てて塞いだら、それと同じタイミングでデコピンが炸裂します。
「イタッ!?」
結構な声量でそう漏らすと、ルーンに掴まれていた手からその感触が消えています。怒らせてしまったのかな、と思いながらも彼に着いて行こうと歩くけれど、人波に揉まれて気付けば見失っちゃった!?
本当に迷子になるとは思ってなかったから焦ってしまうけれど、とりあえずルーンは一人で大丈夫だと分かっているので、僕も遅刻しないように学校へと向かうことにします。風の魔法を小声で唱えて身体能力を向上させて、周囲を慌てて走る学生さん達よりも速い速度で走っていると風が気持ちいい。そうしてるうちに賑やかな二人組の声が聞こえて来て、聞くつもりはなかったけれど、恋愛の話をしていました。占いを信じて面白いことをしている女の子の顔を見ると失恋の相が出ていたので教えてあげようと追い掛けます。
「あのー……」
一日一善、ルーンから教えてもらったニッポンの諺を実行してみようと思いながら、声をかけるのでした。
†ルーン
案の定はぐれやがって、あの馬鹿。
思わず漏らした言葉に隣を通過しようとした男子学生が睨んで来たので睨み返しておいた。赴任先の学園の中央部だけあって様々な年頃の学生がいるが、睨んで来た奴はひょろっこくて対した事もなさそうだったから問題なく退散してくれた。
「揉め事は勘弁だからな……」
正直素行不良なのは自覚済みなので、あまり問題を起こして資格剥奪は避けたい所だったから助かった。それよりも今は親友の事だ。頭の周りは早く、地図も確認済みなので恐らくは赴任先へ向かっているだろうと踏んでこちらも向かう事にする。余裕を持って到着したい所だったが、どうやらギリギリになりそうだ。
「んじゃまぁ、走るか」
準備運動の代わりに自覚を促すためにそう呟いて、通学者の流れに乗るように走り出す。その際に身体強化の魔法を忘れずに使った。時間ギリギリになるのは初日なだけに不味いという自覚があったからだ。軽く流す程度で走ったが、どう見ても俺よりも歳上の学生を抜き去ると流石に不味いかという思いが頭を過るが、遅刻するよりはマシだとギアを上げる事にした。
赴任先は麻帆良学園本校……女子中等学校。華の女子校で先生とか役得ですね!なんて思った奴がいたら張り倒したいくらいに嫌な修行地に正直げんなりしている所だ。女相手だという事聞かないからって乱暴な事をするわけにもいかない上に扱い方がわからないからだ。歳下に教わる事に猛反対するような生徒だっているだろうと予測出来る。肩書き上、大卒かつ教員免許持ちにされているが、指導教科は一夜漬けに近い。
「力がなかったらアウトだったな、ありゃあ……。ネギみたく母国語教えられる奴はそれだけでもうけもんだ」
思わず愚痴を漏らしていると、目的地付近に着いたので速度を落とした。この分なら間に合いそうだと思い歩く事にしたが、目線の先に見覚えがある赤い髪が見えた。頭を掴まれて持ち上げられている。何でそんな状況に、とも思うがいくらネギが軽いとは言え、片手でそれを持ち上げる女ってのはどういう化け物だと突っ込みたい気持ちが湧いてくる。持ち上げている女はオレンジ色の髪をツインテールにしていて、髪型を見る限りは女っぽいが、その分ネギを持ち上げている怪力が際立ってしまう。
その女の子の隣でニコニコしている黒髪の女の子に気付くのが遅れたのは、ネギ持ち上げショーを開催中のツインテールが原因であって、注意力散漫になっていたとは思いたくない。とはいえ、どう見てもネギが虐められているようにしか見えないので、そろそろ助け舟を出すとするか……。初日、それも赴任前から一仕事って社会人は大変だとしみじみ思わされる。
スタスタと歩いて近付くが、三人とも気付いていないのであっさりとそばに寄った。さて、どう声をかけた物かと思案するが、ここはシンプルイズベストだろうと踏んだ。間違いない。
「お姉さん、僕の友達が何かしましたか?」
外行き用の言葉遣いと表情、ついでに年相応に小首を傾げておいた。正直自分でも似合わないと思うが、黒髪少女が気付いてくれたので良しとしよう。
「坊や、この子の友達なん?」
「うん、一緒に行かないといけないのに、その子がはぐれたから探してたの」
黒髪少女が発した言葉は関西訛り、それも京都弁のイントネーションで、おっとりした雰囲気の彼女に似合っていた。友人が会話をしている事に気付いたらしいツインテールもこちらを見て、訂正睨んで来た。何で俺が睨まれないといけないのかという思いがふつふつと沸いてくるが、ネギが何かをした可能性も考えられるので我慢して小首を傾げておく。ネカネ曰く、こうして可愛子ぶっていたら歳上受けは間違いなくいいらしいが、ツインテールには効かないらしい。
「あんた、このガチンチョの友達?」
不機嫌ここに極まりといった声音でそう尋ねられてこちらも不機嫌になりそうだったので無言で頷いた。ボロを出すよりはマシだろうと思っての行動だが、こちらが大人しいと思ったのか言葉が続けられる。
「だったら友達に乙女心ぐらい教えときなさいよ!おかげで嫌な思いしたんだから!失恋の相よ、し、つ、れ、ん!いきなりそんな事言われる辛さ女の子なら分かるでしょ!?」
まぁまぁ、と宥める京都弁少女のお陰で落ち着いたようだが、こちらはそれどころではない。すがる様に俺を見ていたネギの表情が怯えた様になる。どうにも沸点をよく分かっている分、俺が取る行動がわかったのかもしれないが、止めようもないのだろう。目を閉じた。止めればまだ我慢してやったのにと嘆息してから、猫被りを止める。
「黙って聞いてりゃ好き勝手……「はぁ!?」
声を重ねてきたので一層腹が立った。確かにお年頃の女の子に対してネギの言った言葉は酷いかもしれないが、それだけで相手に当たり散らす神経はどうなんだと思っていた。もういいや、反省文とかでいいなら書く、そう覚悟を決めたら言葉はすんなりと出てくるものだった。
「はぁ、じゃねぇ。俺の友達に何してんだ。ガキ虐めて楽しいのか?そいつにも原因はあるかもしれねぇが、つるし上げる必要なんかねぇだろうが……大体、誰が女だ!」
言いたい事は全て言った。特に最後の一文は怒声、それも腹の底から声を出したためかよく響く。京都弁少女は少し怯えた様子なので申し訳ないが、こういう手合いは強めに言わないと自分の“正義”が正しいと盲信するからたちが悪い。予想外の反撃だったのか、ツインテールは震えていた。歳下からいい様に怒鳴られればそれは腹も立つよなぁと思いながらも、反撃はされないと踏んでいた。
正確には、反撃される前に収拾が付いてしまうと。
説明 | ||
いよいよ日本上陸です。 ルーンが素行不良と言われる理由が垣間見れますが、彼がかなり悪い子に、巻き添え?で彼女も悪い子に見えますが、彼女は勿論ルーンも根はいい子なので見守ってあげてください笑 |
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